追憶に刻む

こちらの本 に収録のモブ×ランス🔞描写を抜いたアレン×ランスSSです
◆封印開始から2年前、フェレ家に仕える以前の主と逢瀬を重ねるランスだが…。
◆後半アレン×ランスというよりアレン+ランスの話
 夜の帳が主君の寝室を静寂で包むころ、ランスは手にした燭台の灯りを頼りに室内へ足を踏み入れた。
 主であるこの土地の領主は寝台に腰掛けており、その表情には普段の厳格さとは異なる柔らかなものが浮かんでいる。

「ああ……よく来てくれた」
 低く落ち着いた声がランスの鼓膜を揺らす。
 主の瞳には深い慈愛が宿っており、これまで幾度となくランスが見たその優しい眼差しに、彼は安堵と少しの緊張を感じていた。
「はい……ご用命とあらば」
 ランスは礼儀正しく一礼すると、主の許可を待つように部屋の片隅に立ち尽くした。
「こちらへ来なさい」
 主の声に導かれるまま主の待つ寝台へ近づく。彼が傍らに跪くと、主はそっとランスの頬に手を添えた。年を刻んだ指先は温かく、その体温がランスの緊張を解きほぐしていく。
「今日はおまえを正式な騎士として叙した祝いだ」
「ありがとうございます……ひとえに主様のご薫陶の賜物にございます」
 ランスの言葉に偽りはない。若くして騎士に叙されたのは、主である領主の庇護によるものだ。ランスの両親も同じ領主に仕えし騎士であったが、共に戦に散り、彼は幼くして孤児となった。
 戦禍で両親を失った孤独な少年にとって、この主家こそが唯一の心の拠り所だった。
「だがな」
 主はランスの手を取り、ゆっくりと指を絡めた。
「私はお前をただの臣下である以上に……大切に想ってきたのだよ」
 その言葉にランスの胸が高鳴った。主の想いは幼少期から育成者の域を超えていることを薄々感じていたが、こうして明確に告げられると動揺を隠せなかった。
「私がずっと……我慢していた理由がわかるか?」
 主の声には微かな焦りと熱が籠もっている。ランスは俯き加減に答えた。
「従騎士の身でしたので……」
「それだけではない」
「……!」
 主はランスを引き寄せるとそっと抱きしめた。胸元に顔を埋める形となり、成熟した男の香りが鼻腔を満たす。温もりと鼓動がランスの心拍をさらに速めさせた。
「お前が成人し、正式な騎士となった今こそ……我が想いを遂げさせてほしい」
 囁きながら主はランスの背筋をなぞるように撫で下ろす。その手つきは巧みで、官能的な刺激を伴っていた。ランスの全身が粟立つように反応し、無意識に吐息が漏れてしまう。
「は……い……、私で……良ければ」
 ランスは震える声で承諾した。幼い頃から憧れ慕ってきた存在からの求めに否応なく応じてしまうのは、ランスにとって当然だった。騎士としての忠誠心と恋慕の情念が複雑に絡み合いながらも、それを受け入れる覚悟はこうして閨に呼ばれた時点で決めていた。

 主は嬉しそうに微笑み、さらに強くランスを抱きしめる。それからゆっくりと身体を離すと顎先を持ち上げた。
 年齢を感じさせる乾いた唇が近づく中で、ランスは自然と目を瞑る。
 触れ合う二つの唇はすぐに柔らかく湿り気を帯び、互いの体温が伝わるにつれ甘美な感覚を生む。何度か啄むような口付けを交わした後、主の舌先が唇の隙間を優しく割り開く。 それに応えるかのようにランスも拙いながら必死で舌を絡め始めた。
「んっ……ふぅ……」
 蝋燭の僅かな灯が揺れる部屋に甘美な喘ぎが零れ落ちる。
 ランスの頬が紅潮していく様を見下ろしながら、主は彼の、朝露に濡れた新緑のように艶のある緑の髪へ愛おしそうに指を通した。
 口付けを交わしながら主は器用にランスの首元から胸元へ手を伸ばすと、前合わせの衣服の鉤を取り去る。露わになった肌は汗ばんでおり、仄暗い照明の中で艶めいていた。

「お前は、美しいな……」
 称賛の言葉を口にする主に感謝と羞恥心が入り混じった感情を抱きつつも、ランスは静かに受け入れた。鍛錬により引き締まった若い肉体には未熟さや瑞々しさを感じさせる部分もあり、それが却って扇情的に映るらしい。
 続いて主も夜着のローブをはだけ下帯姿となった。豊かな白髪と同様に身体全体にも年相応の衰えが見られる一方、布を押し上げる逞しく隆起した男性器だけが例外的に若さを保っており、異彩を放っているようにすら見える。
「本当に……私で、良いのですか……?」
 その姿を認め、改めて主の情欲を実感したランスは全身を強張らせる。急に羞恥から主から顔を背けようとするが、片手で軽々と制止された上で主の寝台へ押し倒される。
「何度も言わせてくれるな?……お前でなければならないんだ」
 主の真摯で激しい想いに触れ、ようやく胸の奥に巣くっていた不安が静まっていくのを感じる。ただ求められているのではない。愛されているのだと知れたことが、何よりも彼の心を満たしていた。

