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クリエツ同棲シリーズその2

♥️セラ村同棲開始後に二人で迎える朝。軽めの話。

柔らかな朝の光が小さな天窓から差し込み、乱れたベッドのシーツを明るく照らす。クリスは毛布に包まり、眠たげなまぶたを開いた。隣には、窓に向いて座るエッツェルの背中があった。
解いた赤髪を背中に流した彼は片膝を立てて、サイドテーブルの上に置かれた小さな木箱に手を伸ばしている。その細く長い指が優しく箱の蓋を開ける音が微かに響いた。

コトン……

蓋が開くと、銀色に輝く指輪が現れた。エッツェルはそれを手に取ると、右の人差し指へ慎重に滑らせる。指輪の中心に光る水色の石をなぞる親指が、まるで恋人を愛撫するように細やかに動く。

「……アーシェラ」

低い声が部屋に落ちた。風に揺れる蝋燭のような、穏やかでありながらどこか脆い響き。クリスは思わず息を殺した。
彼の眼差しは指輪を通して遠い過去へ向けられていた。窓からの光が彼の横顔を照らして、側面に深い陰影を作り出す。その影の中に、彼自身でも気づかないような哀しみが沈んでいた。
クリスの胸がチクリと痛み、半身にかかった毛布を握り締める。昨夜、この閨の中で二人で交わした熱い吐息、肌の温もり、全てが突然遠ざかるような錯覚に襲われる。
エッツェルが指輪越しに見つめているのは自分ではなく、もう二度と触れられない存在だという事――それは抗えない事実だった。

ふと、気配に気付いたのかエッツェルが振り返った。揺らめく深い紫の瞳が、ベッドに横たわるクリスを捉える。その視線に一瞬で嫉妬に震える心の内まで読まれてしまったようで、クリスの頬がほんのりと紅潮した。
「起きたのか」
エッツェルの声は、指輪に語りかけていた時とは違う、いつもの軽いトーンに戻っていた。
「朝からそんなに熱心に見つめるなよ…さては、昨日の余韻を引きずってるのか?」
皮肉っぽく口角が上がる。しかしクリスは笑えなかった。薄い毛布を掴む指に力が入る。
「……その指輪」
「うん?」
エッツェルはわざとらしく首を傾げた。
「ああ、女房にこうやって毎朝挨拶するのは習慣なんだ。……あいつには毎晩会うこともできないからな」
悪意はない。だが今のクリスにとっては残酷な言葉だった。クリスの喉が詰まる。なぜ、こんなにも苦しいのだろう? 昨夜はあんなに熱く、彼と睦んでいた筈なのに。
エッツェルはふっと短く息を吐くと、ベッドに横たわるクリスにゆっくりと向き直って身体を寄せた。指が白くなる程に握られていた毛布の端に軽く手を添える。
「そんな顔をするな…クリス」
低く柔らかい声が降り注ぐ。
「俺がまた、自らあいつの元へ向かうつもりとでも思ったか?」
「そんなことは…!」
クリスは起き上がろうとしたが、エッツェルの腕が素早く伸びるといきり立つ肩を宥めるように掴んだ。ベッドに押し戻され、シーツが小さく波打つ。
「うん?」
エッツェルは身を屈めると、肩口に鼻先が触れそうな距離まで顔を近づけていく。
「じゃあなんでそんなに怖い顔をしてるんだ? まるで……あいつにひどく嫉妬してるみたいじゃないか」
挑発的な紫の瞳が鋭く射抜く。図星すぎて、クリスは咄嗟に言葉が出なかった。エッツェルにとって、ただの間男に過ぎない自分の立場に悔しさと、説明できない欲求が混ざり合う。荒ぶる感情さえ整理できないまま、ただ一つ確かな欲望が燃え上がる――。
この目の前の男の心を、その指輪から奪ってしまいたい。今すぐ。
身体が勝手に動いていた。

ガツッ!

クリスの手がエッツェルの後頭部を強く鷲掴むと、そのまま勢いに任せて唇を押しつけた。歯と歯がぶつかる鈍い音。それはキスというより衝突だった。
驚きでわずかに開いたエッツェルの唇の間に、荒々しく舌をねじ込む。唾液が絡まり、湿った音が耳を焦がす。
「んっ……!」
エッツェルがかすかに呻いたが、逃げようとする素振りはなかった。むしろ、クリスの強引な衝動を受け入れるように、徐々に唇の隙間が広がる。呼吸を荒くしたクリスは勢いのままに、エッツェルの口内を貪った。彼の過去を飲み込むように。もう誰のものでもなくさせるために。

数秒が永遠のように過ぎた頃。ようやく唇が離れる。
エッツェルは荒く息を弾ませながら、自分のとった行動に呆然とした様子の青い髪の青年を見下ろした。そして、小さく吹き出す。
「……なんて傲慢な」
エッツェルの指が、濡れて赤くなったクリスの唇をそっと拭った。
「しかも力任せで下手くそだ」
言葉とは裏腹に、声には苦い笑みと、妙な安堵が混じっている。クリスは慌てて言い訳を探したが、何も出てこない。代わりに、恥ずかしさと後悔が一気に押し寄せ、思わずエッツェルから顔を背けた。
「……忘れてください」
掠れた声が震える。
「本当に、すみません、俺っ……」
エッツェルは遮るように、銀の指輪が光る指先でクリスの額を軽く弾いた。
「バカ」
それだけ言うと、再びベッドから立ち上がった。右手を軽く振る。
「顔洗ってくる。お前もそろそろ目を覚ました方がいいぞ。ヤギ小屋に行く時間だろ?」
ドアの向こうへ消えるエッツェルの背中を、クリスはただ黙って見送ることしかできなかった。
彼の唇の感触と甘いハーブの残り香だけが、静かな部屋に残されていた。窓の外では朝日が優しく輝いている。

今日もまた、二人の時間がゆっくりと流れ始めるのだった。


続く


クリエツ同棲シリーズ、身体の関係がデキてからクリスは故アーシェラさんに一層嫉妬しまくればいい。エッツェルはそれを知りつつ、ちょっと楽しんでる節もある?悪い男だ…
この純粋な青年を翻弄する未亡人を落としていこうぜ、クリスよ😏
畳む


#クリエツ

愛すべきモフモフ

♥️ゲームクリア後、セラ村でいちゃついて過ごす二人。エッツェル(居候状態)とはだいぶ気安い雰囲気になったが、まだプロポーズに踏み切れないクリスを試すべく、あの手この手で夜な夜な気を引くエッツェル
♥️頭を空にしてお楽しみください


「エッツェル……!?」
 風呂上がり、寝室へ続く廊下を軋ませながら現れた彼の姿を見て思わず息を呑んだ。胸の前で揺れる赤毛はしっとりと水分を含んで艶やかで、はだけられた黒いローブからは、いつも幾重もの布地に隠されている鎖骨が白く浮かび上がっている。
 しかし――そのローブの形状がいつもと違う。
「なんだその…、猫の? 耳は……」
 俺の疑問に、フードを被ったエッツェルは得意げに胸を張った。
「この前、通りがかりの赤毛の商人から買った品だ。何でも『猫のように良く眠れる魔法』がかかってるらしいぜ」
 嘘だ。俺には分かる。あの目つきは完全に楽しんでるときのそれだ。
「それで?」
 俺は半ば呆れながら近づいた。
「俺に見せびらかしに来たのか?」
「当たり前だ」
 彼は左目の金のモノクルを煜かせながら微笑んだ。
「そのために仕入れたんだからな」
 そう言って突然俺の腕に絡みつく。ネコミミが楽しそうに跳ねて見えた気がした。
「おい……」
「まだ文句言うのか?」
 エッツェルが小首を傾げる。
「お前、好きだろ? こういう、あからさまに可愛い感じの――」
 するりと長い腕が伸ばされ、首に巻き付き――
「待ってくれ!」
 思わず大きな声が出た。確かに嫌いじゃない。むしろ好みかも知れない。だが、俺たちの関係を考えれば……。

「クリス坊や?」と、エッツェルが囁いた。

「俺の魅力には勝てないって顔してるぞ?」
 反論は喉の奥で消えた。だって本当だ。目の前にいるエッツェルが軽く微笑みながら俺を誘うだけで、どんな理性も吹き飛んでしまう。

「……俺の前で一回…、回ってくれないか」

 エッツェルの瞳が満足そうに細められる。彼はゆっくりと回ってその怪しい猫耳ローブの造形を見せてくれた。可愛いだけではない、触り心地の良さそうな柔らかな生地。手の甲が半分隠れるゆったりした袖から見える細い指。腰下までの長さの裾の真ん中には、誘うように揺れる黒い尻尾の飾りがついている。
 それら全て、計算済みなんだろう。

「どうだ?」

 彼が問いかける。
「欲しいか?このローブごと」
「……ああ」
 つい口に出してしまった。次の瞬間、エッツェルは嬉しそうにまた飛びついてきた。フードのネコミミが俺の頬をくすぐる。
「そうそう。素直が一番だ」
 俺はすり寄るエッツェルを無言で抱きしめ返した。おそらく三十路を超えているはずなのに、こんなにも可愛い仕草をする生き物が存在するなんて…。

