ヤシロへの愛が暴走しがちなパパヤシSS

※親臣が子ども弥代に暴力を振るいます
※弥代と母親は当然のように死別の設定です


「……どうした?親臣」
「………。」
弥代が樹と肩を並べてイドラスフィアを去っていく姿を虚空から認めた後、微動だにしないマスターの姿に黒髪のミラージュが声をかける。
「っ……いかんな……歳を経てこうも涙腺が緩むとは」
「五年ぶりの息子との再会だったのだから、感極まるのも無理はないと思うが」
「ヤシロ……」
ず、と鼻を啜る初老の紳士ーー稀代の名俳優、剣親臣も弥代が去った後はひとりの親の顔をしていた。肉体を失った彼はもう現世に戻ることは叶わない。いずれこうなることを承知の上、ロンクーは親臣の魂をイドラスフィアに繋ぎ止めていた。
「……心残りがないと言えば嘘になる。私は……あの公演で初めて、ヤシロと同じ銀幕の舞台に立つ筈だった。その為に、……厳しい稽古をつけた」
親臣は知っていた。弥代がこの世に生を受けたときからーーこの子は自分を超える才能を秘めている存在だ、と。
産声を上げる愛しき我が子にまず誰よりも魅了されたのは、他の誰でもない、親臣自身だった。

「ヤシロ!ヤシロ……!!聞いているのか!!さっきの台詞だ……もう一度、感情を乗せて言い直せ!!」
「父さん……」
ある時、珍しく日が落ちる前に帰宅した親臣は弥代に稽古をつけてやろうと誘い、弥代も最初は喜んで台本を手にレッスンに臨んだ。弥代が物心つく前から親臣は弥代を自らと同じ芸能事務所に所属させ、既にスーパースターの地位を確率していた剣親臣の息子ーーという箔もあり、弥代は子役として着々と芸能活動を生活の基盤として成長していた。
親臣の思惑通り我が子の才覚は凄まじく、今年で十歳になろうとする弥代は赤ちゃんモデルやドラマの端役から始まり矢継ぎ早に芸歴を重ね、既に有名放送局の朝ドラマで名前のある子役として毎日のようにスタジオへ出入りする日々を送っていた。撮影のない日は歌唱、ピアノ、ダンスのレッスンーー義務教育もそこそこに、(尤も、弥代の通う学校は芸能人御用達の名門エスカレーター式小中一貫校で、周囲から理解は十分得ていた)芸能活動中心の暮らし、それが弥代の普通であり、親臣もそうだった。今や国内外を問わず活動をする親臣が家にまともに帰ること事態、一週間に一度あるかないか……。ドラマの撮影とあれば地方へ何ヵ月もロケ隊と共に赴き、かと思えば海外へ撮影のために出張撮影、帰国すれば所属事務所によって舞台公演のスケジュールがぎっちりと組まれている……それがこの親子の普通の生活だった。
だから幼い頃の弥代は、親臣が高級タワーマンションのワンフロアを占めるこの自宅に帰宅したとあればとみに喜んだ。明くる朝、父がまた仕事に出ようとすれば離れたくないと足に泣き縋る弥代を、親臣は一層愛しんだ。可能な限り、親臣は自分の撮影所へ弥代を連れて行き、現場で生の演技を見せ、楽屋で台本を読み聞かせながら弥代に文字を教えた。

「……嫌だ」
「何だって」
いつも親臣の熱のこもった演技指導を泣きそうになりながらも歯をくいしばってこなしていた弥代が、そんな弥代が、今日は父にそっぽを向いてそう言った。
バン!と親臣は手にしていた台本を書斎机に叩き付ける。びくりと身をすくませた弥代はーーだが……親臣の方を向こうとしなかった。
「もう嫌だ……今日は……せっかく父さんが早く帰ってきたのに……もう、寝る時間になってる」
「ヤシロ」
「ずうっと……同じ台詞ばかり、読んでる」
「それはお前の感情が台詞に乗っていないからだ、読むのではない、いつも言って……」
親臣の言葉は弥代の中を滑り落ちていくようにまるで伝わっていない様子だった。
「……分からないのか?ここはな、お前の役の少年が母親のために自分の小遣いで買ってきた花を贈る、この回で一番の見せ所なんだ、いつもありがとう、は母への感謝の感情と、気恥ずかしさを含めて……」
「そんなの、分からない!!俺には父さんしかいないのに!!」
「ッ……!ヤシロ……」
「父さんだって……いつも、俺が起きたら居ないじゃないか、最近、一緒に現場へ連れてってもくれないじゃないか」
「それは、お前も撮影があるからだろう……ヤシロ、公私混同するんじゃない、お前が思っているより芸能の道は厳しい、生半可な覚悟で役に臨めば、次は無いんだぞ」
「なら……もうやめる!」
「ヤシロ!!」
パン、と親臣は弥代の頬を張った。同じ芸能の道を歩ませるにあたり、いくら息子といえどもその言い草に怒りを抑えることは出来なかった。
ぶたれた頬を朱に染めた弥代の青い目が潤み、ぽろぽろと涙が溢れ落ちる。弥代の啜り泣く嗚咽が、書斎に悲しく響く。
「すまん……すまない、ヤシロ……。おい、冷やすもの、持って来い、早く」
部屋の外で控える小間使いにそう指示した親臣は、跳ねた白黒の頭をぐしゃりとかき上げ、ああ、子供相手に思わず手を上げてしまったと己の行為を恥じた。だが、弥代の言葉が聞き捨てならなかったのは事実ーー
親の目から見ても整っている顔をくしゃくしゃに歪めて、弥代は涙を流していた。
「泣き止め、ヤシロ……情けない」
「ひぅ、ぅ、……と、父さ、なんか……きら、……嫌いだ……」
真に情けないのは手を上げた自分だが、それでも父親としての沽券か、親臣は弥代をそれ以上宥めすかしたりはしなかった。弥代が本気でこの役をやりたくないと言うのならば……
「父さんの、馬鹿……芸能馬鹿……バカ!!バカ!!」
ぅう、と嗚咽混じりに父親を思い付く限りの罵詈雑言で威嚇する弥代を、親臣はただ見詰めていた。

