Ocean ripples➀
💜ガイツ×ギース過去話、出会い編
💜ガイツ(15歳)の元に連れてこられたギース(5歳)※異母兄弟設定※オリキャラ(二人の父)登場有
💜遊んだりお風呂入ったりのほのぼの話です
ガイツは退屈そうに広間の肘掛けに凭れ、高い天井を見ていた。
(あー、だりぃ……)
鋭い紫紺の瞳が細められる。十五歳ながら既に父譲りの逞しい体躯を持つ彼は、周りが『ベルガーの旦那』と畏敬を込めて呼ぶ父親と共に、商船に乗る事も少なくはない。しかし、父の商売のやり方を知れば知るほどその生業に嫌気を覚え――お陰で、ガイツのここ最近のミスル半島西端の豪邸暮らしは荒れていた。
今日も朝から家庭教師による航海学をサボって港町に繰り出そうとしたところを、「大事な話がある」と父に呼び出されただけで、内心苛立っていた。
(じじいに隠し子がいるっつーのは知ってたけどよ……何で今更、オレがそんなガキと会わなきゃなんねーんだ)
なんでも、父は商売中に立ち寄った開発途上の半島の酒場で出会った若い女を囲い、正妻であるガイツの母親が音信不通なのを良いことに、その女に子まで産ませていた。が、妾の女は持病持ちで、一昨日息をひきとったらしい。
顔も見たことがないその女との間に出来た幼子を、親父が引き取ることにしたのだ。ガイツとは腹違いの弟ということになる。
名は……確かギースと言っていた。
「ケッ、良い歳してよくやるぜ、色ボケじじいがよ……」
「ガイツ坊っちゃま、旦那様にそのような事は…」
茶を注ぎに来た年老いた下男にうるせえ!と一蹴し、ローテーブルに足を乗せてふんぞり返るガイツに、部屋の隅に控える下人達までが萎縮する。我ながら愚かしい態度であったが、苛立ちはつのるばかりだった。
――その時。
「待たせたなガイツ。こいつが前に言ってたお前の弟、ギースだ。今日から一緒に暮らすぞ」
低い声と共にベルガー商会を率いる父ゴルドが現れる。その後ろには、小さな人影が隠れていた。
メイド長に手を引かれながらおずおずと歩み出たのは――五歳のギースだった。
ガイツよりも明るい紫紺の長い髪が、開け放たれた大扉から吹き込む浜風に靡く。裾をフリルで飾った薄桃色のブラウスから覗く白磁のような肌。大きな紫水晶のような瞳は初めての場所に不安げに瞬きながらも、ガイツを見つけると好奇心旺盛に見上げてきた。
「……こいつが親父の隠し子? ギースって…女の子だったのか?」
思わず口走るとゴルドが鼻を鳴らした。
「馬鹿者。しっかり見ろ。ギース・ベルガーはれっきとした男子だ」
そう言われても納得がいかない。スカートのように広がった長いブラウスの丈感も相まって、その姿はまるで昔読んだ絵本に出てくる妖精のように可憐だった。
(……は? 意味分かんねー……これのどこが弟……)
しかしギース自身はガイツの不躾な視線を気にするどころか、「ガイツお兄ちゃん……?」と立ち上がったガイツに対してはにかむような笑顔を向けてくるではないか。
「そうだギース、 挨拶できるか?」
ゴルドが促すとギースは少しもじもじしながらも、ガイツの正面にとことこと歩み出た。
「はじめまして、ギースです……えっと、これからよろしくお願いします」
子猫のような高い声。ぺこりとお辞儀する仕草が愛らしすぎて、ガイツは思わず息をのんだ。
「あっ………、ああ……よろしく、俺はガイツだ」
ぶっきらぼうに言いながらもその視線は自然と小さな弟へ吸い寄せられる。ギースの少し波打つ癖毛の髪はさらさらと肩から流れ落ち、襟元から覗く鎖骨のラインは少女と見紛うほど華奢だった。
(………。親父がこいつを引き取るって決めたのも無理ねえな……)
あまりにもか弱い存在を前に納得する一方、父への反抗心や戸惑いは消えない。だがギースの方はまるで警戒心を知らない様子で、ガイツに近付いた。
「えへへ…兄ちゃんって……呼んでもいい?」
上目遣いで見上げてくる。その無邪気な笑顔に、ガイツは毒気を抜かれてしまった。
「ああ……構わねえぞ」
何故か胸がざわつく。ガイツは年上の威厳を見せつけるべく椅子に座り直すと、無造作に肘をつき視線を反らす。
「おい、ガイツ!なんだその態度は!俺が館を開けてる間、しっかり弟の面倒をみてやるんだぞ!」
ガイツの不遜な態度を見咎めた父がどやしながら、ギースの細い手を取った。
「こんなに可愛いギースに、何かあったらただじゃ済まさんからな」
「へっ……分かった分かった」
どうやら親父はギースに対してかなりご執心らしい。ここ数年、父に反発し素行の悪さが目立つようになった自分への当て付けだろうか。返事をしたものの子守りなど面倒でしかないし、まして父の期待通りに動いてやるのも癪だった。しかし……目の前で自分を真っ直ぐに見詰めるギースには関係のない話だ。
よく見れば幼いながらも凛とした顔立ちや、それでいて無垢な純真さ。そして光の加減で紫にも青にも光るギースの清んだ瞳を見ると、無性に守ってやりたくなる衝動が湧き上がる。
「……じゃ、適当に館を案内してやるよ」
そう提案するとギースはぱあっと顔を輝かせた。
「うん!兄ちゃん、連れてって!」
無邪気な笑顔に、ガイツは釣られて微笑んでしまう。胸の奥がじんわりと温かくなった。
「よしっ、 行くか」
小さなお供を伴い、ガイツは歩き出す。
(ま、他にやることもねぇし……こんな可愛い弟なら、少しは楽しめるかもな)
退屈な館暮らしに舞い降りた天使のような存在に、あれだけ不機嫌の塊だったガイツはすっかり絆されてしまっていた。
「兄ちゃん!あれ何?」
「あれは爺さんの漁具だ。昔は家業が漁師だったらしいからな」
「あの大きな網も?」
そんな些細な会話を交わしながら、重厚な毛織物の敷かれた大理石の廊下を歩く。ギースは好奇心が強く、ガイツに何でも訊いてきた。説明を受けて知識をどんどん吸収しつつ、時折見せる聡明さにガイツは内心舌を巻く。
(こいつ……きっと頭いいんだろうな)
同時に、多忙な親父がなぜこの弟をわざわざ自分の館に引き取ったのかという意図を察し、一抹の寂しさも感じる。勿論ギースの父として責任を果たす為であるのだろうが、あの狡猾なじじいのこと、親父のやり方に反発する自分の代わりとなるよう、ギースを商会の跡継ぎ候補として一から育てようと考えているに違いなかった。
そして実際に自分より優秀であるなら、親父は迷わずこの弟に家督を譲るだろう。世の道理より何より、利を追求する親父らしかった。
「兄ちゃん?」
「ん?ああ……何でもねえよ」
心配そうに首を傾げるギースの頭を、くしゃりと軽く撫でてやる。
広い館を一通り巡り陽が落ち始めた頃、中庭から外へ出た二人は屋敷の離れに続く階段を登っていた。
「兄ちゃん……高いの、怖いよ……」
ゴツゴツした石階段の上でギースの小さな体が震えている。眼下には港町と大海原が広がるが、海風が強く、屋根の天辺に据えた風見鶏がキーキーと軋みながら回っていた。
「大丈夫だ。オレが居るだろ? 上ってこい」
励ますように段上から手を伸ばして引き上げてやる。腰に手を回すと、その細い感触に改めて驚かされた。
(本当にちっこいな……背丈はオレの半分もねえんじゃないか?)