「だが、一つ条件がある」
「なんだ…?」
「これを脱いだ後も……朝まで付き合ってくれるよな」
 耳元でささやかれた言葉に、体の芯が熱くなるのを感じた。
「…ああ、もちろん」
 そう言って柔らかな布地に触れた瞬間、自分の手が期待で震えているのに気づいた。ローブ越しにエッツェルを包み込むように再び力を入れて抱きしめる。毛並みに沿って細身の身体をゆっくりと撫でていくと、エッツェルは小さく身じろぎした。
「どう…だ?」
「ん、悪くない……」
 言葉とは裏腹に、耳元まで紅潮しているのが見て取れた。
「もっと、強くしていいぞ」
 そう言うエッツェルの声には、普段の余裕がない。言われるままに手のひら全体で背中を包み込むと、薄い生地を通して体温が伝わってきた。
 肩甲骨の辺りから尾てい骨まで、優しく撫で下ろしていく。
「ふっ……」
 小さな吐息が漏れた。その反応に興奮を覚えながらも、指先は止まらない。腰に手を回したところで──
「待て…熱くなってきた」
 突然制止された。動きを止めた俺をよそに、エッツェルはローブの前合わせに手をかけた。するすると、柔らかな生地を肩から落としていく。
「汚したくないからな…」
「あ、エッツェル……」
 目の前のエッツェルを見て息を呑む。ローブが滑り落ちると同時に現れたのは、想像していた以上に魅力的な身体だった。
「どうした? そんなに見つめて」
 エッツェルはくすりと笑いながらも、頬が僅かに赤らんでいる。傷やシミひとつない肌は月明かりに照らされ、まるで絹のように滑らかだった。そして何より目を奪われたのは──
「すごい……な」
 言葉が自然と零れ落ちる。彼の腰から尻へのラインは信じられないほど括れていて、その細い腰と対照的に大きく見える尻が柔らかそうに揺れる。
「触ってみろよ」
 エッツェルが誘うように青い瞳を覗き込む。その瞬間、俺は夢中で下方へと手を伸ばした。指先が触れた瞬間、予想以上の弾力に驚く。
「んっ……」
 小さな喘ぎ声が部屋に響いた。そのまま両手で尻を包み込むように揉みしだく。エッツェルは壁に片手をついて体勢を保ちながらも、腰が微妙に動き始めていた。
「思ったより柔らかい」
「そうか? こう見えて、ちゃんと鍛えてるつもりだがな…そういう肉質なのかも、な」
 エッツェルは軽口を叩きながらも呼吸が荒くなっていた。俺の指がいよいよ尻の谷間に入り込み軽くなぞれば、「あっ」と小さく声が上がる。
「クリス……もう少し上に……」
 促されるままに指を這わせる。尻の割れ目を辿るように上へと移動させると──
「んんっ!」
 エッツェルが背中を大きく反らせた。そこが弱いらしい。窪みを何度も往復させる度に彼の脚が震え始める。
「エッツェル……」
 名前を呼ぶと同時に耳元に唇を寄せる。熱い吐息と共に囁いた。
「もしかして、これだけでイケたり…?」
「馬鹿野郎、するかよ……」
 悪態をつきながらもエッツェルの目は潤んでいた。その姿に欲情が抑えきれなくなる。
「…俺のも、見て欲しい」
 そう言って腰紐を緩めると、既に硬くなっているものが顔を出した。エッツェルは一瞬目を丸くした後、ゆっくりと手を伸ばす。
「ふん……相変わらずデカいな」
 そう言いながらもその手つきは優しかった。根元から先端まで丹念に撫で上げる。
「エッツェルも……準備できてるじゃないか」
 視線を落とすと、何も身につけていないエッツェル自身もしっかりと立ち上がっていた。揺れる赤い肉に触れようと手を伸ばした瞬間──
「あ…待て」
 エッツェルが制止した。何かを思い出したような表情だ。
「忘れてた。ここは寝室じゃなかったな」
 エッツェルは廊下での行為を厭う。しかし今更止められるわけもなく──
「分かった、俺がベッドまで運ぼう」
 クリスがエッツェルの身体を軽々と抱き上げると、エッツェルが驚いて声を上げた。
「おい! 降ろせ! 自分で歩ける!」
「黙っててくれ」
 耳元で囁く。
「――この方が早い」

 ベッドまでの距離は僅か数十歩。
 その間も二人の息遣いは乱れ続けていた。

---

「降ろせって言ったのに……」
 ベッドに横たわったエッツェルが不機嫌そうな声を出す。だが頬はすでに桃色に染まり、紫水晶のような瞳には期待の色が宿っていた。
「文句なら後で……」
 クリスは軽く笑いながらエッツェルの上に覆いかぶさる。解けた赤い髪がシーツに散り広がる様は扇情的で、思わず喉が鳴った。
「なあ、エッツェル」
 耳元で囁くと、擽ったそうに彼の肩が小さく跳ねる。
「今日はいつもより敏感じゃないか?」
「うるさい……」
 否定する声は弱々しく、耳まで赤くなっていた。
「そうか…?」
 俺は確かめるように右手を彼の腰に滑らせる。そこからゆっくりと下腹部へ向かって撫で下ろしていくと──
「っ……!」
 エッツェルが息を呑んだ。腰が弓なりに反り返り、逃げようとするかのように身を捩る。
「やっぱり……」
 さっき指で触れた後孔からぬるついたオイルが染みだしている。柔らかく指先を咥えようとする襞の感触に、確信を得て微笑む。
「クリス……そんなに焦るな……」
 エッツェルが懇願するように呟いた。さっきの強気な態度とは打って変わって、弱々しい声音だ。
「じゃあ教えてくれ。どうすればいい?」
 わざと意地悪く尋ねる。
「俺はどうすればいいと思う?」
「くっ……」
 胸の下でエッツェルが唇を噛みしめた。その表情さえ愛おしく感じる。

「……、分かった。教えてやる」
 突然彼の目が鋭さを取り戻し、俺の首筋に腕を巻き付けた。
「だが覚悟しろよ。今日は俺が主導権を握るからな」
「貴方が? それは楽しみだな」
 口では強気を装いつつも、その手は小刻みに震えていた。それを悟られまいとする姿が妙に愛おしい。
「じゃあ、始めようか」
 俺はニヤリと笑いながら細い足を割り開く。途端に彼の顔色が変わる。
「ちょっ、クリス……待て!」
 抵抗しようとする腕を優しく押さえ込み、狙いを定めた。
「エッツェル……あなたの弱点は知ってる」
 尻の割れ目に指先を沿わせ──
「んあっ!」
 一際高い声が上がる。やはりそこが最大の弱点らしい。
「そこ、……いきなりは……駄目だって」
 消え入りそうな声で訴える彼の姿に嗜虐心が疼く。
「駄目じゃない、だろ? ちゃんと準備出来てるじゃないか」
 さらに深く指を窄まりに押し入れると、彼の全身が痙攣し始めた。
「クリス……お願いだ……もう……」
 涙混じりの懇願に心が痛む一方で、この姿をもっと見たいという欲望が膨らんでいく。
「どうする? まだ続けるか?」
 わざと問いかけながらも、指の動きを止めない。
「や……もう…すぐにイっちまうから…」
 その言葉と同時にエッツェルの内股が激しく痙攣し始めた。彼の限界が近いことを悟る。
「分かった。今楽にしてあげますね」
 俺は素早く彼の中心へ手を伸ばした。が──
「っ…、今日は俺が主導権を握ると、言ったよな?」
 エッツェルが俺の腕を掴み返す。赤い髪が汗で頬に張りつき、紫の瞳が妖しく輝いている。
「ああ」
 俺は素直に身を引いた。
「貴方にそれができるなら」
「生意気な口を……」
 エッツェルが舌打ちしながら俺のズボンの合わせに手をかける。その動作は荒っぽく見えたが、指先はまだ微かに震えていた。
「今日は口でしてやる……。お前みたいな若造には勿体ないぜ?」
 クリスのズボンを下ろしながら、エッツェルの息が荒くなる。顔は真っ赤だ。
「こんな状態でよく強がれますね…」
 俺が微かに笑うとエッツェルは歯を食いしばった。
「うるさい……集中できない」
 彼が慎重に取り出したものを見つめる目には複雑な感情が浮かんでいる。元妻との記憶がちらついたのか、一瞬躊躇いを見せたものの──
「ふん……たっぷり味わうんだな」
 そう呟くと舌を出して先端を舐めた。その姿に背筋がゾクゾクする。普段のクールな彼の様子からは想像できない光景だ。
「上手い……ですね」
 思わず敬語が出てしまう。エッツェルの手つきは意外にも優雅で丁寧だった。指先が滑るように竿を撫でる感触に、俺は堪えきれずに喘いだ。
「当たり前だ」
 彼は自慢げに微笑んだ。
「俺はこういう経験が豊富だからな」
 だがその台詞と裏腹に彼の頬は紅潮しており、時折目が泳ぐ。元妻の影を払拭しようと必死なのかもしれない。俺は思い切って彼の髪を梳いた。
「エッツェルさん……もう十分です」
「何? まだ始めたばかりだぞ」
 抗議する彼の頭を優しく押さえつける。
「貴方の番ですよ」
 エッツェルが顔を上げた瞬間を狙い、上体をシーツに押し倒し、彼の足を開かせる。抵抗しようとした手首を掴むと──
「あっ……」
 予想外だったのか、彼の動きが止まった。
「続きは俺に任せて…」
 そう告げて指を這わせると、エッツェルの体がビクッと跳ねる。普段は自信家な口調の彼が、今は言葉を失い、ただ吐息を漏らすことしかできない。そのギャップが堪らなかった。
「そこはダメだと……」
「大丈夫」
 尻の割れ目に指を差し込むと同時に、俺はエッツェルの耳元に口を寄せた。
「俺も貴方を気持ち良くさせたい」
「クリス…お前……」
 言葉にならない声を飲み込みながらも彼の腰は微かに揺れている。
「エッツェルさん……今夜は俺の全てを受け入れてください」
 そう囁きながら薬指を窄まりに深く沈めていった。エッツェルの内壁は驚くほど熱く、指先が溶けそうになる。
「ん……っ」
 小さく声を上げる彼の姿に興奮が高まる。指先を慎重に進めていくと、ある一点で彼の体がびくりと反った。
「ここですか?」
 確認するまでもなく、素直な彼の反応が答えだった。何度もそこを擦るうちにエッツェルの呼吸が荒くなっていく。
「くっ……やめ……」
 抗議の声は途中で途切れた。二本目の指を滑り込ませると彼の目が見開かれる。
「あっ……待っ……!」
 だが体は正直で、内壁が指を締め付けてくる。ゆっくりと円を描くように動かすと、エッツェルの爪先がシーツを掻いた。
「ん……上手い、……じゃねえか……もっと…」
 強がる声は震えていた。三本目を添えた瞬間、彼の目に涙が浮かぶ。
「エッツェルさん……もう辛そうですよ」
 そう言って一気に突き入れた。指が三本とも根本まで収まる感覚にエッツェルが悲鳴じみた声を上げた。
「んんっ……だめだ……これ以上……」
 内壁が激しく収縮し始め、指が締め付けられる。彼の額に脂汗が滲み、首筋が赤く染まっていた。
「俺に…次はどうされたい?」
 わざと意地悪く囁くと、エッツェルが泣き出しそうな顔で俺を見上げた。
「頼む……クリス……」
 彼の声はほとんど掠れていた。
「もう……挿れてくれ……」
 その、誇り高い年上の恋人が懇願する姿に俺の中の何かが弾けた。
「分かりました……でも、本当にいいんですか?」
 俺の確認にエッツェルは小さく頷いた。その瞳にはかつての元妻への未練はない。ただ俺だけを映した深い紫があった。
「来て……くれ、クリスっ…!」
 最後の言葉を聞き終わる前に俺は彼の中に身を沈めた。  
 互いの荒い息遣いが部屋に満ちていく。
 今夜の支配者は完全に交代した。