やがて小間使いが扉を開け、冷やしタオルを銀の盆に置いたものを気まずそうに差し出してくる。親臣はそれを書斎机に置かせると、短く礼を言って退席させた。
「……これで冷やせ、自分でやれるな?」
ブラウスの袖で涙を拭いながら、弥代はぶんぶんと頭を降る。
「甘えるな」
語気を強めた父の言葉に、再びショックを受けた弥代が
わっと泣き始める。その哀れな息子の背の一つでも撫でさすってやりたくなる気持ちを、拳を握りぐっと堪える。
「おまえがさっき言った言葉を撤回しない限り…許さんぞ、泣こうが喚こうが、だ」
「えぅ……グスッ、ぅう……い、やだ、やだ……」
「ヤシロ!!」
「っ……あ……」
ぺたん、と怯えた弥代がその場に膝をつく。そのまま頭を下げた弥代は、ウッ、ウッ、と嗚咽に喉を震わせながら固まってしまった。
「……早く冷やせ、顔の腫れが引かなければ役に支障が出る」
「………………。」
無言の弥代。親臣はふう、と息を吐いた。
「……………拗ねるのはよせ、もうそんな歳でもないだろう」
言いながら、少し前まで無邪気な顔をして台本を懸命に読んでいた弥代を思い、親臣の胸がチクリと痛む。分からない…分からない……弥代は本当に、あの台詞……「お母さん、いつもありがとう」の気持ちが分からないのかも知れない。
こんな時、母親ならどうするだろうか……親臣は考えた。弥代の母はーーここには居ない。弥代はかつての最愛の人の忘れ形見でもあった。弥代は母の乳を吸うことなく育ち、かといって愛情に飢えている様子もなく、父一人子一人ーー素直で聡明な少年として、家にいる幾人かのハウスキーパー達からも常に愛されし存在だった。それが、今ーー。
これは弥代の人生二度目となる反逆なのだろうか、と親臣は思い当たった。よちよちと歩いたかと思えば広い家をまるで怪獣のように荒らし、泣き、言葉も覚束ない頃に弥代は一度目の反逆をした。ハウスキーパーやシッター達が悲鳴を上げる中、だがそうそう家を空けていた親臣の記憶としては、食事をイヤ!と何も食べずに走り回ったかと思えば、やがてスイッチがきれたかのように床で眠る、いかにも可愛らしい姿だった。
さて、どうするかと親臣は腕組みをしてヘソを曲げた可愛い我が子の丸い頭を見下ろしていた。貴重な修練の時間が浪費される一方だと呆れつつ、ついには、親臣の方が折れた。
「……ヤシロ………。風呂にでも入るか……一緒に……」
「………。」
父の提案に、下を向いてべそをかいていた弥代は素直にこく、と首を縦に振り、従った。
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#パパヤシ

HEROたるもの

トウマアンソロに寄稿したSSです。

 鳥頭目芸能塾でのレッスンを終え繰り出した昼下がりの渋谷は、いつも通りの喧騒に満ちていた。
 この街に足しげく通うようになってからはその人波にも慣れたものだったが、今日はまた一段とうるさいのが横にいる。エリーだ。
「俺はラーメン」
「あたしはグリーンスムージーよ!」
 それ腹に溜まるのかよ?と聞き返すも、いいのよ!の一点張りで話し合いにすらならないため、とりあえずどちらも頼めそうな駅前のカフェへ向かうことにしたのだが。
「おまえの横で俺だけガツガツ食ってるのもなあ…」
「台本読んでるからいいわよ、気にしないで」
「いやいや、そうじゃなくて俺が気にするんだって…ん?」
 交差点へ差し掛かったところに人溜まりが出来ていたせいか、自然と二人の足が止まる。
 何かイベントでもやっているのかと思った矢先。
「っ痛ててて…。オイ!何しやがる!」
 突如人混みに響いた怒号に、人より頭一つ高い視線をやる。ざわめく周囲の中にぽっかりとアスファルトの見えるその一画に、ベルトから伸びる鎖をジャラジャラと垂らしながら尻をついた金髪の男と、その両脇には似たような出で立ちの茶髪の男、やたら派手なスカジャンを着たスキンヘッドのいかつい男…いわゆるチンピラの類の男達が目に入る。
 そしてその正面に立っているのは、あろうことか見覚えがある紫のスーツ姿。
「俺はここに立っていただけだが」
 周囲の人々が顔を背ける中、彼は連れの男達に腕を引かれ立ち上がった金髪男に何やら悪態をつかれているようだったが、スラリとしたその両脚は微動だにしない。
「テメェ、さっきからスカした顔で俺の前に立ちやがって、気に入らねえんだよ!」
「信号が変わるのを待っていたからな」
「おいニイちゃん、つべこべ言ってねえでこっち、ついて来いや」
 野次りつつ口端をニヤつかせて進行方向に立ちはだかる男達に、腕組みをして何やら考えるような素振りを見せた後。
「ついていけばいいのか?」
 あっ、と声をかける間も無く、弥代はその”いかにも”な男達と共にビルの隙間へと消えてしまった。

「……ねえ、今の」
「ああ」
 その現場を見てしまったのだから仕方ない。頭で理解するより先に身体が動いていた。
「マイコさんに連絡しといてくれ!」
「ちょっとトウマ!?あたしも行くわよ!」
 駆け出した赤い髪の背を、甲高い声と共に緑のスカートを翻したエリーが続く。


     ◇◇◇


 表通りの喧騒から一転、じめじめして昼なお暗いビル壁に囲まれた袋小路の一角に、果たして弥代はいた。
「見つけた!ヤシ…」
「おい、待てよ」
 なんで!?と不服そうなエリーに対し、こういうのは出ていくタイミングがあるんだよと目配せすると、ひとまず壁の窪みに身を潜める。
 芸能事務所に身を置く立場上、変に騒ぎを起こすより何事も穏便に済む方が良い。しかし当の弥代を取り巻く状況は、思惑とはすっかり真逆を行ってしまっているようだった。
「突っ立ってないで何とか言えよ、オラァ!テメェ…俺にビビって何も言えねえのか?アァ?」
 どこからか吹き付ける換気扇の生暖かい風が漂う嫌な空気の中、人気が無くなったことで気が大きくなったのだろうか。弥代の眼前で凄む金髪男の罵声がコンクリート壁に響く。
「俺はスケジュールが詰まっている。用件なら手短に済ませろ」
「ナニ上から目線で物言ってんだァ?ここまで来て何もしねぇで帰すとでも思ってんのかよ」
「今日はオレ達にたっぷり付き合ってもらわねえとなあ?」
 まるでテンプレートのようなチンピラの言い分に、心の中で頭を抱える。この流れだと、金をたかられるか、最悪リンチか。
 しかし弥代の泰然とした表情は変わらなかった。
「ならば貴様らに用はない。そこをどけ」
 まあ…弥代ならそう返すだろうなと斗馬は軽く溜息をついたが、案の定その言葉で火に油を注いだようにチンピラ達はヒートアップする。
「ハァ?オレ様にぶつかっといて何だよその態度は!さっきからオレ達をナメてんのか!?」
「さっさと詫び入れろや!」
 弥代を取り囲み、コンクリート壁を叩きながら恫喝する男達。いくら弥代といえど相手は見るからに危ない男三人…多勢に無勢だろう。
「オラァ、泣け!泣いて許しを請えば許してやってもいいぜ!」
 嫌な記憶が頭をよぎる。同じだ。
 弥代に昔の自分を見ているようで、胸の奥からふつふつと怒りが噴出してくる。