改めて歳の離れた弟の姿を見つめる。館内では見せなかった不安気な顔。海辺の酒場街で母を亡くした幼い子が、いくら父の元とは言え、知らない家に貰われてきたばかりなのだ。
「兄ちゃん……」
不意にギースが顔を上げた。淡い紫の瞳が潤んでいる。
「僕さ……父ちゃんと会ってもあんまり一緒に遊んだ記憶無いんだ……母ちゃんは天国に行っちゃったし……。ガイツ兄ちゃんは、僕とずっと一緒にいてくれる?」
そう問われ、どくりと心臓が高鳴る。
「あ、当たり前だろ。オレたち血が繋がってるんだぜ?」
「くすん……ほんと?」
ギースの大きな双眸からついに涙が溢れ落ちる。ガイツは慌ててそれを腰に下げた手巾で拭った。
「ホントだよ!だから泣くな!」
「ん……わかったぁ……」
大声で叫んだガイツに、心底安堵したようにギースはしがみついた。その温もりと甘い香りに、ガイツはふと胸の奥から何かが込み上げてくるような感覚を覚える。
(なんだ……これ……?)
小さな弟を抱き留める腕が自然と強まる。それは自分に縋る弟を年長者として優しくあやすという、そんな理性的な類いの物ではなく――本能がそうさせていた。
「兄ちゃん……?」
「ああ……悪い。ちょっと寒くねえかと思ってさ」
慌てて誤魔化すとギースは不思議そうにしながらも、にっこりと笑った。
「あったかいよ!兄ちゃん、もっと抱っこして!」
そう言うとギースは小さな手でガイツの服の裾をしっかりと握り締め、仔犬のように纏わりついてきた。上目遣いに頬擦りするその仕草が妙に艶かしく映り、ガイツは咄嗟に視線を反らす。
(い……一体何を考えてんだオレは……!? 相手はまだ子供、しかも弟だぞ……?)
自問しても答えが出ない。ただ、確かにこれまで感じたことのない熱が胸の中に灯っていた。
「………。しゃーねえなぁ……」
小さなギースの体躯を肩上に抱き上げながらも、未知の感情に戸惑うばかりであった。
離れから元の大広間へ戻る途中、ガイツは手を繋いで歩く弟に声をかける。
「どうだギース……ここでオレらと暮らしていけそうか?」
「うん!僕……兄ちゃんのこと大好き!」
その純粋な言葉に嬉しくなり、つい頬が緩む。
(兄として……しばらくこいつを守ってやるのが俺の役目、か……)
仕事一筋の父。失われた母。かつての自分と同じように、広い館に一人ぽつんと残されるだろうギースに、あんな退屈で無味な暮らしを味わわせたくはない。この弟と共に、いくらでも遊んでやろう――そう決めた瞬間だった。
---
次の日。長閑な昼下がりの中庭には春の陽が降り注ぎ、武骨な石造りの小道は鮮やかな花の影が揺れていた。
ベルガー家の庭師によって手入れされた花壇に囲まれた芝生の庭で、ギースが紫の瞳に空の青を輝かせながら駆け回っている。
何してんだ?と先ほど勉強部屋から抜け出してきたガイツが聞くと、小石集めや虫探しに興じているようだ。
「ふーん……はしゃいでんなぁ……」
石のベンチに腰掛けたガイツの目の前で、弟は小さな噴水の縁に置かれた小石を拾い集めたり、蝶々を追ったりと忙しい。まだ五歳の子供にとっては外界全てが遊び場なのだろう。
「兄ちゃん見て見て! この石……光ってる!」
ギースが差し出した丸い石は陽光を反射して銀色に煌めいていた。その無邪気な笑顔を見ていると、昨日までの父に対する鬱屈した感情が霧散していくようだ。
(まったく……単純なヤツ)
自嘲気味に溜息をつくが、同時に胸がじんわりと温かくなる。この安らぎは何なのだろう?
しばらくそれを感じながらギースを目で追う。しかし半刻も経たない内に、ガイツは春の日差しに眠気を感じてうとうとと頭を揺らしていた。
「ねぇねぇ……兄ちゃん……」
いつの間にかギースが足元にまとわりついていた。首を傾げて見上げる仕草は小型犬のようで庇護欲をかき立てる。
「なんだ?」
「僕ね……ヒミツの特技があるんだ」
唐突な告白にガイツは眉をひそめる。
「秘密? 何だよそれ」
「えへへ……教えないっ」
勿体ぶる弟に苛立ちが湧く。
「教えろよ。生意気だな……」
乱暴に長い髪をかき回すとギースはキャッキャと笑いながら逃げ出す。
「教えてあげる〜! でも僕に勝負で勝ったらね〜!」
芝生を走りながら挑発する姿に、思わず口角が上がった。
(よし……乗ってやるか)
「おー、いいぜ? じゃあ何で勝負するんだ?」
尋ねるとギースは得意げに胸を張った。
「何回ぐるぐる回っても、僕は目が回らないんだ!」
「はあ? そんなの簡単に真似できるだろ」
疑わしげな視線を送るが、当のギースは自信満々だ。
「えへへ〜! 見てて兄ちゃん!」
突如としてギースはその場で弾むように回転を始め、紫色の細い髪束が弧を描く。一回転……二回転……二十を超えたあたりで目を覆う。
(おいおい……嘘だろ……)
それでもまだ平然と回っている姿に驚きを禁じ得ない。
「ほらね〜! 全然平気!」
三十回転目でピタリと止まり、屈託なく笑う弟にガイツは半ば感心した。
「……やってみるか」
同じ場所に立ち爪先を軸に地面を蹴る。一回転……二回転……十を越えた辺りで視界ごと回り出す感覚が襲ってきた。
(くそ……やっぱり無理か)
だがギースの期待に満ちた瞳を見ると途中で投げ出せない。年上の意地を見せ三十五回転まで辿り着いたところで足元がおぼつかなくなる。
「はぁ……はぁ……」
荒い息遣いを抑えながらなんとか停止したものの、頭がクラクラする。
「兄ちゃん凄い〜! 僕より多く回った!」
無邪気に喜ぶギースだったがその時異変が起きた。
「うわっ」
視界が歪み地面が傾く。平衡感覚を失ってよろけたガイツは、そのまま芝生にドサッと尻餅をついた。
「ってえ…!」
「兄ちゃん大丈夫!?」
駆け寄る弟の声。心配そうな顔でこちらを丸い瞳が覗き込む。
(うわ、情けねーとこ見られちまった)
ふう、とまだぐるぐる回っている世界をいなすように頭を降り、何とか揺れを抑える。こんなに前後不覚になったのは、父に初めて商船に乗せてもらった時以来だった。
「はあ~~…完敗だ。すげえな、お前」
「えへ…でも兄ちゃんも凄かったよ!」
「それがお前の秘密の特技ってか?」
「うん!」
座り込みながらも返事をするガイツに安心したのか、ギースはガイツの目の前でまたくるりと回り、手を広げてステップを踏む。
「母ちゃんの真似!母ちゃん、踊り子だったから」
「ほー……そっか」
父からギースの母親の生業まで教えられていなかったガイツは、色々と腑に落ちた心地だった。踊り子だったというなら、ギースの五歳にしてこの美しさで華麗なターンを決め、輝くような笑顔をこちらに向けるのはきっと母譲りなのだろう。何度回っても平衡感覚を保てるのは荒海を物ともしない父譲りだろうか。将来船に乗るなら欠かせない才能だ。
「おう、上手い上手い。もっと回ってみな」
「はーい! くるくる~♪くるくる~♪」
ガイツの前で得意げなギースは本当に楽しそうだった。
