狂瀾に寄せる
※こちらの本 に収録のモブ×ギース🔞描写を抜いたガイツ×ギースSSです
◆封印開始から10年前、ガレー船の船員が起こした反乱により捕らえられた若き船長ギース。そこに駆けつけたのは…
◆後半ガイツ×ギース※近親相姦・キスのみ有り
荒波を白く砕く音。追い風を受けた幌が悠然と船体を震わせる。
ベルガー商会の旗艦である大きな帆船のマストが夕焼けに染まり、海鳥たちが鳴き交わす中――その異変は起こった。
ギースは甲板上の柵にもたれかかり、遥か水平線に沈みゆく太陽を眺めていた。紫のゆるくウェーブがかった長い髪が潮風に揺れる。
不意に、船長室から漏れる父の怒鳴り声が遠くに聞こえる。共に舵を取る親父はまた甲板掃除に手を抜く船員への叱咤に夢中らしいと独りごちた。
商会の跡継ぎとして育てられたこの青年、ギースは今年で二十歳。
起業者である父の元で船の商売を志したばかりの青二才だが、西の諸国では稀有な航海知識と商業センスを備えた若き実業家として知られていた。
父から受け継いだばかりの青い長コートが波飛沫に濡れて光る。
「……こんな穏やかな海が永遠に続けばいいんだがな――」
その刹那、下甲板から鈍い衝撃音と大きな悲鳴が響いた。反射的に懐剣の柄に手をかけると同時に、船が大きく傾く。足場を失ったギースは甲板に強かに打ちつけられた。
「いっ、て……ったく、いきなり何だってんだ⁉ ……おい、親父っ!」
舵を握る父に向けて絶叫するが返答はない。続いて聞こえたのは大人数の乱れ歩く足音と怒号だった。船内で突如として暴動が起きたのだ。
ギースの脳裏をよぎったのは数日前の会合でのやりとり――父が古参の船の従事者達を労働者ではなく〝奴隷〟として扱っているという事実。彼自身がその待遇の実態を初めて知り困惑した時の場面だ。
「まさか……いやそんな……親父が!」
混乱する間もなく立ち上がると、複数の武装した男たちが甲板に繰り出す姿が見えた。
武器を手にした彼らは駆け寄るギースを見るなり険しい表情を浮かべる。
「お前ら……!一体何のつもりだ⁉」
「黙ってろ、坊主!」
「俺たちの邪魔をするんじゃねえ!」
「おいっ!待てよっ‼」
ギースは訳も分からず叫び返すが男達の血走った目を見て悟った。このままでは自分の身が危険だ、と。
「どけえぇッ‼」
誰かの警告と共に斧が振り下ろされた。
何とか避けようとしたが刃が左腕を掠め激痛が走る。脂汗が額に滲み、バランスを崩したギースは甲板に再び転がった。
視界の隅で、男達に連行される血塗れの父の姿が見える。
「親父っ⁉くそっ……」
意識が遠退く中でギースは己の運命を悟る。甲板の中央で反乱者たちに囲まれる父の姿。尊敬していた面影は消え失せ、代わりに地獄のような呻き声をあげる肉塊へと変貌していた。
「お……親父……!」
最後に見えたのは真っ赤な血潮を浴びた男たちの狂気的な笑みだった。
そしてギースの記憶は断絶した。
次に目覚めたとき――ギースは薄暗い船倉の隅で鎖に繋がれていた。
年季の入った木箱と錆びた鉄格子に囲まれ、じっとりとした蒸し暑さが肌に絡みつく。
斬られた腕には包帯が巻かれていたが、倒れた時に激しく甲板に打ったせいか頭が割れそうな程痛む。周囲には生臭い血の匂いと黴臭い空気が漂う。
「起きたか、ギース坊ちゃん」
野太い声が格子の外から響いた。猿轡を噛まされ声を出せないギースに影が覆い被さる。
目の前に立つのは太い眉と禿げ上がった頭が印象的な壮年の男――名は知らないが商会に仕える古参の気のいい船乗りだという噂は聞いていた……が、今はまるで別人の如く冷酷な眼差しをしていた。
「ベルガーの親父さんは死んだ。お前は……今は残しておくことにしたがな」
猿轡を外された途端に咳き込むギースの横で、男がゆっくりと語り始める。
「商会はもう終わった。俺等が新しい時代を作るんだ」
「なん……だよそれ……、親父が……お前らを奴隷扱いしてたからか?」
「ふん。奴隷か。お前は何も知らずに育てられただろうがな。俺たちはずっとベルガー家の贅沢のために来る日も来る日も船を漕ぎ、働き続けたんだぞ?なのに待遇改善どころか……」
男の声が段々と怒りを孕むにつれて拳が震え始めた。彼の背後に控える他の男達も各々武器を構えながら同様に頷く。
「そもそもお前みたいな若い小僧に商会の跡継ぎを任せるなんざ……これ以上親馬鹿ジジイの戯れ言に付き合ってられるかよ!」
男の言葉は真実味を帯びていたが、同時にギースの中に不条理な感情を呼び起こした。自分はただ父の下に就いて航海術や商業を学んできただけなのだ。
