裏切り

「最近、隊長の姿を見ないな」
 ラゼリア城下街が見せる夜の喧騒の中、一人の男が仲間に話しかけた。
「ああー?何だって?」
 問いかけられたほうの男は酒を煽っているらしく、間延びした声で聞き返した。
吹きかけられた臭い息を払いながら、男はもう一度声を上げる。
「だから、ラフィン隊長だよ!ここへ来てから、全然見ねえ」
ガヤガヤと騒がしい居酒屋のカウンターに上体を突っ伏したまま、酔った男は素っ頓狂な顔を向けた。
「……何言ってんだぁお前?あの隊長なら毎日会ってんだろぉ」
「それは分かってるさ、俺が言いたいのは訓練が終わってからのことだ。あの人、すぐどっか行っちまうみてぇで……」
「うぃー……ヒック。どうせ、ナロンどののとこでもいってんじゃねえの?」
 それでこうだ、と右手の親指と人差し指で輪を作り、その間に左手の人差し指を差し込むといった下品なしぐさをして、ニタニタと嗤う。
「いや……おかしいのはそれだけじゃない。」
「へ?」
「あの人の竜も一緒に、姿を消すんだ。」



ラゼリアの海岸から流れくる雲の隙間を縫って、一匹の飛竜が飛行していた。その背には鞍が付いており、手綱を握った男が跨っている。
彼はいつもの一本杉が見える小高い丘を認めると、竜の進行方向を巧みにそこへ誘導した。
難なく短い草の上に竜を着地させると、彼も鞍を降りた。すぐさまグルグルと咽を鳴らして竜が首を伸ばし、主人に甘え出す。
「ガルダ……。」
 擦り寄る硬い鱗を優しく撫でつつ、ラフィンは呟いた。
自分によく馴れたこの相棒は、今のラフィンにとって唯一の安らぎと言ってよかった。

飛竜は卵から孵ったばかりのころから育てたとしても、飼い主に懐くかどうかはその人物によると言われるほど従順させるのが困難な生き物だ。それはひとえに、飼い主が自らを服従させるに足りるかどうかを見極めるという、高い知能を備えているからとされている。
竜騎士の家柄に生を受けたラフィンも、まだ十に満たないころ、生まれたばかりのガルダを与えられた。
しかしガルダははじめラフィンの手から餌を貰おうともせず、その手に何度も噛み付いた。生傷を作りながらもガルダの世話を続けるラフィンだったが、懐かせるまでは数年を要した。
そこまでしても、実際飛竜の背に乗ることが出来る?つまり竜騎士として認められるのは少数だ。
ラフィンは毎日毎日ガルダと共に過ごし、背に跨ろうとしては落とされながら、ようやく騎乗することに成功した。
荒ぶる翼を懸命に力で抑え、調教することで、ついにガルダはラフィンを主と認めたのだ。
その時の喜びといったら、忘れられない。
竜は一度飼い主を主人と認めれば、その忠誠は他のどの生き物より確かである。
現に、シャロンに連れられてきたガルダは離れていた五年の歳月をもろともせず、ラフィンを乗せることを拒まなかった。

「よしよし、もう楽にしていいぞ」
 杉の木の下にラフィンが腰掛けると、ガルダもその横に身を横たえた。頭はラフィンの膝の上だ。
「……甘えん坊なやつだ」
 ラフィンはしかし、そんな愛竜に柔らかく微笑んだ。

ナロンの策略により自らの部下やシャロンにまで失態を曝してしまったラフィンは、いつしかガルダとこうして過ごすようになっていた。ほとぼりが冷めるまでは誰とも接したくないという思いがあった。
早朝から夕刻にかけての軍務が終わり次第、ラフィンは地上・空中を問わず部下達へ解散を伝える。
そして一目散にガルダに跨り、この木の下にやって来ては日が完全に落ちてしまうまで過ごし、夜、皆が寝静まったのを見計らってガルダを檻に戻して自室に戻る?。
それを繰り返す毎日を送っていた。
おかげであの忌まわしいナロンにも、ここ数日顔を合わさずにすんでいる。
ガルダも主人に構ってもらう時間が増えたことに純粋な喜びを見せているように感じられた。

(お前といると心が休まる……)
 ラフィンは目の前に広がる静かな森を眺め、瞳を閉じていた。
このまま、ナロンが自分に対しての興味を薄れさせてくれればどんなに良いか。
事実、あいつが何もしてこないというだけでこの身は安堵に包まれていた。
「あ……」
 張り詰めていた気が緩んだせいか、不意に生理現象を覚える。眠気でも空腹ではないそれは尿意だ。
ラフィンのとっているこの行動には欠点があった。それがこの生理現象。
眠気はガルダにもたれかかっていれば済むし、空腹も、野ウサギや野鳥を狩って調理すればいい。しかし排泄だけはしかるべき場所で行えないというのが唯一の不満だった。
夜、兵舎に戻るまで耐えることのできる日もあるが、大抵この時間になると我慢ならなくなってしまう。
しかし町へ行けばすぐ足がつくとふんでいたラフィンは、仕方なくその場で全てを済ませることにしていた。
何、進軍が長引いたときは普通に行うことだと思い、自身を納得させた。
 突然立ち上がったラフィンに、目を閉じていたガルダは不思議そうに呻った。
「ああ、すまん。……ちょっと待っていてくれ」
 主についてこようとするガルダに静止の合図を出すと、ラフィンは近くにあるいつもの林に向かった。
適当な木を見繕うと、ズボンの前をくつろげ、先端を取り出す。
「…………はぁ……………」
 立ったままぶるりと身を震わせ、放尿する。
水流は木の幹を濡らしながら伝い落ち、やがて地面に吸い込まれていった。
(やはり……慣れないな、こういうことは)
 誰もいないとは分かっていても、どうしても誰かの視線を感じるような気がしていた。知らずに鼓動を早めてしまう。
そうして、いつも数秒で終わるその行為も今日ばかりは雲行きが違っていた。
「っ………」
 先端から雫を落とし、自身を下着にしまいこんでいるとき、クキュ、と腹が音を立てた。すぐにそれは、排泄欲へと変わっていく。
(まずいな……しかし………)
 ラフィンはここに来るようになってからというもの、流石に大きいほうをしたことはなかった。
しかし、腹の疼きは確実に重くなっていく。
(仕方ない………)
 どうせ誰もいないことは分かっていたし、それよりもう街に行くとしても間に合いそうにない。
先ほど締めたばかりのベルトを外し、ズボンを下げつつその場にしゃがみ込んだ。
むき出しになった尻たぶから、プスプスとガスが漏れ出している。
「ふんっ……んっ………」
 また長い間溜め込んでしまっていた塊は水分を失い、岩のように硬くなっているのが分かる。腹の痛みとは裏腹に中々下ってこないそれを、何とかして体外へ出そうと息む声が響く。格闘はしばらく続いたが、その甲斐あってようやく塊の先が蕾から顔を覗かせた。
と、地面を見つめていたラフィンの視界に影が落ちる。