(ほんっと飽きねえなぁ……ま、そろそろオレも良いとこ見せてやるか……)
そんな考えが浮かび、踊るギースに声をかける。
「じゃ、俺の特技も見せてやるよ、そーらっ」
「わっ!兄ちゃんっ?!」
ギースをひょいと抱えて宙に放り、落ちる前にキャッチしてやる。
「あはっ♪ すごい!高いっ!」
「どーだ俺の腕力、お前なんか軽々だぜ」
何度か繰り返す度にギースがきゃっきゃとはしゃぐ声。最後に一際大きく上に投げ、落ちてきた身体を抱えたまま芝生スレスレまで下ろしてやる。
「きゃあっ!あははっ!すごいっ!兄ちゃん、もう一回してぇ♪」
芝生にごろんと寝転んだ弟の長い髪が花びらのように広がる。汗が光る額を見せてガイツに両手を伸ばし、抱きついてくる姿に心臓が跳ねる。
(うお……これは……)
腕のなかに飛び込んできた弟の身体。その小さな肢体は温かくて、まるで小動物のようだ。今度は腕に抱いたまま揺らしてやる。
「んー…どうすっかな…」
波のように揺らしてやるだけで、弟はくすくすと笑みを浮かべていた。刺繍が入った衿飾りがふわふわと揺れる。昔ガイツが着ていたらしい白のブラウスにサスペンダー付きの紺色の半ズボン。初めて会った時の薄ピンクの妖精のようなフリルブラウスも可愛かったが、今日の服はいかにも育ちのよいお坊ちゃんという雰囲気に、長い髪が中性的な魅力を引き立てている。
「その服、オレのお下がりだけどよぉ、よく似合ってんな」
「ありがと」
照れたような顔もまた可愛い。この姿をどうしてくれようか…と少しの逡巡後、ひょいと肩に乗せた。
「もう一回、館周りの探検に行くか」
「うん!わあっ、高~い♪」
(これじゃ親父と変わんねえ……見せびらかしたくなるわけだ)
芝生の庭に続くレンガの小道を歩きながら少しため息をつく。ギースの白いふくらはぎをしっかり支えながら、ガイツは庭園の世話をする下男や通りかかる下働きの者へこれ見よがしにギースを見せ歩いた。これが俺の弟で……勝手に触れるなと言わんばかりに。
広いレンガ造りの館の周りを一周しかけた頃、門の前がにわかに騒がしくなった。どうやら親父が帰ってきたらしい。
長身の父は馬車から降りるとすぐにガイツとギースの姿を見つけ、駆け寄ってくる。
「おお!ギー坊!ガイツも、ただいま」
「父ちゃん!おかえりなさい!」
「兄貴に肩車してもらってたのか? ガイツ、お前も良いところあるじゃねえか、さ、俺も抱いてやろう」
そう言ってゴルドはガイツの肩からギースをふんだくるように抱えて行ってしまう。ガイツは不満げな顔をその背中に送るが、流石に仕事帰りの父には何も言えない。
「おかえり……早かったんだな」
「ああ、たまにはな。ギースの顔も明るい内に見たいし……おお、庭で沢山遊んでたのか?」
そう言ってゴルドはギースの身体にくっついたままだった芝生を払う。
「せっかくだ、父ちゃんと一緒に風呂に入るか、ギース!」
「うん!入るぅ!」
へぇ……とその提案を聞き流すガイツ。ギースが嬉しそうな声を上げるのを聞いて笑う父の親バカぶりに、これ以上は付き合ってられないとばかりに踵を返そうとする。
「あれ? 兄ちゃんは…?」
「お、ガイツもどうだ、久しぶりに家族水入らずといこうじゃねえか、なあ?」
ポン、と親父の手がガイツの肩に当てられる。一足遅かったようだ。
「風呂ねぇ……ま、いーけど」
捕まったガイツは渋々父とギースの後ろをついていく。
巨大な岩がいくつも並び、床には滑らかなタイルが敷き詰められた、まるで屋内にありながら洞窟のような様相を再現した浴場には、熱めの湯が湛えられていた。脱衣場で三人並んで服を脱ぐ。
「ほれギース、洗ってやるぞ」
「えへへ……ありがと父ちゃん」
「礼を言うならガイツにもな。一緒に遊んでくれたんだろ?」
「うん!兄ちゃん、いっぱい遊んでくれたんだよ!」
ギースの無邪気な答えに照れ臭さを隠すため、ガイツはそっぽを向く。ギースに向けられる好意が素直に嬉しい反面、父が帰ってからは自分だけのものではなくなってしまったような妬ましさを感じていた。
そんな気持ちを知ってか知らずか、泡をまとったギースの小さな手がガイツの広い背中を撫でてきて、兄ちゃんも洗ってあげるね、と無邪気に滑り出す。先ほどギースと遊んでいた時の感触が蘇り心臓が早鐘を打つ。思わず振り返ると小さな裸身を間近で見詰めてしまいそうになり、慌てて視線を外す。
「いや、いいって……」
「ハハハ、いい兄貴分だな、ガイツよぉ」
そんな二人の様子に父は笑いながら、従者が用意していた大きな桶に入った湯をかけ流す。立ち上がると広い湯船へ先に入り、それを見たギースも続いて飛び込む。
「わっ、熱いよぉ」
「そうかそうか、ガイツ、ちょっと水を桶に汲んで入れてやんな」
「何でオレが……」
身体を洗い終えたガイツは父の言葉に反発するも、ギースの為と思ってそれに従う。
「どうだ? ちっとはぬるんだか?」
「うん、まだちょっと熱いけど、大丈夫だよぉ」
そんな父とギースの様子を、ガイツは頭を洗いながら湯船の外から眺めていた。湯気で霞む視界のなかでも二人の姿はハッキリ見える。
同じ色の紫の髪と瞳。目尻を下げ大きく口を開けて笑うギースの表情は、機嫌の良い時の親父そのものだった。
(こうして見ると親子なんだな)
親父と比べて、目鼻立ちは幼い頃蒸発してしまった母に似るガイツにとっては少し妬ける気持ちがあったが、それ以上に血を分けた弟への想いが募るばかりだった。
湯船の片隅に身を沈めたガイツは、目を閉じて大きく息を吐き出し自分を落ち着かせようとする。この胸の奥にあるモヤモヤは一体何なのだろうかと考えつつ、再び目を開けた瞬間、視界の隅に小さな背中を見つけた。
「ガイツ兄ちゃん?」
振り向いたギースが不思議そうにこちらを見上げている。慌てて取り繕うように笑い返したが、心臓はまだ激しく高鳴っていた。
「あー……悪い。ボーっとしてた……」
「大丈夫?」
「ハハッ、どうせ夜中まで出歩いて寝不足なんだろ?」
「そんなんじゃねーよ」
日頃の素行を知っているとばかりに話す父にぶっきらぼうに答える。おまえもギースくらいの頃はよぉ…と昔を懐かしむ素振りをするゴルド。
「うるせえな、オレとギースじゃ歳が離れ過ぎだろ、比べんなって」
「はは…それもそうだ、ギー坊は俺達と比べてまだ肌も白いし、天使みてえな愛らしさだからな……全く、将来が楽しみだ」
そう言ってギースの頭を撫でるゴルドは、母親の分まで大事にしてやらねえと…と小さく呟く。
「へっ……あんまり可愛がって甘やかすと、オレみたいになっちまうかもな」
「僕、兄ちゃんみたいになるの?やったあ」
皮肉を込めたつもりが、ギースの無邪気さに親父がハハハッと笑いを響かせる。
「おう、なれなれ!二人とも父ちゃんみてえにでっかい男になるんだ!」
と、二人の子らの背中を叩く。その口ぶりから、ギースに妾の女の面影を求めて引き取った訳では無いことが伺え少しホッとする。
(いやいや……何で安心してんだ?オレ?)