---
「あ……くっ……!」
 エッツェルが震える声を上げる。その紫の瞳には涙の膜が張り、頬にも流れ落ちた痕跡があった。
「痛い……ですか?」
 俺の問いかけに彼は首を振る。だが目元は真っ赤に腫れ上がり、明らかに込み上げる感情を訴えている様子だった。
「違う……けど……おまえが、あまりに……良くて……」
 その告白に胸が締め付けられた。想像もつかなかった素直な告白だ。俺は思わず、優しく彼の髪を撫でる。
「無理しないでください。ゆっくり動きます」
「馬鹿にするな……」
 強がりながらもエッツェルの手が俺の背中に爪を立てる。その痛みさえ愛おしく感じた。俺は彼の呼吸に合わせて動きを調整する。若さゆえの暴走を抑えるのは難しいが、彼の反応を見極めながら慎重に進めていく。
「ああっ……!そこっ……!」
 ある角度で腰を進めるとエッツェルの背筋が弓なりに反った。内壁が激しく収縮し始め、俺も限界を感じる。
「エッツェル………もう……」
「いいぞ……俺も……一緒に……」
 お互いに強く抱き合いながら頂に達する。しばしの間、甘い余韻に浸った。

「次は……後ろから……」
 俺の提案にエッツェルはゆっくりと頷いた。さっき絶頂を迎えたばかりの彼の体は汗に濡れ、肌は艶やかに光っている。
 バックに体位を変えようとすると、彼の手が弱々しく俺の袖を掴んだ。
「待て…、少し……休ませてくれ……」
 掠れた声に申し訳なさがこみ上げる。魔道士である彼は俺と違って確かに体力的に限界に近かった。だが、俺の欲求は全く収まる気配を見せない。若い体に宿る無尽蔵の精力が、またも熱を持ち始めていた。
「わかりました。でも……」
 彼の背中に手を這わせると、エッツェルの体がビクッと震える。
「そのあとは、簡単には止まれないかも…」
 警告のような言葉に彼は苦笑した。
「はは…。さすが、若いな……」
 四つん這いになったエッツェルの姿に喉が鳴る。赤い髪がシーツに流れ落ち、細い腰から続く美しい曲線を描く臀部。俺は我慢できずに背中に唇を落とした。
「んっ……」
 小さな声に興奮が高まる。指先で後孔を愛撫すると、既に十分に解れていることがわかる。
「エッツェル………」
「何だ……?」
「俺、まだ全然足りなくて……」
 正直に打ち明けると、彼は小さく笑った。
「わかってる。今夜は…お前の好きなようにしろ…」
 許可を得た瞬間、俺は一気に彼の中に身を沈めた。
「あっ!そんな……急、にっ……!」
 抗議の声と裏腹に、内壁が強く俺を締め付けてくる。エッツェルの秘孔は驚くほど熱く、柔らかく包み込む感覚に意識が飛びそうになる。
「すまない、……止まれない……!」
 罪悪感を感じつつも、腰を前後に動かす。若い体が本能的に求めてしまうのだ。エッツェルの細い腰を掴み、激しく抽送を始める。
「んっ……!はぁ……!クリス……ちょっと……待て……!」
 彼の懇願を聞きながらも速度を緩めることができない。体力の違いから来る加害的な行為への罪悪感と、それでも抑えきれない欲求との板挟みになる。
「あっ!あっ…!もう……無理、……だっ…」
 エッツェルの声がかすれていく。俺も同じタイミングで限界を感じ始めた。
「エッツェル…………好きだ……!」
 思わず口に出てしまった本音に彼が息を呑むのがわかった。内壁が一層強く収縮し──
「俺も……、…好き…っ…」
 消え入りそうな声と同時に、俺と彼は同時に達した。
 俺は全てを注ぎ込みながら、エッツェルの体を強く抱きしめる。

 そこから余韻に浸る間もなく、再び熱を持ち始めた自身を感じて困惑する。果たしてこの無尽蔵の欲望はどこまで続くのだろうか?
  シーツに伏せる彼の首筋に噛みつくようなキスを落としながら、俺は再び、彼を穿ち始めた――

---
 窓から差し込む朝日がエッツェルの赤い髪を金色に染めていた。昨夜の激しい情事からは想像つかないほど静かな寝息を立てている彼を見つめながら、クリスは少し罪悪感を覚えていた。白い肌の至る所に、激しい情事の痕跡が赤く散っている。特に首筋には自分がつけた噛み跡が赤く浮かび上がっていた。
「エッツェル……」
 そっと呼びかけても反応はない。無理もない。限界を告げていた彼をなお抱きながら、何度も何度も柔肉に精を注ぎ込んだ。
(やりすぎた……)
 自戒の念が湧き上がる。いくら好きにしていいと同意を得たとはいえ、彼の体力を考えずに求めてしまった自分を反省していた。

 頭を切り替えるべく、キッチンに向かい、簡単な朝食を用意する。保存していたパンと野菜のスープ。そして温かいミルクを入れたところで寝室に戻ると、エッツェルが起き上がって窓際に佇んでいた。
「おはようございます」
 クリスの声に振り返ったエッツェルの顔には疲労の色がた残っていたが、それでもいつもの薄い笑みが浮かんでいた。
「遅いぞ。…腹が減った」
 そう言いながら腰を庇うようにベッド脇の椅子に座る姿に、クリスは胸が痛んだ。
「すまない…朝食の支度をしていた。それと……昨日は……」
「謝るな」
 エッツェルが手を上げて遮った。
「あんたのせいじゃない。ただ……、次からはもう少し手加減してくれると助かるがな」
「はい……」
 クリスは素直に頷いた。
「体は……大丈夫か?」
「ふん。この程度で倒れるほど柔じゃない」
 そう言いながらもクリスが運んできたスープを一口飲んだ瞬間、顔をしかめる。
「熱っ!冷ましてから持ってこいよ」
「! そんなに熱かったか……?」
 慌てるクリスをエッツェルが呼び止める。
「冗談だ。まあ…味も…うむ…」
「え、あっ」
「……、いつもの鋼の味がする……な」
 エッツェルが小声で呟いた。クリスが慌てて皿の中を覗き込むが、スープは確かに普通の色をしている。だが問題は味だった。
「やっぱり……?……。また失敗してしまったようだ…」
 クリスは項垂れる。何度練習しても料理だけは上達しなかった。どの食材も最終的には「鋼の味」になってしまうのだ。
「まったく……こんなにまずい料理を作る奴は見たことがない」
 エッツェルは吐き捨てるように言いながらも、スプーンを止めることはなかった。一口、また一口と無言で食べ進める。
「あの……無理しなくていいぞ…? 作り直すから」
「黙っていろ」
 エッツェルが言い放つ。
「この程度、食えんほどでもない」
 その台詞にクリスは苦笑した。昨夜のことを思い出し、つい笑みが溢れる。
「なんだ?何がおかしい?」
 鋭い視線を向けるエッツェルにクリスは慌てて弁解する。
「いや、ただ……貴方は本当に強がりだなあと思って」
「強がってなど…、バカ、もう言うな」
 そう言いながらも耳の先がほんのり赤くなっているのをクリスは見逃さなかった。昨夜の情事も含めて、揶揄られたことに照れているのだろう。
「それにしても……これでは軍にいた時と何も変わらんな。あんたが食事担当に当たっていた時の戦々恐々たる隊の面子を思い出す」
 エッツェルが皮肉を交えながらも皿を空にする。鋼の味のするスープを全て飲み干す姿に、クリスは感謝の気持ちでいっぱいになった。
「いつか…ちゃんと美味しいものを作って貴方に食べさせてあげたい」
「フッ、期待しないでおこう」
 ヤギのミルクを呷りながらエッツェルが鼻で笑う。だがその目はどこか優しかった。
「さあ、今日は何をするか…あんたは?」
「俺は、いつも通り畑仕事をしてきます
 クリスが立ち上がると、エッツェルも空の食器を手に続く。
「乳搾りもあるんだろう? 手伝うぞ」
 思いがけない申し出にクリスは目を丸くする。
「え? でも貴方は……その……」
 昨夜の激しい情事を思い出し言葉を濁す。
「ふん。これくらいで休むほど老いぼれていないさ」
 と言いつつもエッツェルは歩き出そうとして小さく呻いた。が、すぐに気を取り直した様子でローブを整え始める。
「…裏山にも行きたいところだしな。新種の野草を探したい」
 彼のポケットから古びたノートが見える。薬草に関する知識を書き留めたものだ。
「そうか。なら俺も山の入り口まで一緒に行こう」

