堕落

ゆったりとした広さのある部屋で、若い男が一人、木製の机に向かっている。ラフィンだ。
落ち着かない様子の彼は、すっくと立ち上がると、壁際にある窓を開けた。
さわやかな海風が心地いい。
日は高く上りきってしまっていた。
(遅いな……)
 青い空を眩しそうに見つめ、その下に広がる山々を一望する。
山火事でところどころ土の色を見せてはいるものの、木々は美しい赤と黄色の葉を散らしていた。
(あいつがここへ来て、もう半年になるのか……)
 ラフィンは山の裾野に広がる田園を眺めると、自らの居住する館の敷地内に視線を移した。大きな石門がぽっかりと口を開けている。そこから続く中庭は静かだった。
鎧をまとった衛兵が規則正しく配列しているが、そこに彼の待つ人影はない。
 ふう、と、何度目になるのか分からないため息を吐くと、ラフィンは机へ戻った。
同じく木製の豪華な木彫りが施されている椅子に腰掛け、机の上に散乱している書物に目を通す。だがもう幾度も読んでいる自治法や民法の書かれたそれに、流石のラフィンも飽きていた。
数分もしないうちに頬杖をつくと、視線は明るい窓を捕らえていた。
(…………遅い。)
 ラフィンは朝からこの調子だった。
確かに、今日戻ってくると告げたあいつの笑顔が頭にチラつく度、苛々としながらも窓から顔を出してはその顔を捜した。
しかし昼過ぎになっても彼が館に戻る気配はない。
 何か起こったのかと思うと気が気でないが、あいつに限ってそんなことはないはずだとラフィンは歯噛みした。
稀代の将軍にしてウエルトの誇る黄金騎士、ナロンに限っては。



第三次ガーゼル戦争(後のユトナ聖戦)が終結し、リュナンはリーヴェ王国のただ一人の生き残り、メーヴェ王女を妻とし、リーヴェを統べる王となった。
彼に従ってきたユトナ同盟も帝国打倒の目的を達成し、集った者たちは各々、故郷の国へ帰って行った。
帝国と組したカナンには、故アーレス第一王子の息子で正統な王位継続者であるセネト王子が即位し、未だガーゼルの爪痕が色濃い国の鎮圧と復興を掲げる人々と共に旅立った。
カナンの属国バージェへ向かう者たちの中に、もちろんシャロンとビルフォードの姿もあった。
気にしないでと言う言葉とは裏腹に、シャロンの真紅の瞳には涙が浮かんでいた。どうしても共に来てはくれないのかと訴えている。
だが、ラフィンは決して首を縦に振らなかった。
彼女には忠実なる臣下ビルフォードがいる。きっと、彼は今の自分よりずっと真摯にシャロンのことを想っているだろうとラフィンは思っていた。
竜騎士ラフィンはバージェ陥落の日に戦死したものと思い、忘れてくれと伝え、名残を惜しむ彼女の背を見送った。
従者に寄り添うようにして去るシャロンの幸せを、ラフィンは願っていた。
ガルダも共に連れて行くより、故郷の谷に離してやる方が良いと思い、激闘を極めたリーヴェ王宮での総力戦後すぐ、騎竜としての装備を外してやった。
ガルダは寂しそうな様子をしていたが、ラフィンが行けと突き放すと、やがて高らかに舞い上がり、飛竜の谷へ消えていった。
「本当にいいんですか?」と横にいたあいつは言った。知らず、表情が曇っていたのだろう。
だがラフィンに後悔はなかった。
「ああ」と短く返すと、ナロンは無言でラフィンの肩を抱いた。
もう一生、竜騎士に戻ることはないだろう。
そして、故郷の地を踏むことも……。