「グルル……」
「っ!?」
 ラフィンが慌てて後ろを振り返ると、そこには見知った緑色の巨体があった。
「ガ、ガルダ!!」
ガルダは長く戻ってこない主人を心配し、おそらくラフィンの匂いを頼りに追ってきたのだろう。
その姿を認めたラフィンの顔がみるみる赤くなっていく。
「馬鹿……!じっとしていろと言っただろう!」
「グル……」
 主人に怒鳴られ、ガルダは幾分か悲しそうな声を上げた。
しかしたとえ竜でも、この状態を見られるのはひどく羞恥をあおられる。
「……大丈夫だから……今はあっちに行っててくれ……っ」
 ラフィンの意思とはお構いなしに、出かかったままの便塊がまた動き始める。蕾をめりめりと押し広げながら、ゴツゴツした先端がついに形を現した。
排泄物で押し固まったそれはひどい悪臭を撒き散らしている。
「ん………くぅ………っ」
 早くそれを出してしまおうと、ラフィンは夢中で息み出した。それだけ力を込めてもまだ、ほんの数ミリずつしか出てこない。後方のガルダは主人の尻の穴に詰まった黒い塊をきょとんとした目で見ていた。
(くそ……こうなったら……)
 あまりに硬いそれにを業を煮やし、ラフィンは自らの尻の両側に手を伸ばすと、思い切って左右に割りひらいた。
大きく口を開けた穴を、ゴツゴツとした便が擦り始める。
「く、ぁ………っ」
 瞬間、大きな破裂音と共にようやく最初の塊が地に叩きつけられた。続いて、幾分か小さいサイズのものが飛び出し、どさどさと折り重なっていく。最後のほうは水っぽくなっていたため、尻たぶの周囲をべっとりと汚した。
「…………ふぅ……」
 腹の中の全てのものを出し終え、ラフィンは安堵の息をもらした。
しかしはた、と気づく。
汚れた尻をどう処理するかと。
「…………。」
 あいにく、紙のような気の利いたものは持っていない。
仕方なく近くに生えていた葉を何枚か毟り取ると、よく揉み解し、それで尻を拭った。
 あまり満足とはいかなかったが、とりあえず不快感が無くなるとラフィンは立ち上がり、乱れた衣服を元通りに直した。
「グル」
「ガルダ……お前やっぱりまだそこにいて、見ていたんだな」
しかし竜相手に怒る気にもなれず、ラフィンはそそくさとその場を離れることにした。もちろん、排泄物に足で砂をかけ、痕跡をなくしてからである。
思っていた以上に山を築いていたそれと、汚れの付いたまま散乱している葉っぱの様子に恥じながら、一本杉の元へ戻った。ガルダも、主人のあとをのしのしとついてくる。
まるで何事もなかったかのように、一人と一匹はその場に腰を下ろした。海から吹いてくる風が、ラフィンの紅潮した頬を冷やしていく。
その後遠くに見える波が月の光を受け、きらきらと輝き出すまでそうしていた。






「あ、隊長!待って下さい」
 部下の一人が呼び止める声を聞いて、ガルダの翼を翻そうとしていたラフィンは「何だ」とぶっきらぼうに呟くと手綱を引く手を止めた。
「質問です。隊長はこの後どこに行かれるんですか?」
興味津々といった風に尋ねる部下の言葉に、ラフィンは眉を顰めた。
「……そんなこと、お前には関係ないだろう」
それ以上言う気になれない。
「ええっ……でも、いつも兵舎にも戻らずにどっか行ってしまうじゃないですか。俺たち、気になって。なあ」
 うんうんともう一人の部下が相槌をうっている。
確かにこう毎日夜まで姿を消していては、いつかこのような猜疑心が周りの者に生まれると考えていなかったわけではない。ナロンにさえ知られなければばいいので、義妹やシャロンにどうしたのかと聞かれればすぐ教えるつもりでいた。
しかし、それをこいつらにまで答えてやる義務はないはずだ。
「煩い、もう俺は行くぞ」
無遠慮な態度の部下に構わず、あの場所へ向かおうとした。
「……もしかして、ナロン殿のところですか?」
不意に聞こえたその声は、ラフィンの頭に血を上らせた。
声のした方を睨みつけ、咄嗟に怯んだ男の襟首をつかみ上げる。
「!!」
「冗談もほどほどにしろ」
凄みをきかせてそう告げると、更に強く締め上げる。
「っ、す、すみませ……隊長……」
「……」
謝罪した部下を解放すると、そいつは咽を押さえて咳き込んだ。周りにいた部下たちも、水を打ったように静まり返っている。
「二度と、俺の前であいつの名前を口に出すな」
 そしてラフィンは瞬く間に空のかなたへ消えた。

「ゲホッ、ゲホッ……クソっ、何なんだよ!」
「……ありゃよっぽどナロン殿を怨んでやがるぞ」
 残された部下の数名は、地上に降りてから口々にさっきの出来事について話していた。
「そうは言っても、気になるんだよなー」
 しかし、ラフィンは頑なに追求を拒んでいる。
「こうなったら、ナロン殿のお力を借りようではないか」
 一人がそう提案すると、そうだな……という声が続く。彼らの足はナロンの元へと向かっていた。
 