 二人並んで各々の目的地へ向かう道中、エッツェルが突然立ち止まった。
「おい」
 彼が指差す先には珍しい青い花が咲いていた。
「これは『蒼炎草』だ。煎じれば鎮痛剤になる、上等な薬草の素材だぞ」
 嬉々として採取を始めるエッツェルを見て、クリスは微笑む。都会の喧騒を離れて田舎で暮らすこの魔道士の一面は、カダインの研究室に籠っていた頃とさほど変わりない気がした。

 ヤギの世話を終え、畑に赴くとクリスは慣れた手つきで野菜の世話を始める。一方山から降りてきたエッツェルはクリスの姿に気付くと、不器用ながらも土いじりを手伝い始めた。
「水やりは……これでいいのか?」
「ああ。根元に少しずつ撒いてくれ」
 クリスの家に戻った二人は簡単な昼食を取る。それでもやはりクリスの作る料理は鋼の味だったが、エッツェルは何も言わずに食べていた。
「明日は町に行ってくる。市場で香草を売るつもりだ」
「俺も同行する」
「いらん。お前は農作物の世話があるだろう」
「貴方が軒先に干していたハーブ、山盛りになっていたじゃないか。 俺も運んでいくから」
「……好きにしろ」
 ぶっきらぼうに言いながらも、エッツェルの口元は緩んでいた。

 こうして二人の奇妙な共同生活は続いていくのだった。


---

 夜の帳が下りた頃、風呂から上がってきたエッツェルは当然のように例のローブを羽織っていた。湯気で湿った赤い髪が艶やかに光り、その隙間から覗く紫の瞳がクリスを捉える。
「おいクリス、何を呆けている?」
 指摘されて初めて自分の表情に気づいた。エッツェルに対する直接的な欲求がそのまま顔に出てしまっていたのだ。
「す、すまない……ただ」
 クリスは言い訳を探す。
「今日もそのローブなんだな……」
 エッツェルがふんと鼻を鳴らした。
「気に入っているからな。暖かいし、それに……」
 意味ありげな視線を送ってくる。
「お前もやっぱり、これが好きなんだろ?」
 図星を突かれクリスは顔を赤らめた。エッツェルの言う通りだった。見た目もそうだが、あのローブごしにエッツェルに触れた時の柔らかさと温もり…そしてその後の彼との交わりにすっかり魅了されてしまい、思い出すだけで鼓動が速くなる。
「べ、別に……そういうわけでは……」
 咄嗟に取り繕うも、声は震えていた。
「へえ…」
 エッツェルがローブの裾をひらひらさせながら近づいてくる。
「なら……なぜそんなに物欲しげな目で見てくる?」
「そ、それは……」
 言い淀むクリスの前でエッツェルがシーツに腰を下ろす。膝の上でモフモフの黒猫を模した長い尻尾を弄びながら、挑発的な視線を向けてきた。
「遠慮することはないだろう?」
 誘惑と葛藤が交錯する。エッツェルの考えは理解している。寒さを凌ぐため…と言いつつ、クリスの反応を楽しんでいる部分もあるのだろう。だが今日は彼に対して軽はずみな真似をすべきではないという理性が働いていた。
「だが……」
 迷うクリスの手にエッツェルが触れる。暖かい湯上がりの吸い付くような肌触りに思わず息を呑んだ。
「ほら……」
 そのまま引き寄せられるようにクリスの手がローブに伸びる。指先が毛足に触れた瞬間、想像以上の柔らかさに電流が走った。
「あ……」
 知らず知らずのうちに掌全体で感触を味わってしまう。モフモフとした温もりが心地よく、その下にあるエッツェルの肌の存在感に、手が離せなくなった。少しだけ筋肉のついた、張りのある胸を優しく揉み込むように手のひらを動かしてしまう。
「満足か?」
 エッツェルの声に現実に引き戻される。我に返ったクリスは慌てて手を引っ込めた。
「すまない!触って……」
 謝罪するクリスにエッツェルは小さく笑った。
「構わないさ。それより……」
 彼の目が妖しく光る。
「もっと直に、触りたいんじゃないのか?」
 クリスの心臓が早鐘を打つ。誘惑と葛藤の狭間で揺れながらも、徐々に理性の糸が切れそうになっていた。彼の魅力的な罠に絡め取られていくのを感じながら……。
 ベッドサイドのランプが揺れる灯りの中、クリスは真剣な眼差しでエッツェルを見つめていた。
「昨夜は……本当に申し訳なかった」
 突然の率直な謝罪にエッツェルは眉を寄せる。
「何がだ?」
「あなたに……無理をさせてしまった」
 クリスの声には後悔が滲んでいた。魔道士の体力を顧みず暴走した昨夜の行為が脳裏に蘇る。
「若さゆえの過ちだな」
 エッツェルは淡々と続ける。
「気にするな」
 だがクリスは首を振った。
「今夜は……自重します」
「ほう?」
 エッツェルの紫の瞳が興味深そうに細まる。いつものクリスらしくない宣言に違和感を覚えたようだった。
「つまり……挿入はなしということか?」
「はい」
 クリスの決意は固い。若さゆえの欲望に流されてエッツェルの肉体を貪るのはもう嫌だった。だが──
「ならば別の方法もあるだろう?」
 エッツェルが不意に身を乗り出す。赤い髪が肩から滑り落ち、ランプの光に照らされて朱金に輝いた。
「どういう……」
「手だけ使えばいいじゃないか」
 思わず息を呑むクリスにエッツェルは続けた。
「あんた、俺に触れたくて堪らないんだろう?」
 図星を突かれて言葉に詰まる。昨夜あれだけ激しく求め合ったにも関わらず、クリスの体内にはまだ熱が燻っていた。
「でも……それではまたあなたに負担が……」
「馬鹿、この俺がここまで誘ってるんだぜ」
 エッツェルの頬に薄紅が差す。普段の自負心とは裏腹に、自分から誘うことへの恥じらいが透けて見えた。
「恥ずかしいなら……無理に……」
「違う」
 否定と共にエッツェルの手がクリスの腕を掴む。細い指が震えているのを感じた。
「お前が……辛そうだと思ったからだ……」
 その一言に胸が締め付けられる。自らの矜持を捨ててまで気遣ってくれているのだ。
「すみません……俺のために……」
「勘違いするな」
 エッツェルが顔を背ける。
「俺だって……夜になるとあんたが欲しくて堪らなくなるんだよ……」
 その言葉が引き金となった。クリスは自然とエッツェルの手を取り、自身の下腹部へ導く。
「俺も……同じです」
 互いの熱を感じながら、ゆっくりと指を滑らせる。エッツェルの息遣いが徐々に乱れていくのがわかった。