シャロンとは対照的に喜びを見せていたのは義妹のエステルだった。
ウエルト凱旋の日、エステルは王宮にて父マーロンの姿を見るなり、「ラフィンはヴェルジェの騎士になってくれたのよ」と叫んだ。
それを聞いたマーロンは驚きを隠せないようだった。
「ラフィン、お主、本当にそれでよいのか……?」
 養父の言葉は最もだった。彼は、ラフィンがいずれ生まれ故郷のバージェに戻るつもりであることを知っていたのだから。
エステルの隣で、ラフィンは深々と一礼した。
「はい、私はウエルトに骨を埋める覚悟でおります。それが父上に対する、せめてものご恩返しかと……」
「そうか……すまぬな……ラフィン……。」
マーロンはラフィンの心中を察したが、やがて白髭を蓄えた口元をにこやかに持ち上げた。
「これで私も、心置きなく隠居生活が出来るというものだ」
息子を失ったマーロンにとって、ラフィンほどの男がヴェルジェの後継者を申し出てくれたことに勝る喜びはないのだろう。そんな養父に、ラフィンは感謝した。
「……父上、それと一つ、お願いがあるのです」
「何だ?何でも聞いてやろう」
「実は…………。」
 ラフィンが後方に目配せすると、鎧に身を固めた金髪の若者が姿を見せた。
その姿は、マーロンも見覚えがあった。



「!」
微かに馬の蹄の音が聞こえたため、ラフィンは慌てて窓に近づいた。
門のところに、十体程度の騎馬と歩兵が見える。
先頭を行くのは、紛れもないナロンだった。
 ラフィンは椅子にかけてあった上着に腕を通しながら、部屋を出た。頬には赤みが差している。
 脇目もふらず中央階段を下り、いつもの場所へ向かう。