「……あんた達が親父の船で過酷な働きを強いられていたのは知ってた……だが、俺にはどうすることも出来なかった……それは……悪かったと思っている」
ギースの胸中に父と大喧嘩の末、数年前に家を去ってしまった兄の姿が宿る。あの時のギースは十歳そこそこの子供だった。
商会を一代で築き上げた父の権力の元、何も言わず従うしかない。ましてやギースは父が商売先の港町で出会ったという酒場勤めの若い踊り子との間にできた、妾の子の立場だった。
「だが……!俺は親父とは違う!親父に船を任されて、やっとあんた達の待遇を変えられると思っていたのに……‼親父に、お前ら何てことを……」
ギースの瞳から涙が零れ落ちる。悔しさと怒りが入り混じった叫びを聞き届けるものは誰もいない。
「うるせえ!泣いても無駄だ。お前は憎きベルガーの強欲ジジイの血を引いている……生かすか殺すか、これから話し合って決める」
男が威嚇する間にも別の船乗りが彼の左腕の傷口を消毒し直す。
「一応血は止まってるがな……安静にしてろ。下手に動かれたら困る」
「………。」
その後、牢内で過ごす時間がどれくらい経ったのか。窓から差し込む光を見ると丁度夜明け頃だと思われた。
鎖は両足首と手首に巻かれており、立つことすら難しい状況だった。
それでもギースは懸命に思考を巡らせる。
(何とかあいつ等を説得しねえと……誰か……俺の話を聞いてくれそうな奴は……)
ふと視界の端で船室の扉が開く。大勢の足音と共に甲板からのどよめきが伝わってくるようだ。
ギースが開いた扉から外を見ると、そこには数人の武装した男達と縄に繋がれた者達が引き立てられる様子があった。
どうやら反乱を起こした船員達とそれ以外の従事者間で意見が食い違い、新たな揉め事が起きたらしい。
「おいっ! 話が違うだろ!」
「うるせえっ! あいつの息の根も止めるべきだ!」
争う声と共に扉が激しく開閉されると、一人の男が勢いよく転がり込んだ。名はすぐ思い出せないが、筋肉質な壮年の出で立ちから彼もまた長く船員として働いてきたのであろう。
「ギース坊っちゃん……」
掠れた声で呼びかけるその髭面の男に、ギースは眉を顰めた。
「……あんたは……信じてくれるか?俺を……」
ギースが拘束された男に語りかけようとしたその時、アイツを出せ!と船室の外から声がかかった。
数人の浅黒い肌の男が格子を潜ってギースの側にやってくる。男たちは繋いだ鎖を解くとギースを引き起こし、外に出るよう促した。
「……くそ……」
ギースは渋々男に鎖を引かれて甲板へ出た。おそらくこれから処刑か……それとも。
待ち受ける運命にせめて一筋の光明が差すことを、願わずにはいられなかった。
甲板へ出たギースを取り囲む船員達。皆、薄汚い布切れのような着衣に汚れた肌で、それでいて目付きだけがぎらぎらと凶悪に光りながら、風に靡くギースの艶やかな長い髪を見詰めていた。
商船を乗っ取った彼らは徹底的にベルガー家を支配するつもりなのだ。その証拠としてこれから、跡継ぎであるギースに対して残虐な行為が始まろうとしていた。
「くっ……!」
殺気立つ男たちの剣幕に、ギースは本能的に後退りするものの後ろ手にがっちりと拘束された鎖を握る男がそれを許さない。
「来たか、そこへ立たせろ」
首謀者の古参の禿男がギースの姿を認めて指示する。鎖を握る男達によってギースは中央の太いマストに上半身ごと縄で巻かれ、固定された。
「……さて……お前をどうするか、決をとった。これから俺達の言うことをきくんなら、命だけは助けてやる。だが抵抗すればその時は……」
「………。」
このまま即刻頭をかち割られる事はないようで、少しの安堵がギースの胸中に去来する。同時に男が何を要求してくるか不安がよぎるが、これまでの因縁を断ち切るため、自分が出来る分は叶えてやるしかない。
とにかく金と、待遇改善を……そう思ったギースに、男は予想外の希望を口にした。
「一先ずお前は俺達の慰み物になってもらう」
「…………はあっ……⁈」
まさか、と見開いた紫の瞳に、取り囲む男達が次々とにやついた笑みを浮かべ始める。
「ベルガーの御曹司はこの西方じゃ類を見ねえ美丈夫だって評判だからなあ……なあ、ギースお坊ちゃんよ」
「小せえ頃から何度船室で襲ってやろうかと思ったか分かりゃしねえよ」
「ちげえねえ」
嘲笑する男達に悔しさから唇を噛み締めるギースだったが、ここで諦めるわけにはいかなかった。縛られているとはいえ足を動かすことは可能だ。隙を窺ってこの場から逃れなくては。
幸いにも首謀者はこちらの目論見に気づいていない様子で、相変わらず気味の悪い笑みを浮かべながらこちらに近付いてくる。
(よし、来い……近寄ったらタマを蹴り上げて……それから)