中央の訓練場にいたナロンは、彼らから話を聞くなりこう切り出した。
「……知ってますよ」
「え!?」
ナロンに会うやいなやそう告げられ、部下たちの目が一様に丸くなる。
「ああ、いえ。ラフィン殿がここ数日、城から姿を消しているということは、ですよ」
「なんだ……驚いた」
「でも、僕はもう目星をつけているんです」
 ええっと再度どよめいた彼らの期待に応えるべく、ナロンは声のトーンを落とした。
「お願いがあるんです……それをきいてくれたら、今夜、僕はあなたたちをラフィンさんの元へお連れしますよ」
「俺たちに出来ることなら、なんでも協力するぞ!」
「どんなことだ?」
協力的な竜騎士たちに向かって、ナロンはまた不敵な笑みを浮かべた。






 ラフィンは突如現れた彼らの姿に、困惑を隠せないでいた。
しかも、その中央にはあの……
「探しましたよ、ラフィンさん」
 堂々たる表情のナロンが口を開く。
「何故……ここに…………」
早鐘を打つ心臓を押し隠し、相対する彼にそう問いかけた。尾行されたわけでもない。それなのに、なぜ……
「情報、ですよ」
「何だと」 
得意げな顔のナロンは続けた。
「ラゼリアでね。この数日間、僕は訊いてまわったんですよ。この辺りで竜騎士を見ませんでしたかって。始めは手がかりをつかむのに随分苦労しましたが、ようやく、『街外れの一本杉がある丘に、飛竜が降りるのを見た』という情報を手に入れたんです。」
 得意げに語るあいつの執念に、ラフィンは眩暈を覚えた。
やはりナロンは少しも自分への興味を薄れさせてはいなかったのだ。いや、むしろその強さを再確認して、底知れない恐怖すら感じる。
「それで、あなたの部下の方々の飛竜に乗せてもらって、ここまで来てみたら……やはり、あなたがいたという訳です」
「俺はてっきり、ナロン殿のところかどっかの女の部屋にでも転がり込んでると思いきや……自分の竜と一緒にこんなところに隠れてたとはなぁ」
 まるで面白いものを見るような目で、部下はラフィンとその横で唸り続けるガルダを見ていた。
「……………。」
 ラフィンはもう動かなかった。
もしここでナロンから逃げたとしても、きっとあいつは地の底までも追ってくるだろう。逃げ場を失った蛙は、どうあっても蛇に食われる運命にある。
だがそうみすみすとやられる気はなかった。
今傍らにはガルダがいる。もしナロンがあと一歩でも近づけば、即座にガルダをけしかけ、すぐには立ち上がれないくらいの傷を負わせてやるつもりだった。
だが。
「淋しかったですよ。僕は」
「……!?」
 そのナロンの瞳に大粒の涙が光っているのを目にし、ラフィンは至極動揺した。
「……もう、あなたに会えないかもしれないって。あなたは僕のところには帰ってきてくれないんだって……。あなたが姿を消してからというもの、僕は不安と絶望の毎日だったんです。」
 あれだけ自分に辛くあたってきた相手が、涙を流している。もやもやとした感情が、ラフィンの胸を覆う。
「………何故……それなら………………」
(もっと普通に接してくれないんだ!)
 危うく口をつきそうになった自らの言葉に、信じられないという気持ちが滾った。
(……俺は何を考えているんだ?あいつが原因で、今の今まで逃げ回っていたのではないか。そんなあいつに、俺は何を……)
 ラフィンはひどく困惑していたが、やがてナロンが口を開いた。
「グスッ……あはは。でも、ラフィンさんがお元気そうでほっとしました」
 赤くした鼻の下を擦り、照れ笑いのようなものを浮かべるあいつは、年相応の少年に見えた。