かくして、大きく広間になっているような部屋に、鎧を着けたままの騎士が跪いていた。
「ただいま、ラフィンさん」
 ラフィンの姿を認めたナロンはうやうやしく一礼する。
だがラフィンは無言のままだった。
「では、報告を」
 構わずナロンは告げる。
この三日間、ナロンはトーラス山に出没した山賊を討伐するため、ヴェルジェの騎士団を率いて出撃していたのだ。
「民や我々に手を出した者にはその場で処罰。その他、五名ほどを捕らえて罪の追求をしています。我々に大きな被害はなし。……以上です」
 それでも無言のラフィンに、ナロンは怪訝な顔をして見せた。
「ラフィンさん?」
「…………遅かったな……」
 ナロンの腕を持ってすれば、たかが山賊など赤子の腕を捻る程度で済む。
「すみません。山道に慣れない兵士がいましたもので」
「……今日の朝には、戻ると聞いていた」
「もしかして、ずっとお待ちでしたか」
「当たり前だ」
 不機嫌なラフィンの姿にナロンは苦笑する。
あんなに慌ててこの部屋に入ってきたというのに。
「……僕がいなくて寂しかったですか?」
「! だ、誰が………」
「仕方ありませんよ。僕はヴェルジェの騎士団長として、次期ヴェルジェ領主であるあなたにお仕えしているのですから」
「………………。」
 それを任じたのは、確かにラフィンであった。
ウエルト凱旋の日、ラフィンはマーロンにそう申し出たのだ。
ナロンの強さを見抜いていたマーロンも快くそれを受け入れ、これでヴェルジェの地は安泰だと胸をなでおろしていた。
「ねえ、ラフィンさん」
 目の前でナロンの声がして、ラフィンははっとした。
ナロンの紫の目と目が交差する。
「寂しかったんでしょう?」
「…………煩い………」
「嘘。」
 ナロンはきまり悪そうに視線をそらすラフィンの両肩に手をやると、そっと引き寄せた。
「……!おい、こんなところで……っ」
その手を振り払う前に、ナロンは唇を重ねてきた。
柔らかい唇の感触に言葉を遮られる。
「ん……」
 それは触れるだけですぐに離れてしまったが、ラフィンは胸の高鳴りを抑えることは出来なかった。
ここは食堂としても使用されている扉のない大広間で、いつ、誰が訪れるかもしれないというのに。
「……こんなところで……こんなところを大きくしてるのはどうしてですか?」
「あ……!」
 意地悪くナロンはラフィンの身体の中心に触れた。
「ち、違う……これは……」
 かあっと顔に朱を走らせ狼狽するラフィン。
しかし、ナロンの手のひらに覆われたそこは服越しに刺激されるだけで体積を増していってしまった。
「嫌だ……手……離……」
たまらずラフィンはそこへ手を伸ばし、止めさせようとする。しかし身体は正直だった。
この三日間待ちわびた刺激に下半身は甘く痺れ、ナロンの手を剥がすことは出来なかった。
「……どうしたの?嫌?」
「ん…………く…………」
 ラフィンの手が手首をんだため、そっとナロンの手がそこから離される。
張りつめたそこは布地を持ち上げ、先端をわずかに湿らせてさえいた。
「はしたないね、ここ、こんなにして」
 その形に添ってナロンが指を這わせると、んん……と切なげな声が上がった。
「僕がいない三日間、ずっと我慢してたのかな?」
ナロンの問いに、ラフィンは頷いた。瞳が熱っぽく潤んでいる。
「そう。嬉しいな」
「あぁ……!」
 微笑みながら、ナロンはそこへの愛撫を再開した。手のひら全体で布を擦られ、衣擦れの音が部屋に響く。
「僕にこうされたくて仕方なかったんだ?ラフィンさんは」
「はっ……ぁあ……!ナロ……」
「ねえ、言って」
「んんっ」
 グリッと捻るようにされ、ラフィンの腰が震える。揉み込まれると、そこは微かな水音さえ響かせた。
「っ…………そう……だ……っ……!おまえ……を、待って……!」
息を荒くしてそう訴えるラフィンの腰は、ナロンの手に向かって突き出されていた。
「ふふっ、いいこだね」
耳元でナロンは囁いた。
「ァ…………っ……!」
 耳を擽る吐息に反応し、身体がゾクゾクと震える。
出していいよと続けられ、ナロンの手の下のそれはあっけなく弾けた。
熱いものが広がるのを感じたナロンは、そこを握りこみ、空いた方の手はラフィンが崩れ落ちないように腰に回した。
ナロンの身体に身を預けるような格好でラフィンは全身を震わせる。