「……うわっ⁉」
しかし突然両足を掴まれたかと思うとそのまま左右に引っ張り上げられる。足枷に繋がっていた鎖の先を両脇にいた男が縄に繋ぎ、引き上げたのだ。
予期せぬ強引な動作に思わず声を上げてしまう。そしてその声を聞いた他の男達も一斉にこちらへ向かってきた。
「おっと……暴れんなよ?傷モノにしちまうかもしれん」
「ッ……ふざけるなっ!……何で俺がそんな目に遭わなきゃいけねえんだ……‼」
「吼えるな、ガキが」
「まあまあ……今からその生意気なお口で奉仕してもらいますぜ、坊っちゃん」
「っ!」
ギースの頬を撫でた男の分厚い手に寒気を覚え、思わず顔を背けてしまう。するとその反応が面白いと思ったのか今度は首筋へ指先を這わせ始めた。
ぞわりとする感覚に全身が震える。
「やめろ……!」
必死になって抵抗するも両手両足を縄でマストに固定された身体に出来る事など何も無かった。
胸元に手を掛けられると、白いシャツを紙切れのように破り捨てられてしまう。健康的な色をした胸筋や引き締まった腹が朝日の元に曝された。
「ほおぅ、大した身体だ。あのオヤジが金にうるさかったせいで、俺たちはろくなもん食わせて貰えなかったもんだからな」
「……っく」
「その身体でたっぷりとサービスしてもらおうじゃねえか!」
腰布を解かれ、ついにズボンを引き下ろされると男達が歓声に沸いた。
羞恥よりも強い悔しさが胸中に渦を巻く。
(中略)
(俺はもう……ここまでなのか……?)
ギースが天を仰ぎ、覚悟を決めようとした瞬間――。
「てめえらぁ‼何してやがる‼」
甲板に船を揺るがす程の怒号が響いた。
「誰だぁ⁉」
首謀者の男が吠えるや否や、何かが風を切り裂く音がした。刹那、ギースの視界を赤い血飛沫が覆う。鈍い衝撃音と共に首謀者の体躯が傾いた。
鮮血が舷墻に散る。飛来した巨大な斧が男の喉笛を串刺しにしていたのだ。
「ヒッ‼な、なんだ……?」
周囲の船員たちがどよめく中、船尾の陰から筋骨隆々とした影が浮かび上がる。
そこに居たのはギースと同じ髪色をした短髪の男。無造作に撫で付けられた後ろ髪が風に揺れ、彫像のように筋肉が刻まれた逞しい体躯と鼻梁が浮かび上がる。
「兄……貴……?」
掠れた声で呟くギースに答えることなく、ガイツは船尾板から跳躍した。彼の手には研ぎ澄まされた斧が握られている。
「よくも弟を……‼」
怒号と共にガイツが駆ける。船員たちが次々と斧を構えるが、彼の動きは疾風のようだった。一人目は喉を掻き切られ声もなく倒れる。二人目は腹部をぱくりと切り裂かれ悶絶する。
「ワアアッ‼……やめろ!助けてくれぇっ‼」
悲鳴と怒号が渦巻く甲板上で、ガイツの姿だけが異質な空気を湛えていた。険しい切れ長の瞳が怒りの炎を宿し煌めく。まさに荒くれ者の頂点として君臨しているかのようだ。
「ひいいいぃっ!」
次々と仲間を躯に変えていくガイツの姿に恐怖し、残りの船員達は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。中には必死でギースの縄を解き解放しようとする者もいたがガイツがそれを許さない。
「俺の弟から離れろォォ‼」
彼の怒声と共に投げつけられた斧が逃げ腰の男の背中を貫いた。
瞬く間に船内は阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わり果てていく。
「ぐっ……兄貴、もう……やめてくれ……!」
マストに拘束されたままのギースは兄の狂気じみた姿に呆然とし、やがて喉を詰まらせながら叫んだ。逃げ惑う者まで切り捨てるようなやり方に心を痛めたのだ。
「……もう充分だ!これ以上はダメだ‼」
その叫びが響くとガイツがぴたりと足を止めた。怒りで紅くなった目が弟の姿を捉える。
「……ギース」
一瞬にして場が静まり返る。つい先ほどまで溢れていた血と叫びの混沌が嘘のように霧散する。繋がれたままのギースを食い入るように見つめるガイツ。
「……すまねえ、血が上っちまった」
低く呟かれたその言葉には押し殺した憤怒と悲しみが入り混じっていた。
斧の刃から血糊を振り払うと彼はギースへゆっくりと歩み寄る。
「お前がジジイの跡を継いだと港で聞いてな……ちょっくら姿でも拝んでやろうかと思って来たんだが……」
「兄貴……こんな真似をしなくても……俺が自分で何とか出来たかもしれないのに……」
「ふん。そんなザマでよく言うぜ。……いや、商会を捨てた俺が言えることじゃねえが」
ガイツはそう言いながらもギースを拘束する縄を切ると、乱れた髪を払い、頬に優しく触れた。それは過去の記憶にある、優しかった兄の確かな温もりだった。