「何だよ何だよ、見せ付けやがって」
「結局ただの痴話喧嘩かぁ?」
 不意に飛び交った野次に気づいて、ラフィンはまた険しい目を部下に向けた。しかし、今度はあいつらも怯む気配がない。ナロンという後ろ盾を得て、皆一様に気が大きくなっているらしい。
「ケッ、始めるならさっさと始めろよ」
「俺たちも手伝ってやったんだぞ!?あんな高い薬……」
(薬?)
 ラフィンがそれは何のことなのかを尋ねる前に、ナロンが動き出していた。
「……そうでしたね」
 冷ややかに呟くナロンの顔に、もう先ほどのようなあどけなさは微塵も感じられなかった。またあの冷たく、残忍な刃を光らせている。
「……っ!ガルダ!!」
 迫るあいつに、俺はガルダへ指示を飛ばした。躊躇いはない。
だが、ガルダに飛びつかれたあいつの悲鳴や血しぶきは、いつまでたってもあがらなかった。
「……ガ……ルダ………?」
 ガルダの様子がおかしい。苦しげに呻りを上げると、その場に伏してしまった。
慌ててその体に近寄る。
「ガルダ!どうしたんだ!?ガルダ!!」
「大丈夫ですよ……。おいたをする子には、ちょっと眠ってもらいました」
 これでね、とナロンが見せたのは、液体の滴る小瓶だった。
あいつはガルダに飛び掛られる瞬間、それをガルダめがけてふりかけたのだろう。
「……ッ、貴様……!よくもガルダをっ」
「正当防衛ですよ。今のは。」
「黙れ!!」
 ラフィンはは腰の剣を抜くと、ナロンに斬りかかった。自分の竜をこんな目にあわされて、竜騎士なら逆上しないほうが難しい。愛情を注いでいればなおさら、だ。
「うぐっ」
だがナロンはまたしてもその瓶の中身を、今度はラフィンの口腔めがけてぶちまけた。
甘ったるいにおいと共にクラクラと目がかすみ、バランスを失ったラフィンはあえなく地面に転がった。
「それ、人間にも効くんですね」
まるで知らなかったという風な声が降って来るが、ラフィンはもう立ち上がることすら出来なかった。強烈な痺れで、手の中の剣が握れない。
「誰か、ラフィンさんを起こしてあげて」
二人の部下がそれぞれ両肩を抱え、ラフィンは無理矢理立たされる。
「……な……!……せ……!」
 痺れは口の中に浸透し、上手く言葉が紡げない。
「流石、四王国に伝わる特性の痺れ薬だな。あんたも知ってるだろう?竜を捕獲したりするのに使うアレさ。」
 それを聞いてようやくラフィンはあの小瓶の中の液体を理解した。とりあえずガルダの命に別状はないと分かり幾分か安堵する。しかし、あれは……。
「なあに?ラフィンさん」
ラフィンの目の前に立ったナロンは、その瞳を覗き込んだ。
「……あ………、……は……」
「……そろそろ、本格的に効いてきた?」
 ビリっと布の裂ける音がした。
ラロンの手には先ほどラフィンが用いた剣が握られており、それで衣服を切り裂かれたのだ。
「ゃ………め………!!」
 ナロンや部下たちの目の前で、全てが剥ぎ取られていく。歓声と口笛が鳴った。
「いいぞ!一気に破いちまえ!!」
 さらに周りの部下たちも思い思いにラフィンに手を伸ばし、肌に貼りついていた僅かな布地まで剥ぎ取ってしまう。
あっという間に、ラフィンの身体は生まれたままの姿になった。
「何だ!?これ」
「ぁ……ぁあっ………」
 部下が驚きの声を上げるのも無理はなかった。ラフィンの胸には、隠すことの出来ないピアスが光っていたのだから。
「ああ、それはね、僕がつけてあげたんですよ。僕の所有の証としてね」
「すげ……痛そう……」
「隊長、鎧の下に、いつもこんなモンぶら下げてたのか」
ラフィンが羞恥に顔を赤らめたのにはもう一つ理由があった。薬液をかけられてからというもの、じわじわと、甘い感覚が身体の中心からわきあがってきたからだ。
(そんな……嘘、嘘だッ)
「おい、隊長の、勃ってねぇ?」
「うわ、ホントだ」
「!!」
 その指摘どおり、ラフィンの雄根はひくひくと震えながら鎌首をもたげていた。
「俺たちに淫乱な乳首見られて勃起しちまったのかぁ?」
嘲笑が上がる。しかしラフィンのそれは本人の意思とは逆に益々硬さをもっていってしまう。
(嫌だ……!見るな!!俺を見るなぁっ!!)
叫び声を上げたくても舌は回らず、咽から情けなくうめき声をもらすだけしか出来ない。
「すげえ、触られてもいねえのに……もうピンピンだぜ」
「乳首も立ってるぞ」
 遠慮なく浴びせられる言葉に、ラフィンの身体は火照っていく。
「どうですか?あの薬のお味は?」
「ぅ……う………ぁ…………」
 あの痺れ薬には副作用的なものとして、催淫効果があるということを、ラフィンは幼いころ今は亡き父から教わっていた。それにより、連れ帰った竜をすぐ交配させられる利点がある……と聞いていたことを、まさか自分の身で味わうことになるとは夢にも思わなかった。
 口から摂取された薬は血液によってその効果を身体の隅々まで廻らせ、甘い毒がラフィンの身体を支配しようとしていた。必死で気を逸らそうとしても、身体の中心はマグマが吹き上がるように煮え上がり、さらに痺れがそれを増長させて下半身を包み込む。
敏感になったそれは空気に触れるているだけで悦びの涙を流した。
「……ぅ、うあぁ………ァ……」
「おい、ガマン汁噴きやがったぞ!」
 トロリと先端から糸を引いて落ちるそれに、男達は釘付けになった。
その液体が滴る感覚でさえも刺激となり、ラフィンのそれはもはや完全に上を向いてしまっていて、そこに視線が触手のように絡みついた。小さく口を開けた先端からは泉のように透明なものが湧き出し、全体をつやつやと光らせている。
「一体、どうしたんですか?ふふっ……」
「……ァ……アッ……!」
 ナロンの手がそれをもうと伸びてくる。が、それはラフィンの欲望に触れるか触れないかのところで止まってしまった。
しかし敏感になっている欲の塊は、ナロンの手の気配を感じただけで十分に刺激を感じてしまい、新たな粘液を噴出して嬉しそうに跳ねた。
「すげぇ……女みたいに濡れてるぜ」
 左肩を支える男がゴクリと生唾を飲みつつそう教えてきた。耳と首筋に息がかかり、皮膚が泡立つ。
(言うな……そんな、……ああ……)
 もはや自制をきかすことの出来ない身体は、さらなる高みへ上るためかしきりに快楽を求めていた。欲望が乾ききり、まるで砂漠の中で水を求めて彷徨うような苦しさを覚える。だが、依然としてナロンの手は動かないままだ。
ラフィンの思考は今にもばらばらに霧散しそうになっていた。
(どうして……そこ、擦って……くれ……な……)
 たまらず、ついにナロンの手に自身を擦り付けようと腰を動かしていた。早く快楽に身を委ねてしまいたいという心がラフィンを蝕んでいた。
「……ふぁ、………ぁああ……ぅ」
 だが全身に残る痺れのせいか、それはあまりにゆっくりとした動きにしかならず、易々とナロンに手を引っ込められてしまう。
「……ぁあ………」
「どうしたの?……物欲しそうな声出して。ああ、そんなに僕の手で弄ってもらいたいのかな…?」
 そう言うとナロンはラフィンの目の前に手を持ってきて丸い輪を作ったかと思うと、まるで自身を扱き上げるような動きを見せつけた。
妖しく動く指が、もし、敏感なペニスに直に巻き付けば……。否応なくそんな妄想をしてしまう。
ラフィンの眉間に寄せた眉が切なく歪められた。
「ぁあ……っ、あ……」
 気づけばさっきよりも腰を突き出し、その全体を大きく揺らしていた。刺激を求めるあからさまな姿に、部下たちは顔を見合すと、また雨のような嘲笑を浴びせかけた。
「いいぞ!もっと腰をふっておねだりして見せろ!」
「ほおら、こうしてほしいのかなラフィンちゃんは?」
「!!」
 男たちの手がナロンのものと混ざり、更にラフィンの肉棒へと近づけられる。だがそれはどれも敏感な肉に触れる直前で意地悪く離れてしまう。
ラフィンは気が狂いそうな心地でその手を必死に追いかけては腰を揺らした。
「……ふぅっ……ぁあ……っ…………」
「ほらほら、こっちだ」