「んっ……くっ……」
 堪えようとする声が漏れるたび、クリスの昂りも増していく。ローブ越しに伝わる体温と潤んだ紫の瞳が眩しかった。
「もっと……強く……」
 エッツェルの懇願に応えて握る力を強めると、
「あぁっ……!」
 我慢できないとばかりに嬌声が夜の静寂を破る。いつも凛としている彼が淫らに乱れる姿は、あまりにも刺激的だった。
「クリス……お前も……」
 逆に指先が滑り込んでくる。敏感な箇所を的確に撫でられ、思わず腰が引けた。
「くっ……!エッツェルさん……上手すぎます……」
「当たり前だ……俺はこういうことには長けてるんだよ……」
 エッツェルの指使いは巧みだった。長年の魔道修行で培われた集中力と観察眼が、この場面でも発揮されているようだ。クリスの反応を見ながら、絶妙な加減で刺激を与えてくる。
「ああっ……!それ……良い……!」
 思わず声が漏れる。昨夜あれだけ激しく求め合ったのに、今夜はまた違う快楽が全身を駆け巡る。エッツェルも同様なのか、次第に声が大きくなっていく。
「んっ……くぅ……!クリス……もっと……早く……」
 彼の指先が震えながらも的確に動く。普段は魔道書を読むために使う細長い指が、今はクリスの最も敏感な部分を愛撫している──その事実だけで頭が沸騰しそうだった。
「エッツェル……本当に、巧みだな……」
 素直な称賛にエッツェルの耳朶が朱に染まる。いつもなら「ふん」と鼻で笑うところなのに、今はただ無言で頷くだけだった。
「んんっ……!ああっ……!」
 突然エッツェルの喘ぎ声が高まる。クリスが少し強くエッツェルのものを握ったことで、彼の限界が近づいているのがわかった。
「すまない……痛かったか?」
「ばか……違う……ちょうどいいんだ……もっと……」
 催促する声はほとんど囁きに近い。同時にエッツェルの指先がクリスの先端をくすぐるように動く。繊細な愛撫に、クリスも声を押し殺せなくなる。
「あっ……エッツェル……俺も……」
「一緒に……イこう……」
 互いの吐息が混ざり合う中、二人は指の動きを加速させる。エッツェルの白い首筋に汗が光り、紫の瞳が涙で潤んでいた。
「あぁっ……!クリス……もう……!」
「俺も……イキそうだ……!」
 指先に伝わる興奮が最高潮に達した瞬間、二人は同時に身を震わせた。
 迸る熱が互いの手を濡らし、荒い息遣いだけが部屋に響く。
「はぁ……はぁ……」
 エッツェルがぐったりとクリスの胸に凭れかかる。赤い髪が顔にかかり、花のような甘い香りが漂ってきた。
「満足したか……?」
 息を切らせながら問いかける声に、クリスは素直に頷いた。
「とても……」
「俺もだ……」
 意外な素直さに驚いていると、エッツェルがニヤリと笑う。
「あんたの手だけで、こんなに感じるとはな」
 その言葉に胸が高鳴る。彼を悦ばせることができた喜びが全身を駆け巡った。
「だが……」
 エッツェルが突然身を起こす。
「一回きりで満足できると思うなよ?」
 不敵な笑みと共に体を寄せてくるエッツェルに、クリスは苦笑した。やはりこの人には敵わない。
「けど…どうやって…」
 そう答えると同時に唇を塞がれる。深く甘いキスの最中、エッツェルの手が再びクリスの下半身へと伸びていった。
「あんたのこれを俺の脚に挟んで、擦る…。素股ってやつだ」
 ベッドの上に座るクリスに、ローブを脱いで素肌を晒したエッツェルが跨がる。ゆるく勃ち始めた肉と肉を密着させると、脚を閉じる。
「エッツェル……挟むだけって……、」
 言いかけて息を呑む。エッツェルがゆっくりと腰を動かし始めると、彼の太ももの内側がクリスの硬くなったものに吸い付くように密着してきた。予想以上の張りと弾力に思わず腰が浮く。
「どうだ……?」
 余裕綽々の笑みを浮かべるエッツェルの紫色の瞳が妖しく光る。騎乗位のような体勢で上下に動くたび、クリスのものは太ももの表面に擦られ、新たな刺激に悶えそうになった。
「くっ……!」
「ふふん……若いな……」
 エッツェルの内腿の柔らかさと張りのある感触に、クリスは思わず押し倒したくなった。
「俺の脚……どうだ?」
 エッツェルが不敵に笑う。その顔を見てクリスの中で何かが弾けた。
「すまない……我慢できない!」
 唐突に反転し、エッツェルをベッドに押し倒す。驚きに目を見開く彼のの両脚を掴み、強引に開かせた。
「おまえ……!」
 抗議の声は途中で途切れる。クリスのものが再び股の間に押し込まれ、素股の状態で激しく前後に動き始めたからだ。
「あっ……!くっ……!」
 エッツェルの声が漏れる。クリスの硬くなったものが太ももの内側を擦り上げるたび、想像以上に鋭い快感が走った。特に会陰から鼠径部あたりまで強く往復されると、まるで挿入されているような錯覚を覚える。
「んっ……!はぁ……!」
 クリスも必死だった。エッツェルの太ももの弾力と熱さに夢中になり、獣のように腰を打ち付ける。接合部からは先程の精液の残滓によるヌチャヌチャという卑猥な音が響き、二人の呼吸が合わさっていく。
「あっ……!クリス……激しすぎる……!」
 抗議する声すら甘く蕩けていた。エッツェルの乳首はツンと勃ち上がり、クリスの動きに合わせて震えている。高まった体は快感に敏感すぎるほど反応し、その姿にクリスはさらに煽られた。
「エッツェル……すごい……気持ちいい……!」
「ああっ……!そこ……もっと……!」
 組み敷いた身体からクリスを求める純粋な欲望だけが露出している。クリスは両手でエッツェルの膝を掴み、さらに激しく腰を動かした。限界が近づいてくる感覚に、喉がカラカラに乾く。
「あ……クリスの……擦れて……!」
 エッツェルの声に合わせるように、二人の動きが一層激しくなる。そして──
「っ……!!」
 クリスが大きく腰を打ち付けた瞬間、白濁液が飛び散った。エッツェルの腹から胸にかけて、熱い液体が滴り落ちていく。まるでエッツェルも達したかのように、彼のものからも白い糸が引いていた。

「はぁ……はぁ……」
 ぐったりと頭を下げたまま、荒い息をつく。部屋には濃厚な雄の匂いが充満していた。エッツェルの白い肌に飛び散った液体がランプの光に照らされ、何とも淫靡な光景を作り出している。
「まったく……遠慮なくぶちまけやがって……」
 恨み節を言いながらも、エッツェルの口元は微笑んでいた。クリスも疲労感と共に奇妙な満足感を覚える。若い体はまだ欲望を秘めているが、今はただこの余韻に浸っていたかった。
「すみません……制御できなくて……」
「別に構わんさ」
 エッツェルがクリスの額に手を当てる。汗ばんだ髪を撫で付ける冷静な指先に、クリスは不思議と安堵した。
「でもな……また……」
「はい。……次の夜はちゃんと…最後まで、貴方を抱きたい」
 素直に頷くクリスにエッツェルは小さく笑う。そして両腕を伸ばし、抱き寄せた。
「さあ……寝ようか……」
 心地よい気だるさを纏う体を寄り添わせながら、二人は眠りにつくのだった。

2026.1.12
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#クリエツ

sleepover 第三話 初夜ハッピーエンド編

イツヤシお泊まり本三部作、完結編。
ゲームクリア後、ノーマルエンドの世界線のイツヤシです。


#イツヤシ  #sleepover
18歳以上ですか?

sleepover 第二話 渋谷でデート編

弥代と原宿デート後、弥代の家に泊まってイチャイチャの流れ
告白まで、セックスなし


「……ここは……?」
目を開けると、そこは暗闇に覆われた神殿――舞台装置が何らかのアクシデントにより停電したのかと、弥代は初めそう思った。だが、暗雲立ち込める頭上には細い稲光が走り、禍々しい冷たい空気が肌を舐めていく感覚に、そこは今まで居た舞台ではないと察知する。
ふと、誰かの悲鳴が聞こえた。舞台の中央に聳える黒い祭壇の方からだ。
「父さん!?」
そこに立つ父の姿を認め、弥代は駆け出す。父がすぐ側に居る、これで大丈夫だと感じた期待は、すぐに懸念に変わる。
「父……さん……?」
高らかにオペラを歌い続ける父の周りをどす黒い靄が包み、純白のはずだったタキシードは墨を落としたように黒く染まっている。その顔にも奇怪な紋様が浮かび……まるで異形の姿となって歌う父の姿に気付いた弥代は、祭壇の階段下で思わず踏みとどまった。
また悲鳴。ふと見上げれば、父の正面には先程まで舞台を鑑賞していた沢山の観客たちが、意思を失った土器色の顔をして立ち並んでいた。その周囲を取り囲むように楽士隊――ではなく、赤黒いローブに身を包んだ異形の者が、不協和音のような音を響かせながら揃って黒い祭壇へ祈りを捧げている。傍目に不気味がすぎる光景に、弥代は言葉を失った。
このままではいけない、父を正気に戻さねば――そう願うも、弥代の思考は想いに反して徐々に黒い靄がかかり、握り締めた手も足も気付けば動かせなくなっていた。
本来ならば、この時父の側へ躊躇なく駆け出した弥代を神竜の姿のチキが救ってくれたのだが――
ああ、そうか……と弥代は色の違う瞳を細めた。
やがて、身動きできないままただ立ち竦んでいる己に気付いたのだろう父が、他の観客達へしていたのと同様に弥代の頭上へ手を翳す。その険しい顔の後ろで、邪悪な笑みを浮かべる老人――ガーネフが、血のように赤い舌をつり上げた口角から覗かせ、何やら興奮気味に呟く。
『これは――素晴らしいパフォーマの輝きだ……これさえあればあのお方の復活も容易い――! さあ、全て吸い尽くせ――』
父さん、と叫ぶ声は父に届かない。父の手から放たれた暗黒の波が目の前を覆うと、身体全体が禍々しい魔道の力によって締め上げられるように軋む。苦しい。怖い。

