紅陰に覗く

こちらの本 に収録のモブ×ルトガー🔞描写を抜いたディールトSSです
◆ルトガーのブルガル侵攻回想→仲間入り後の話
◆まだ支援C前のディーク×ルトガー

 宵闇の中に浮かぶ月が、短い草の生えた丘陵に冷たい光を投げかけている。ルトガーは藪の中の大岩に腰かけ、紅いフードを揺らす湿った風を感じていた。
 顎を上げると、空高くに浮かぶ星々が彼を見下ろしている――父祖たちの魂が宿るといわれる光が、静かに瞬いていた。
 無意識に指先で腰に下げた剣柄をなぞると、冷たい鋼が鈍く輝く。戦火に焼かれた故郷を去る際にベルン兵の駐屯地から奪ったそれは、切っ先にわずかな反りを帯びた刃だ。傭兵として各地を転々とするルトガーが唯一手放さなかったその剣の輝きは、幾人もの兵の血に汚れる度に鈍く曇っていくように思えた。
 耳に届くのは己の微かな息遣いばかりだった。
 離れた野営地からは、松明の灯りと微かなざわめきが夜霧越しに揺らめいている。そこではルトガーと同じくリキア同盟軍に雇われた傭兵たちが酒を酌み交わし、一日の疲れを癒やしているのだろう。
 だがルトガーは決して混じろうとはしない。彼らの笑い声が寂寥とした草地に響くたびに、胸の奥底で何かが軋んだ。
 「仲間」と呼べるものなどとうにいない――そう自嘲すると同時に、不意に風が変わって鼻腔を突く匂いがあった。

 焦げつく風と血のにおい。

 それは現実のものではない。奴等が駆る竜の耳障りな咆哮や、青々とした草原を踏みにじる鉄靴の響きもないのに……。 ルトガーは顔を歪めた。身体が覚えているのだ。あの日、ブルガルの草原が真っ赤に染まった日のことを。
「……またか」
 低く呟いて片膝を抱える。冷えた風に煽られた髪が頬を打ち、亜麻色の前髪の隙間から鋭い眼差しが覗いた。月明かりに照らされてなお冷徹な瞳は、かつてサカの大地に降り注ぐ陽光の如き明るさを湛えていた時代からは考えられない程、今はただ復讐に燃える昏い炎を宿し、天を睨んでいた。

 記憶の鎖はふとした時に容易く解ける。否、いつだって戒めなど掛かってはいない。ただ日々の喧噪に埋もれさせていただけだった。
 しかし今夜は違った。敵陣の奥深くから薫ってくる血錆の臭いが、脳裏に眠る悪夢を目覚めさせる――


『立て』

 低く命ずる声。喉元に押し当てられた槍の穂先は冷たく濡れている。刃先が僅かに皮膚を抉り、血の雫が滴り落ちた。 周囲を囲むベルン兵の足下を覆う鋼のグリーブが視界に入る。膝を折ったルトガーは己を捕らえたその中の一人の男を目線だけで見上げた。
 屈辱。憎悪。――しかしそれ以上に全身を支配したのは震えるほどの絶望だった。敗北を悟った瞬間の無力感というものは、何物にも代え難い虚無感をもたらす。歯噛みする彼を嘲笑うかのように、眼前の鎧兜に身を包んだ人物が口を開く。
『抵抗は無駄だ。我々は貴様ら部族を一匹たりとも逃がさん』
 その言葉とともに騎竜のけたたましい咆哮が続いた。悲鳴があがる。男たちの怒号と女の啜り泣き、そして幼子の泣き叫ぶ声。
 視線を巡らせれば同胞たちが次々と槍で貫かれ大地に沈んでいた。
 土埃と硝煙で霞む空の下、逃げ惑うサカ人たちを青い竜鱗に跨がる兵士たちが追い立てる光景は、地獄絵図そのものだった。
 ルトガー自身も半ば朦朧としていた。腕を掴む手は強く硬く、骨が軋んだ。痛みに顔を歪めながらも、必死に睨み返す。その目に宿る鬼神の如き眼光に気圧されたのか、相手の兵士は一度だけ怯んだようだったが、すぐに懐の武器を振り上げた。
『大人しくついて来い。逆らえば即刻斬首だ』
 短い沈黙の後、ルトガーは呟く。
「……連れて行きたければ行けばいい。だが覚えておくことだ――」
 喉の奥から湧き上がる激情と悔恨を飲み込み、低く吐き捨てる。
「貴様らベルンには――サカの父なる天と母なる大地の大いなる怒りが下される……! 必ずだ」
 その言葉は行き場を失った怨嗟だった。けれど確かに呪詛として地に落ちた。鎧の下で相手が苦笑した気配がした。それは勝者の余裕であり、敗者に対する侮蔑でもあった。
『面白い冗談だ。せいぜい同胞が逃げ惑う姿を見るがいい』
 粗暴な動作で地面に叩きつけられる。土を舐めさせられながら、ルトガーは身を襲う痛みさえ忘れた。
 どうせもう終わりだ。ならば最後まで抗ってやる――そんな破滅的な思いだけが残っていた。