 すんでのところで快感をおあずけにされ、嬲られ続けるラフィンのペニスは、まるで悪い男にちょっかいを出されて泣く少女のようにしどどに涙で濡れていた。焦らされる辛さで、ラフィンの目にも光るものが浮かぶ。
それに気づいたナロンは優しく語りかけた。
「泣くほど僕の手が欲しくてたまらないんですか?だったら、もっとしっかりお願いしてみて下さい」
「……ぁう……ぅ……、う…………!」
 懸命に舌を動かすも、やはりそれはビリビリと痺れて持ち上がることすらなかったため、言葉にならない声がもれるだけだった。
切なさで、真っ赤になった目尻から涙があとからあとから伝い落ちていく。
もう限界だった。
ほんのひとこすりでいい。それだけで、ペニスに篭る熱を開放できる。そう確信するくらいラフィンの神経は高ぶっていた。
しかし。
「……どうやら、僕の手はいらないみたいですね。」
いつまでも言葉の返ってこないラフィンに、ナロンはそう判断を下したようだ、
(違う?!頼むから、頼むからっ……!)
必死の叫びはもちろん届くはずがない。
「じゃあ、彼ならいいですか?」
 そう言うと、ナロンは身体から離れていってしまった。
ああ……と切なげに目を伏せ、ひたすら身体を渦巻く熱に喘ぐラフィンに、大きな影が近づいた。
「!」
それまでとは全く違うものの存在を感じて両目を開くと、そこには人間ではないもの?全身を包む緑の鱗を逆立たせ、耳まで裂けた口から涎を垂らしながら赤い舌を垂らす大きな生物?が蹲っていた。
(ガルダ??!)
しかしガルダは、ラフィンの案じていたとおり荒い息を吐き、ラフィンと同じく興奮しきった様子だった。いつも鋭い金の目は、焦点を失って濁っている。
全てあの薬の成分のせいだ。
(やめろ……これ以上、ガルダに何をするつもりだ……)
快楽に身を委ねてもなお、ラフィンは愛竜のことを気遣っていた。ぼやけた視界の中、必死でナロンを探す。
「ふふっ、あなたと同じように、随分息巻いてますね。ガルダ……だったかな?」
果たしてナロンはガルダのすぐ横にいた。ラフィンが自分を認めたのを確認すると、するすると逆立った鱗に手を伸ばし、優しく撫でる。それをガルダは嫌がらない。
ラフィンの心が締め付けられた。
(俺にしか……懐くはずはないのに……、しかも、あいつなんかに………ッ)
どうしようもなく悔しかった。
しかしその手を見るうちに、またラフィンの下腹部が心臓のように激しく脈打った。あんな風に、俺も擦ってほしいのに……と、いつしかその気持ちは羨望へと変わっていた。そんな望まない欲求が、ラフィンの精神をますます貶めていく。
「さあ……ご主人様は僕より君のほうがいいらしいんだ。だから、遠慮なくここを刺激してあげてよ」
「……っぁ!……な……っ」
ナロンの指差したのは紛れもなくラフィンの勃起しているペニスだった。
「そりゃあいい、てめえの竜に慰めてもらう竜騎士なんて、見ものだな」
部下はナロンに指差されてピクピクと嬉しそうに跳ねる砲身を見て下卑た笑いを上げた後、ラフィンの両脚を肩と同じようにして担ぎ上げた。それを左右に割り広げ、股座を突き出す屈辱的なポーズにさせると、そのままガルダの方へ近づけていく。
「……やぁ…っ!……や……!ぁああ………!」
 ラフィンの必死の抵抗は男に触れられている箇所の痺れを誘発するだけで、その微弱な刺激が彼を余計に苦しめていく。
気づけば、ラフィンの股間のすぐそばに、ガルダの頭があった。
(嫌だ……俺のこんな姿を見ないでくれ、ガルダ……っ!)
しかし、ガルダはそれに興味を示さなかった。
幾分かほっとしていたラフィンだったが、それではナロンの気が済まなかったらしい。
「……どうしたの?ご主人様のここ、舐めてごらんよ。きっとおいしいよ」
ナロンはそう言うとラフィンの肉棒めがけて、あろうことかあの小瓶をふりかけたのだ。ピシャッと、液体が肌にはじける。
ナロンの言葉に青ざめた顔に、一気に血潮が押し寄せた。
「ァアアアッ!……アッ!」
冷たい刺激はすぐ灼熱の熱になって沸きたち、全体を包む。そこが溶けてしまったのかと思ったほどだ。血管が浮くほどに膨張した淫肉に、ガルダは鼻先をヒクヒクと鳴らし、近づけ、その口を開いた。
涎を垂らした肉厚の舌があらわれ、甘い薬液にまみれたペニスに伸びてくる。
ガルダは本能に忠実に、それを舐めとろうとしているのだ。
(駄目だ……!!そんなことをされたら、俺は……!)
 ぬらぬらと触手のように蠢くそれから逃れようとするよりも強い力で、ラフィンの腰は男たちによって突き出されてしまった。
「!!!」
その舌に肉棒が押し付けられた瞬間、ラフィンの思考は真っ白になった。
これまで味わったことのない刺激に、ラフィンのペニスは狂喜して、大きく震えながら白く濁った粘液を吐き出していた。
「ゥアアア!!ァアッ??!アアアァッ!!」
ペニスに触れる待ち望んだ肉の塊は、さらにそれを絡み、さすり、遠慮なくこね回した。ピチャピチャと淫らな水音と共に、鈴口から精液が噴出す音が混じる。
顎を仰け反らせて吐精し続けるラフィンの咽からは、獣のような咆哮が上がった。
「すげえ、自分の竜の口ん中で射精しやがった」
「どれだけスキモノなんだ、こいつ……」
「ヒァ……あぁンッ……やめ……ひゃ、ぇっ」
 ガルダはラフィンの静止も聞かず、一心不乱にその肉棒を嬉しそうに舐めしゃぶっていた。まるで口の中に放った飴玉のように敏感な肉を転がされ、痺れの薄まってきた口腔から言葉のようなものが紡ぎだされていた。
しかし激しすぎる刺激のせいで、それは甲高い悲鳴か、あるいは嬌声にしか聞こえない。
精を吐き出し終わってもなお巻きつく舌に、痛みに近い感覚がまき起こった。粘膜のむき出しになった亀頭が濡れた舌にのめりこみ、ざらついた熱い肉壁に擦られると、ラフィンは一瞬にして身体の中のもの全てを放出したくなるような思考に支配された。
「ァッ、アアッ?!!りゃ、……めぇっ、ぅあぁあ、アアアアァ???!!!」
 動かない全身を戦慄かせると共に、ジョオオ……と濡れた音がラフィンの下腹部から響いた。驚いた部下たちは目を凝らすと、そこには時折ガルダの舌に遮られながらも、先端から色づく液体を迸らせる砲身があった。
新たな痺れ、そして刺激が強すぎたこともあり、ラフィンはついに失禁までしてしまったのだ。
「傑作だな、とんだご主人様だ」
「うぁああっ……いや……い、イぁ、……い……ァア……」
流れを止めようとしても、完全に制御を失った蛇口は小便を滝のように激しくガルダの口の中に叩きつけた。
しかしラフィンは、内臓の熱を凝縮したその液体が尿道を擦り、狭い口をこじ開けて噴出する時の熱い飛沫にさえ甘い痺れを感じてしまっていた。
ひっきりなしに上がる声は先ほどと同じような甘さを含み、ハァハァと喘ぐ口には赤い舌が浮いている。
「おしっこがそんなに気持ちいいんですか?」
ナロンにそう指摘されるまで、そんなにも顔が緩みきってしまっていることにすら気づかなかった。
ふと周囲を見やると、部下はそれぞれ、ある者はニタニタと嘲りの表情を浮かべ、ある者はまるで汚いものを見るかのような蔑んだ目をラフィンに向けていた。
すると、今まで水流を口の中にかけ流されていたガルダまでが、それを避けるようにして離れていってしまった。
あとに現れたのは、透明な唾液でびしょぬれのペニスからみっともなく尿を垂らす自らの姿。
「……ぃ……や……っ、みるな……っ……みるなぁっ……」
「今さら何言ってやがるんだ、淫乱め」
「流石のガルダも、あんたの小便は不味くてもう飲めないってさ」
 ほれみろ、と脚を抱えていた男たちは、ガルダに向かってラフィンの小便をひっかけようとそれを動かし始めた。 
飛沫が少し顔にかかり、ガルダは逃げるように頭を引っ込めた。
「いや、ぁあ……っ!も……やめてぇ……ひゃめ、……ッ……」
男たちのあまりの仕打ちに、ついにラフィンは泣き叫んだ。愛するガルダに、これ以上不快な思いをさせたくない。    
それなのに自分のせいで、ガルダを汚してしまった。
ガルダはきっと俺のことを心底嫌いになったに違いない。
そう思うだけで、心が悲痛な叫びをあげた。