「ああ、仲良くしてるお前たちを見てたら商売の疲れが吹っ飛ぶぜ」
ゴルドはそう言って湯船に身を預けて鼻唄を歌い出した。
「父ちゃ……もう、熱いよぉ」
ふと見るとギースの顔が真っ赤だった。肌もピンクに上気している。
「おう、兄ちゃんと先に上がりな……ガイツ、転ばんように見てやってくれ」
「へーへー」
生返事をしつつ目はしっかりとギースに向ける。ぷりんとした小さな尻の間に見えるのは弟を弟たらしめるもの……幼い性器の形だった。パシャ、パシャと水飛沫を落としながら脱衣場に向かって覚束ない足取りで歩くギースを後ろから追い、籠から引っ張り出したバスタオルで包んでやる。
「あ、兄ちゃ……」
「拭いてやるからじっとしてろ」
分厚いタオルで頭を覆って長い髪から落ちる雫を吸わせる。そこから順番に下へ……。されるがままのギースの身体の前面が、ガイツの目下に無防備に曝される。
(うわ、ちっちゃ……)
股にぴこん、と生えている男の象徴はまるで玩具の人形に付いているもののように可愛らしいサイズで、ギースは子どもなのだから当然なのだが、思わずじっと見てしまう。頭を拭かれるギースは性器を見られているのに気付いていない。むしろガイツにされるがまま、身を委ねていた。
(いや、小さくても…本当に弟だったな)
肩と背中、腕、腰、と順番にタオルを当てながら、足を拭く時その先端をガイツの指が掠める。が、ギースから特に反応はない。その一瞬の柔らかさと言ったら……。ガイツの方がドギマギしてしまっていた。
やがて上がってきた父にギースを任せ、役目を終えたとばかりにそっぽを向く。それでも、目に浮かぶのはギースの上気した白い肌だった。
(何考えてんだオレは)
風呂から上がり豪華な夕食を囲む。嬉しそうに食べ進めるギースの姿を眺めつつ、ワイングラスを傾けるゴルドの笑顔は眩しいばかりである。だがそんな親子の幸せそうな様子に、対抗意識のようなものを抱いてしまう自分に気付く。
「ガイツ? まだ食べるか?」
「いや……もう十分だ」
ギースに微笑み掛ける父を見ていると、嫉妬や独占欲といった負の感情が胸の中に渦巻く。その感情の赴くまま、フォークを突き刺した肉塊を口に放り込んだ。
「へへ……お肉もお魚も、おいしいねぇ」
「そうだな、いっぱい食べて父ちゃんや兄ちゃんみたいにでっかくなるんだぞ」
「うん!」
二人の会話を背後に聞きつつ食堂を出る。
扉を開ければ冷たい夜の空気が流れ込んだ。
「うぅん……ふーっ……」
廊下に出て伸びをすると、同時に疲れがドッと押し寄せる。
子供部屋として長年あてがわれている部屋の奥に続く寝室の扉を開ける。灯りの落とされた室内には誰もいない。当然のことなのに何故か寂しさを感じる。
(ギースのことばかり考えちまってる……オレは……アイツをどうしたいんだ)
ベッドの上で仰向けになり天井を見つめる。そこには窓から差し込む月明かりだけがあった。
「はぁ……」
深く溜息をつき目を瞑る。瞼の裏に浮かぶのはやはりギースの弾けるような笑顔だった。
その時、不意にノックの音が聞こえる。
「誰だ?」
「兄ちゃん、僕だけど……いい?」
「ああ」
ドア越しに聞こえた声で一発で分かる。ギースに付き添うじいやが扉を開けると、ガイツは手招きして弟を迎え入れた。
「どーした?」
「兄ちゃんにおやすみって言おうと思って……」
「それでわざわざ抜けてきたのか? 親父が寂しがるぜ」
そう揶揄うように言えば、ギースはあっけらかんと答える。
「えへ……僕…兄ちゃんと離れたくなくって……」
何気ない言葉だった。しかしその後追いにも似た甘えを見せるギースにますます愛情が募る。
「ったく……ガキだな……」
「あっ!」
言うなり、寝台に引っ張り上げられたギースは兄に抱きしめられていた。驚きつつも、されるがままの弟は嬉しそうに笑う。
「わあっ……兄ちゃんのベッド広ーい!」
「そうか? お前がちっこいからそう感じるだけだろ」
「へへへ……兄ちゃんは、お山みたいだね♪」
無邪気に笑うギースに、自然と笑みが零れてしまう。お互いの体温が伝わる感触に安心感を覚え、このまま眠りにつこうとするがどうしても一点が気になってしまう。
(こいつ……なんでこんなにいい匂いなんだ?)
先ほどの風呂場での一幕もあり、どうしても意識してしまう。五歳の子供に色欲を催すなどあってはならないと思いながらも本能には逆らえない。そう……どうしてもギースの身体に触れたくなってしまったのだ。
だがそれ以上は許されないことだと分かっているだけに、余計に悩む。
「ねえ兄ちゃん……あのね」
「ん?」
「今日ね……いっぱい遊んで……抱っこしてくれてありがとう……楽しかったぁ……」
その素直な言葉に、むしろもっと喜ばせてやりたいという感情が沸き上がってくる。
「おう、まあな」
「兄ちゃん、明日もお庭で一緒に遊んでくれる?」
「おー……いいぜ」
「やったあ!」
喜ぶギースの小さな背中を撫でながら、その暖かい身体の感触を堪能する。まるで湯たんぽのようだ。
「んじゃ……もう寝るぞ……」
「うん……おやすみなさい」
「おう……」
短い挨拶を交わし瞼を閉じる。しばらく沈黙が続いた後ギースの寝息が聞こえてきたので目を開けると、安らかに眠る寝顔が見えた。
(まったく……可愛い顔してんな……)
絹糸のように柔らかなギースの髪を指で梳きながら、ガイツも眠りにつく。
その年の離れた兄弟の穏やかな様子を、従者と共にこっそりと寝室の扉の隙間から認めた父は目を細め、優しく見守っていた。
続く
私的設定てんこ盛り過ぎるガイツとギースの幼少期!父の名前は二人の名前から頭文字にGがつくだろうと思って、金持ち→Goldからゴルドです(安直)
初めてベルガー邸に連れてこられたギースが着てたのは、亡き母親の服をリメイクしたチュニックブラウス🥹形見として父が仕立てさせた品でぇ…別に普段からあからさまにヒラヒラの服を着せられていたわけではない!のだ!