「嫌だ、父さん――父さん!!」

――また、あの夢か……
闇の帳が未だ落ちたままの部屋で、悲鳴と共に目覚めた弥代は重い溜息を吐いた。
以前、蒼井樹の家で宿泊してから――しばらくの間、弥代は安穏な眠りを得ていた。だが、ミラージュ達を現代に招いた黒幕であるガーネフの存在、依り代である畑中ヤツフサとの対峙以来、己の怒りが、父を喪った悲しみの記憶がそうさせるのだろうか、どす黒い闇の儀式に迷い混む悪夢に、弥代はまた苛まれていた。
宿敵を前に何も出来ないと嘆く弥代の想いを受け、父の魂の輝きは樹が導いた弥代のパフォーマの力によってついに元凶の手から離れ、天へ導かれたというのに……。
未だにこのようなまやかしの過去の夢に魘されている様では父に向ける顔もないと、弥代は汗で額に張り付いた長い前髪を忌々しげにかき上げた。
思考を切り替えるため、眠る前より重くなった身体を起こしてシャワールームへ向かう。脱衣所に着くなり黒い寝間着を脱ぎ捨て、バルブをひねれば、冷水がザァと弥代の身体を覆った。
「………。」
染み渡る水はやがて暖かい湯となって冷え固まった弥代の身を緩めていく。
ふぅと一息つき、背後のバスチェアに崩折れるように座して前を見れば、縦長の全身鏡には眼の周りを暗く窪ませた自らの姿が浮かび出されていた。血の気のない白い肌に、虚ろな瞳を幾筋もの目蓋の皺が縁取り、濡れて束になった長い下睫毛からまるで暴?の如く水滴が流れている。あまり見ていたいと思えない己の無様な姿に、弥代は目を瞑った。
――瞑想は、心を整えるための最高の手段だ――と、記憶の中の父がいつか言っていた。
一切の思考を止めて、ただその場の感覚に身を委ねる。
サァ……と浴室に降り続くシャワーが大理石の床に落ち、排水溝へと向かって流れゆく。湿気の多い湯気に包まれたその空間は、弥代の呼気を幾分か楽にした。暖かなぬるま湯が石床に散らばり、足先を濡らしている。
暖かい……。
ふと、弥代は暖かさの中に樹と過ごした日のことを思い出していた。あの時もこんな風に、樹の家でシャワーを浴びて、暖かい夕餉を馳走になって、共に眠り、そして――。
あの日、樹の手のひらが触れた箇所を思い出すように自らの手でなぞっていく。頭、髪、背中、肩口、そして。
身体の中心に燻るようにじわりとした熱が生まれるのを感じる。弥代はそっと、樹が触れたのと同じように固さを持ち始めた性器へ手を伸ばした。
「ッ………」
血の通ったそこは思いのほか硬く、熱を帯びていた。丸い先端を覆うように優しく握って、括れたところに指を回し掛けて、擦る。
「あ………」
心地良い刺激を感じ、不意に濡れた唇から吐息混じりの声を出して、それが硝子に囲まれた空間に微かに反響する。
勿論、ここは弥代が一人で住んでいる高層マンションの一角で、ここには弥代しかいないことが明白であっても――弥代は、あの時と同じように、声が外へ漏れないように口を手で覆った。
薄目を開けて周りを伺えば、正面の鏡には長い脚を左右に割って自慰にふける姿が写っている。浅ましいと思いながらも、沸き上がる欲求に手は止まらなかった。
「ン、……く………」
弥代は、ひたすらにあの暖かい手の感触を思い出し、その記憶に沿って手を動かし、快楽を追った。だが、どうしても同じ具合にはいかない。あの時はもっと、痺れるような……ただ剣呑な摩擦で得られるだけではない、何かがあった。
睫毛を伏せ、もう一度樹の顔を思い浮かべる。
あの青みがかった団栗瞳が、躊躇いがちにこちらを見詰めている。早まる呼吸、紅潮した頬……。
高ぶった自身がずくりと脈打つ。
出していいよ……と樹の声が聞こえた気がした。
「……ァ………、ッ――――」
ビクッと弥代は背を弓なりに反らすと、熱い白濁液を手の中に放った。二、三大きく身を震わせれば、脚の下の黒い大理石にも白い筋が飛んだ。
ハァ……ハァ……と乱れた呼吸がガラスで囲まれた浴室に幾度か響いていたが、その後の熱の引きは早かった。
こんなに呆気ないものだっただろうかと疑問に思う弥代へ次に襲ってきたのは、強烈な睡魔だった。今なら、何も考えずに眠れるかもしれない。
弥代は汚れた手や下肢を洗い流すと、湯を止め、シャワーブースを後にした。
脱衣所で脱け殻のように落ちたままだったシルクのパジャマを一掴みにしてがさりと洗濯籠へ放り込み、その手で棚上にきっちりと畳まれて置かれているバスタオルですっぽりと身を包む。それから本能の赴くまま寝室へ戻ると、チェアに無造作に架けてあったバスローブへ腕を通し、所々皺が寄った紺のシーツの上に落ちていた黒いナイトキャップを湿った髪の上に被ると、どさりと広いベッドに身を横たえた。
転がっていた枕を手繰り頬を擦り寄せながら、抗えない睡魔に押し潰されるように弥代は眠った。

暗転――

再び弥代が瞳を開けたときは、濃色のカーテンの隙間から白い朝日が仄かにチラついていた。
ぼうっとする頭の中で弥代が思ったのは、もう一度樹と触れ合いたいという衝動に似た感情だった。
蒼井樹を家に呼ぶ。以前別れる時に樹にその意思があることを告げたのを思い出す。あとは体の良い切っ掛けを作れば良いだけだ。が――。
(そうだな……)
さて、どうするかと、まるで幼い子供に返ったような無邪気で純粋な期待を覚えながら、弥代は樹を自室へ招くべくベッドの中で策を練った。



「原宿で食レポの腕を磨きたい?」
弥代からのTOPICに呼ばれ事務所へ向かった樹は、ローソファで足組みをして座る弥代からそう告げられた。
「食レポって……この前のレンチンでもう俺より良い感じに出来るようになってたじゃないか」
「原宿で今話題のメニューがあると聞いた」
「うっ、あ、あれか……」
「知っているのか」
「あ、ああ、まあ」
「ならば話は早い 行くぞ」
「分かったよ」
返答を訊くなり週末にスケジュールを取り付けると、弥代は風のように去っていった。
あのゲテモノメニューに心当たりのある樹は心中穏やかではなかったが、弥代に食レポを開眼させた身としては仕方ないかと、変な責任を感じていた。

そして当日――
人でごった返す昼下がりの原宿駅前、一応スイーツが目当てなのでその時間に合わせ、学校から一旦家に帰って私服に着替えてきた樹が弥代を探す。
周りの人々よりも頭ひとつ背の高いすらっとしたモデル体型の男……居た。
「ヤシロ……そのスーツで行くのか?」
いつもの紫のスーツ姿で佇んでいた弥代と、この原宿の浮かれた原色の景色とのギャップがすごい。
「何かおかしいか?」
「ううん、いや、ここ原宿だし堅いかなって……」
「……そうか」
目的のクレープ屋へ二人は肩を並べて歩き出しつつ、樹の言葉を聴いてふむと顎下に手を当てた弥代は、周囲の店を興味深く見回し始めた。
「少し待っていろ」
「え?」
その中の一つに目星をつけたのか、弥代はストリートファッションを扱う衣料品店に入っていった。言われた通りその店にディスプレイされている奇抜な原宿ウェアを眺めながら待っていると、数分後、全く同じ様な服に身を包んだ弥代が現れて面喰らう。
「ヤシロ!?え、その服」
「これでこの場に相応しいか?」
訊けば、ディスプレイに飾られていたマネキンの衣装をそのまんま上から下まで装飾品に至るまで購入してきたらしい。そう言えば弥代が店を出てくるとき、背後で店員が笑顔で見送っていたな……。
カラフルなネオンカラーのラインが入った黒いブルゾンを羽織り、薄紫から濃紫のグラデーションに染められた麻のシャツの下は、黒のひらひらとした布がアシンメトリーに揺れる長いスカート。ちらりと覗く長い脚にはタイダイ柄のスパッツを履き、足首に銀のアンクレットを輝かせ、靴は黒い鼻緒のビーチサンダル……。
至って普通のジャケットにチノパンの出で立ちの樹の横で、結果として別の意味で物凄く違和感が生まれてしまっているが、当の弥代は満足そうにしている。
「うん……似合ってるよ」
それでも様になってしまうのはさすが一流芸能人の成せる技なのだろうか。
気を取り直して、目的のクレープ・ディアへ再び二人は歩き始めた。