 しばらくの沈黙の後、弥代はクールな表情を変えないままに口を開いた。
「…泣けばいいのか?」

――やーいやーい!弱虫泣き虫貧乏虫、トウマ!
――悔しかったらじいちゃん連れて来いよー!

 少年時代に受けた自分の境遇に対する嘲り、いわれのない暴力…。
 悲しみの淵から自分を救ってくれたもの、それは…。

「…エリー、いくぜ!」
「はいよ!そうこなくっちゃね」
 再び駆け出した斗馬が、弥代と男達に向かって叫んだ。
「ヤシロ!助けに来たぜ!」
「あたしもいるわよ!ヤシロ!」
「赤城斗馬と…。フッ、丁度いい」
 突如物陰から現れた二人の姿に、何だテメェらと騒ぐチンピラ男達。
「この俺が来たからには……ってオイ、ヤシロ?」
 チンピラヤクザに仁王立ちで大見得を切る斗馬の口上などどこ吹く風、弥代は、つかつかとその横のエリーに近づく。
「弓弦エレオノーラ、今週の季節外れのUFO、シーン8だ。付き合え」
「え?ちょっと、なによいきなり!」
 突然の弥代の申し出にエリーが目を白黒させる。
「月島カグヤが月を見てお前の役のエリコを想うシーンだ。台詞は…」
「わ、分かってるわよ!…『じゃあね、カグヤくん。また明日、学校で!』」

『うん。またね…』

 そう呟いた弥代は、既に別人だった。
『月が、綺麗だ……』
 黒と青の目を細めて見上げる空に、勿論月などない。だが確かにそこにある満月に、ヤシロ――カグヤは照らされていた。
 空気が違う。先程までの路地裏で燻っていた風は、爽やかな夜風となって頬を撫でた。
 実際、斗馬が弥代の演技を生で見るのはこれが初めてだった。

『君を想うよ、エリコ……』
 呟いた弥代の頬にはら、と伝う涙。
 魅入られるとはこの事だろうか。その場に居た全ての者が息を呑む。

「……これで良いか」
「っっ!」
 演技を終え、もとの氷のような表情を貼り付かせた弥代の問い掛けに、あれだけクダを巻いていたチンピラ達が後ずさる。
「ッ、ち、チクショウ!」
「危ない!」
 急に弥代へ伸びた拳に気づいた斗馬が弥代を背後に庇うと、バランスを失った男の身体が派手に転がった。
「グワッ!!……て、テメェ…!」
 金髪のチンピラ男が再び地に手をつける羽目になったせいか、怒り狂った他の男達も続いて振り上げた拳を受けるべく構える。
「やめろ!これ以上手出しはさせねーぜ!」
「そうよ!それにもう警察には通報したわよ!」
 動かぬ証拠もあるんだからと、エリーが動画撮影中のスマホを掲げる。
「チッ……畜生!覚えてやがれ…!」
 したたかに打ち付けた腰を押さえながら、捨て台詞を残してチンピラ達は走り去っていった。

「ああいうヤツらって、逃げ足だけは早いのよね…」
 チンピラ達の逃げた方向を見つめながら、エリーがふくれる。
「ヤシロ、大丈夫か?」
「問題ない。ところでなぜお前たちはここにいる」
 それを聞いたエリーが、なんですって!?と言わんばかりに目を見開くと、今度は弥代に向かって大口を開いた。
「あなたが明らかに危ないヤツに絡まれてるのを見たからでしょ!心配したんだから!」
「…心配?」
「ほんっっと、お礼くらい言ってもらっても良いんじゃない!」
「礼か、今お前に稽古に付き合ってもらったことに対してか?」
「違うわよ!!」
 じゃじゃ馬よろしく騒ぐエリーと、腕組をして首を傾げる弥代の様子に、斗馬はポリポリと頭を掻きながら盛大な溜息をつくしかなかった。


     ◇◇◇


「…と、まあ、そういった感じで。大事にならなくて良かったぜ」
「そうか。大変だったな、トウマ」
この後始まる雷牙ヒーローショーの控え室で待つ間、斗馬は件の事の顛末をカインに話していた。
「いや本当…。あの後ヤシロはすぐジムに行っちまって、おかげでエリーの機嫌はずっと悪いし、マイコさんからは鬼電されるし……。ま、でも」
「うん?」
「あいつ…ヤシロが、あの時まさか演技で悪を圧倒するなんて、思いもよらなかったぜ」
「ヤシロ殿の優れたパフォーマをもってして悪を成敗したという事か」
「それに…見てて正直、カッコ良かった」
「ふむ……」
 パイプ椅子に座る斗馬が、膝の上で組んだ手に視線を落とす。
「カインには言ったよな?俺がヒーローを目指すきっかけ…。あんまり良い話じゃねえけど、子どもの頃に両親が蒸発してから、俺は周りのやつらに泣かされっぱなしで……。それで俺は、テレビで見た憧れのヒーローになるって決めた訳だけど」
「そうだったな」
「でさ、高校でイツキと会ってすぐぐらいに…街で偶然、俺を虐めてた奴等と出会ったんだ。その時、俺は不安だった。また何か言われたりするかと思って…。案の定そいつらは俺とイツキに絡んできた。どうしてこんな貧乏な奴なんかと一緒に居るんだって」
「……………」
 言いにくそうに話す斗馬をカインの真一文字に結んだ口が見つめる中、一呼吸置いて、再び斗馬が口を開く。
「でもさ、イツキは今まで俺を虐めてきた奴等にきっぱり、友だちだから、って言ったんだ」
「ほう…。なるほど、イツキ殿らしいな」
「まだ高校始まったばっかで、友だちらしいことなんて一つもしてねえのにだぜ?でも俺はその一言にすげー救われて…あの時のイツキは、俺のヒーローだった」
 カインが頷く。
「そんな風に…こう、自分の信じるやり方で周りを納得させる力があるってのは凄いって思ったんだよ、ヤシロの演技も、イツキの言葉も」
「そうだな、人は様々な力を持っている…。英雄たるもの、仲間の持つ力を認め、共に歩むのは大切な事だ」
「だよな。だからこそ大事な仲間を悪の手から守りたいし…俺も、ミラージュマスターとして負けてらんねー!って」
「その意気だ、トウマ。お前のその仲間を思う熱き心の強さは、他の誰よりもパフォーマの輝きを放っているぞ」
「ハハッ、カインにそう面と向かって言われると嬉しいぜ」
いつもは厳しいカインの激励を受けた斗馬は、照れ臭そうに鼻の頭を人差し指で撫でた。