「……そこまでにしろ」
 凍りつくような声に、浮かれたったその場はしんと静まり返った。
ラフィンの嗚咽だけが周囲に響いている。
「言ったでしょう。僕のラフィンさんを泣かせていいのは僕だけだって」
 ナロンは冷たい目で部下たちを圧倒すると、ラフィンの頭を優しく撫でた。
「ごめんね。ちょっと虐めすぎた」
「………ッ、…………」
「あなたは本当にこの竜を愛しているんだね」
「……も……ガルダを…許し………て……やって、くれ………っ」
咽から搾り出すようにそう訴えるラフィンに、再び異変が起こる。さっき何度も苛まれた熱が、じわじわとぶり返してきたためだ。
熱は意思に関係なく身体を支配し、欲望はあっという間に鎌首をもたげ、先端に重い粘液すら滲ませている。
(もう、もう嫌だ……!!どうして……俺の身体は……!)
 勃起したそこを指摘されるのにかかる時間はわずかなものだった。淫乱め!と声がかかり、たまらず俯く。
「……あなたも苦しいでしょう?でも、ガルダだって今のあなたと同じくらい苦しんでいるんです。だから、今度はあなたがガルダに奉仕してあげなきゃ」
ラフィンはその言葉にハッとしてガルダを見た。ガルダもやはり、荒い息を弾ませ、苦しげに呻いている。
(ガルダ………!)
 すぐにでも駆け寄ってやりたい。だが四肢を拘束された身体では、手を差し伸べてやることすらできない。
「……どう……すれば……………」
 ナロンはラフィンの質問に答えるべく、ガルダの傍へ近寄った。
「見て、ラフィンさん」
 ナロンはガルダの俯いた上体を押し上げると、下腹部を指し示した。そこには、鱗と同じ色をして隆々と勃ち上がっているガルダの生殖器があった。
長さ三十センチはあるだろうか。先端からは大人の拳ほどの鮮やかな赤が覗いており、白っぽい粘液が絡んでいる。
人間には持ちえないグロテスクなそれに、一同は目が離せなくなる。
「こんなになっているでしょう……?これを鎮めてあげればいい。ガルダのように、と言いたいところですが、あなたのかわいらしい舌じゃあとても満足させられないでしょうね。」
 確かに、あの大きさではたとえラフィンが舐めしゃぶってやったとしてもナメクジが這うほどの刺激も与えられないだろう。
それでは、どうすればいいのか……。
「じゃあ、ここを使うしかないでしょう」
「!?」
 ラフィンの元に戻ったナロンは、ぐいと、男たちによって突き出されたままの尻肉を片手でつかみあげた。
隙間から赤い粘膜がチラリと顔を覗かせる。
「な、何だと!?」
 驚きの声を上げたのはラフィンではなく部下だった。ラフィンはあまりのことに絶句していたからだ。
「そんな、相手は竜だぞ!?もしそんなことをしたら、ただじゃすまねえ……」
「うるさいな」
 ナロンは憤る男を睨みつけた。
「あなたたちは、ラフィンさんをしっかり支えてあげていればいいんですよ」
 ここにきて、部下はようやくナロンの尋常じゃない精神の構造に気づいたようだった。

