拉致

(う……うう…………)
呻きと共に意識が覚醒した。
まず目に入るのは自らを覆う柔らかい布団、そして天井。
(ここはどこだ、俺は何故眠っていたんだ……?)
確かめようと体を動かしたその時、鋭い痛みが腰に駆け上がった。
「つっ……」
思わず起こしかけた上体を丸め、痛みに耐える。
腰がキリキリと引き攣れるような痛みに。
(そうだ……)
思い出した。この痛みは全てナロンによってもたらされたものだ。
(俺は、あいつに………)

「目が覚めました?ラフィンさん」
「!」
「あ、ここ僕の部屋ですよ。身体も汚れてたので、きれいにしておきましたから。」
「、貴様………!……つ……」
「あ、あまり無理をしない方が……」
ナロンは心配そうにラフィンヘと手を伸ばす。
「触るな!」
ラフィンはその手を思い切り振り払った。
「誰のせいでこんな目にあったと思ってるんだ!」
ラフィンが発する怒りの声に、ナロンは一瞬、びくりと肩をすくませる。
「……とにかく、俺は部屋に戻るからな!!」
ラフィンはナロンを押しのけて立ち上がった。
下に敷いていた薄いシーツを起き上がるのと同時に剥ぎ取り、素早く腰に巻き付けると、ずかずかとラフィンは部屋の扉へと向かった。
歩く度に嫌な痛みが下半身に響くが、今はそれに構っている場合ではない。このままナロンと一緒に居るのは最早耐えられなかった。
それを見て、慌ててナロンはラフィンに追いすがる。
「ラフィンさん!」
ナロンはラフィンの前に回り込み、行く手を阻んだ。
「どけ!」
「い、嫌だ………絶対に逃がさない……」
「……そうか」
「!!」
突然、鈍い音と共にナロンは床に崩れ落ちた。ラフィンがナロンの鳩尾に、躊躇うことなく拳の一撃を入れたのだ。
「…………………。」
倒れたナロンを見て、ラフィンはようやく胸のすくような気分を覚えた。
(これで、やっとこいつの側から解放される……。)
床に突っ伏したナロンを邪魔そうに避けて歩くと、部屋の扉のノブに手をかけた。だが、いくら捻ってもガチャガチャと空しく音が響くだけで、回らない。
おかしいと思い注意深く見ると、そのノブの周囲には鎖が取り付けられており、それを束ねるようにして小さな南京錠がかけられている。
(俺をそう簡単に逃がすつもりはないということか……………!?)
「くそっ」
 バンッと扉を叩きつけたが、木製の扉は厚く、容易く破れそうにもない事など見てとれた。
扉にもたれかかり、部屋を一瞥する。
カーテンの閉じられた窓、乱れたベッド、壁際の木製机、そしてベージュ色の絨毯に転がっているナロン……と、点々と落ちている赤い血痕。
それを見て、ラフィンはナロンに裂かれた秘所の傷が開き、出血していることに気づいた。痛みがずっとひびいているのもそのせいだ。
兎に角、鍵を見つけねばここから脱出できない。
ラフィンはまず机の引き出しを開け、中身を引っ掻き回しながら鍵を探した。だが、それらしき物は一向に見当たらない。机の上にも数枚の書類が散らばっているだけだった。
(畜生、何処に隠してやがる……)
早く見つけねばナロンが目を覚ましてしまうだろう。
「っ……う………!」
またも駆け上がった痛みでラフィンは思わずその箇所へ布越しに手をやった。じわ……と血が滲む感覚がする。
ラフィンはおぞましさに溜らず、その場へ膝を付いた。
(畜生……)
改めてナロンから受けた陵辱行為に苛まれる。
何故、こんな仕打ちを受けねばならないのだろうか。
しかも男である自分が。
そういう性癖を持つ人間も世間に存在しているということは知っていたが、まさかナロンがその類の者だとは思わなかった。
かつて、ヴェルジエで初めて顔を見た時には夢にも思わなかった状況だった。