 その時、控え室にノックの音が響く。
「すいません、挨拶に来ました!」
「おいっす、どうぞ!」
「失礼しま……えっ!?」
「んなっ…お前は…!?」
 控え室に入って来た金髪の男の姿を見るなり、斗馬は目を疑った。その男が今しがた話していたチンピラ連中の主犯格だったからだ。
「なんでここに…」
 件の恨みを晴らしに来たのかと警戒する斗馬だったが、その意に反し、金髪男は照れ臭そうに頭の後ろに手をやるとぺこりとお辞儀をした。
「あっ、あの、実は…あの時の演技見て…俺もガキの頃から役者になりたかった夢を思い出しちまって…。それで手当たり次第演者の応募してたらここのショーのエキストラに受かって…」
「!?」
男から出た思いもよらない言葉に、斗馬は開いた口が塞がらなかった。
「あんた、フォルトナエンタテイメントの赤城斗馬だろ?牙豹真役の…。俺より年下なのにすげえ。大抜擢だ」
「え、いや、まあ…。下積み長いし、演技も、まだまだだけどな」
「そんなことねえ!…あ、いや、ないですよ!今日のショー、よろしくお願いしまっス!」
 あと、良かったら俺を弟子にして下さい!と手を差し出してくる男に、斗馬はさらに面食らう。
「フッ…トウマ、お前も英雄たる者、応えてやる必要があるんじゃないか?」
「…ああ」
 カインの声に、斗馬は吹っ切れたようにいつもの笑顔を見せた。
「もちろんだぜ!ヒーローたるもの昨日の敵は今日の友!これからよろしくな!」
 感激で破顔する金髪男の手を取ると、二人はひしと熱い握手を交わした。



後書
参加させていただきありがとうございました!
カインと兄弟みたいに語り合う関係が熱くてめっちゃ好き…
(そして当然のように出張るエリーとヤシロ)

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対立――リュシオンの場合

ペレアスVSリュシオンの話(不穏)

 灰色の雪を孕んだ冷たく厚い雲が日没と共に陰り始める頃、ティバーン率いる部隊はベグニオン国境を過ぎた森林の一角に夜営の準備を完了し、日が暮れる前に夕食の支度をすべく各々忙しく動いていた。
 その喧騒をすり抜けるように、木々の中をぽつんと動く青白い人影があった。
 影は足早に目的地である隊の先頭に設置された大きめの天幕へ到着すると、入り口の垂れ幕を少しずらして中の様子を窺う。
「――誰だ」
 突如として天幕の内側からかかった鋭い声に、影の主――ペレアスはびくりと細い指を引っ込める。
 しまった、とそのまま踵を返して戻ろうかと逡巡する間もなく、目の前の垂れ幕が大きく開け放たれた。
「お前は――」
「………。」
 天幕の中から現れたのは、夕暮れの陰りの中にあってなお白く輝くような出で立ちの美しい風貌をした青年――リュシオンだった。
 白い翼、金の髪、すらりとした体躯のその優雅で美しい姿とは裏腹に、警戒心によって鋭さを増した緑の瞳は突然の来訪者を正面から見据えている。
 『白の王子』。確かティバーンの側近が呼んでいた通りの、美しい白い翼を持つラグズと直に相対するのはペレアスにとってこれが初めてだった。この世のものとは思えない優美な姿に、思わず言葉を失う。
 自分も決して粗末ではない王室誂えの白いローブを纏ってはいたが、それがくすんで見えるぐらい、目の前の彼は清廉で見目麗しい姿に感じられた。
「デイン王……。何か用か……?」
「あ……」
 しばしぼうっと立ち竦んでいた自らを訝しむ声がかかり、ペレアスはやっと二の句を伝える。
「ええと、…ティ……いや、鷹王は…」
「……ティバーンなら今は居ない。今夜の兵糧を得るため狩りに出ている」
 しどろもどろになりつつ口を開いたペレアスに、リュシオンはきっぱりとそう告げた。問わずとも、ペレアスの目的がこの天幕の主にあることをリュシオンは知っていた。
 この青髪のベオクとティバーンが最近、得に懇意にしていることも。
 目の前の年若いベオク――彼もティバーンと同じく一国の王にあたる存在を邪険に扱うつもりは無かったが、理性に反しどうしても忌々しく思う故に厳しい視線を送ってしまう。
「ティバーンに何か用があるのか?」
「……いや、居ないなら、別にいいんだ」
「別にいい…だと?」
 ペレアスとしてはリュシオンに気を遣わせないようにしたつもりの返答に対して、緑の瞳がみるみる怒りを孕む。
「そんな軽々しい理由で、お前はティバーンの元へ来たというのか」
「え……」
「そうやって、またティバーンを煩わせるつもりか?」
 強まるリュシオンの語気に、初対面でありながら彼の癪に障る事を言ってしまったのだと察したペレアスは、重くなった空気に堪らず少し後退った。
「そんな、つもりは」
「忘れるな、デイン王……!お前の父アシュナードが、我が姉を一族の至宝と共に連れ去り、命を奪った事を……!」
 リュシオンから告げられた思いもよらない言葉に、ペレアスははっと黒紫の瞳を見開く。
 固く握り締められたリュシオンの手、つり上がった形の良い金の眉。目の前の鷺のラグズは、間違いなく怒りの感情にうち震えていた。
「たとえ指示したのが元老院であろうと…アシュナードはそれを是として行動に移した…!姉は、窓一つない部屋に囚えられ、命を落としたのだ」
「っ……。……すまない…、父が…そんな……」
 父親の咎――最早それは事実無根に限りなく近い――そんな風に心のどこかで感じながらも、ペレアスは目を臥せてそう返すのが精一杯だった。
「……憎しみだけでは何も変わらない……そう思ってはいる。だが、お前がこれ以上あの方の…ティバーンの足を引っ張るのは、我慢ならない」
「っ……」
「お前たちデインの者は、我々ラグズ連合とアイク達、クリミア軍――そして神使の停戦の意向すら撥ね付け、愚かな戦を続けた。女神を目覚めさせる程の戦火を広げた罪は、全ての者を石に変えるという結果を招いた。私はそれを呪歌によって――何としても阻止したかった。だが、止められなかった」
「………。」
「お前は見たところ、先王のように戦に逸る気質でも、その器でもない。だが、あの無意味な戦を続けるよう仕向けたのは事実だろう!…私からすれば、あの狂王にも値する愚かなベオク――用がないなら去れ、迷惑だ」
 苛烈さを増すばかりのリュシオンの言葉に、ついに黙ってしまったペレアスから戸惑いと、怯えに似た感情が流れ込んでくる。
『(お前のような脆弱で愚かなニンゲンに……ティバーンがどうしてわざわざ目をかけるのか、私には理解できない)』
 古代語で吐き捨てるように告げたリュシオンは、金糸のような長い髪と白い翼をばさりと翻すと、重い幕を下ろした天幕の奥へと姿を消した。