 主に望まれるならば――そう思えたことが、不思議なほど彼の心を穏やかにしていた。



(中略)



 気がつけば朝になっていた。
 目覚めた時には既に身綺麗にされていた為、昨夜のことは夢だったのではないかと錯覚しそうになるくらい現実味がない。
 しかし実際にシーツの上に起こした身体にはひきつったような重い感触が残されていた。思わず、主が身に放った熱を確かめるように薄い腹を撫でる。
 隣では既に起きて身支度を調えている最中の主の姿があり、彼は寝ぼけ眼を瞬かせるランスの姿を見るなり微笑みかけてきた。
「よく眠れたか?」
「は……、はい……」
 ランスはその言葉に少々照れ臭さを感じながらも、素直に返事をした。
 それからランスは主の着替えを手伝うべく立ち上がろうとするが、腰の痛みにふらついてしまう。寝台の横で膝を折って蹲るランスに慌てて駆け寄る主に無理をするなと諫められ、反対に脱がされていた衣服を着せ付けられる。
 己の不甲斐なさに歯噛みするランスに、主は優しくキスを落とした。
「申し訳ありません……」
「いいや、それでいい……こうして愛しいおまえと共に朝を迎えられた幸せを、もう少し堪能させてくれ」
 そう言ってランスを寝台に座らせると、身体を寄せる。昨夜の行為を労わる様に背を撫でる主の手の平の温かさを、ランスはじっと享受していた。


 正式な騎士となった後も、ランスは変わらず主の傍らに仕え続けた。夜ごと交わされる語らいと温もりは、彼の胸を満たす何より大切な時間となっていた。
 それは穏やかで幸福な日々だった――この日々がいつまでも続くものだと、若いランスは疑いもせず信じていたのだ。
 
 しかし、その平穏は長くは続かなかった。
 春の訪れとともに訪れたのは平和ではなく、突如として他国への侵略を開始したベルン王国からの脅威だった。

 ベルンと隣接する領地を持つ伯爵家が、突如として兵を動かし、ランスの主が統べる小さな領地への侵略を開始した。これは単なる偶発的な諍いではなく、古くからの領土争いに火をつけた策略だった。
 ベルンの軍勢が目前に迫る中、伯爵は一刻も早い勢力統合を望んでいた。強国への備えを名目として周辺領地の統合を唱え、しかしその実、伯爵が望んでいたのは辺境最大の勢力となることだった。老領主はその野心を見抜き、最後まで首を縦に振らなかった。
 領土を差し出せば戦は避けられる――しかしその代償として故郷を失う領民が生まれる。主は最後までその選択を拒み続けた。

「直ちに逃げろランス。お前だけでも生き延びよ」
 夜明け前の館で運命を悟った主は密かにランスを呼ぶと、切々と訴えた。過去の戦で子を喪った領主に、後継ぎと呼べる者は居ない。真新しい騎士の鎧に身を包んだランスを前に、まるで息子が蘇ったようだと呟いていた領主の姿が思い起こされる。領主にとってランスは誇りであり、唯一の光だったのだ。
「なりません主様! 主君を見捨て逃げ延びるなど……!」
 ランスは必死に反論した。だが主は毅然として言った。
「お前はまだ若く未来がある。私の遺志を継いでくれ」
 しかしランスの決意は固かった。
「ならば共に逃れます……!主様一人を残して、おめおめと生きられるはずがありません!」

 二人は夜陰に紛れて館を抜け出した。領主館に残された他の古強者の騎士達が時間を稼いでいる間に、何としてもこのリキア諸国を纏めるオスティアまで落ち延び、保護を求める必要があった。
 月のない暗闇の中、馬を走らせるランスの心臓が早鐘を打つ。主を守り抜くという責任が重くのしかかる。
 だが敵の追跡は予想以上に迅速だった。間者により情報が漏れていたのか、森の出口近くでランスたちは十数人の武装した傭兵たちに囲まれた。月光が彼らの刀身を冷たく照らし出す。
「逃げられると困りますなぁ、小領主殿」
 傭兵隊長が下劣な笑みを浮かべながら近づいてきた。



(中略)