「……何だ?あれは……UFOか」
クレープを食べながら口の中に残り続けるスルメとの格闘をやっと終えると、今度はデミナンバーガー屋の新メニューを目当てに歩く途中、きらびやかな電光と電子音に集まる人だかりに目を向けた弥代がふと立ち止まった。
「ああ、クレーンゲームだよ」
「ゲーム?」
「ゲームセンター、行ったことないのか?」
無い、と云う弥代に、じゃあせっかくだしと樹が店の入り口に並んでいるゲームの筐体前へ誘う。
「あのぶら下がってる爪で中の景品を掴んで取るんだ」
「ほう」
弥代は興味深そうに、じい、と他の客がプレイしている様子を眺めていた。丸い円盤から伸びた三本爪ががっしりと目当てのぬいぐるみを掴み、持ち上げ……たところで、ごろんと元の位置に落下した。
「やってみるか?」
「ふむ」
とりあえずワンクレジットを入れて、弥代にクレーンの操作方法を教える。
「そうそう、その調子」
先程の客と同じく爪は上手く景品を捕えたが、持ち上げるタイミングで同じように真下へ落ちた。
「簡単……ではないな、何かコツがあるのか」
「うーん、しっかり挟めるところを見極めるしかないんじゃないかな」
アドバイスを受け、左右のアクリルケースごしに中を見たりしてチャレンジするも結果は同じ。ややムスっとした顔で弥代は樹を見る。
「お前もやってみろ」
「え? わ、分かった」
選手交代で台の前に立った樹がボタンを押す。ピロピロ…と動くUFO。
「……ここだ!」
パッ、とタイミング良く樹がボタンから手を離すと、グイーンと開いた三本爪が下りていく。その様子を横で食い入るように見つめる弥代。閉じゆく爪は上手くぬいぐるみの胴体の隙間に滑り込み、バランス良く空中に持ち上がる。そして……
ガコン、と大きなぬいぐるみがファンファーレ音と共に穴へ落ちた。
すごーい!といつの間にか樹と弥代の周囲に集まっていたらしき数人のギャラリーから歓声が上がる。ファンファーレを聞き付けたのか、おめでとうございまーす!とゲームセンターの店員も景品を入れるための大きな袋を手にやって来た。
「……なるほど、そこで離すのか……良い手本だった」
「いや、まぐれだよ、まぐれ……ところでこれ……」
取り出し口から出てきた青いリボンを首に巻いたかわいらしい熊のぬいぐるみをどうするか、荷物になってしまったと思いつつ――
「ヤシロ、いる?」
「いいのか」
こういうの、趣味じゃないかもしれないけど……と言いかけ、ビニールのナップサックに入った戦利品の熊を肩にかけて満更でもなさそうな弥代を見て、まあ良いかと樹も微笑んだ。

「はあ、もう結構お腹いっぱいだな……」
あれから目当てのメニューその二、からし納豆ヨーグルトバーガーを食した二人は、口直しと休憩を兼ねて渋谷のセイレーンで野菜と豆のバゲットサンドを齧っていた。最も、弥代は納豆味のハンバーガーに対して満足そうにエクセレントと呟いていたが――
「俺の食レポ、参考になった?まあ、ヤシロは自分で十分満足いきそうなレポできてるみたいだったけど……」
「いや――まだだ」
「は?」
「ここのカフェでも新しいメニューが出ているらしいじゃないか、確かワインケーキ……?」
ああ、あれのことか……と謀らずも考案に一役買った樹が項垂れつつ遠い目をする。
「でもそろそろ夕食の時間だし……どうする」
「俺はまだ納得していない、蒼井樹、このまま俺の家に来い」
「え、弥代の家に!?」
「ああ、テイクアウトして腹が落ち着き次第続きをするぞ」
「い……良いのか?」
「無論だ お前こそ、俺を満足させる食レポが出来るまで今日は帰さんからな」
「はは、またそれか…… 分かった、明日休みだし……受けて立つよ」

カフェの目ぼしいメニューと、ついでにラーメンをテイクアウトした二人は、銀座にあるという弥代宅へ向かった。
道中、樹はTOPICで今日は弥代の家に泊まるということを親に連絡したところ、あっさり承諾を得る。
銀座――と聞いて薄々気付いていたが、高級ブランドと思わしき店が立ち並ぶスタイリッシュな街並みを抜ければ、弥代の行く先には高級タワーマンションが聳え立っていた。
その一つ、まるでホテルのような佇まいのロビーに入ると弥代は何食わぬ顔でコンシェルジュの見守る中オートロックを解錠し、奥にある高階層専用エレベーターで当然のように最上階へ上がる。
ここ、家賃は一体幾らなんだろう、そもそも一人で住んでいるんだよな……。いや、弥代ってまだ未成年だけど……こんなところに住めるものなのか――?と、次から次へ疑問が湧いてくるが、着いた先のフロア全てが俺の家だと告げ、鉄柵のついた玄関扉が開かれた先、玄関を抜けて現れただだっ広いリビングに通されたところで、樹は考えるのを止めた。
「ラーメンは先に食べておくか?」
「う、うん、麺伸びるしな……」
そう言いつつも正直、最上階の窓から眼下に東京湾までを見渡せる夕焼けの景色だけでお腹いっぱいだった。

「食べたな……」
「そうか では腹ごなしに下のジムで運動するか?」
「いやいや、さすがに疲れたよ……」
「ならば湯を沸かしてくる」
「あ、ありがとう」
そう言ってリビングから姿を消した弥代のバイタリティの高さを感じつつ、樹は目の前の机に散らかっている空の容器をビニール袋に詰めて片付けた。しばらくして戻ってきた弥代に案内されるままついていくと、これまた高級ホテルのような大きな洗面台を備えた広い脱衣室と、続きにガラス張りの風呂――スタイリッシュな黒い大理石が敷かれた――があった。棚にはリネン類と、この間弥代に貸した樹のルームウェアがきっちりと畳まれた状態で藤製の脱衣籠と共に置かれている。
本当に、住む世界が違うなと思いながらも、樹はおずおずと服を脱ぐとガラス戸をくぐった。
シャワーを浴びていると、ふと、すぐ隣の脱衣場に弥代の姿が見える。一瞬ぎょっとするが、まあ男同士だし、そもそもここは弥代の家だし……と思ったところで、その場で普通に服を脱いで全裸で風呂内へ入ってきた弥代に樹は面食らった。
「えっ、ヤシロ……!」
「どうした? ここを捻れば止まるぞ」
「いやそうじゃなくて……!!」
慌てる樹に眼前の弥代は疑問の表情を浮かべている。
「俺が入ってはまずかったか?」
「……う、あ、いや……びっくりしただけ」
そうか、と元の何食わぬ顔に戻った弥代は樹の手にあるシャワーヘッドへ手を伸ばす。促されるまま手渡すと、壁の固定具にセットして頭から湯を浴び始める。
シャンプー、リンス、コンディショナー、そしてボディソープとフェイシャル類…カウンターの上にきちんと並んでいて、そういうところはさすが芸能人、しっかりしてるんだな……と少し感心しつつ――正直パッと見ただけでは違いがよく分からなかったが、弥代が使っている様子を見ながら同じように使わせてもらう。手に出したそれらはびっくりするほど上質で繊細な花の良い香りがして、こうやって一流芸能人は作られてるんだなと洗髪を終えて長い前髪を後ろに流した弥代を背後から見る。
細身の身体にしっかりと筋肉の隆起があって、まさに男の理想みたいな身体に、やけに白い肌色と細っこい腰が女性的というか……あと脚が長い。背も高いから必然的にそうなるんだろうか、いやそれにしても長い……と至って標準体験の枠にいる自分の体型と見比べてしまう。あとは……。
脚を眺めていたところでくるりと弥代が樹の方に身体を向けたので、まともに前側を見てしまう。一瞬、え、と驚いて凝視してしまったが――そこにあるはずの毛……陰毛が見当たらない。この前ベッドの上で弥代のモノを握って慰めた時に存在感がないなと思っていたが、まさか全く生えてないとは思ってもいなかった。
「何だ」
「あ、ごめん……ヤシロってそういう体質?なのか……?」
「体質?」
「その……下の毛、生えてないからびっくりして」
「ああ……必要ないからな 処理している」
「そうなのか……すごいな」
すごいと言えば……やっぱりすごく、自分のモノと比べて……大きい。性器が。
地の肌色が白いから余計にそう思うのかもしれないが、とりあえず羨ましいと思ってしまう。
「そんなに俺の身体に興味があるのか?や
「えっ、あっ、ごめん、つい見ちゃって」
「見たければいくらでも魅せてやろう」
「そういう事じゃなくて……!」
怒っているのかからかっているのか何なのか、よく分からないがとにかく弥代が自信たっぷりに樹の正面に仁王立ちするので、いよいよ目のやり場に困ってしまう。
「ちょ、ちょっとトイレ行きたくなってきたから一旦出ていいか?」
「ああ、すぐ向かいにあるぞ」
これ以上弥代の裸を見ていると変な気分になりそうだったので、樹は慌ててトイレへ逃げた。

再びシャワーブースに戻ると既に弥代の姿はなく、後を追うべくザッと身体を洗い終えた樹がリビングへ戻ると、白いバスローブ姿でゆったりと長いソファに腰掛ける弥代が居た。
「お待たせ」
ああ、と振り向いた弥代の手にはカフェでテイクアウトしてきたドリンクが握られている。
「それ、味……どう?」
「………紫蘇の爽やかな風味の中に唐辛子のエキスがまるで火花を散らすような刺激的なアクセントをきかせている――これは、口の中で繰り広げられる決闘……!」
「さすがだな……よし俺も――」
と意気込んだところで、机に残っているのがあのわさびケーキだというのを思い出して樹はやや後悔した。