みるみるうちに力が抜け、重くなったその上半身はナロンの腕に抱えられ、後ろの大きなテーブルに横たえさせられた。
「すごい、びしょびしょですね。下着、着けてないのでしょう」
 ラフィンの象牙色をした質のよい絹のズボンには、くっきりと白い染みが浮かんでいた。離れたナロンの手との間に粘り気のある糸を引いてさえいる。
すえた香りが漂った。
「これじゃ、誰かが見たらすぐ分かってしまいますね。あなたが精液をおもらししているのを」
「……っあ…………ハァ……ハァ……」
 まだ熱が引かないのか、ラフィンは高い天井を見つめたまま激しい呼吸を続けている。
やがて、ナロンの視線の先にある欲望がまたムクムクとテントを張った。
「また大きくなってますよ、ラフィンさん」
「ん……ぁあ…………そんな……」
 下腹部に目をやると、しどどに濡れたそこが視界に映る。
ラフィンは困ったような目をしてナロンを見上げた。
「……また触ってほしい?なら、その濡れたズボンを脱いでからにして下さい」
「…………っ」
 そんなこと、素面のラフィンならば出来るわけがなかった。
だが、刺激に飢えた身体を持て余したラフィンは辺りを慎重に見回し、そこに人影がないことを確認すると震える手をベルトに伸ばした。
 カチャカチャと金具を外す音の後、ゆっくりとそれを下ろそうとする。だがいきり勃つ自身が邪魔をして思うようにいかない。
「ん……くぅ…………」
腰をよじるラフィンの姿はひどく扇情的で、しかしズボンは完全に引っかかってしまっているようだった。
「もう……仕方ないなぁ」
「あっ」
 それを見たナロンはラフィンの手ごとズボンの端をむと、一気にずり下ろした。
涎を滴らせた肉棒が弾み、股の間に零れ落ちる。
「あ……ぁ…………」
 空気に曝されたそこは自らの存在を誇示するようにピクピクと震えた。砲身には先ほど出した白濁が絡んでおり、臭気がいっそう強くなる。
「やっぱり……すごいことになってますね」
 ナロンは構うことなくその濡れた肉に手を伸ばすと、扱き出した。
「! ぁっ……!あっ、……ァアっ」
「ふふ、こうして欲しかった……?」
「っ………ぅ…………!」
 突然の刺激に嬌声が響き、ラフィンは慌てて口を覆った。
流石に、声に気付いた誰かがやってくるかもしれない。
しかしナロンに握られたそこはヌルヌルと滑り、嫌らしい音を立ててしまっていた。
全身を突き抜ける快感と羞恥で、ラフィンの顔が真っ赤になる。
「ほら、ここも好きでしょう」
「ンッ……!!」
 ぬぷ、と狭い粘膜にナロンの指が進入したのを感じた。
ラフィンの精液で十分に濡れたそこは易々とナロンの指を咥え、鮮明に感触を伝えてくる。
 くちゅ、くちゅ、という卑猥な音に、心臓が跳ねた。
「ふぅっ……ン……!……んんっ……」
 ナロンの指はあっという間に増え、それらが別々に動きながらラフィンの中を掻き回している。
「キツイね……。本当に、自分で慰めたりしていなかったんですね」
「っ……」
ラフィンはぶんぶんと首を縦に振った。
そう、ラフィンはこの三日間手淫すらせず、ただただナロンの帰りを待っていたのだ。
そうして溜め込まれた熱は今にも爆発しそうなほどに膨らみ、今なおナロンの手に押さえつけられている。
どれほどその刺激を感じたかっただろう。
「ナロン……っ」
「なあに?」
「……れっ…………入れて……」
 両足を大きく開いたラフィンはそう言った。
もはやここが扉もなく、等間隔に並ぶ柱で区切られただけの一室であることはラフィンの頭に於いて忘却の彼方であるようだった。
ナロンは笑顔のまま愛撫を止めると、その長くて細い脚を抱え上げ、あらわになった粘膜に自身を沈めた。
「……!ァ……!」
 激しい衝撃は、すぐに甘い快感へと変化した。
ナロンの熱く滾った肉が敏感な粘膜を擦り上げていく。
「はぁっ……すごい……!……締まる……」
「っあ、アアっ、ハァっ……ハァ…っ」
 より奥へと導こうと、ラフィンは大きく息を吐いた。
その瞬間、ズズ、と音を立ててナロンのものが深く穿っていく。
ラフィンは口を覆うのも忘れ、甘い悲鳴を上げた。
(ナロン……!ナロン………!!)
 夢中でその金色の髪にしがみ付く。ナロンはラフィンの身体を二つに折り曲げるように机に押し付けながらそれに応えた。
悦びに脈打つペニスがナロンの服に擦られるのを感じたラフィンは腰を振り、顎を突き出してキスを強請りさえした。