 気づけば腕を鎖で拘束され、両脇を固められて歩く姿は無様としか言いようがなかった。その横で同族の黒髪の少女が泣き叫びながら縄に繋がれていく。まだ年端も行かぬ女児の目には狂気が宿っていた。彼女は兵に罵倒されながら引っ張られる先に待つ運命を理解していないようだった。

 そうして集められた捕虜は村中央の族長のゲルに収監され、夜を迎えた。篝火に照らされる薄暗い天幕の中、捕虜たちが密集する様はさながら獣の檻だ。隣り合う人々の不安げな囁きを遮るように、外から鎧の音が近づいてくる。

『処刑を開始する』

 大幕の前に立つベルン将校が告げた途端、辺りから嗚咽と怒号が入り混じった。
 最初に引き出されたのは年老いた族長だった。白髪の交じった髭を震わせながらも、捕虜の命だけはと訴え涙を流す老人に敬意などなく、「蛮族の頭目」として即座に首を落とされた。剣を振るうベルン兵は表情を変えない。まるで肉屋が屠殺場で作業をするかのような無感情な動きだった。
 飛び散る鮮血が垂幕に弧を描き、近くで見ていた幼子が悲鳴をあげて失神した。

 その次には名の知れた勇猛なブルガルの戦士が引き出された。彼は最期まで誇り高く敵を罵倒し続けた。それが却って苛立ちを買ったのか、より残酷な方法で殺された。断末魔の絶叫が天幕に響き渡る。
 ルトガーは唇を噛み締めた。口の中いっぱいに鉄の味が広がったが、痛みなど感じない。ただ心臓を握り潰されるような激情だけが渦巻いていた。

 やがて順番が来る。鎖を引かれ血まみれの床に突き出された時だ。指揮官らしき男がふとルトガーの顔を見て眉をひそめた。
『……こいつは? ベルン人が混ざってるぞ』
 問われた参謀らしき男が応える。
『確かに……この者の顔はサカではなくベルン人のものですが、おそらく混血児でしょう。ここブルガルはベルンとの国境に面していますからな』
『ほう? 確かにこいつは、髪色も瞳の色もサカの奴らとは全く異なる』
 検分するような目つきで眺め回される屈辱。ルトガーは怒りで肩を震わせた。
 だが次の瞬間、予想外の命令が下された。
『よし、そいつだけは別の場所へ移送しろ。他の者は……』
 意味ありげに言葉を切る。捕虜たちは騒然となった。
 自分だけが助かる――その事実に救われた心地など微塵もなく、「なぜ」という疑念と憤怒だけが交錯する。同族たちが次々と処刑されていく傍らで、自分だけが容姿のせいで選別され生かされるというのは、もともとこの容姿にサカの民としての乖離を覚えていたルトガーにとって、あまりに耐え難い屈辱だった。
 今すぐ情けを下した男に掴みかかり、撤回しろと拳を突き出したい。しかしそんな内心とは裏腹に、身体は言うことを聞かない。ずらりと居並ぶ屈強な兵士の姿に足が竦み、呼吸さえままならない。己の無力さを痛感させられながらも、心だけは決して折れることを拒絶していた。
「俺を助けたところでどうなるっ……殺せ!」
『無論そうだ。ただ……我等と同じ顔をした奴を殺す罪悪感から免れる程度にはなる』