「ああ……でも……、来てくれてありがとう……兄貴……」
戒めを解かれて甲板に膝をつくギースの肩を支えながらガイツは告げる。
「この連中は商会の腐敗の象徴だ。俺も昔、親父の下で扱き使われるこいつらに憐れみを抱いたさ……だが俺が一番大事なのはギース、お前だ。お前の身体を弄んだこの船の奴等は全員……切り捨ててやる!」
「それは駄目だ……」
「なぜだ!なら……どーすんだよ?」
「……俺は……」
甲板に流れる息絶えた首謀者の赤い血を見ながらギースは決意を固める。父が築いたベルガー商会の名を継ぎ、残った船員達と和解して新たな航路を切り拓くこと――そして、兄と共に未来へ進むことを何より望んでいた。
「俺は親父の跡を継いだ。商会は俺が再生させる。兄貴は……俺と来てくれないのか?また昔みたいに、一緒に海へ……」
「……」
ガイツはしばらく黙り込んだ後、深く溜め息をついた。そしてギースに自らの上着を着せかけると、囁くように言う。
「俺は……もう二度とここには戻らねえ」
「兄貴っ……!」
どうして、と目を見開くギースに、ガイツは血に染まった甲板を指し示す。
「俺は結局、親父と同じなんだよ……自分の為なら、人を人とも思わねえ扱いをする。そんな奴がお前の隣に居ちゃならねえんだ」
兄の言葉に二の句を継げないギースに、ガイツは踵を返す。名残惜しいけどよ、と甲板を軋ませながら去っていく広い背中。
「馬鹿兄貴‼それなら俺は、この商会を世界一にして……俺と一緒に来なかった事を後悔させてやるからなっ……‼」
叫び声に驚いて振り返ると、ギースは大粒の涙を溢しながら握った拳を震わせていた。
「おう、その意気だぜ」
思えば十年前、俺は商会を去るからお前が親父の跡を継げ――と告げた時にも、ギースは泣きながら怒りに震えていた。
ガイツ兄ちゃんのバカ!意気地無し!恩知らず!と、ありとあらゆる罵声を振り掛けられ……そして、そんな弟に俺は何をしただろうか。
「んっ……!」
顎を上向かせてギースの唇を塞ぐ。あの日と同じ、塩辛い味がした。
あの時の弟との口づけは初めてで、どちらも舌がうまく絡まず辿々しかったが、今日のそれは激しく口腔を蹂躙した。
「……ふぅっ……んっ……兄貴……!」
ギースは角度を変えて何度もガイツを求めてくる。息苦しさに顔を背けると、追い縋り舌を捩じ込んでくる。無理やり引き剥がし、宥めるように唇の端を撫でると今度は手の平に舌を這わせてくる始末。
やめろと叱りつけるとギースは不服そうに口を尖らせる。
「兄貴の……ケチ……」
「バーカ、そんなでかい形姿(なり)で、ガキみてえに甘えんな」
そう言って乱れた髪を撫でてやるが、弟は目線を合わさず拗ねたように俯くばかり。やれやれと思いつつも可愛い奴だと微笑まずにはいられない。
「今日はお前に逢えて良かった。俺はこれ以上お前を振り回さないようにするから……頑張れよ、ギース」
「……ふん……」
小さく呟いて頭を下げた後、弟がやっと顔を上げた時には既に精悍な眼差しに戻っていた。先ほどの口づけで濡れた唇が妙に艶っぽい。
「じゃあな」
「……元気でな」
「おう」
その声を背に受けながらガイツは再び踵を返す。甲板には血塗れの死体が幾つも転がっている。だが今はそれを弔う時間すら惜しい――
弟の決意を邪魔せぬためにも、一刻も早くこの場を立ち去らなければならなかった。
「……行くか」
潮風に身を委ね、船べりから水面を見下ろす。すっかり明るくなった海の波が白く揺れる中、ボロボロの小舟に移る。それは出奔後に知り合った海賊が乗り捨てていった舟である。
(まあ……見ててやるよ、この舟が沈んじまうまではな)
最後に甲板へ一度だけ振り返り、沈黙を守ったまま去ってゆく。
一方ギースも、その船影が見えなくなってもなお兄の残像を追うように、海上を見つめ続けていた。
――ガイツが再び帰還することは恐らくない。だがもし運命が巡り会うならば……その時こそ――
風が吹き抜ける甲板の上でギースは誓う。この商船の舵を取り続ける。それが自身と兄の未来を繋ぐ、唯一の方法だと信じながら――。
END
中略部分はここに掲載している以上に長いですwww
ガイツ→→→ギースだと思って助けに入ったらギースの方もめちゃめちゃ兄貴ラブだったという、真正の兄弟丼(船?)BL…最高かよ…。
で、これのガイツがもうちょっと救出に来るのが遅かったパターンかつ、兄弟で最後までがっつり致してるバージョンを当然のように用意してますので😎そのうちUPします。
(このモブ船員に××される話は昔書いた話のリメイクなんですけど、そっちの方が原型に近いんで)
畳む
#ガイギス