あいつは男の癖に上目遣いがやけに目に付いて、そのくせ俺を心から尊敬していると言っては俺にまとわりついていた。
ひ弱なあいつに俺はろくに相手をしていなかったが、戦闘を重ねるうちにあいつは他のどの兵より頭角を表し、あっという間に俺と同等……いや、最近はそれ以上の力を示していた。
生まれ持った戦闘における奴の才能に、凡兵たちはいざ知らず、この俺ですら僅かに嫉妬したというのに。
それでも、周りに対しては妙にへりくだった態度のあいつは、いまだ俺に向かって羨望の眼差しを向けていた。

だがその視線に込められていた邪悪な念を改めて悟り、ラフィンは心底ナロンに嫌悪感を抱いた。
「この、下衆野郎……」
侮蔑の言葉を吐き捨てる。
だが既に自分はそんな奴の餌食にかかってしまったのだ。

(早く鍵を探さねば……!)
そろそろとラフィンが立ち上がるのと、ナロンが上体を起こすのはほぼ同時だった。
「!」
それを見て、しまったとラフィンは舌を打つ。
「はは……ひどいじゃないですか、ラフィンさん……」
「………………」
そのナロンの声は穏やかではあるが、先程のものとは全く違うトーンだった。低く抑揚のない声にラフィンはたじろぎ、息を詰める。
「じっとしてて下さいって、言ったのに……」
あくまでゆっくりとした速度で、ナロンはラフィンに近づいていく。
「よ、寄るな……、っ」
「……ほら、血がこんなに出ちゃってますよ」
ナロンの手がそっと肩に触れた。と、弾かれるようにラフィンはナロンから逃げるため激しく身を引く。だが今度はナロンもそう簡単に離そうとはしない。
ナロンの顔が、否応なくラフィンに接近していく。
「やめ……!止めろ!止め………」
「可愛い、ラフィンさん」
「んっ……!」
ラフィンが口を閉じた瞬間を狙って、ナロンは唇を攫った。
軽く啄むようなキス。
「っの……!」
グッとラフィンは両腕に力を込めると、渾身の力でナロンを突き放した。
湿った唇を手の甲で何度も擦りながら離れる。
ナロンはそれを捕らえるべく追った。
「怖がらないでいいですよ、ラフィンさん」
ナロンの右手がラフィンの腕をわしみ、一気に引き寄せる。
「離せっ!離せ、このオカマ野郎……!」
言葉が終わる以前に、ナロンはラフィンをベッドヘと突き飛ばした。ラフィンは白いシーツにうつ伏せに倒れ込む。
「うぐっ!」
ナロンはラフィンの体に覆い被さると、身動きが出来ないように体重をかけた。
ラフィンの両手を素早く後ろ手に纏めてしまい、ポケットに忍ばせていた細い紐状の物を取り出すと、それを両親指に回し、素早く真ん中の留め金を引き固定した。慣れた手つきだった。
「何の真似だっ!この……」
ラフィンはナロンを振り払おうと腕を振り上げようとしたが、それは叶わなかった。両親指だけが離れないのだ。
細い指錠は小さな硬い革のベルトのようなつくりをしており、ラフィンの力をもってしても引きちぎることは出来ないようだった。
「くそ、外せっ!」
「暴れないで……。また血が出てますよ」
ナロンは身動き出来なくなったラフィンの腰に巻かれたシーツを取り外すと、背骨から腰骨にかけてつっと指を這わせた。
「はっ……」
ぞくりとした刺激にラフィンは息を飲む。
「傷の具合を見せてもらいますよ」
「ッ……!止め………!」
制止も聞かず、ナロンは両手でラフィンの尻肉を左右にかき分け、その秘部を曝した。
外気に触れたそこを、ラフィンは無意識に収縮させたため、血で赤く染まった襞がまるで生き物のようにヒクヒクと動いた。
「ああ、力を抜いてもらわないと、傷がどこか分からないじゃないですか」
そう言うと、ナロンはさらにその襞までをも開こうと、強引に指で粘膜を押さえ付けた。
「ひっ!止め……っ!、痛っ!」
無理にこじ開けられたそこからまた血が流れる。
熱を持ったそこは、ナロンの指の感触を感じてより熱く蠢いていた。
「ううん……裂傷と、あと内の方も切れてるみたいですね。じゃあ薬を塗ってあげますから、じっとしてて下さい。」
ナロンは一旦ラフィンから離れると、壁際に置かれた棚へ向かった。
放り出されたラフィンは何とかしてベッドを降りようと這うが、拘束された指のせいで思うように身体が動かない。
「ッ……くそ…………」
どうにか上体を起こして、ベッドの上に立て膝を付いたところで、またナロンが近づいてきた。
「もういい加減観念したらどうです?さあ、足を開いて……」
「だっ、誰がお前などに……! 」
睨み付けるラフィンにナロンはため息をつく。
「仕方ないなあ………」
「!!」
ナロンはラフィンを再び押し倒すと、無防備に投げ出された長い足の片方をみ、肩に担ぎ上げた。大きく股を割り開かされる格好になったため、ラフィンの顔が羞恥に火照る。
「畜生、離せっ………!」
ナロンに捕らえられていないもう一方の足で脇腹を蹴り付けようとするが、不自由な体勢のせいで思うように力が伝わらず、足は虚しく宙を切る。
「やっぱり暴れますね。……自分が今どんな体勢してるのか分かってますか?ラフィンさん」
笑いを堪えるようにナロンは目を細めると、空いている左手でラフィンの曝け出されたままの中心を握り込んだ。
「っ!!」
「ここは後ろがちゃんと治ってから相手してあげますから、じっとして下さいね。」
萎えたままの柔らかいそれをまれては動くに動けず、ラフィンはやっと静止した。
「じゃあ薬付けますね」
ナロンは側に置いてあった瓶の蓋を開けクリーム状の軟骨を指に付けると、ラフィンの後孔へ塗り付けた。ひやっとした感触に身を震わせる。
「っ………」
ナロンの指は優しく円を描くように襞を撫でまわし、隅々まで軟膏を塗りこんでいく。
指に何度も新しい軟膏を掬いながら。
「ぅあ……!」
つぷりと音を立てて粘膜の内部に指が入ると、ラフィンは僅かな痛みに身体を強ばらせた。
「大丈夫ですか?もう少し力抜いて下さい。息を吐いて………。」
ナロンはそっと、もう一方の手が抱え上げたままの脚を撫でる。嚢く指は、尚も秘部に白いクリームを塗り付けていた。