しかしナロンは全く気にしないそぶりをしながら、ポケットからあの小瓶を取り出している。
「……これで最後。僕は、あなたにも愉しんでもらいたいですから」
 そう言って、その瓶ごとラフィンの尻の穴に押し挿れた。
「??あああぁああああっ!!」
 冷たい薬液が粘膜に染み込み、奥へ奥へと流れていく。
それが触れたところには瞬時に焼けるような熱さと、棘を持った虫が這うようなむず痒さが走り、ラフィンは絶叫した。ペニスも硬く、熱をもったままだ。
「さあ、ガルダ……今度はあそこだ。分かるね……?」
グル、とガルダは一鳴きすると、ラフィンのそこめがけて身体を突進させた。ひぃっ……!とラフィンは身体を引き裂かれる恐怖におののく。
それをすんでのところでナロンが押しとどめた。
「ううん、違う、違うよ。まずは舐めて、濡らしてあげないとさ。ラフィンさんが壊れちゃうよ」
 息を巻くガルダを片手で静止させ、もう一方の手はラフィンの後孔に這わされていた。濡れているそこを親指で強引に押し広げ、ヒクつく内部に人差し指を挿入する。
「はぁっ……!ア、ンンッ!!」
「ほら、この蜜を舐めてごらん」
 人差し指でクチャクチャと内壁を擦られ、ざわざわとした感覚が背筋を通り、一気にそこに集まる。
ようやく感じたナロンの手の感触に、身体は喜びを隠し切れなかった。
「ぁううっ、はんっ、は、あぁ……!アッ………!」
 身をよじってよがるラフィンを、ガルダの瞳は捕らえていた。なるほど、そうすれば主人は悦ぶのかと、ガルダは学習したようだった。
たちまち赤い舌を伸ばし、ナロンの指を押しのけるようにその媚肉を貪った。
「ふぁあっ……!や、らぁ………っ!!」
 ぐにぐにとした舌の感触を感じたラフィンが叫ぶが、ちっとも嫌ではないことを体積を増したペニスが教えていた。ガルダも甘い薬液の味を感じ取り、夢中でその肉の壁を啜りあげていく。
「ようし、そうだ。それでいい」
 ナロンはもう自分が見本を見せなくても大丈夫だと思い、指を引き抜くとガルダが舐めやすいように身体を横にずらした。すぐさまガルダはその空いたスペースに身を捻りこみ、穴の奥へと舌を進めていく。
「ぁあっ!?アアッ……はぁあッ!」
ジュルッ、ジュルッといやらしい音を立てているのを聞くだけでラフィンの頭は朦朧とした。長い舌は柔らかくラフィンの肉を解し、薬のせいもあって狭い場所を拡げられる痛みはほとんどなく、ただ甘酸っぱい快楽が下肢に充満していた。触れられていないペニスは歓喜に震え、白っぽいものを混ぜた雄汁を流してさえいる。
熱い。ただ熱い。
舌が栗ほどの大きさの器官をそのザラついた表面で擦り挙げると、ラフィンは目の前で閃光が弾けるのを見た。
両脇の男の腕をむ手をさらに握り締め、動かないはずの腰がガクガクと揺れたと思うと、上を向いていたペニスから白濁が顔まで飛び散った。
熱い迸りに、しかしガルダは気づかず、その長い舌をさらに奥へと……伸ばしていった。
「ァっ……ふぐっ……ア………!」
 痙攣しながら、ラフィンは懸命にガルダに何かを伝えようと口を動かした。しかし唾液が咽に入ったため変な声が出ただけで、ガルダの動きは止まらない。
ラフィンは、それ以上奥へ行くなと言いたかった。
舌といっても、ガルダのものはゆうにナロンの一物を超える長さをしていて、それ以上深いところを弄られる経験は、ラフィンにはまだなかった。
「ぁ………ああああああっ」
 次第に恐怖に陥ったラフィンは錯乱した。
狂ったように泣き叫ぶラフィンを見たナロンが慌ててガルダに舌を抜くよう指示した。しかしガルダはなかなか離れず、ナロンが首を圧迫してしばらくすると、ようやく頭を引き戻した。
それも一気にである。
「ぅうっ!!ア、…ッ!!」
 再びあのイボイボで性感帯を擦られ、ラフィンは目を剥いた。穴の入り口はめくれ上がり、しどどに濡らした粘膜を外気に曝している。
と、ぱっくりと開いた鮮やかなピンク色のそこから、汚らしい茶褐色の塊が吐き出された。
 悪臭に気づいた周りの者はすぐ不快な顔をし、鼻をつまんだ。舌をあまりに奥に入れられたせいで、直腸内に溜まっていた便が下ってしまったのだ。
 はじめラフィン本人も、大便を失禁していることに気づかなかった。しかし呼吸が整いはじめるとじきに身体の感覚を取り戻し、腹の中をぶちまけている自らの様子に気づいた。
かといって、最早どうすることもできなかった。
「…ぁあっ……ぁ……ぁあ、ぁ………」
 捲りあがったままのそれがおちょぼ口のように窄まると、次々に便塊を産み落としていく。ひり出す時の恥ずかしい音もひっきりなしに続いた。
「……ッ、臭え……最低だな、アンタ」
「この前から下がゆるすぎるんじゃねぇのか?」
 男たちに何を言われてもラフィンはすすり泣くだけだった。確かに、これは自分が悪い。それにすぐ目の前にはガルダがいるのに、汚物がかかりでもしたらどうしようかと、不安で仕方がなかった。
しかし、その不安は意外な形で裏切られる。
「お、おい……ガルダのやつ、見ろよ……!」
右脚を抱えていた男が動揺した声を上げた。何だ、と相槌を打った左側の男が、うっと驚愕する。
「クソ食ってやがる……」
その言葉にラフィンの視界は真っ暗になった。
嘘だろ!とざわめく男たちに混じり、ジュル…ジュル…と何かを啜るような音がはっきりと聞こえた。
「うわぁああああっ!!嫌だ!止めろ!!止めるんだ!!ガルダぁっ」
 叫びもむなしく、ガルダは地に落ちた汚物を全て腹に収めると、今度はそれが出てきた穴に舌を伸ばしてきた。
 ぬめった感触を知ったラフィンは泣き喚いた。
「止めろ…!やめろぉっ……!そんな……っ、嘘だ、嘘だぁぁあ」
 ラフィンは首を振って、誰かガルダを止めてくれと、叫んだ。しかし誰もガルダをラフィンから引き剥がすことはしなかった。ガルダの舌は便に汚れた襞の隅々まで舐め回すと、奥へ進んだ。
「ひぃっ……ひぃぃっ……」
 おぞましさや罪悪感、そして刺激される気持ちよさ。それらの感情が入り乱れたラフィンはか細い声で悲鳴を上げ、むせび泣いていた。舌はまた先ほどと同じくらいの深さまで沈むと、満足げに抜き出された。その途中、ラフィンの腹には新たな白濁が塗りつけられていた。