カツン……

 後方から聞こえた物音に気付いたのはナロンだった。
 口付けていたラフィンから顔を離すと、その方向を見やる。
「な、……ラフィン…………!?」
 そこには、驚きで目を見開き、立ち尽くすマーロン伯の姿があった。

「……っん………、ナロン……」
 口を離されたラフィンは不服そうにナロンの顔に手を伸ばしている。
ナロンは伯爵に見られているのを知りながら、彼の息子ラフィンの唇を貪った。ラフィンも、待ちわびたように口を開けると、真っ赤な舌を伸ばした。
唾液を絡める音が扇情的に響く。

「何をしておるっ!!」

 怒号が響いた。マーロン伯の声だ。
熱に浮かされた状態のラフィンもようやく気付いたらしく、はっと口を離し、その声の主を見た。
マーロンは怒りに身を震わせていた。
「ち、父上っ……」
 その顔がさっと青ざめる。
「何ということだ、離れろ!離れるんだ!!」
 マーロンはずかずかとナロンとラフィンの傍へ近寄った。従者の姿はないのがせめてもの救いだろうか。
「ぁ……ぁあ…………」
 ナロンの下でラフィンは震えだす。
そのあられもない格好を見られては、もはや言い逃れは出来ないだろう。
 だが、ナロンは依然としてラフィンの身を組み敷いたまま開放しようとしなかった。
マーロンはもう、すぐ傍まできている。
「おい、離れろと……」
「申し訳ありません、伯爵様。ですが、離れるにも離れられず」
「何!?」
 ナロンは平然とそう告げてみせた。
上体を起こし、ラフィンの脚を目一杯横に広げると、繋がっている部分が伯爵にも丸見えになる。
「あっ、止め…………」
「…………!」
 絶句するマーロンに、ナロンは続けた。
「……ね、こうやって、僕のを放そうとしてくれないのです。あなたのご子息が」
「違……違う……違うんですっ……義父上……っ!」
 誇らしげに語るナロンの下でラフィンは蒼白な顔になり訴えた。しかしナロンが腰を動かすと、刺激により咽から甘い声を鳴らしてしまう。
「やっ……止めろっ………ぁ……!」
 義父の前だというのに、熱を持った身体はナロンのそれを離すまいと食いつき、一旦は萎えかけた肉棒も、ぴくりと反応を見せた。
「どういうことだ……説明しろ、ラフィン………」
 眉を悩ましく歪め、若々しい肉を曝け出している息子の姿に、マーロンも困惑していた。
「どうって、こういうことですよね、ラフィンさん」
「ぁっ……あぁッ………」
「見ての通り、僕とラフィンさんは……こういう関係なのです、伯爵様」
 息子の尻には深々とその男のペニスが刺さっていた。
腰が揺れると、赤い粘膜がそれを離すまいと咥えているさまがチラチラと覗いている。
「そんな……ラフィンよ……お前はそれで、その男を館に迎え入れたのか…………」
 マーロンの顔の皺が深くなる。
半年前、息子が戻ってきた時のことをマーロンは思い出していた。

『……お願いがあるのです、義父上』
『この騎士を……ヴェルジェの騎士として迎え入れたいのです』
 そう言って現れたのは、一年前、自分が才を見出して息子たちの軍に加えた見習い兵士であった。
まだあどけなさを残しているものの、ラフィン達と共に数多の戦をくぐり抜けたその男は、黄金に光る鎧を纏い、うやうやしく礼をして見せた。
 やはり自分の目は確かだったのだと、今後ヴェルジェはもとより、このウエルト大陸において多大な力となるはずのその男を喜んで迎えることにした。
 ラフィンも、その力を認めたからこそ傍に置きたいと願ったのだ。ゆくゆくはその功績を認め、貴族の地位を与えた後、愛娘エステルと婚姻を結ばせたいものだと……そう、思ってさえいた。
その男が。