反抗期ガイツがチョロすぎるんだけど、それはまあ原作の性格に忠実なんで…胸の中のモヤモヤ、それはね、初恋って言うんだよ(ニチャァ
この調子で色んな日常を妄想していきます
畳む
#ガイギス
💜ガイツ(15歳)の元に連れてこられたギース(5歳)※異母兄弟設定※オリキャラ(二人の父)登場有
💜遊んだりお風呂入ったりのほのぼの話です
ガイツは退屈そうに広間の肘掛けに凭れ、高い天井を見ていた。
(あー、だりぃ……)
鋭い紫紺の瞳が細められる。十五歳ながら既に父譲りの逞しい体躯を持つ彼は、周りが『ベルガーの旦那』と畏敬を込めて呼ぶ父親と共に、商船に乗る事も少なくはない。しかし、父の商売のやり方を知れば知るほどその生業に嫌気を覚え――お陰で、ガイツのここ最近のミスル半島西端の豪邸暮らしは荒れていた。
今日も朝から家庭教師による航海学をサボって港町に繰り出そうとしたところを、「大事な話がある」と父に呼び出されただけで、内心苛立っていた。
(じじいに隠し子がいるっつーのは知ってたけどよ……何で今更、オレがそんなガキと会わなきゃなんねーんだ)
なんでも、父は商売中に立ち寄った開発途上の半島の酒場で出会った若い女を囲い、正妻であるガイツの母親が音信不通なのを良いことに、その女に子まで産ませていた。が、妾の女は持病持ちで、一昨日息をひきとったらしい。
顔も見たことがないその女との間に出来た幼子を、親父が引き取ることにしたのだ。ガイツとは腹違いの弟ということになる。
名は……確かギースと言っていた。
「ケッ、良い歳してよくやるぜ、色ボケじじいがよ……」
「ガイツ坊っちゃま、旦那様にそのような事は…」
茶を注ぎに来た年老いた下男にうるせえ!と一蹴し、ローテーブルに足を乗せてふんぞり返るガイツに、部屋の隅に控える下人達までが萎縮する。我ながら愚かしい態度であったが、苛立ちはつのるばかりだった。
――その時。
「待たせたなガイツ。こいつが前に言ってたお前の弟、ギースだ。今日から一緒に暮らすぞ」
低い声と共にベルガー商会を率いる父ゴルドが現れる。その後ろには、小さな人影が隠れていた。
メイド長に手を引かれながらおずおずと歩み出たのは――五歳のギースだった。
ガイツよりも明るい紫紺の長い髪が、開け放たれた大扉から吹き込む浜風に靡く。裾をフリルで飾った薄桃色のブラウスから覗く白磁のような肌。大きな紫水晶のような瞳は初めての場所に不安げに瞬きながらも、ガイツを見つけると好奇心旺盛に見上げてきた。
「……こいつが親父の隠し子? ギースって…女の子だったのか?」
思わず口走るとゴルドが鼻を鳴らした。
「馬鹿者。しっかり見ろ。ギース・ベルガーはれっきとした男子だ」
そう言われても納得がいかない。スカートのように広がった長いブラウスの丈感も相まって、その姿はまるで昔読んだ絵本に出てくる妖精のように可憐だった。
(……は? 意味分かんねー……これのどこが弟……)
しかしギース自身はガイツの不躾な視線を気にするどころか、「ガイツお兄ちゃん……?」と立ち上がったガイツに対してはにかむような笑顔を向けてくるではないか。
「そうだギース、 挨拶できるか?」
ゴルドが促すとギースは少しもじもじしながらも、ガイツの正面にとことこと歩み出た。
「はじめまして、ギースです……えっと、これからよろしくお願いします」
子猫のような高い声。ぺこりとお辞儀する仕草が愛らしすぎて、ガイツは思わず息をのんだ。
「あっ………、ああ……よろしく、俺はガイツだ」
ぶっきらぼうに言いながらもその視線は自然と小さな弟へ吸い寄せられる。ギースの少し波打つ癖毛の髪はさらさらと肩から流れ落ち、襟元から覗く鎖骨のラインは少女と見紛うほど華奢だった。
(………。親父がこいつを引き取るって決めたのも無理ねえな……)
あまりにもか弱い存在を前に納得する一方、父への反抗心や戸惑いは消えない。だがギースの方はまるで警戒心を知らない様子で、ガイツに近付いた。
「えへへ…兄ちゃんって……呼んでもいい?」
上目遣いで見上げてくる。その無邪気な笑顔に、ガイツは毒気を抜かれてしまった。
「ああ……構わねえぞ」
何故か胸がざわつく。ガイツは年上の威厳を見せつけるべく椅子に座り直すと、無造作に肘をつき視線を反らす。
「おい、ガイツ!なんだその態度は!俺が館を開けてる間、しっかり弟の面倒をみてやるんだぞ!」
ガイツの不遜な態度を見咎めた父がどやしながら、ギースの細い手を取った。
「こんなに可愛いギースに、何かあったらただじゃ済まさんからな」
「へっ……分かった分かった」
どうやら親父はギースに対してかなりご執心らしい。ここ数年、父に反発し素行の悪さが目立つようになった自分への当て付けだろうか。返事をしたものの子守りなど面倒でしかないし、まして父の期待通りに動いてやるのも癪だった。しかし……目の前で自分を真っ直ぐに見詰めるギースには関係のない話だ。
よく見れば幼いながらも凛とした顔立ちや、それでいて無垢な純真さ。そして光の加減で紫にも青にも光るギースの清んだ瞳を見ると、無性に守ってやりたくなる衝動が湧き上がる。
「……じゃ、適当に館を案内してやるよ」
そう提案するとギースはぱあっと顔を輝かせた。
「うん!兄ちゃん、連れてって!」
無邪気な笑顔に、ガイツは釣られて微笑んでしまう。胸の奥がじんわりと温かくなった。
「よしっ、 行くか」
小さなお供を伴い、ガイツは歩き出す。
(ま、他にやることもねぇし……こんな可愛い弟なら、少しは楽しめるかもな)
退屈な館暮らしに舞い降りた天使のような存在に、あれだけ不機嫌の塊だったガイツはすっかり絆されてしまっていた。
「兄ちゃん!あれ何?」
「あれは爺さんの漁具だ。昔は家業が漁師だったらしいからな」
「あの大きな網も?」
そんな些細な会話を交わしながら、重厚な毛織物の敷かれた大理石の廊下を歩く。ギースは好奇心が強く、ガイツに何でも訊いてきた。説明を受けて知識をどんどん吸収しつつ、時折見せる聡明さにガイツは内心舌を巻く。
(こいつ……きっと頭いいんだろうな)
同時に、多忙な親父がなぜこの弟をわざわざ自分の館に引き取ったのかという意図を察し、一抹の寂しさも感じる。勿論ギースの父として責任を果たす為であるのだろうが、あの狡猾なじじいのこと、親父のやり方に反発する自分の代わりとなるよう、ギースを商会の跡継ぎ候補として一から育てようと考えているに違いなかった。
そして実際に自分より優秀であるなら、親父は迷わずこの弟に家督を譲るだろう。世の道理より何より、利を追求する親父らしかった。
「兄ちゃん?」
「ん?ああ……何でもねえよ」
心配そうに首を傾げるギースの頭を、くしゃりと軽く撫でてやる。
広い館を一通り巡り陽が落ち始めた頃、中庭から外へ出た二人は屋敷の離れに続く階段を登っていた。
「兄ちゃん……高いの、怖いよ……」
ゴツゴツした石階段の上でギースの小さな体が震えている。眼下には港町と大海原が広がるが、海風が強く、屋根の天辺に据えた風見鶏がキーキーと軋みながら回っていた。
「大丈夫だ。オレが居るだろ? 上ってこい」
励ますように段上から手を伸ばして引き上げてやる。腰に手を回すと、その細い感触に改めて驚かされた。
(本当にちっこいな……背丈はオレの半分もねえんじゃないか?)