「…何かあったか?」
 半刻後、側近達と狩りを終えたティバーンは天幕へ戻ってきた。が、その中に漂う重苦しい風の流れとリュシオンの表情に、すぐに違和感を覚えた。
「……先程…。デイン王が、ここへ来ました」
「あいつが?」
 リュシオンから返ってきた意外な答えに、鷹王は顎に手を当てる。
「で?俺に何か用があったんじゃねえのか」
「そう思い尋ねたが…別にないと言うので……」
「追い返したのか」
 ハハッ、とティバーンがその時の二人のさぞ険悪だったであろう様子を思い浮かべ、笑みを漏らす。
「ティバーン…!笑い事ではない!あなた程の方が…なぜ、何故あんな足手纒いのベオクと関わりを持つのです?!」
「おまえが嫌だと言うなら…もう関わらねえぜ?」
 飄々と応えるティバーンに、リュシオンは豆鉄砲をくらった心地で顔を向ける。
「………。いえ……。私の我が儘であなたの行動を制するつもりはない……。そんな女々しい事は、したくない」
「ほう」
「ですが……せめて理由を教えてください……」
 縋るような声で問うリュシオンに、ティバーンは一つ息を吐く。
「……理由、か。そうだな……。セリノスから助け出した頃のおまえに似ているから、か」
「なっ……!」
 それは再びリュシオンの機嫌を損ねそうな答えではあったが、仕方なくティバーンはそう告げてやった。案の定、真っ直ぐにこちらを見詰めていた気の強い緑の瞳にサッと翳りが差す。
「森や家族を失った悲しみと怒りで、あの頃のおまえは見ちゃいられねえほど不安定だっただろう」
「…………。」
「…ま、怒りっぽいのは今もそう変わらねえが…。」
「あの時…ティバーンが私を救ってくれた事は…感謝してもし足りない……私をあなたの家族として受け入れてくれた事も」
 ならば、とリュシオンはティバーンの方へ向き直る。
「……本当に、あなたは………あのベオクの事を」
「悪いが、これが性分なんでな。…安心しろ、隊を乱す奴らの事情に、ちょっとばかり興味が湧いただけだ」
 更に顔色を悪くしたリュシオンへ早く寝台で休むよう告げると、ティバーンは天幕を後にした。
「認めない…私は、絶対に……」
 胸底から沸き上がる『負』の感情に苦しみながら、自らに言い聞かせる。こんな些細な言葉の遣り取りだけで耐えられなくなる我が身が恨めしかった。
 ティバーンの情を一身に集める、あの青い髪のベオクの事も。



 辺りに食欲をそそる良い薫りが広がっている。先程狩ってきた肉を焼いた物をつまみがてら食事に集う面々の元へ顔を出したが、やはり目的の者の姿は無かった。
 豆やら肉の切れ端やらを適当に盛り付けた木皿を手に、ティバーンは風が運ぶ匂いを頼りに森を進む。
隊から離れた場所――果たして最後尾の方の天幕をいくつか覗いて、それでも彼の姿は無い。
「ペレアス」
 業を煮やしたようにティバーンは鬱蒼とした茂みに向かって声を放った。辺りはすっかり夜の装いで、闇の中にあっては鷹王と言えどベオクと同程度の視界しか保てない。せめてウルキを伴って来れば良かったかと思ったところで、微かに風が動くのを感じた。
「……そこか」
 ガサ、と茂みを越えれば、水場が近いのか湿った空気と共に良く知った匂いが鼻を掠めた。さらさらと流れる小川の畔に、ペレアスは踞るように腰掛けていた。
「探したぞ」
「………。」
「俺の天幕に来たんだってな」
 僅かに雲間から射し込む月明かりが水面に反射し、それを見ていたペレアスの瞳にも映ってきらりと光る。ティバーンへ向けられたその視線は、戸惑いに揺れていた。
「で、あいつに追い払われた……と」
「すみません……」
「どうして謝る?」
「彼を…不快にさせてしまった...から…」
 消えそうな声で告げるペレアスの隣にどかりと腰を下ろし、肩に手を回す。いつもは人目を気にする素振りをするが、辺りが暗い為かペレアスは素直にそれに応え、心細げにティバーンに寄りかかってきた。
「何を言われた?」
「僕の事を理解できない、と…古代語で、多分そんな風に怒鳴っていた……。」
 リュシオンの、感情が高ぶると古代語になる癖はまだ抜けていないらしい。
「ああ、…ま、あいつはアシュナードの息子としてのおまえには色々と思う所があるだろうな」
「知らなかったんだ……僕は……それに……」
 口を噤むペレアスの事情を知っているティバーンは、分かっていると声をかける。
「暫く、あいつとはあまり顔を合わさん方がお互いの為だろう」
「でも…彼の言い分は最もだ」
「…ん?」
「僕なんかが…あなたに会いたいと願うだけで、軽率に訪れるべきでは無かったんだ」
「どうしてそうなる」
「僕は足手纏いで…母上も…あなたに迷惑ばかりかけて…」
 ハッ、とティバーンは短く息を吐くと、うんざりした様子でペレアスの頭をぐしゃぐしゃと撫で付けた。
「自覚があるなら自分で何とかすればどうだ」
「ッ……!」
 流石に怒るか反論するかと踏んで軽口を言ったつもりが、ペレアスは今にも涙が零れそうなくらいに潤んだ瞳を伏せ、押し黙ってしまった。
「ああ、冗談だ。そら、いつまでもグダグダ言ってねえでこれでも食え」
 ばつが悪そうな鷹王に強引に手渡された木皿には、柔らかく煮た豆と葉物の野菜、いくつかの肉の切れ端が一緒くたに詰め込まれていた。
「…おまえの天幕は?」
「すぐ近くに…」
「おう、案内しろ」
 その言葉が意味する事をやんわりと悟りながら、ペレアスはやっと立ち上がる。
「すみません……食事も…、ありがとう…」
「礼ならいい。せっかくおまえから俺に会いに来たのをあいつが払い除けた詫びだ」
「それは…考えなしに行った僕が……」
 皿を持つ手をぎゅっと上から大きな手で握られたかと思うと、口付けられる。もう待てないと言わんばかりに。
「俺と会ってこうしたかったんだろ?なあ?――他の奴に何を言われようが、気にするな」
「うん……」
 暗い山道を歩きながら、暫くは俺がお前を訪ねるだけにしておくと提案するティバーンに、ペレアスはこくりと首を縦に振った。