「これくらいでいいかな?」
ようやくナロンは抱えた足を肩から下ろすと、軟膏の蓋を閉じた。
抵抗を再開しようとラフィンは身じろいだが、尻にあるヌルヌルとした感触の気持ち悪さに動けないでいたため、腹立たしさを露わにした顔でナロンを睨むだけに留まる。
だが、当の本人は目を輝かせながら自分が薬を塗った箇所やらを見つめていた。その視線にますますラフィンは不愉快になる。
「たっぷり塗っておきましたから、うーんと……多分、二、三日で良くなると思います。」
「だから、誰のせいで…!」
ラフィンが抗議しようとしたそのとき、ナロンが身体に覆い被さった。
「な、何の真似………」
「ああ……ラフィンさん………大好きです。」
ナロンはラフィンの胸に頬を擦り付けて、光悦の表情を作る。
「ラフィンさんの身体……思った通りすごくスベスベしてて、気持ちいいなあ」
「や、止めろ、気色悪い!」
猫なで声で身体をゆっくりと撫で回し始めたナロンに、吐き気を覚えた。
「お前は狂っている!俺にこんなことをして何になるというんだ!」
「………僕はずっとラフィンさんが好きで……。昨日、その大好きなラフィンさんと僕は繋がることが出来たんですよ。僕……今とても幸せなんです」
ナロンの手がラフィンの長い髪の毛先を愛おしげに弄ぶ。黒味を帯びた赤黄色の毛束を、くるくると指に巻き付けては離す、それの繰り返しだ。
「俺にその気がないことくらい、貴様も分かっているはずだ!もう止めてくれ!!」
「関係、ないですよ」
「な…………?」
「ラフィンさんが僕を好きかどうかは関係ないんです。ラフィンさんを僕のものに出来れば、それで十分ですから」
「!」
やはり、ナロンは狂っているようにしか思えなかった。