◆封印開始から10年前、ガレー船の船員が起こした反乱により捕らえられた若き船長ギース。そこに駆けつけたのは…
◆後半ガイツ×ギース※近親相姦・キスのみ有り
荒波を白く砕く音。追い風を受けた幌が悠然と船体を震わせる。
ベルガー商会の旗艦である大きな帆船のマストが夕焼けに染まり、海鳥たちが鳴き交わす中――その異変は起こった。
ギースは甲板上の柵にもたれかかり、遥か水平線に沈みゆく太陽を眺めていた。紫のゆるくウェーブがかった長い髪が潮風に揺れる。
不意に、船長室から漏れる父の怒鳴り声が遠くに聞こえる。共に舵を取る親父はまた甲板掃除に手を抜く船員への叱咤に夢中らしいと独りごちた。
商会の跡継ぎとして育てられたこの青年、ギースは今年で二十歳。
起業者である父の元で船の商売を志したばかりの青二才だが、西の諸国では稀有な航海知識と商業センスを備えた若き実業家として知られていた。
父から受け継いだばかりの青い長コートが波飛沫に濡れて光る。
「……こんな穏やかな海が永遠に続けばいいんだがな――」
その刹那、下甲板から鈍い衝撃音と大きな悲鳴が響いた。反射的に懐剣の柄に手をかけると同時に、船が大きく傾く。足場を失ったギースは甲板に強かに打ちつけられた。
「いっ、て……ったく、いきなり何だってんだ⁉ ……おい、親父っ!」
舵を握る父に向けて絶叫するが返答はない。続いて聞こえたのは大人数の乱れ歩く足音と怒号だった。船内で突如として暴動が起きたのだ。
ギースの脳裏をよぎったのは数日前の会合でのやりとり――父が古参の船の従事者達を労働者ではなく〝奴隷〟として扱っているという事実。彼自身がその待遇の実態を初めて知り困惑した時の場面だ。
「まさか……いやそんな……親父が!」
混乱する間もなく立ち上がると、複数の武装した男たちが甲板に繰り出す姿が見えた。
武器を手にした彼らは駆け寄るギースを見るなり険しい表情を浮かべる。
「お前ら……!一体何のつもりだ⁉」
「黙ってろ、坊主!」
「俺たちの邪魔をするんじゃねえ!」
「おいっ!待てよっ‼」
ギースは訳も分からず叫び返すが男達の血走った目を見て悟った。このままでは自分の身が危険だ、と。
「どけえぇッ‼」
誰かの警告と共に斧が振り下ろされた。
何とか避けようとしたが刃が左腕を掠め激痛が走る。脂汗が額に滲み、バランスを崩したギースは甲板に再び転がった。
視界の隅で、男達に連行される血塗れの父の姿が見える。
「親父っ⁉くそっ……」
意識が遠退く中でギースは己の運命を悟る。甲板の中央で反乱者たちに囲まれる父の姿。尊敬していた面影は消え失せ、代わりに地獄のような呻き声をあげる肉塊へと変貌していた。
「お……親父……!」
最後に見えたのは真っ赤な血潮を浴びた男たちの狂気的な笑みだった。
そしてギースの記憶は断絶した。
次に目覚めたとき――ギースは薄暗い船倉の隅で鎖に繋がれていた。
年季の入った木箱と錆びた鉄格子に囲まれ、じっとりとした蒸し暑さが肌に絡みつく。
斬られた腕には包帯が巻かれていたが、倒れた時に激しく甲板に打ったせいか頭が割れそうな程痛む。周囲には生臭い血の匂いと黴臭い空気が漂う。
「起きたか、ギース坊ちゃん」
野太い声が格子の外から響いた。猿轡を噛まされ声を出せないギースに影が覆い被さる。
目の前に立つのは太い眉と禿げ上がった頭が印象的な壮年の男――名は知らないが商会に仕える古参の気のいい船乗りだという噂は聞いていた……が、今はまるで別人の如く冷酷な眼差しをしていた。
「ベルガーの親父さんは死んだ。お前は……今は残しておくことにしたがな」
猿轡を外された途端に咳き込むギースの横で、男がゆっくりと語り始める。
「商会はもう終わった。俺等が新しい時代を作るんだ」
「なん……だよそれ……、親父が……お前らを奴隷扱いしてたからか?」
「ふん。奴隷か。お前は何も知らずに育てられただろうがな。俺たちはずっとベルガー家の贅沢のために来る日も来る日も船を漕ぎ、働き続けたんだぞ?なのに待遇改善どころか……」
男の声が段々と怒りを孕むにつれて拳が震え始めた。彼の背後に控える他の男達も各々武器を構えながら同様に頷く。
「そもそもお前みたいな若い小僧に商会の跡継ぎを任せるなんざ……これ以上親馬鹿ジジイの戯れ言に付き合ってられるかよ!」
男の言葉は真実味を帯びていたが、同時にギースの中に不条理な感情を呼び起こした。自分はただ父の下に就いて航海術や商業を学んできただけなのだ。
「……あんた達が親父の船で過酷な働きを強いられていたのは知ってた……だが、俺にはどうすることも出来なかった……それは……悪かったと思っている」