「ァアっ!?ぁあああっ……!」
 甲高い嬌声に驚き、マーロンは顔を上げた。その声は紛れもなく息子のラフィンのものだ。
ラフィンはさっきまで血の気を失っていた顔を上気させて喘いでいた。ナロンに突かれ、その身を大きく震わせると砲身から精を放っている。
「っ……ァアっ……!ハァ……っ」
 白い粘液が絹の上着に散り、濃い緑の布地を汚していく。
それはマーロンがラフィンの、「次期ヴェルジェ領主として父上に付き、公務を学びたい」と言う言葉を祝って仕立ててやった公用着であった。
それももはや、皺くちゃになってしまっている。
「……ッ、はぁ…………。ふふ、ラフィンさん、お父上の前でイっちゃったみたいですね」
ラフィンは返事をする余裕もないらしく、顎を仰け反らせて喘いでいる。目じりには涙が浮かんでいた。
「……ラフィン…………」
 マーロンはその憐れな息子の姿に心の中の何かが突き動かされるような気がした。
駄目だ、とそれを振り払おうとするも、テーブルに投げ出された肢体から目を離すことは出来なかった。
「そうだ、面白いものをお見せしますね」
 ナロンはまだ腰をラフィンの中に打ち付けたまま、ラフィンの上着に手をかけた。前あわせのボタンを丁寧に外すと、その下の白いブラウスも同じように脱がせていく。
するとその下から、汗ばんで艶めかしく光る胸板や、引き締まった腹筋が現れた。
「ああ、汗かいちゃってますね、暑かったでしょう」
 しっとりと手に吸い付くような肌をなぞりながら、完全にそれを肌蹴させてしまった。
すると、両胸で何かがキラリと光った。
「! そ、それは……」
「お気づきですか?」
 ラフィンの両乳首に下がる丸い輪っかにマーロンの視線が釘付けになる。
これは僕がつけてあげたんですよ、と楽しそうに言うナロンが忌々しかった。
「む、息子の身体に……このような………」
「ですがあなたの本当のお子ではないでしょう、ラフィンさんは」
「そんな事、関係あるか!ラフィンは私のかわいい息子だ!!」
 マーロンは今度こそラフィンの傍に身を寄せると、ナロンから引き離そうと肩を引っ張り上げる。
「さあ、ラフィン、もうこんな男の元にいてはならぬ、離れるのだ!」
「っん……!ぁあっ………」
 しかし身を引かれたことで中に挿れられたままのナロンのものが振動してしまい、ラフィンは切なげな声を漏らした。
「無理ですよ。ラフィンさんが満足するまで僕を放してくれないんですから」
「くっ……ラフィンよ、何故……」
 再びペニスを勃たせてさえいる息子の姿を目の当たりにし、マーロンは絶句した。
「………ち、父上………っ………見な………」
 刺激に貪欲であり続ける身体を、ラフィンは恨んだ。
だが、一度たがが外れた身体はどうにもならないのだ。
「そうだ、伯爵にもお手伝いして頂きましょう。そうすればラフィンさんも早く楽になれますから」
「何………?」
 ナロンはニヤリと口角を上げると、ラフィンの両胸のピアスに手をかけた。
輪に指を入れ、くいくいと下に引く、
「ひっ……!い……痛っ……痛いっ」
「や、止めろ!」
 マーロンはナロンの手を振り払おうとしたが、その前にナロンの手は引っ込められた。
引き伸ばされた乳首は充血し、真っ赤な果実のように熟れている。
「ラフィンさんはね……こうやって苛められたあと、優しく舐めてもらうのが好きなんですよ」
「な………………」
「さあ、どうぞ。きっと気持ちよさそうな声で鳴いてくれますから」
 とんでもないナロンの提案に、マーロンは狼狽したが、眼下にあるラフィンの乳首は、誘うように震えていた。
かつて見た亡き妻のもののように肥大したそれに、マーロンの思念はたまらなくなる。
「ンッ……ぅあ………ぁ………」
 マーロンは意を決し、その果実に舌を這わせた。
ラフィンの口から甘い声が聞こえると、完全にそれを口に含み、転がしてやる。
「ああっ………やぁ……ぁっ………ち、父上っ、」
白い髭がチクチクと肌を刺す感触に身を捩りながらも、胸にしゃぶりつく父の姿に、ラフィンは眩暈を覚えた。
えもいわれぬ背徳感とは裏腹に、生暖かく這う舌が心地いい。
マーロンも、いくらラフィンが抵抗してもそこから離れようとしなかった。
「あはは、それじゃ逆ですね。親が子供のお乳を吸うなんて」
 愉快そうな声でナロンが呟く。
「伯爵様、胸ばかり責めてないでこちらもきれいにしてあげて頂けますか」
 ナロンはラフィンの下腹部に散っている精液を指に掬い取ると、マーロンの前に差し出した。
「これは……」
「ご子息の子種ですよ。いっぱい、零してしまってますので」
 すえた臭いにマーロンは一瞬顔を顰めたが、分かったと言って身体をずらし始める。
「ひぁ………」
 そのほとんどは豪奢な衣服にこびりついていたが、最初に服の中で漏らしたものが陰毛にべっとりと絡み付いている。それを啜ろうと、舌が這わされた。
今度は内腿に髭が刺さるのを感じ、ラフィンはいやいやと身を捩る。
「ほら、動いちゃ駄目ですよ、ラフィンさん。せっかくお父上があなたの粗相をきれいにして下さるのですから」
「ぁあっ………そんな………」
 ざり、ざりと舌が陰毛の上を行きかう。
その中心でほったらかしにされた砲身が刺激を欲しがり、新たな雫を零してしまっていた。
それを見たマーロンが、先端に蓋をするように指をあてる。
「ひぁっ!………」
「全く……いけない息子だ。これではいつまで経ってもきれいになりそうもない」
 そう言うと、ぱくりと砲身を口に咥えた。
「!! ぁあああっ」