 朝焼けの淡い光が小窓から差し込み、埃っぽい兵舎の空気を黄金色に染め上げる。
 ランスは閉じた瞼の裏で眩い朝の光を感じ、現実に引き戻された。頬には乾いた涙の跡がくっきりと残っている。
「……っ」
 呻きながら身体を起こすと、背中の古傷が引き攣れるように疼いた。薄い夜着の下で肉がまだ完全に癒えていないことを示すように疼く。二年前、主を喪ったあの時の傷だ。傷は癒えても記憶は鮮明に残っている。主の最期の微笑み、血に塗れた掌が頬を撫でた感触。
「……また……、あの夢か……」
 掠れた声で呟くと同時に頭痛が襲ってきた。こめかみを押さえながらシーツの上で踞ると、隣の寝台から弾けるような声が飛んだ。
「おいランス!どうした⁈」
 乱暴に布団を跳ね除けて起き上がったのはアレンだった。
 赤毛の髪を短く刈り込んだ精悍な青年で、ランスと同期のフェレ騎士だ。ランスと初対面の時から対抗意識を抱く彼はあらゆる訓練でランスに張り合い、しかしランスも譲る気は毛頭ない。そのうち、領主館の至る所で無遠慮に会話を交わす間柄にまでなっていた。
 だが今は、その屈託のない声がランスの神経を逆撫でする。
「……何でもない」
 短く答えるとアレンは眉を吊り上げた。
「何でもないって顔じゃないだろう。そんな生白い顔して」
「ほうっておいてくれ」
 無感情に言い放つとアレンは黙り込んだ。いつもなら執拗に絡んでくるのに珍しく引く様子にランスは違和感を覚えたが、追求する気力もない。代わりに寝台に膝を抱え座り込んだ。
 指先が震えている。膝頭に額を預けると、硬い骨に頭痛がする頭を押し付ける。
「……ランス」
 暫くしてアレンが近づく気配を感じた。しかし顔を上げる気になれず沈黙していると、隣に腰を下ろす衣擦れの音がした。
「また例の夢か?」
 ランスは答えない。だがその沈黙こそが答えだった。
 二年経ってもなお主の死は生々しく残っている。葬り去ることも忘れることもできない。それはまるで傷口に染み込む毒のように日々を蝕んでいく。
 リキア同盟の旗印となった現主君エリウッドの息子、ロイに立ちはだかる強国ベルンとの戦の激化がそれを加速させていた。
「……このところ毎晩、か?」
「………。」
「……そうか……」
 アレンの声が少し柔らかくなった。普段は豪胆な彼だが、この時ばかりはランスの心情を汲み取っているようだった。

「なぁランス。俺たちは騎士だろう?主の為に命懸けで戦うのが使命だ。どんな時も先陣をきって前に進む……それでも、辛い時は何でも話してくれ」
 ランスは唇を噛んだ。この優しさが逆に苦しい。自分は何も変わっていない。主を守れなかった罪悪感と自責の念で押し潰されそうだというのに。
 アレンのように真っ直ぐ前だけを向いて生きられるならどんなに楽だろう……そう思いながらも言葉にはできない。ただ膝を抱え頭を垂れるしかなかった。
「……無理するな、お前には俺がついてる」
 アレンはそれ以上何も言わず立ち上がったが、ランスはその言葉に目を見開いた。
 かつて主と初めて身体を結んだその翌日――目覚めたときにかけてくれた言葉。
 無理をするな……と優しい声が耳の奥に反響する。
 寝台から離れたアレンは窓際で外を眺め始めた。その背中越しに朝日が射し込む。その眩しさにランスは目を細める。

 この苦しみは自分だけのもので、他人に理解できる筈がないと思っていた――けれど、アレンのような存在がまだこの世界に居るならば、耐えられるのかもしれないと思い直す。
 ほんの僅かだが、心が軽くなった気がした。

 ランスは深く息を吐き出すと、重い足取りで立ち上がった。
「……アレン」
 呼びかけると青年は振り返った。
「ん?」
「すまない……ありがとう」
 ランスは静かに微笑んだ。それはあの暗闇の夜以降、封印していた純粋な感情の表れだった。アレンは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに満面の笑みで応える。
「ああ。任せとけって」
 その言葉に勇気づけられたようにランスは窓枠を押し開けた。新鮮な朝の空気が部屋中に広がる。
「顔を洗ってくる」
「おお、俺も行こう」

 外では鳥たちが賑やかに囀り始めていた。その声に負けない位にアレンがランスに喋りかける様子に、騒々しい奴だと赤い頭に揺れる寝癖を見ながら心の中で呟く。
 しかしその声を聞きながら、ランスは誓った。いつか必ずこの傷を乗り越えようと。その日まで、この戦いを生き抜いてみせると。

 自らの傍らには必ず戦友のアレンがいると信じながら――ランスは新たな一日を歩み始めたのであった。


  
END



モブ攻め本って言ってもこんな尊いモブ攻めがあってもいいじゃん!と思いつつ、前半の前の主×ランス話を書いてました。捏造まみれですまない(今更)
中略部分が多くてちょっと薄味になったので前の主に愛されてるランスが見たい方はぜひ本編をどうぞ…🥹
アレン×ランスの昔の本とか早く再掲しろって話なんですけど、全書き直しだからな…しかも昔の私と解釈が違うとこあるし(大問題)
とは言えエリウッド×ランスも捨てがたいし、クルザード×ランスもいいよね(突然の覇者)
畳む

#アレン×ランス