END

⇒その後のおまけ話※R-18


 ついにリュシオンVSペレアスの話が書けた!!!
 今回はVSどころか即リングアウトする勢いでペレアスが下がっちゃってますけど。
 ティバーンとペレアスを懇ろにするに当たって避けられないヤーツですねこの確執は…。更にアシュナードの事もあって(実際に仕向けた黒幕は元老院ですけど)、リュシオンとの険悪度はMAXでしょう。
 ペレアスは魔道書読める=古代語が読めるはず!ということでリュシオンの言ってる古代語も何となく分かると良いなと…←いや分かったら分かったで残念な気持ちになること言われてますけど…。正論だからなにも言い返せないペレアス、不憫だ
 しかしリュシオンには悪いけど、この2人は恨み+嫉妬でドロドロしてて欲しい。
 ちなみに鷹王はペレアスと関係を持つのはリュシオンにとっても適度な情操教育(負の気注入)になって良いと思ってる
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#ティバペレ

ティバーンの好みのタイプの話

4部行軍中の一コマ。

「ということで…だ。頼んだぞ」
「はいはい」

 ――今宵も天幕を開けている間、代わりに白の王子を護衛するよう伝えて飛び去って行った大きな翼を見上げながら、ヤナフは顎に手をおく。
「しっかし、なんでまたあのベオクなんだろうな…よりによって」
 ううむ…と唸りながら、ヤナフはこれまで我が王ティバーンが興味を抱いたベオク達のことを逡巡する。

 アイク…は白鷺姫を救出したことが切っ掛けだから少し違うかもしれないが、三年前は国に招きたいと豪語する位、いたく気に入っていた。
 次はベグニオンの四天馬騎士の隊長…シグルーンだったか。ベグニオン船へ海賊行為をしていた頃からの、ヤナフもよく見知った相手だ。
 ティバーンが偵察に出た先の城上で困った様子のシグルーンに対し、敵対しているにも関わらず「そんなの見て黙っていられるか――」と言って話しかけに行っていたのを思い出す。
 そして、今同じ隊で行動しているクリミア女王エリンシアにも、対峙した最中、鷹王からいきなり距離を詰めていた。
 日中よく話しているようだし、鷹王が次に発破をかけるならそちらかと思っていたのだが。
(どっちも周りのガード固そ…)
 千里眼と評されるヤナフの目から見て、シグルーンとエリンシアはどちらも美人で気品があり、荒々しい戦とは無縁の優しげな目が印象的な顔立ちだ。
 そしていつも庇護しているリュシオンと、リアーネ、ラフィエルの面持ちと…件のベオク、デイン王の姿を頭の中で並べてみる。
「…あ」
 正の使途とされる軍団との先の戦いの後――まともに言葉も発せない程疲弊した彼を、意外にも鷹王は見捨てず介抱してやっていた。
 あの時の彼の顔は…。
「ははあ、成る程な…」
 何となく、何となくではあるがそういう雰囲気……強く物を言わず、儚げな印象――中身の性格はさておき、半歩下がって後ろを着いてきそうな佇まいのヤツが、窮地に陥っているのにそそられるというやつか。
「何を考え込んでいる、ヤナフ」
「いや、ティバーンの男心を何となく察したというか。…放っとけないんだよな、分かるぜ」
「?」

 この推察が正しいのかを確かめるべく、後日ヤナフはティバーンに直接、ペレアスのどこが気に入ったのか訊いてみた。
「…別にあいつを気に入った訳じゃねえ」
「ほー?なら何で気にかけんだ?」
「例えるならな、巣から落ちて必死でもがいている小鳥を見つけたようなもんだ。飛び立とうとバタついて、何度も地面に転がる。放っとけばあと数時間の命だ。そんなのを見逃したら目覚めが悪いだろ」
 だからあいつは放っておけない、と宣うティバーンに、ああ…とヤナフは生返事を返す。
「…本当にそれだけの理由かあ?」
「…何だよ、別にデインとかいう国に恩を売って取り入ろうとは思っちゃいねえぜ」
「いや、見た目とか」
 ああいう雰囲気の若いやつがタイプなんじゃねえの、と続けると、うるせえと岩のような拳がヤナフの頭を打つ。
「いっ…てえっ!てめっ、力加減考えろよ!コブが出来たんじゃねえか」
「野暮な事言ってねえで、偵察でもしてこい!」
「はーいはい、またあの紺色の癖毛坊主の様子でも見てくればいいんだろ、分かりました!」
「ヤナフ…それ以上王に軽口を叩くのは止せ」
「ウルキも迷惑してんじゃねえのか?ここんところ毎晩聞こえるんだろ、アレの声…」
 また鷹王の拳が伸びる前に、ヤナフはぼやきながら飛び去って行った。