改めて歳の離れた弟の姿を見つめる。館内では見せなかった不安気な顔。海辺の酒場街で母を亡くした幼い子が、いくら父の元とは言え、知らない家に貰われてきたばかりなのだ。
「兄ちゃん……」
不意にギースが顔を上げた。淡い紫の瞳が潤んでいる。
「僕さ……父ちゃんと会ってもあんまり一緒に遊んだ記憶無いんだ……母ちゃんは天国に行っちゃったし……。ガイツ兄ちゃんは、僕とずっと一緒にいてくれる?」
そう問われ、どくりと心臓が高鳴る。
「あ、当たり前だろ。オレたち血が繋がってるんだぜ?」
「くすん……ほんと?」
ギースの大きな双眸からついに涙が溢れ落ちる。ガイツは慌ててそれを腰に下げた手巾で拭った。
「ホントだよ!だから泣くな!」
「ん……わかったぁ……」
大声で叫んだガイツに、心底安堵したようにギースはしがみついた。その温もりと甘い香りに、ガイツはふと胸の奥から何かが込み上げてくるような感覚を覚える。
(なんだ……これ……?)
小さな弟を抱き留める腕が自然と強まる。それは自分に縋る弟を年長者として優しくあやすという、そんな理性的な類いの物ではなく――本能がそうさせていた。
「兄ちゃん……?」
「ああ……悪い。ちょっと寒くねえかと思ってさ」
慌てて誤魔化すとギースは不思議そうにしながらも、にっこりと笑った。
「あったかいよ!兄ちゃん、もっと抱っこして!」
そう言うとギースは小さな手でガイツの服の裾をしっかりと握り締め、仔犬のように纏わりついてきた。上目遣いに頬擦りするその仕草が妙に艶かしく映り、ガイツは咄嗟に視線を反らす。
(い……一体何を考えてんだオレは……!? 相手はまだ子供、しかも弟だぞ……?)
自問しても答えが出ない。ただ、確かにこれまで感じたことのない熱が胸の中に灯っていた。
「………。しゃーねえなぁ……」
小さなギースの体躯を肩上に抱き上げながらも、未知の感情に戸惑うばかりであった。
離れから元の大広間へ戻る途中、ガイツは手を繋いで歩く弟に声をかける。
「どうだギース……ここでオレらと暮らしていけそうか?」
「うん!僕……兄ちゃんのこと大好き!」
その純粋な言葉に嬉しくなり、つい頬が緩む。
(兄として……しばらくこいつを守ってやるのが俺の役目、か……)
仕事一筋の父。失われた母。かつての自分と同じように、広い館に一人ぽつんと残されるだろうギースに、あんな退屈で無味な暮らしを味わわせたくはない。この弟と共に、いくらでも遊んでやろう――そう決めた瞬間だった。
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次の日。長閑な昼下がりの中庭には春の陽が降り注ぎ、武骨な石造りの小道は鮮やかな花の影が揺れていた。
ベルガー家の庭師によって手入れされた花壇に囲まれた芝生の庭で、ギースが紫の瞳に空の青を輝かせながら駆け回っている。
何してんだ?と先ほど勉強部屋から抜け出してきたガイツが聞くと、小石集めや虫探しに興じているようだ。
「ふーん……はしゃいでんなぁ……」
石のベンチに腰掛けたガイツの目の前で、弟は小さな噴水の縁に置かれた小石を拾い集めたり、蝶々を追ったりと忙しい。まだ五歳の子供にとっては外界全てが遊び場なのだろう。
「兄ちゃん見て見て! この石……光ってる!」
ギースが差し出した丸い石は陽光を反射して銀色に煌めいていた。その無邪気な笑顔を見ていると、昨日までの父に対する鬱屈した感情が霧散していくようだ。
(まったく……単純なヤツ)
自嘲気味に溜息をつくが、同時に胸がじんわりと温かくなる。この安らぎは何なのだろう?
しばらくそれを感じながらギースを目で追う。しかし半刻も経たない内に、ガイツは春の日差しに眠気を感じてうとうとと頭を揺らしていた。
「ねぇねぇ……兄ちゃん……」
いつの間にかギースが足元にまとわりついていた。首を傾げて見上げる仕草は小型犬のようで庇護欲をかき立てる。
「なんだ?」
「僕ね……ヒミツの特技があるんだ」
唐突な告白にガイツは眉をひそめる。
「秘密? 何だよそれ」
「えへへ……教えないっ」
勿体ぶる弟に苛立ちが湧く。
「教えろよ。生意気だな……」
乱暴に長い髪をかき回すとギースはキャッキャと笑いながら逃げ出す。
「教えてあげる〜! でも僕に勝負で勝ったらね〜!」
芝生を走りながら挑発する姿に、思わず口角が上がった。
(よし……乗ってやるか)
「おー、いいぜ? じゃあ何で勝負するんだ?」
尋ねるとギースは得意げに胸を張った。
「何回ぐるぐる回っても、僕は目が回らないんだ!」
「はあ? そんなの簡単に真似できるだろ」
疑わしげな視線を送るが、当のギースは自信満々だ。
「えへへ〜! 見てて兄ちゃん!」
突如としてギースはその場で弾むように回転を始め、紫色の細い髪束が弧を描く。一回転……二回転……二十を超えたあたりで目を覆う。
(おいおい……嘘だろ……)
それでもまだ平然と回っている姿に驚きを禁じ得ない。
「ほらね〜! 全然平気!」
三十回転目でピタリと止まり、屈託なく笑う弟にガイツは半ば感心した。
「……やってみるか」
同じ場所に立ち爪先を軸に地面を蹴る。一回転……二回転……十を越えた辺りで視界ごと回り出す感覚が襲ってきた。
(くそ……やっぱり無理か)
だがギースの期待に満ちた瞳を見ると途中で投げ出せない。年上の意地を見せ三十五回転まで辿り着いたところで足元がおぼつかなくなる。
「はぁ……はぁ……」
荒い息遣いを抑えながらなんとか停止したものの、頭がクラクラする。
「兄ちゃん凄い〜! 僕より多く回った!」
無邪気に喜ぶギースだったがその時異変が起きた。
「うわっ」
視界が歪み地面が傾く。平衡感覚を失ってよろけたガイツは、そのまま芝生にドサッと尻餅をついた。
「ってえ…!」
「兄ちゃん大丈夫!?」
駆け寄る弟の声。心配そうな顔でこちらを丸い瞳が覗き込む。
(うわ、情けねーとこ見られちまった)
ふう、とまだぐるぐる回っている世界をいなすように頭を降り、何とか揺れを抑える。こんなに前後不覚になったのは、父に初めて商船に乗せてもらった時以来だった。
「はあ~~…完敗だ。すげえな、お前」
「えへ…でも兄ちゃんも凄かったよ!」
「それがお前の秘密の特技ってか?」
「うん!」
座り込みながらも返事をするガイツに安心したのか、ギースはガイツの目の前でまたくるりと回り、手を広げてステップを踏む。
「母ちゃんの真似!母ちゃん、踊り子だったから」
「ほー……そっか」
父からギースの母親の生業まで教えられていなかったガイツは、色々と腑に落ちた心地だった。踊り子だったというなら、ギースの五歳にしてこの美しさで華麗なターンを決め、輝くような笑顔をこちらに向けるのはきっと母譲りなのだろう。何度回っても平衡感覚を保てるのは荒海を物ともしない父譲りだろうか。将来船に乗るなら欠かせない才能だ。
「おう、上手い上手い。もっと回ってみな」
「はーい! くるくる~♪くるくる~♪」
ガイツの前で得意げなギースは本当に楽しそうだった。