 そう言われ、引き摺られるように連行された別のゲルの中、抵抗しようとする身体は槍の柄に打たれ冷たい床に投げ出された。
 手枷から伸びる鎖で身体を中心の柱に縛り付けても尚抵抗の意思を失わず睨み続ける彼を見て、引っ立て役の兵士が嘲笑った。
『ハッ――哀れなものよな。ベルンに生まれていれば良かったものを』

 ルトガーは何も応えず、兵が去ると暗がりに目を凝らした。
 遠くから聞こえる断末魔や、誇り高き祈りの声は徐々に薄れていき、やがて完全な静寂に取って代わった。



(中略)



 翌朝――ゲルの天井の隙間から光が差す頃。
 決死の救出に来た他部族の者により、捕らわれていたルトガーは辛くも血煙立ち込めるブルガルから脱出出来た。
 だが解放された喜びなど欠片も無かった。ただベルン人と同じ容姿のせいで生き延びた事実だけが、心に重くのしかかり続けるだけだった。

 それからルトガーは傭兵となって幾度となく死線を越え、数えきれないほどのベルン兵を斬って来たものの、未だに過去から解放されることは無い。常にあの日の記憶の中で囚われているのだ。

 今宵もまた冷たい星空に向かい呟く。

「……忘れない……あいつだけは……この手で……」

 声にならない声を風に乗せると同時に月影が翳り始めた。黒い雲が流れ空を覆い始める。
 薄闇が視界を奪う直前、一筋の銀糸が落ちてきて頬を濡らした。
 ――雨だ。
 微かな水滴が落ちて乾いた唇に触れた刹那、何処からともなく甲冑の擦れる音が響いてきた気がした。幻聴だとはわかっていても反射的に身体が反応してしまう。
 咄嗟に剣に手を掛け視線を巡らす。草むらが揺れると小さな獣の影が走った。
 敵襲ではないと知り重い息を吐く。しかしそれ位、どうしようもない程追い詰められている自分がいることも否定できないでいた。
「……杞憂か……」
 自分に言い聞かせるように呟き岩から立ち上がろうとしたその時である。背後の木の根が微かに軋む音がした。
「……誰だ」
 問いかけと同時に腰を捻り、右手で剣を握る。
 風切り音が低く響いた瞬間、大木の陰から大きな影が姿を見せた。