ギースの胸中に父と大喧嘩の末、数年前に家を去ってしまった兄の姿が宿る。あの時のギースは十歳そこそこの子供だった。
商会を一代で築き上げた父の権力の元、何も言わず従うしかない。ましてやギースは父が商売先の港町で出会ったという酒場勤めの若い踊り子との間にできた、妾の子の立場だった。
「だが……!俺は親父とは違う!親父に船を任されて、やっとあんた達の待遇を変えられると思っていたのに……‼親父に、お前ら何てことを……」
ギースの瞳から涙が零れ落ちる。悔しさと怒りが入り混じった叫びを聞き届けるものは誰もいない。
「うるせえ!泣いても無駄だ。お前は憎きベルガーの強欲ジジイの血を引いている……生かすか殺すか、これから話し合って決める」
男が威嚇する間にも別の船乗りが彼の左腕の傷口を消毒し直す。
「一応血は止まってるがな……安静にしてろ。下手に動かれたら困る」
「………。」
その後、牢内で過ごす時間がどれくらい経ったのか。窓から差し込む光を見ると丁度夜明け頃だと思われた。
鎖は両足首と手首に巻かれており、立つことすら難しい状況だった。
それでもギースは懸命に思考を巡らせる。
(何とかあいつ等を説得しねえと……誰か……俺の話を聞いてくれそうな奴は……)
ふと視界の端で船室の扉が開く。大勢の足音と共に甲板からのどよめきが伝わってくるようだ。
ギースが開いた扉から外を見ると、そこには数人の武装した男達と縄に繋がれた者達が引き立てられる様子があった。
どうやら反乱を起こした船員達とそれ以外の従事者間で意見が食い違い、新たな揉め事が起きたらしい。
「おいっ! 話が違うだろ!」
「うるせえっ! あいつの息の根も止めるべきだ!」
争う声と共に扉が激しく開閉されると、一人の男が勢いよく転がり込んだ。名はすぐ思い出せないが、筋肉質な壮年の出で立ちから彼もまた長く船員として働いてきたのであろう。
「ギース坊っちゃん……」
掠れた声で呼びかけるその髭面の男に、ギースは眉を顰めた。
「……あんたは……信じてくれるか?俺を……」
ギースが拘束された男に語りかけようとしたその時、アイツを出せ!と船室の外から声がかかった。
数人の浅黒い肌の男が格子を潜ってギースの側にやってくる。男たちは繋いだ鎖を解くとギースを引き起こし、外に出るよう促した。
「……くそ……」
ギースは渋々男に鎖を引かれて甲板へ出た。おそらくこれから処刑か……それとも。
待ち受ける運命にせめて一筋の光明が差すことを、願わずにはいられなかった。
甲板へ出たギースを取り囲む船員達。皆、薄汚い布切れのような着衣に汚れた肌で、それでいて目付きだけがぎらぎらと凶悪に光りながら、風に靡くギースの艶やかな長い髪を見詰めていた。
商船を乗っ取った彼らは徹底的にベルガー家を支配するつもりなのだ。その証拠としてこれから、跡継ぎであるギースに対して残虐な行為が始まろうとしていた。
「くっ……!」
殺気立つ男たちの剣幕に、ギースは本能的に後退りするものの後ろ手にがっちりと拘束された鎖を握る男がそれを許さない。
「来たか、そこへ立たせろ」
首謀者の古参の禿男がギースの姿を認めて指示する。鎖を握る男達によってギースは中央の太いマストに上半身ごと縄で巻かれ、固定された。
「……さて……お前をどうするか、決をとった。これから俺達の言うことをきくんなら、命だけは助けてやる。だが抵抗すればその時は……」
「………。」
このまま即刻頭をかち割られる事はないようで、少しの安堵がギースの胸中に去来する。同時に男が何を要求してくるか不安がよぎるが、これまでの因縁を断ち切るため、自分が出来る分は叶えてやるしかない。
とにかく金と、待遇改善を……そう思ったギースに、男は予想外の希望を口にした。
「一先ずお前は俺達の慰み物になってもらう」
「…………はあっ……⁈」
まさか、と見開いた紫の瞳に、取り囲む男達が次々とにやついた笑みを浮かべ始める。
「ベルガーの御曹司はこの西方じゃ類を見ねえ美丈夫だって評判だからなあ……なあ、ギースお坊ちゃんよ」
「小せえ頃から何度船室で襲ってやろうかと思ったか分かりゃしねえよ」
「ちげえねえ」
嘲笑する男達に悔しさから唇を噛み締めるギースだったが、ここで諦めるわけにはいかなかった。縛られているとはいえ足を動かすことは可能だ。隙を窺ってこの場から逃れなくては。
幸いにも首謀者はこちらの目論見に気づいていない様子で、相変わらず気味の悪い笑みを浮かべながらこちらに近付いてくる。
(よし、来い……近寄ったらタマを蹴り上げて……それから)
「……うわっ⁉」
しかし突然両足を掴まれたかと思うとそのまま左右に引っ張り上げられる。足枷に繋がっていた鎖の先を両脇にいた男が縄に繋ぎ、引き上げたのだ。