熱の入った食レポ大会の後、弥代が次に出演するというマスカレイダー雷牙のシリーズBlu-rayを鑑賞しているうちに、すっかり時刻はあと一時間で日が変わる位になっていた。
流石に目がショボショボするなと擦っていると、そろそろ寝るかと弥代から声がかかる。
「うん……」
洗面所へ立った弥代と並んで歯磨きをする。口を濯いで、白いバスローブから濃紺の寝間着に着替えた弥代についていくと、寝室に通された。
中央に大きなベッドが置かれ、天井の間接照明が上質なムードを醸しつつ、奥に引かれた長い黒のカーテンがシックな部屋。
「ここは……弥代がいつも寝てる部屋なのか?」
「ああ」
「じゃあ俺はさっきのソファでいいよ」
「何故だ」
遠慮がちにそう告げる樹の手首を弥代が引く。
「俺は――また樹と同衾したい」
「え」
「最近――また良く眠れない――だが、お前となら……上手く眠れる気がするのだ」
樹を見据えてそう告白する弥代の思いを無碍には出来ないと察知した樹は、分かったとベッドへ上がった。
とにかく広いそのベッドは、樹と弥代が並んで横になってもまだ左右にゆとりがある。
……にも関わらず、弥代は樹の肩口にすり寄るように身を横たえてきた。
絹糸のように細い弥代の髪から、良い匂いがする。
それを言うと樹も心地良い香りがすると言ってますます頭を寄せ、すう、と頬に弥代の吐息がかかる。
「ヤシロ、ちょっと……近くないか」
慌てて顔を離した樹に、俺に触れられるのは嫌なのかと眉を下げた弥代の悲しそうな声が返ってくる。
「そんなことないよ……でも……!」
同じベッドで、肩を寄せあって、このままだとまた以前のように友達の一線を超えてしまうのでは、と樹は危惧していた。
「俺は構わない」
「ヤシロ………」
「イツキと……ずっとこうしていたい」
弥代の白い頬が仄かに赤く上気しているのはさっき飲んだ紊敏ソトウのせいだろうか、それとも……と思案する樹をよそに、伸ばされた弥代の手が樹の肩を引き寄せ、薄い寝間着越しに二人は肌を触れ合わせる。
血の通わないようにクールな表情の弥代がこんなにも熱く火照った身体をしているのに気付いて、樹も段々と鼓動が早くなるのを感じていた。
「お前が以前、俺の……性器に触れてから、時折――俺の中に制御できない熱が燻るようになった」
どうすればいい、と訊く弥代の下半身は既に絹の寝間着を押し上げて、樹の腿に押し付けられていた。その昂りを、あやすように撫でる。
「分かった……責任は、取るよ」
改めて弥代に向き直ると、樹は弥代のパジャマのズボンと下着とを下げる。布地の中から勢い良く飛び出てきた熱い肉棒を優しく握ると、弥代も軽く脚を開いて樹に身を預けた。
ややしっとりとした感触のそれを、括れに指を巻いて上下に扱く。
「……ぅ、ア………」
しゅるしゅると滑らかな手の動きに、弥代は低く呻きながら樹へ身を預けるように寄せてしなだれかかっていた。熱い吐息がかかる距離で、樹はじっと弥代を見つめる。
「気持ちいい……?」
問いに、首を縦に振って応える弥代もまた、眉根を潜めつつ樹が手にした己の肉棒を規則的に握り扱く様を見ていた。
ハァ、ハァと息を上げる弥代に、無機質だったはずのベッドルームは徐々に空気を変えて、暖色の光に照らされた灰色のシーツの上で濃密な空間を演出していた。
弥代がガクガクと腰を揺らし始めたのを認めて、イきそうなんだなと察する。
「出して良いよ……」
「――ーッ!……ァ、――ーッッ!」
その声を合図に、樹の手の中で弥代が達した。前と同じように呆気ないくらいに素直に、白く濁った快楽を吐き出した弥代がひとつ、大きく息を吐く。
「俺ばかりでは……対等ではない……」
「えっ?」
「お前にも俺と同じように――気持ち良くなって欲しい」
「い、良いのか? じゃあ……」
提案を受けて弥代に愛撫してもらうべく、樹もルームウェアの前を寛げてペニスを取り出す。
「っ……あんまり見ないでくれ……」
樹はそう言うが、弥代は興味を抑えきれずどんどんペニスへ顔を近づけていく。
「あ、もう……出そう、だからっ……ヤシロ……!」
「……構わん」
「ウッ、ァ、――ーッ!」
やがて射精した樹の精液が勢いよく弥代の顔に散らばっていく。やってしまったと、平常心を取り戻した樹が慌てて弥代を伺うが、口の端に垂れた一筋のそれを舐めた弥代は、エクセレント……と呟いて恍惚の表情をしている。
「いや、不味いだろ……!」
食レポし始める弥代にツッコミつつ、慌ててティッシュを探す。
「……綺麗にしてやろう」
と、弥代は今まで握っていた樹のペニスをついに口に入れてしまった。
「うわっ!だ、駄目だっ!!」
ぬめる熱い舌の感触に驚愕して、樹は腰を引いて弥代から逃れた。
「………何故だ?」
面と向かって樹に駄目だと止められたせいか、弥代は眉を下げている。
「そういうのは……ちゃんとしてからにしよう」
「ちゃんと?何だ?」
「こ、恋人同士……じゃないと……」
「ならば俺を樹の恋人にしてくれ」
「!??」
言った弥代もその言葉の意味が分かっているのか分かっていないのか、判断できない
「――弥代を、俺の恋人に……?」
「今すぐにとは言わない、考える時間が必要ならば待つ」
「分かった……」
 突然の弥代の告白に胸がざわめく。と同時に、感じたことの無い高らかな心地がした。それは例えるなら、微かな期待に近い。弥代が本当に、自分を求めてくれているのだということ。本来なら手の届かないような、出会うことすら無かった彼がいま、もうこんなにも樹に近いところまで心を寄せているという、事実に。
 乱れた寝間着を直して消灯した後も、樹はそんなことを考えていた。愚直なほど純粋に自らを律し、常に芸能のことだけに目を向けていた弥代が、唯一心を開いて歩み寄ろうとした切っ掛けが自分であることは明白である。
 だが、それは本当にこんな短期間で恋人になりたいと思うほどの好意となり得るのだろうか? 友人としての親愛を、性欲処理をし合うという友人の枠を越えた行為によって、弥代が恋愛とはき違えている可能性はないのだろうか?
 悶々とした思いを巡らせる樹を余所に、すぐに寝てしまった弥代の綺麗な横顔を見ながら、樹もやがて目を閉じる。
 樹自身、このまま弥代を恋人という特別な存在にしたい気持ちと、それが本当に自分で良いのかという戸惑いがあった。

(あれ……? もう朝なのか……?)
 気付けばふかふかのベッドの心地良さに負けたのか、すっかり寝入っていた樹は横にいたはずの弥代の姿が無いことに気付く。
 微かに聞こえる鳥の声、やっと完全に覚醒した樹がそろそろとリビングへ向かうと、パンの焼ける良い香りが鼻腔をくすぐった。
 リビングの続きにあるダイニングキッチンにあるカンターを挟んだところに、パリッと糊のきいた白シャツにカフェエプロンを巻いた姿の弥代が立って調理をしている。
「起きたか」
「あ、ああ……ヤシロは? 眠れたか?」
「うむ」
 短く応える弥代の手に握るフライパンから、黄金色の卵の塊が跳ねる。朝食だ、座れと促す弥代に言われるままダイニングへ腰掛けると、焼きたてのオムレツにサラダボウル、一口大に切ったバケットが並ぶ。それら全てを弥代が作ったことに、樹は驚いてぽかんと口を開けた。
「すごいな、ヤシロ……」
 誉める樹に、卵一つとっても火加減が難しい、まだまだだと弥代は言って、黙々と調理器具を洗っていた。洗い終えると、樹の向かいに腰掛け、ブラックコーヒーを傾ける。
「味はどうだ?」
「ふわっふわな卵に溶けたバターの風味が香しい、なんてリッチなオムレツ……皆が憧れる高嶺の花を俺は今、食している……そんな幸せを噛み締めてるよ」
「ふむ、まずまずといったところか」
 柔らかく微笑むと、テーブル横に置いていた台本と思われる本をパラパラとめくり、いつもの無表情な顔をしている弥代を横目に、樹は出された朝食を平らげた。
「……今日も仕事?」
「無論だ。お前のおかげで昨夜は睡眠がよく取れて調子が良い。この機会を逃すはずがないだろう」
「はは、それは何より」
 これ以上この家に居ても弥代の邪魔にしかならないと感じた樹は、支度を済ませたら帰宅する旨を伝えた。
「……今度、ダンスのステップを見てやろう。お前もエンタキングダムのフェスへ可能な限り出演し、研鑽を積むべきだ」
「ああ、その時は頼むよ」
 エントランスに降り、樹を見送る弥代が不適に微笑む。昨夜とは打って変わってすっかり元の調子を取り戻し、さらに樹に微笑みかける弥代の姿を見られたことが樹も嬉しかった。今夜はまた、大東テレビでミュージカルフェスの演目に出演するという……。
 こんなに芸能にひたむきな弥代が、昨夜の言葉を冗談で言ったとは思えない――。
 そう確信した樹もまた、弥代と恋人として付き合うかどうかを真剣に考えることにした。

 眩しく照り注ぐ朝の光が目にしみる。
 青い空に残る薄雲の中には、まだ白い月が浮かんでいた。



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