(ほんっと飽きねえなぁ……ま、そろそろオレも良いとこ見せてやるか……)
そんな考えが浮かび、踊るギースに声をかける。
「じゃ、俺の特技も見せてやるよ、そーらっ」
「わっ!兄ちゃんっ?!」
ギースをひょいと抱えて宙に放り、落ちる前にキャッチしてやる。
「あはっ♪ すごい!高いっ!」
「どーだ俺の腕力、お前なんか軽々だぜ」
何度か繰り返す度にギースがきゃっきゃとはしゃぐ声。最後に一際大きく上に投げ、落ちてきた身体を抱えたまま芝生スレスレまで下ろしてやる。
「きゃあっ!あははっ!すごいっ!兄ちゃん、もう一回してぇ♪」
芝生にごろんと寝転んだ弟の長い髪が花びらのように広がる。汗が光る額を見せてガイツに両手を伸ばし、抱きついてくる姿に心臓が跳ねる。
(うお……これは……)
腕のなかに飛び込んできた弟の身体。その小さな肢体は温かくて、まるで小動物のようだ。今度は腕に抱いたまま揺らしてやる。
「んー…どうすっかな…」
波のように揺らしてやるだけで、弟はくすくすと笑みを浮かべていた。刺繍が入った衿飾りがふわふわと揺れる。昔ガイツが着ていたらしい白のブラウスにサスペンダー付きの紺色の半ズボン。初めて会った時の薄ピンクの妖精のようなフリルブラウスも可愛かったが、今日の服はいかにも育ちのよいお坊ちゃんという雰囲気に、長い髪が中性的な魅力を引き立てている。
「その服、オレのお下がりだけどよぉ、よく似合ってんな」
「ありがと」
照れたような顔もまた可愛い。この姿をどうしてくれようか…と少しの逡巡後、ひょいと肩に乗せた。
「もう一回、館周りの探検に行くか」
「うん!わあっ、高~い♪」
(これじゃ親父と変わんねえ……見せびらかしたくなるわけだ)
芝生の庭に続くレンガの小道を歩きながら少しため息をつく。ギースの白いふくらはぎをしっかり支えながら、ガイツは庭園の世話をする下男や通りかかる下働きの者へこれ見よがしにギースを見せ歩いた。これが俺の弟で……勝手に触れるなと言わんばかりに。
広いレンガ造りの館の周りを一周しかけた頃、門の前がにわかに騒がしくなった。どうやら親父が帰ってきたらしい。
長身の父は馬車から降りるとすぐにガイツとギースの姿を見つけ、駆け寄ってくる。
「おお!ギー坊!ガイツも、ただいま」
「父ちゃん!おかえりなさい!」
「兄貴に肩車してもらってたのか? ガイツ、お前も良いところあるじゃねえか、さ、俺も抱いてやろう」
そう言ってゴルドはガイツの肩からギースをふんだくるように抱えて行ってしまう。ガイツは不満げな顔をその背中に送るが、流石に仕事帰りの父には何も言えない。
「おかえり……早かったんだな」
「ああ、たまにはな。ギースの顔も明るい内に見たいし……おお、庭で沢山遊んでたのか?」
そう言ってゴルドはギースの身体にくっついたままだった芝生を払う。
「せっかくだ、父ちゃんと一緒に風呂に入るか、ギース!」
「うん!入るぅ!」
へぇ……とその提案を聞き流すガイツ。ギースが嬉しそうな声を上げるのを聞いて笑う父の親バカぶりに、これ以上は付き合ってられないとばかりに踵を返そうとする。
「あれ? 兄ちゃんは…?」
「お、ガイツもどうだ、久しぶりに家族水入らずといこうじゃねえか、なあ?」
ポン、と親父の手がガイツの肩に当てられる。一足遅かったようだ。
「風呂ねぇ……ま、いーけど」
捕まったガイツは渋々父とギースの後ろをついていく。
巨大な岩がいくつも並び、床には滑らかなタイルが敷き詰められた、まるで屋内にありながら洞窟のような様相を再現した浴場には、熱めの湯が湛えられていた。脱衣場で三人並んで服を脱ぐ。
「ほれギース、洗ってやるぞ」
「えへへ……ありがと父ちゃん」
「礼を言うならガイツにもな。一緒に遊んでくれたんだろ?」
「うん!兄ちゃん、いっぱい遊んでくれたんだよ!」
ギースの無邪気な答えに照れ臭さを隠すため、ガイツはそっぽを向く。ギースに向けられる好意が素直に嬉しい反面、父が帰ってからは自分だけのものではなくなってしまったような妬ましさを感じていた。
そんな気持ちを知ってか知らずか、泡をまとったギースの小さな手がガイツの広い背中を撫でてきて、兄ちゃんも洗ってあげるね、と無邪気に滑り出す。先ほどギースと遊んでいた時の感触が蘇り心臓が早鐘を打つ。思わず振り返ると小さな裸身を間近で見詰めてしまいそうになり、慌てて視線を外す。
「いや、いいって……」
「ハハハ、いい兄貴分だな、ガイツよぉ」
そんな二人の様子に父は笑いながら、従者が用意していた大きな桶に入った湯をかけ流す。立ち上がると広い湯船へ先に入り、それを見たギースも続いて飛び込む。
「わっ、熱いよぉ」
「そうかそうか、ガイツ、ちょっと水を桶に汲んで入れてやんな」
「何でオレが……」
身体を洗い終えたガイツは父の言葉に反発するも、ギースの為と思ってそれに従う。
「どうだ? ちっとはぬるんだか?」
「うん、まだちょっと熱いけど、大丈夫だよぉ」
そんな父とギースの様子を、ガイツは頭を洗いながら湯船の外から眺めていた。湯気で霞む視界のなかでも二人の姿はハッキリ見える。
同じ色の紫の髪と瞳。目尻を下げ大きく口を開けて笑うギースの表情は、機嫌の良い時の親父そのものだった。
(こうして見ると親子なんだな)
親父と比べて、目鼻立ちは幼い頃蒸発してしまった母に似るガイツにとっては少し妬ける気持ちがあったが、それ以上に血を分けた弟への想いが募るばかりだった。
湯船の片隅に身を沈めたガイツは、目を閉じて大きく息を吐き出し自分を落ち着かせようとする。この胸の奥にあるモヤモヤは一体何なのだろうかと考えつつ、再び目を開けた瞬間、視界の隅に小さな背中を見つけた。
「ガイツ兄ちゃん?」
振り向いたギースが不思議そうにこちらを見上げている。慌てて取り繕うように笑い返したが、心臓はまだ激しく高鳴っていた。
「あー……悪い。ボーっとしてた……」
「大丈夫?」
「ハハッ、どうせ夜中まで出歩いて寝不足なんだろ?」
「そんなんじゃねーよ」
日頃の素行を知っているとばかりに話す父にぶっきらぼうに答える。おまえもギースくらいの頃はよぉ…と昔を懐かしむ素振りをするゴルド。
「うるせえな、オレとギースじゃ歳が離れ過ぎだろ、比べんなって」
「はは…それもそうだ、ギー坊は俺達と比べてまだ肌も白いし、天使みてえな愛らしさだからな……全く、将来が楽しみだ」
そう言ってギースの頭を撫でるゴルドは、母親の分まで大事にしてやらねえと…と小さく呟く。
「へっ……あんまり可愛がって甘やかすと、オレみたいになっちまうかもな」
「僕、兄ちゃんみたいになるの?やったあ」
皮肉を込めたつもりが、ギースの無邪気さに親父がハハハッと笑いを響かせる。
「おう、なれなれ!二人とも父ちゃんみてえにでっかい男になるんだ!」
と、二人の子らの背中を叩く。その口ぶりから、ギースに妾の女の面影を求めて引き取った訳では無いことが伺え少しホッとする。
(いやいや……何で安心してんだ?オレ?)