「……、……聞こえてる…か?」
「………。」
 後に残されたウルキに、腕組みをしたティバーンが詰め寄る。
 いつも表情が堅いもう一人の側近であるが、やや動揺しているのか、罰が悪そうに視線を逸らすと、「…たまに、よく」とだけ呟く。
「そうか、……悪いがそん時は耳塞いでろ」
「静かに事に及ぶ努力はしないんだな…」
「いちいちうるせえな、側近だからって俺の色恋にまで口を挟むんじゃねえ」
「やっぱりイロなのかよ」
「ヤナフ!」
 木陰でニタニタと笑う旧友に、ティバーンが憤慨し化身しようとするのをウルキはまたか、という心持ちで宥めていた――。



意志が強いけど儚げで守りたくなる子を側に侍らすのが好きなんでしょう、そして頼られて喜ぶタイプね…
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#ティバペレ

運命の赤い糸

❤クリス視点の小話。

今日も彼の指には、見慣れた二本の指輪が光る。
「……俺も」
「ん?」
もし、自らも愛の印として彼に新たな指輪を送れば、彼は――それを嵌めてくれるのだろうか?
「……いえ、何でもありません」
「あるだろ、ん?またこれが気になるのか」
まるでこちらの思惑を見透かすように片眼鏡の奥の目が光る。左手を掲げてひらひらと薬指の金の輪を見せつける彼に、ひどく翻弄されている。
「そうだな……ここなら空いてるからな、許してやってもいいぜ?」
薄く微笑むと、彼は短い魔道の言葉を詠唱する。と、赤く煌めく糸が指先から伸びた。呆気にとられる俺の左手の小指にその先端を巻き付ければ、もう一端は自らの左小指に結びつける。
「どうだ?……今だけだからな」
「え、エッツェル殿っ……」
突然のことに指に巻かれた赤い糸と同じくらい赤くなった俺の顔を、まるで面白い生き物を見つけた悪戯っ子のように見つめ返す彼に、俺は――心底惚れているのだと思う。

END

若いツバメを翻弄しつつ本心は……?なエッツェル……あざと愛っすね~~~クリス、がんばれ
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#クリエツ

フォルトナバースデーパーティー(for樹)

フォルトナ事務所メンバーみんなで樹くんの誕生日をお祝いする、はずが…!?
樹愛されほんわか(?)SSです。
※セミネタ注意


20××年7月30日。

「お誕生日おめでとう!イツキ君!」
「イツキ!おめっとさーん!!」
「イツキさん、おめでとうございます!」
樹が事務所の自動ドアを潜るなり、パン、パンと小気味好い音と共に弾けたクラッカーから紙吹雪が舞った。
驚いて前を向き直ると、そこには見知ったフォルトナのメンバーが一同に会していた。
「ツバサ、トウマ、マモリ…それにキリアさんまで…わざわざ集まってくれたのか?」
「もちろんです!」
「おう。まあこれでも被って座れよ、主役らしくなっ」
斗馬に手渡されたキラキラの青いホイルが巻かれた三角の帽子を樹は照れくさそうに被ると、促されるまま入り口横の応接ソファへ腰掛ける。
「私からも…おめでとう。イツキ」
先に座っていたキリアが樹にそっと声をかけた。
「ありがとうございます。スケジュール忙しいのに、俺の為に時間作ってくれたんですね」
「気にしないで、前々から調整していたから。マイコにも融通してもらって」
「そうよぉん!みんなでイツキくんのお誕生日のお祝いするために、マイコさん頑張っちゃったんだから!」
と、奥から舞子がいつもの調子で姿を見せる。
「私も、頑張って今日のお仕事終わらせちゃったわ、ウフフ」
ふんわりと悪戯っぽい笑顔を浮かべる彩羽がそれに続く。
「マイコさん、アヤハさんもありがとうございます。あれ、でも、エリーとヤシロは…」
「待たせたわねっ!」
自動ドアの方から聞き覚えのある高らかな声が聞こえ、一同がそちらへ目をやると、銀のトレイに乗った大きなホールケーキを携えたエリーが仁王立ちしていた。
「見なさい、これがイツキの誕生日のお祝いのために作ったケーキよ!」
どん、とソファ前のローテーブルに置かれたケーキは、色とりどりのフルーツと白いホイップ、金銀のアラザンでデコレートされ、土台にはピンクと黄緑のリボンが巻かれている。
「すごいな…これ、本当に手づくりなのか…?」
「ほんとだ、スゲー!!」
「すごいです!!」
「ハリウッド的に手づくりよ。ねぇ、ツバサ」
「うん!エリーちゃんと二人で頑張って作ったんだ!…えへへ、土台はほとんどエリーちゃんだけど…」
「すごいわねぇ、さすが、若さ…情熱のなせる業だわっ…!」
舞子が感極まったように眼鏡の奥を押さえている中、つばさがポケットから何かを取り出した。
「あとこれも、エリーちゃんと一緒に選んで作ったんだ!はい、イツキ君」
手渡されたそれは、細い革紐にA・Iという銀のアルファベットキューブと、輝く青いビーズや星型のパーツがつけられたものだった。
「これは、ストラップ?」
「そうよ!」「そうだよ!」
返事が被ったつばさとエレオノーラが顔を見合わせるのを、他のメンバーは微笑ましく見守っている。
「ハ、ハリウッド的にオシャレに仕上げたんだから、ちゃんとつけてよね、イツキ!」
「うん、早速つけるよ。ありがとう、ツバサ、エリー」
にっこりと笑顔で応える樹に、目線をそらして照れた表情をするエレオノーラと嬉しそうに手を胸の前で合わせるつばさに、あらあら、と背後の舞子と彩羽は顔を緩ませていた。
「イツキ、俺もこれ、プレゼントな!」
ガシャガシャとわざとらしく音を立てて、斗馬が紙袋からビニールの袋に入った物を差し出してくる。樹が手に取り中身を取り出すと、黒に蛍光グリーンのラインが入ったメッシュ帽が出てきた。
「スポーツ用のキャップか?ありがとう」
「ただのキャップじゃないぜ…何と!ライガモデルの新作、劇場限定版だ!ちなみに俺はこの、オウガモデルを愛用してるからな!」
ちゃっかり腰のベルト紐に付けたカラビナに下げていた黒に赤のラインが入ったオウガモデルキャップを被ると、ビシッとヒーローポーズを決める斗馬。
「はは、トウマらしいな。ありがとう。ジョギングする時にでも被るよ。」
「私からも、イツキさん。はい、どうぞ」
まもりが差し出したのは可愛らしいうさぎ柄の小さな袋。開けると、3種類の銀に光るくねくねした棒が出てきた。
「これ、知恵の輪…?懐かしいな」
「イツキさん、パズルを解くのがお好きだって聞いたので…。私もむかしおばあちゃんに貰ったんですけど解けなかったので、ぜひチャレンジしてみてください!」
「ありがとう、やってみるよ」
「私からはこれ…。イツキの好みに合うかはわからないけど」
まもりの隣に座る霧亜が取り出した箱を開けると、流線状の細工が施されたシルバーのブレスレットが出てきた。
「おお、カッコいいじゃん!」
「ほんとだ、俺、似合うかな…」
「ねえねえ、着けてみて、イツキ君!」
つばさに促され、洗練されたデザインのそれを手首にはめる。樹の手首にぴったりのサイズだった。
「すごい、オトナって感じね…」
「イツキさん、かっこいいです!」
「ありがとう。キリアさんも、わざわざ選んでくれてありがとうございます。」
「どういたしまして。」
フフ、と可愛らしく微笑む霧亜の背後で、可愛いわ…と呟くサーリャが一瞬浮かんで消えた。
さらに彩羽からはハンカチ、舞子からはノンアルコールのシャンパンを出され、さあ乾杯しようというところで樹がはたと気づいた。
「……ヤシロは?」
そういえば、とメンバーが事務所を見回しても弥代の姿がない。
「ヤシロさん、朝から事務所に居るのを見ましたけど、どこへ行っちゃったんでしょう?」
「あ、あたしも食堂の冷蔵庫にケーキ取りに行く時見たわよ。給湯室のコンロで何か作ってるみたいだったけど…」
「作る?……料理とか?」
一同がまさか、と目を見合わせると、計ったかのように入り口の自動ドアが開く音がした。