 熱い口腔と舌を感じたラフィンの腰が跳ねる。
構わず、マーロンはその先端を舐り、砲身に垂れた精液を舐め取っていった。
「アッ……ぁああっ……ち、父上っ、ちちうえ、ァアっ」
「おや、良かったですねラフィンさん。そうされるの、好きでしょう?」
 マーロンはひとしきりその若い肉棒を味わうと、真っ赤に充血した先端に執拗にしゃぶりつき、放そうとしない。
先端からとめどなく溢れる先走りを味わうように、舌が鈴口を抉っている。
「いやっ、ァア…!…っ……す、吸わな…………」
 頭を振り乱して悶えるラフィンに応えるよう、マーロンは先端をジュルッと音を立てて啜ってみせた。
「ひっ、ひぃっ………!んあぁぁあっ」
 刺激に耐えられず、そこはビクビクと震えながら、濃い白濁を噴出した。
「くっ!?」
青臭いそれに驚いて口を離すマーロンの顔に、精液の熱いシャワーが降り注いでいく。
「ぁあっ……ぅあぁああっ」
 ラフィンはそれに気付くも、駆け抜ける熱をどうすることも出来ない。
「あーあ……。今度はお父上のお顔を汚してしまいましたね。こんな悪い子にはおしおきが必要だ……そう、思いませんか?伯爵様」
 白い髭に飛んだラフィンの精液を振り払いながら、マーロンはナロンの方を向いた。
「仕置きか……私も、今それを考えていた」
 マーロンの言葉に、ラフィンはショックを受けた。知らず、身体が震えだす。
「ふふっ、そうですよね。僕はやっぱり、こんな悪い子には栓をしてあげようと思うんです」
「栓?」
「ええ……。これでね」
 ナロンが取り出したのは銀色に光る棒だった。
滑らかな表面をした細いそれは、ナロンの手にすっぽりと収まっている。
「これをよく濡らして……と」
 ナロンは零れ落ちているラフィンの精液をその銀の棒全体にまぶすと、萎えたラフィンのものに手をかけた。
「、まさか」
 マーロンの呟きと、その先端がラフィンの鈴口に潜り込むのは一緒だった。
「いっ、痛っ……!ぁああああっ」
 突如鮮明な痛みが突き上げ、ラフィンは叫んだ。
「大丈夫、入りますから」
 ナロンは平然とした顔でその金属の棒を埋めていく。
だがラフィンは、身体の中心を裂かれるような痛みに悶絶していた。
「お、おいっ……止めるんだ!………」
「大丈夫ですって。ほら、もう痛くないでしょう?」
 棒の半分くらいを埋めると、ナロンは問うた。
生理的な涙と涎を顎まで垂らしたラフィンの顔が歪む。
「ひっ……嫌だ……っ……抜いて……抜い……」
「駄目。これはおしおきなんですから」
「やぁっ……ぁああ…………」
 ナロンが小刻みに棒を揺らし始めた時、そこにはこれまで感じたことがないような、えもいわれぬ快楽が走った。  
背筋に電流が走るような心地がし、身体が甘く痺れていく。
「ぁ……ァア……ぅあっ…………ア……」
 マーロンも、ラフィンの声が先ほどとは違う甘さを含み始めたのに気付いたようだった。
「ね、痛くないでしょ。……でもこれじゃお仕置きにならないなぁ」
「ふぁ……ァアン……ア…………」
 尿道をクチュクチュと弄られて悦ぶ息子のさまを、マーロンはじっと見つめている。
「伯爵様、これを」
「っ?」
 ナロンは目でその棒を持つように指示していた。
「早く。お願いします」
「あ、ああ……分かった………」
 マーロンはその棒の先を握った。
ナロンの手が離れると、その棒には尿道から押し出そうとするかなりの圧力がかかっているのを知る。
ズズ……と動いたそれに反応して、またラフィンが甘い悲鳴を上げた。
「しっかり抑えていてください。抜けないように」
「あ、ああ」
 くっと力を込めると、痛い、とラフィンが叫んだ。押さえすぎたようだ。
マーロンはすまんと謝りながらも、その手を離さない。
「っ!ぁああ!!っ」
 悲鳴が大広間に木霊する。何事かとマーロンが見ると、ナロンが再びラフィンの脚を抱えて挿送を開始していた。
腰がぶつかる衝撃で身体が揺れるたびに、ペニスに刺さった棒が鮮烈な刺激を脳に伝えている。
「あぁっ……!も、嫌っ、ぅああーっ、ぁああ」
 狂ったように鳴くラフィンに、マーロンはナロンへ静止を求めた。だがナロンは聞く耳を持たない。
「駄目ですよ。今、ラフィンさんのいいところ……突いてあげてるんですから」
「し、しかし………」
「も、許……てっ、ちちうえ、ちちうえぇっ」
「………!」
 ラフィンの叫ぶ声に、マーロンは銀の棒から手を離していた。
 押さえを失ったそれは勢いよく尿道から押し出されていく。焼けるような痛みが走ると共に、そこに熱いものが通るのをラフィンは感じた。
「――アアッ……!…ぁああ………」
 熱い液体はとめどなく先端から溢れ、机と床を叩いた。
刺激が過ぎたのであろう。ラフィンは失禁してしまっていた。
「ああ……だから言ったのに………しっかり抑えておかないとって………」
「………………。」
 色づいた小水はナロンのズボンをぐっしょりと濡らしながら、机の端から伝い落ちて床に水溜りを形成した。
「や………あふ………ぁ………」
 嗚咽を漏らすラフィンに、ナロンは優しく手を伸ばした。
「よしよし、全部出していいよ……。全部、僕が受け止めてあげる………」
 既にされるがままだったラフィンは、震える手をナロンの頭に添えた。そのまま引き寄せ、胸元へ持ってくる。
すすり泣くその目の端や頬にナロンは口付けを落とすと、唇を重ねた。
 それを見ていたマーロンは、もうかける言葉すらないという風に悟ったらしく、無言で出口へと歩を進めていった。