「すごいや、まさかガルダがそこまでラフィンさんを好きだったなんて思わなかったな………。僕には真似できないや」
 能天気に呟くナロンだったが、ついに部下の一人がラフィンを抱えていた手を離した。バランスを崩したラフィンの身体は、ドサッと音を立てて芝生に転げ落ちる。
「なっ」
「もう我慢ならねえ。俺は、帰るぞ」
 男は吐き捨てるように言うと、ラフィンたちに踵を返して自らの飛竜を繋ぎとめている場所へ向かった。
「……俺も、もう……」
「あんたらには、付き合いきれねえ。……うぷっ」
 部下たちはそれに続き、その場から立ち去っていった。ガルダのしたことにかなり興を削がれたのだろう。
「…………。」
 ナロンは何も言わず、倒れたまま涙を流しているラフィンの上半身を抱き上げた。身体にまるで力が入っていない。土の付いてしまった髪を優しく払った。
 その後ナロンはあの部下たちが竜を駆り、去ってゆく姿を見届けた。
「これでやっと静かになりましたね。……ホントはもっと早く消えて欲しかったんです。あんなやつら、ここまで僕を運んでくれさえすれば用はなかったですからね」
 ラフィンは無言である。絶望に濡れた目で、空を見つめていた。
「さぁ、ラフィンさん。へばってる場合じゃないですよ。あなたにはガルダの性欲を処理するという大事な仕事が残ってるんですから」
 ナロンの言葉に、ラフィンはぴく、と震えた。やはり、そうしなければならないのか。そうしなければ……。
 座ったままの体勢で、ナロンはラフィンの背中を抱くとガルダの方を向かせた。ガルダの様子は先ほどと変わらず、荒い息を吹きながらじりじりとラフィンへ巨体を近づけてきている。
目の前にまで迫ると、腹から飛び出している生殖器がちょうどラフィンの白くぬめった腹に擦れた。
「よい、しょっと」
「!!」
ナロンは渾身の力でラフィンの腰を抱えると、その大きな身体を地面から浮かせた。
そして、ガルダの雄の先を指で手繰り寄せると、ラフィンの後孔にぴたりとあてがう。
 そうして、手を離した。
「あ、ぁああっ」
 ズブズブと音を立ててその赤い肉は狭い穴を押し広げながら埋まっていった。ナロンが手を離したため体重がその一点にかかり、慌ててラフィンはガルダの鱗に両手を這わし、その侵入を止めようとした。だが鱗はつるつるとすべり、引っかかるところもない。
ラフィンはなりふり構わず、ガルダの腹に必死でしがみついた。
「……ひ、ぃっ……!たすけ……ナロンっ、下ろし……!ナロンっ!!」
 ラフィンはナロンに救いを求めるが、ナロンはもう動くつもりはないらしかった。
その間にも、ずぶすぶと太い肉棒は沈み込んでいく。
「あー……そんなにしがみ付いてるの見たら、やっぱり妬けるなぁ」
 確かに、ガルダの胴に手を回したラフィンは、一見するとガルダにきつく抱きついているようにも見えた。
待ちわびた恋人を放すまいと、懸命に腕を回しているような。
「………ひぅっ……ひ……ぃ……!!」
 ラフィンの尻たぶからは白く粘ついた液体がこぼれていた。きっと、中のガルダが放出したものだろう。そのぬめりのせいで、ついにラフィンの身体がガルダのものを完全に銜え込んだ。
 動かなくなったラフィンに気をよくし、ガルダが腹部揺らしはじめたので、ラフィンが金切り声を上げた。
よほど苦しいのだろう。ナロンはそこではじめて救いの手をわき腹に差し入れてやる。ズズッ…と濡れた音と共にラフィンの身体を引き上げてやった。
「ぐぁ、あ……!はぁっ、ぐ………」
 しかしナロンが手を離すと、再びずぶずぶと肉棒が埋まってしまった。もがくようにラフィンはガルダに身体を押し付け、身体を支えようとする。
「も……い……ぁだ……っ………いぁっ………」
 すすり泣くラフィンに、今度はガルダが短い前足を伸ばし、ラフィンの両肩を捕らえた。そして、誰にも渡すまいとしっかりと指を食い込ませると、ゆさゆさと上下に揺すり始めた。
「ああああぁああっ!!あ、――っ!!」
ジュポジュポと抜き差しをされ、ラフィンは悲鳴を上げて許して、とガルダに縋りつく。蕾の隙間からは泡立った精子が流れ落ちていた。
これだけされても粘膜が裂けてはいないらしく、血は流れていない。やはり薬がまだ抜けていないのだ。現に、許してという声はもうガルダの名を求愛するように呼ぶ声に変化している。
「……ァッ、……アウ……ッ…………。ガルダ……がる、だ………ッン」
 ラフィンの腰が、グロテスクな性器を招き入れるようにして蠢きだしたのをナロンは見逃さなかった。
よく見ると、彼はガルダの鱗の肌に自身の高ぶりを擦り付け、甘美な性感を味わってさえいるようだった。彼の顔は上気し、いつしか静かな丘には甘い喘ぎが奏でられはじめる。
 

すっかり日の落ちたそこには、飛竜と抱き合いながら、熱っぽくその名を呼ぶラフィンの姿があった。



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