果たして、スーツに例のレンチンエプロンを巻いた弥代が満面の笑みを浮かべて仁王立ちしている。
その手に持つ皿の上には…。
「きゃああああああーーーーーー!!!!!む、虫!!虫ーーーーー!!!!!」
白い皿の上にこんもりと盛られたそれを見てしまったつばさが悲鳴を上げる。
「お、お、落ち着きなさいよツバサ!む、むむ虫くらいで…!!」
「イヤーーーー!!!!!来ないで!!早く!キン○ョールしないと…!!!!!」
前にもこんな事態になったのを思い出しながらも、樹はつばさとエレオノーラをなだめる。その横の霧亜はというと、引き攣って固まっていた。
「ヤシロ、そ、それ…生きてるのか…?」
「いや。調理済だ」
「調理って、それ……」
「セミ、ですか…?」
斗馬とまもりの質問に、そうだ。と弥代が深く頷く。
「蒼井樹のために用意した、蝉の素揚げだ。」
「セミ……素揚げ……って、食えるのかそれ…?」
「俺がこの世界で最も好む食事だ」
弥代の衝撃の発言に、ザザッと周りの面々が引いていくのを感じる。
しかし至って真剣な眼差しでその皿の上のものを一つ摘んで顔の前に差し出してくる弥代に、樹はそのブツを苦笑しながら受け取るしかなかった。
「食べてみろ。見た目はこうだが…味はそんなに悪くないはずだ」
「う、うん…」
「イ、イツキ君、止めておいた方が…」
「いや、男を見せる時だぞ、ここは…!」
「ううぅ、イツキ君がセミを食べるところなんて見たくないよぉ…」
弥代から受け取ったそのゲテモノ…とどのつまりセミは、素揚げ故に生きている時の形ほぼそっくりそのままの姿だった。
今朝まで外で元気に鳴いていて、まさか素揚げにされるとは思っていなかっただろうそのセミの、つぶらな丸い二つの目が樹を向いている。
「うっ……。」
堪らず視線を上げれば、こちらを見据える弥代の色の違う二つの瞳と目が合う。正に前門の虎、後門の狼。さらに周りは四面楚歌。
さっきまでの和気藹々としたムードからは一転、事務所の中はただならぬ緊張感に満たされていた…。
「い、いただきます」
「頑張って、イツキ君…!」
「食レポしてください…!!」
樹がそれを口に入れようとしたまさにその瞬間、ドサッと何かが倒れる音がした。
「キ、キリアさん!!」
「ちょっとキリア!!大丈夫!??」
慌てて舞子がソファから床に滑り落ちた霧亜を助け起こす。
「ぜんぜん大丈夫じゃ…ないわ……」
「わ、私も倒れそう……」
「ツバサ!」
「ああもう、ちょっとヤシロお前それ下げろ!視覚の暴力すぎる!!」
「そうね、今すぐ中身が見えない箱か何かに厳重に封印した方がいいわね…」
「何故だ?」
「ヤシロさん、そうしましょう!私も手伝います!」
顎に手を当てて首を傾げている弥代を、半ば強引に引っ張りながらまもりが事務所の外へ連れて行った。
嵐が去った空気の中、すまなさそうに舞子が口を開いた。
「ごめんなさいねイツキ君。ヤシロ君たら、イツキ君のために一流のオードブルを用意するって言ってたから期待して任せたんだけど…」
「いえ、ヤシロも悪気があったわけじゃないですし…。それにこれ、本当に美味いのかもしれないと思うと俺の中の食レポ魂が疼いて…」
「もー、止めときなさいよ!それよりあたしのケーキを!!食べて!!!」

その後、まもりによってきれいに箱詰めされた例のものを弥代から改めて受け取ると、ようやく元の和やかな雰囲気の中、樹の誕生日パーティが始まった。
「みんな、ありがとう。」
「イツキ君!スマイルスマイル、歌って~!!」
「はいは~い、そのままみんな笑顔で写真撮るわよ~ん!」
「うおっ、このケーキ美味っ!」
「ちょっとぉ!アンタが1番に食べてどうすんのよトウマ!」
「これは…うむ。まあまあだな」
「…そこはあの、光線吐くところじゃないんですか、ヤシロさん」
「もう、ふざけてないで撮るわよ…(後でトウマを殺すしかないわね…)」
「ウフフ、キリアも笑って。ほら、タイマー、3、2、1…」

モニターから流れるsmile,smileをBGMにして楽しむフォルトナメンバーの様子を、青い扉の向こうからミラージュたちは暖かく見守っていた。

END
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#青井樹愛され話