「ああ、仲良くしてるお前たちを見てたら商売の疲れが吹っ飛ぶぜ」
ゴルドはそう言って湯船に身を預けて鼻唄を歌い出した。
「父ちゃ……もう、熱いよぉ」
ふと見るとギースの顔が真っ赤だった。肌もピンクに上気している。
「おう、兄ちゃんと先に上がりな……ガイツ、転ばんように見てやってくれ」
「へーへー」
生返事をしつつ目はしっかりとギースに向ける。ぷりんとした小さな尻の間に見えるのは弟を弟たらしめるもの……幼い性器の形だった。パシャ、パシャと水飛沫を落としながら脱衣場に向かって覚束ない足取りで歩くギースを後ろから追い、籠から引っ張り出したバスタオルで包んでやる。
「あ、兄ちゃ……」
「拭いてやるからじっとしてろ」
分厚いタオルで頭を覆って長い髪から落ちる雫を吸わせる。そこから順番に下へ……。されるがままのギースの身体の前面が、ガイツの目下に無防備に曝される。
(うわ、ちっちゃ……)
股にぴこん、と生えている男の象徴はまるで玩具の人形に付いているもののように可愛らしいサイズで、ギースは子どもなのだから当然なのだが、思わずじっと見てしまう。頭を拭かれるギースは性器を見られているのに気付いていない。むしろガイツにされるがまま、身を委ねていた。
(いや、小さくても…本当に弟だったな)
肩と背中、腕、腰、と順番にタオルを当てながら、足を拭く時その先端をガイツの指が掠める。が、ギースから特に反応はない。その一瞬の柔らかさと言ったら……。ガイツの方がドギマギしてしまっていた。
やがて上がってきた父にギースを任せ、役目を終えたとばかりにそっぽを向く。それでも、目に浮かぶのはギースの上気した白い肌だった。
(何考えてんだオレは)
風呂から上がり豪華な夕食を囲む。嬉しそうに食べ進めるギースの姿を眺めつつ、ワイングラスを傾けるゴルドの笑顔は眩しいばかりである。だがそんな親子の幸せそうな様子に、対抗意識のようなものを抱いてしまう自分に気付く。
「ガイツ? まだ食べるか?」
「いや……もう十分だ」
ギースに微笑み掛ける父を見ていると、嫉妬や独占欲といった負の感情が胸の中に渦巻く。その感情の赴くまま、フォークを突き刺した肉塊を口に放り込んだ。
「へへ……お肉もお魚も、おいしいねぇ」
「そうだな、いっぱい食べて父ちゃんや兄ちゃんみたいにでっかくなるんだぞ」
「うん!」
二人の会話を背後に聞きつつ食堂を出る。
扉を開ければ冷たい夜の空気が流れ込んだ。
「うぅん……ふーっ……」
廊下に出て伸びをすると、同時に疲れがドッと押し寄せる。
子供部屋として長年あてがわれている部屋の奥に続く寝室の扉を開ける。灯りの落とされた室内には誰もいない。当然のことなのに何故か寂しさを感じる。
(ギースのことばかり考えちまってる……オレは……アイツをどうしたいんだ)
ベッドの上で仰向けになり天井を見つめる。そこには窓から差し込む月明かりだけがあった。
「はぁ……」
深く溜息をつき目を瞑る。瞼の裏に浮かぶのはやはりギースの弾けるような笑顔だった。
その時、不意にノックの音が聞こえる。
「誰だ?」
「兄ちゃん、僕だけど……いい?」
「ああ」
ドア越しに聞こえた声で一発で分かる。ギースに付き添うじいやが扉を開けると、ガイツは手招きして弟を迎え入れた。
「どーした?」
「兄ちゃんにおやすみって言おうと思って……」
「それでわざわざ抜けてきたのか? 親父が寂しがるぜ」
そう揶揄うように言えば、ギースはあっけらかんと答える。
「えへ……僕…兄ちゃんと離れたくなくって……」
何気ない言葉だった。しかしその後追いにも似た甘えを見せるギースにますます愛情が募る。
「ったく……ガキだな……」
「あっ!」
言うなり、寝台に引っ張り上げられたギースは兄に抱きしめられていた。驚きつつも、されるがままの弟は嬉しそうに笑う。
「わあっ……兄ちゃんのベッド広ーい!」
「そうか? お前がちっこいからそう感じるだけだろ」
「へへへ……兄ちゃんは、お山みたいだね♪」
無邪気に笑うギースに、自然と笑みが零れてしまう。お互いの体温が伝わる感触に安心感を覚え、このまま眠りにつこうとするがどうしても一点が気になってしまう。
(こいつ……なんでこんなにいい匂いなんだ?)
先ほどの風呂場での一幕もあり、どうしても意識してしまう。五歳の子供に色欲を催すなどあってはならないと思いながらも本能には逆らえない。そう……どうしてもギースの身体に触れたくなってしまったのだ。
だがそれ以上は許されないことだと分かっているだけに、余計に悩む。
「ねえ兄ちゃん……あのね」
「ん?」
「今日ね……いっぱい遊んで……抱っこしてくれてありがとう……楽しかったぁ……」
その素直な言葉に、むしろもっと喜ばせてやりたいという感情が沸き上がってくる。
「おう、まあな」
「兄ちゃん、明日もお庭で一緒に遊んでくれる?」
「おー……いいぜ」
「やったあ!」
喜ぶギースの小さな背中を撫でながら、その暖かい身体の感触を堪能する。まるで湯たんぽのようだ。
「んじゃ……もう寝るぞ……」
「うん……おやすみなさい」
「おう……」
短い挨拶を交わし瞼を閉じる。しばらく沈黙が続いた後ギースの寝息が聞こえてきたので目を開けると、安らかに眠る寝顔が見えた。
(まったく……可愛い顔してんな……)
絹糸のように柔らかなギースの髪を指で梳きながら、ガイツも眠りにつく。
その年の離れた兄弟の穏やかな様子を、従者と共にこっそりと寝室の扉の隙間から認めた父は目を細め、優しく見守っていた。
続く
私的設定てんこ盛り過ぎるガイツとギースの幼少期!父の名前は二人の名前から頭文字にGがつくだろうと思って、金持ち→Goldからゴルドです(安直)
初めてベルガー邸に連れてこられたギースが着てたのは、亡き母親の服をリメイクしたチュニックブラウス🥹形見として父が仕立てさせた品でぇ…別に普段からあからさまにヒラヒラの服を着せられていたわけではない!のだ!
反抗期ガイツがチョロすぎるんだけど、それはまあ原作の性格に忠実なんで…胸の中のモヤモヤ、それはね、初恋って言うんだよ(ニチャァ
この調子で色んな日常を妄想していきます
畳む
#ガイギス