「ルトガー! 俺だ!」
 慌てた声と同時に両手を挙げる姿は月明かりに照らされると嫌でも目につく。同じくリキアのフェレ家に雇われた傭兵、ディークだった。
 逞しい筋肉質な上裸姿に申し訳程度の鎧をつけた、いかにも粗野な戦士といった風貌の短髪男は、この傭兵部隊のリーダーも務めている。全身に古傷が見られるこの男の、額には一際大きな傷が斜めに走っていた。
「……何の用だ」
 警戒を解かぬまま低く唸るルトガーに対し、ディークは肩をすくめた。
「お前の姿が見えなかったからな。雨も降ってきたし、そろそろ皆で宿に引き上げようかと思ってな」
 近づこうとするディークにルトガーは躊躇なく剣を抜くと、刃を向ける。
「寄るな」
「おお、怖いねぇ。いつも以上に険しい顔つきだな。近づく奴は依らば斬る、まるで殺人鬼だぜ?」
 揶揄するような口調にルトガーの眉間の皺が一層深くなる。
 無言の威圧が辺りの草花ごと押し潰すような重苦しさで漂う。それでもディークは臆する様子もなく、ひらりと手を振ってみせた。
「別に文句があるわけじゃねえ。お前は強いし、剣の腕は申し分ねえ。だが戦場じゃ、お前の殺気で敵はともかく味方まで怯んじまう。もっと力抜けよ」
「黙れ。ベルンの奴らは皆殺しだ」
 吐き捨てながらも視線は鋭利な刃物のようにディークの眉間を射抜く。紅いフードの隙間から覗く赤みを帯びたヘイゼル色の眼は、月光を受け不吉な光を放っていた。
 ディークはため息をつくと頭を掻いた。
「はぁ……しょうがねぇ奴だな。放っといたら俺にまで斬りかかってきそうで目が離せん」
 その呟きを聞きルトガーは冷笑した。
「よく言う。俺の剣、一太刀たりと受けたことがない癖に」
「おいおい。本気にすんなよな……」
 ディークが一旦言葉を切り、じっとルトガーを見据えた。剣を構える青年は普段と変わらぬ仏頂面だ。しかしどこか疲労の色も滲んでいるように見える。
 苛立ちか焦燥か――どちらにせよ過剰に負荷がかかっているのは明らかだった。
「まぁ、オレが言ったところで聞く耳持たんか。全く何を考えてるんだか……。だが……」
 月光に照らされるルトガーの横顔を見ながらディークはふと本心をこぼした。
「お前さん、黙ってりゃ綺麗な顔なのになぁ」
 その一言はあまりにも唐突で、毒気を抜かれる軽口だった。
 しかし――予期せずルトガーの心臓を激しく打った。
「…………何だと?」
 怒気を孕んだ低い声。だがディークはふっと笑って手を振りながら近付く。
「いやいや、変な意味じゃねえぞ。お前、俺らみたいな男衆よりよっぽど整った顔立ちだろ? だからそんな殺気むき出しにしねえでニコニコしてた方が……っておい!」
 ディークが言葉を終える前にルトガーは跳躍した。雑草と砂を蹴り飛ばしながら疾駆し、一瞬にして距離を詰める。勢いに任せ振り抜いた剣刃が月光を弾き残光を描いた。
「ふざけるのも大概にしろ!」
「おいっ! 待て! 本気か⁉」
 危うく頬を掠めた切っ先を紙一重で回避したディークが驚きつつも体勢を整える。背中の長剣を引き抜く暇も与えない素早さで次撃が飛ぶ。
 ルトガーの瞳に宿るのは純粋な怒りと苛立ちだった。その矛先はディーク個人に向けられたものなのか、あるいは過去の記憶に囚われた自分自身に対するものなのか――本人にも分からない。
「殺される覚悟はあるんだろうな」
「なぜそうなる! 落ち着けって!」
 ついに剣を抜いたディークとルトガーの周囲に金属音が幾度も響く。互いの得物が火花を散らし合い、草葉を裂いて土が舞った。
 ルトガーは一切の容赦なく打ち込む。
 その荒々しい剣捌きとは裏腹に目には悲壮感が混在しており、ディークには見慣れたはずの姿が別人のように映った。
「くそっ……頭冷やせよ、おい……!」
 防戦一方になっていたディークが一転、大剣を翻す。
 戦いの経験豊富なディークにとって、いかにルトガーがサカ出身の凄腕の剣士――とはいえ、今は怒りに任せて闇雲に剣を振るうだけの相手を剣でいなすのは造作もなかった。
 強引に鍔迫り合いに持ち込み、ルトガーの細い腕を隙をついてねじり上げる。
「いい加減にしろっ!」
「くっ! 離せっ……!」
 ギリギリと軋む骨の感触の後、ルトガーが歯を食いしばる音が聞こえた。だがそのせめぎ合いが限界を迎えた瞬間――突然の雷鳴とともに雨粒が激しく降り注ぎ始めた。
「!」
 二人の動きが止まり、互いに雨の音に耳を傾ける。
 雨足は急速に強くなり視界を遮るほどになった。雨粒が体を叩き、冷たく染み渡る。
「……ちっ……雨宿りするぞ! こっちだ」
 ディークが先に動いた。手近な巨木の枝陰に移動すると、漸く息をつく。
 遅れてついて来たルトガーの服は既に肌に張り付き、濡れそぼっていた。ディークは濡れた肌を流れる雨粒を払い落としながら言う。
「ったく……無茶な真似しやがって。こんな状態で戦ったら本当に怪我どころじゃ済まなくなるぞ」
「……」
 ルトガーは答えない。ただ俯いたまま雨に濡れる己の掌を見つめている。そこに血の痕は無く、ただ雨水が滲んでいただけだ。けれどルトガーにとっては絶えず滴る鮮血を想起させた。
 ディークは嘆息し、傍らに腰かける。
「……おい。何が気に食わなかったんだ?」
 しばらくの沈黙のあと、ルトガーは掠れた声で呟いた。
「……俺を哀れむな」
「は?」
「綺麗だとか整ってるだとか……笑わせるな。俺のこの顔がベルンに通ずると思われているのがどれだけ……腹立たしいか分かるか?」
 ベルン。忌むべき敵。
 かつて故郷を焼き尽くした兵たちと同じ特徴を有する容姿についてディークが触れたこと。それはルトガーにとって決定的な侮辱に等しかったのだ。
 雨音が強まり草むらが白く霞んでゆく。