予期せぬ強引な動作に思わず声を上げてしまう。そしてその声を聞いた他の男達も一斉にこちらへ向かってきた。
「おっと……暴れんなよ?傷モノにしちまうかもしれん」
「ッ……ふざけるなっ!……何で俺がそんな目に遭わなきゃいけねえんだ……‼」
「吼えるな、ガキが」
「まあまあ……今からその生意気なお口で奉仕してもらいますぜ、坊っちゃん」
「っ!」
ギースの頬を撫でた男の分厚い手に寒気を覚え、思わず顔を背けてしまう。するとその反応が面白いと思ったのか今度は首筋へ指先を這わせ始めた。
ぞわりとする感覚に全身が震える。
「やめろ……!」
必死になって抵抗するも両手両足を縄でマストに固定された身体に出来る事など何も無かった。
胸元に手を掛けられると、白いシャツを紙切れのように破り捨てられてしまう。健康的な色をした胸筋や引き締まった腹が朝日の元に曝された。
「ほおぅ、大した身体だ。あのオヤジが金にうるさかったせいで、俺たちはろくなもん食わせて貰えなかったもんだからな」
「……っく」
「その身体でたっぷりとサービスしてもらおうじゃねえか!」
腰布を解かれ、ついにズボンを引き下ろされると男達が歓声に沸いた。
羞恥よりも強い悔しさが胸中に渦を巻く。
(中略)
(俺はもう……ここまでなのか……?)
ギースが天を仰ぎ、覚悟を決めようとした瞬間――。
「てめえらぁ‼何してやがる‼」
甲板に船を揺るがす程の怒号が響いた。
「誰だぁ⁉」
首謀者の男が吠えるや否や、何かが風を切り裂く音がした。刹那、ギースの視界を赤い血飛沫が覆う。鈍い衝撃音と共に首謀者の体躯が傾いた。
鮮血が舷墻に散る。飛来した巨大な斧が男の喉笛を串刺しにしていたのだ。
「ヒッ‼な、なんだ……?」
周囲の船員たちがどよめく中、船尾の陰から筋骨隆々とした影が浮かび上がる。
そこに居たのはギースと同じ髪色をした短髪の男。無造作に撫で付けられた後ろ髪が風に揺れ、彫像のように筋肉が刻まれた逞しい体躯と鼻梁が浮かび上がる。
「兄……貴……?」
掠れた声で呟くギースに答えることなく、ガイツは船尾板から跳躍した。彼の手には研ぎ澄まされた斧が握られている。
「よくも弟を……‼」
怒号と共にガイツが駆ける。船員たちが次々と斧を構えるが、彼の動きは疾風のようだった。一人目は喉を掻き切られ声もなく倒れる。二人目は腹部をぱくりと切り裂かれ悶絶する。
「ワアアッ‼……やめろ!助けてくれぇっ‼」
悲鳴と怒号が渦巻く甲板上で、ガイツの姿だけが異質な空気を湛えていた。険しい切れ長の瞳が怒りの炎を宿し煌めく。まさに荒くれ者の頂点として君臨しているかのようだ。
「ひいいいぃっ!」
次々と仲間を躯に変えていくガイツの姿に恐怖し、残りの船員達は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。中には必死でギースの縄を解き解放しようとする者もいたがガイツがそれを許さない。
「俺の弟から離れろォォ‼」
彼の怒声と共に投げつけられた斧が逃げ腰の男の背中を貫いた。
瞬く間に船内は阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わり果てていく。
「ぐっ……兄貴、もう……やめてくれ……!」
マストに拘束されたままのギースは兄の狂気じみた姿に呆然とし、やがて喉を詰まらせながら叫んだ。逃げ惑う者まで切り捨てるようなやり方に心を痛めたのだ。
「……もう充分だ!これ以上はダメだ‼」
その叫びが響くとガイツがぴたりと足を止めた。怒りで紅くなった目が弟の姿を捉える。
「……ギース」
一瞬にして場が静まり返る。つい先ほどまで溢れていた血と叫びの混沌が嘘のように霧散する。繋がれたままのギースを食い入るように見つめるガイツ。
「……すまねえ、血が上っちまった」
低く呟かれたその言葉には押し殺した憤怒と悲しみが入り混じっていた。
斧の刃から血糊を振り払うと彼はギースへゆっくりと歩み寄る。
「お前がジジイの跡を継いだと港で聞いてな……ちょっくら姿でも拝んでやろうかと思って来たんだが……」
「兄貴……こんな真似をしなくても……俺が自分で何とか出来たかもしれないのに……」
「ふん。そんなザマでよく言うぜ。……いや、商会を捨てた俺が言えることじゃねえが」
ガイツはそう言いながらもギースを拘束する縄を切ると、乱れた髪を払い、頬に優しく触れた。それは過去の記憶にある、優しかった兄の確かな温もりだった。
「ああ……でも……、来てくれてありがとう……兄貴……」