 静かになった部屋に、ナロンの声が響く。
「……大丈夫?ラフィンさん」
 虚ろな目でラフィンが頷いたようだった。そう、と頭を撫でつつナロンが相槌を打つ。
「マーロン伯は行ってしまわれましたね。やはり、ご老体には刺激が強すぎたのかもね」
 ああ、刺激が強すぎたのは貴方も同じでしたねと、ナロンは笑みを溢した。
ラフィンの粗相でぐっしょりと湿ったそこは、徐々に冷たくなってきている。
「もし、勘当とかされたらどうします?ラフィンさん」
「………………。」
 ラフィンを抱きしめながら、ナロンはそう切り出した。
「………いい……んだ……。俺は………ナロンさえ、そばにいて………くれれば………」
 そうやって、ラフィンもまたナロンの胸に縋りついた。
「そうでしたね。あなたは、それを望んでいたのですから」
 ナロンの胸にはこれ以上ない満足感があった。
――ようやく、手に入れたのだと。

「……でも、いけませんね。こんな風にしていたら貴方は駄目になってしまう。だから僕は、これからもっと貴方を躾けてあげるつもりです」
「………ああ……」
「……嫌じゃないの?ラフィンさん」
 てっきり反論すると思っていたナロンはその瞳を覗き込んだ。赤い瞳が潤み、ゆらゆらと揺れている。
まるで恋する乙女のようだ。
「お前が………して、くれるなら………いいんだ………」
 ラフィンは身も心も、ナロンという男の虜になっていた。
その声が、指が、身体に触れる。それだけで、たまらなく嬉しかった。
そのぬくもりを感じたときは、もっと。
「嬉しい、ラフィンさん」
 ナロンは目の前の愛しい者にキスをする。
「僕は、世界中で一番幸せです。……だって、こんなにもあなたに求められているのだから」
 それを聞いたラフィンは、フ……と微笑んで見せた。
ラフィンも、ナロンと全く同じ気持ちだった。
 
これで良かったのだと、ラフィンは目を閉じた。
意識が、ゆっくりと深い闇に堕ちていく。
その下では、笑顔のナロンが両手を掲げていた。

「好きだよ、ラフィンさん」

その手の中に、ラフィンは静かに身を委ねた。


next