 ディークは黙って空を仰ぎ見る。降りしきる雨粒は大地を穿ち、樹々を濡らし、己たちの心に積もる澱までも洗い流すかのようだった。
「なぁ……ルトガー」
「なんだ」
「……お前は悪くねぇよ」
「……」
「なるほどな、その顔でサカ出身って違和感があったが……それがお前の復讐の事情みてえだな?」
「詮索するな……」
「ああ、悪い悪い。だがお前が……苦しんでるのは良くわかる」
「………。」
「お前が故郷を滅ぼしたベルンへの復讐を誓うのは、間違いなく正当な戦う理由だ。俺はそれを止めねえ。だが……背負いすぎるなよ」
 ディークの言葉は雨のせいか妙に湿っぽかった。いつもの軽口とは異なる真摯さにルトガーは困惑する。しかしその胸中で湧き上がったのは安堵ではない。かえって苛立ちと不安が増幅していく。
「……お前にとやかく言われるつもりはない」
「分かってる。だがお前は独りで戦ってんじゃねぇ……少なくとも戦場では、俺はお前と同じ場所に居る」
 ディークの目はルトガーを捉え続けた。その瞳には確かな共感と信頼が宿っているように見えた。
「……ッ!」
 刹那、ルトガーの中で抑え続けてきた感情が爆発した。紅いフードを目深に被り直しディークから視線を逸らす。
「もう俺に構うな……!」
「お前が拒んでも、俺は仲間だぜ?」
「仲間? 笑わせるな! もう何人も死んだ! 俺を残して! それにあいつは……!」
 ルトガーが語気を荒らげた瞬間、濡れた木の葉を震わせながら吹き付けた突風が彼のフードを翻した。
 露わになった顔は怒りと悲しみの入り混じった激情に歪んでいる。
 その表情を見たディークは一瞬呆然とし――やがて自らの内側を掠めた感情に戸惑った。
(コイツの怒り……憎しみ……本当に何を抱えてやがる……?)
「ルトガー……」
 ディークが彼に手を伸ばしたその時。一際激しい雷鳴とともに一閃の稲妻が空を裂いた。
 轟音と光が辺り一面を覆い尽くす。
「うわっ⁉」
 視界が眩み二人は顔を覆う。
 その間にルトガーの姿は闇へと消えていった。
「……おい! どこに行く⁉」
 呼び止める暇もない。ただ雨と風だけが荒々しく通り過ぎていく。

 残されたディークは舌打ちをして地面を蹴る。
「ったく……どうしようもねえな」
 そう吐き捨てながらもその表情は険しくはない。むしろ……ほんの一瞬だけ垣間見たルトガーの素顔に想いを馳せていた。

「黙ってりゃ、本当……綺麗な顔なのにな……」

 再び呟かれた言葉は夜の闇に吸い込まれ消えていく。
 雨脚がさらに強くなる中……一人佇むディークの心中に芽生えた微かな疼きを、誰も知る由はない。


END


捕らわれたルトガーがどんな目にあったか知りたい方は本編をどうぞ(ゲスの極み)
サカでのびのび育ってた頃のルトガーが見たいよ私は~~~と、ディールト成立後のディークもきっと思う事でしょう…
畳む

#ディールト