戒めを解かれて甲板に膝をつくギースの肩を支えながらガイツは告げる。
「この連中は商会の腐敗の象徴だ。俺も昔、親父の下で扱き使われるこいつらに憐れみを抱いたさ……だが俺が一番大事なのはギース、お前だ。お前の身体を弄んだこの船の奴等は全員……切り捨ててやる!」
「それは駄目だ……」
「なぜだ!なら……どーすんだよ?」
「……俺は……」
甲板に流れる息絶えた首謀者の赤い血を見ながらギースは決意を固める。父が築いたベルガー商会の名を継ぎ、残った船員達と和解して新たな航路を切り拓くこと――そして、兄と共に未来へ進むことを何より望んでいた。
「俺は親父の跡を継いだ。商会は俺が再生させる。兄貴は……俺と来てくれないのか?また昔みたいに、一緒に海へ……」
「……」
ガイツはしばらく黙り込んだ後、深く溜め息をついた。そしてギースに自らの上着を着せかけると、囁くように言う。
「俺は……もう二度とここには戻らねえ」
「兄貴っ……!」
どうして、と目を見開くギースに、ガイツは血に染まった甲板を指し示す。
「俺は結局、親父と同じなんだよ……自分の為なら、人を人とも思わねえ扱いをする。そんな奴がお前の隣に居ちゃならねえんだ」
兄の言葉に二の句を継げないギースに、ガイツは踵を返す。名残惜しいけどよ、と甲板を軋ませながら去っていく広い背中。
「馬鹿兄貴‼それなら俺は、この商会を世界一にして……俺と一緒に来なかった事を後悔させてやるからなっ……‼」
叫び声に驚いて振り返ると、ギースは大粒の涙を溢しながら握った拳を震わせていた。
「おう、その意気だぜ」
思えば十年前、俺は商会を去るからお前が親父の跡を継げ――と告げた時にも、ギースは泣きながら怒りに震えていた。
ガイツ兄ちゃんのバカ!意気地無し!恩知らず!と、ありとあらゆる罵声を振り掛けられ……そして、そんな弟に俺は何をしただろうか。
「んっ……!」
顎を上向かせてギースの唇を塞ぐ。あの日と同じ、塩辛い味がした。
あの時の弟との口づけは初めてで、どちらも舌がうまく絡まず辿々しかったが、今日のそれは激しく口腔を蹂躙した。
「……ふぅっ……んっ……兄貴……!」
ギースは角度を変えて何度もガイツを求めてくる。息苦しさに顔を背けると、追い縋り舌を捩じ込んでくる。無理やり引き剥がし、宥めるように唇の端を撫でると今度は手の平に舌を這わせてくる始末。
やめろと叱りつけるとギースは不服そうに口を尖らせる。
「兄貴の……ケチ……」
「バーカ、そんなでかい形姿(なり)で、ガキみてえに甘えんな」
そう言って乱れた髪を撫でてやるが、弟は目線を合わさず拗ねたように俯くばかり。やれやれと思いつつも可愛い奴だと微笑まずにはいられない。
「今日はお前に逢えて良かった。俺はこれ以上お前を振り回さないようにするから……頑張れよ、ギース」
「……ふん……」
小さく呟いて頭を下げた後、弟がやっと顔を上げた時には既に精悍な眼差しに戻っていた。先ほどの口づけで濡れた唇が妙に艶っぽい。
「じゃあな」
「……元気でな」
「おう」
その声を背に受けながらガイツは再び踵を返す。甲板には血塗れの死体が幾つも転がっている。だが今はそれを弔う時間すら惜しい――
弟の決意を邪魔せぬためにも、一刻も早くこの場を立ち去らなければならなかった。
「……行くか」
潮風に身を委ね、船べりから水面を見下ろす。すっかり明るくなった海の波が白く揺れる中、ボロボロの小舟に移る。それは出奔後に知り合った海賊が乗り捨てていった舟である。
(まあ……見ててやるよ、この舟が沈んじまうまではな)
最後に甲板へ一度だけ振り返り、沈黙を守ったまま去ってゆく。
一方ギースも、その船影が見えなくなってもなお兄の残像を追うように、海上を見つめ続けていた。
――ガイツが再び帰還することは恐らくない。だがもし運命が巡り会うならば……その時こそ――
風が吹き抜ける甲板の上でギースは誓う。この商船の舵を取り続ける。それが自身と兄の未来を繋ぐ、唯一の方法だと信じながら――。
END
中略部分はここに掲載している以上に長いですwww
ガイツ→→→ギースだと思って助けに入ったらギースの方もめちゃめちゃ兄貴ラブだったという、真正の兄弟丼(船?)BL…最高かよ…。
で、これのガイツがもうちょっと救出に来るのが遅かったパターンかつ、兄弟で最後までがっつり致してるバージョンを当然のように用意してますので😎そのうちUPします。
(このモブ船員に××される話は昔書いた話のリメイクなんですけど、そっちの方が原型に近いんで)
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#ガイギス