「あ、そうだ」
ナロンはまたごそごそとポケットをまさぐると、何かを取り出した。
「見て下さい、ラフィンさん」
そう言って目の前に差し出されたのは、黄金色に輝く小さな石を中心に据えた二つの金属で出来た輪っかだった。
大きさは二つ並べても一寸にも満たない。
その石の輝きには見覚えがあった。
ナロンの髪の色と全く同じ色だったからだ。
「分かります?ピアスですよ。母が以前、お守りにってくれたんですけど………。僕は恋人が出来たら、真っ先にこれをプレゼントしようって決めてました」
「な……まさか…………」
「付けてあげますよ。……ここに」
そう言ってナロンが指を指したのは、あろうことかラフィンの胸にある小さな突起だった。
「馬鹿な……!そんなことをしてみろ、ただでは済まさん!」
「ちょっと痛いかも知れませんね」
「聞いてるのか!? 、止、めっ!……ぐっ」
さっき腰に巻いていたシーツを丸めたものを、無理矢理口に押し込まれる。
「舌を噛まないようにね、念のためですよ。僕も人にピアスをしてあげるのは初めてなので、どの位痛いのか分かりませんから」
「ッ……!んぐっ!む……」
左側の乳首を摘まれたと思った次の瞬間、ピアスの針が一気に突き刺さった。
「!」
頭を突き抜ける鮮烈な痛みに、ラフィンは声にならない悲鳴をあげる。
「はぅっ……う………く………」
針の刺さった箇所がその瞬間から熱く熱を持つ。
恐る恐る胸へと目をやると、紛れもなく先ほどのピアスが左の乳首に貫通して、金色の光を放っていた。両端から僅かに血も滲んでいる。
信じられないといった表情でラフィンはナロンを見返したが、ナロンは至って態度を変えていなかった。むしろ楽しそうにさえ見える。
「わあ、意外と簡単に刺さるんですね!これ。……じゃあ、もう一個はどこに付けようかなあ………」
「っつ……!ううっ………!」
「耳?」
ナロンの冷たい指先がラフィンの耳に伸び、耳たぶを軽く摘まれる。
「うんっ、んっ……」
ラフィンは慌ててかぶりをふった。
「嫌ですか? うーん、じやあ…………、そうだ」
 そろそろとナロンが次に手を伸ばしたのは、
「っ……!!」
「ここにしましょうか」
ナロンはラフィンの萎えたままのそれを掴むと、キラキラと光るピアスを近づけていく。
冗談では済まされない事態に、ラフィンは必死で叫んだが、口内に詰まったシーツのせいで出るのはくぐもった呻きだけだった。
「ここ、刺しちゃっていいですよね……?すごく震えてるけど」
「ううっ……!ぐっ………!」
恐らく身体中で一番敏感なそこにピアスなどされれば、想像を絶する痛みを味わうことになるだろう。言い知れぬ恐怖がラフィンに襲いかかるが、ナロンは全くお構い無しに雁首の部分を見定め指でなで付けている。
「この辺にしようかな……縦に刺すか横に刺すか………」
ピアスの針がついに赤い肉に触れる。
「んんっ…………!ううーっ!!うーっ!!」
激しく呻きを上げるラフィンの顔をナロンは見やる。
「流石に、痛いでしょうね」
ナロンの顔が邪悪に歪む。その紫の目は獲物を狙う獣のようにギラついていた。
「っ・…うう………う………」
ナロンの本気を感じ取ったラフィンはぎゅっと目を瞑り、襲いかかるであろう痛みと恐怖に耐えていた。
だが明らかに怯えるその仕草をひとしきり眺めると、ナロンは満足そうにふっと表情を緩めた。
「……やっぱりここは止めて、こっちにしますよ」
「っ…………!?」
「せっかく二つあることですし、左右でセットにしたほうがいいですよね」
ナロンはそう言うとラフィンの右乳首をつかみ、一気にピアスの針を通してしまった。
「つ!」
再び突きあがった痛みにラフィンは口内の布を食いしばって耐えた。額には汗が光っている。
「すごい……。綺麗ですよ、ラフィンさん」
ナロンは恍惚としてラフィンを見下ろした。
両胸のピアスは金に光り、その金具が刺さった部分に滲む赤が絶妙なコントラストを作る。
「あ、安心して下さい。ここもちゃんと消毒しますから」
「っ…………!う、ううっ、っ……!」
ナロンに戯れに突起に触れられる度、火を持ったように熱いそこが痛む。
ラフィンはその痛みにただ堪え続けるしかない。
長い髪は額に汗で張り付き、猿轡のようにシーツを銜えさせられた姿は淫靡以外の何でもなかった。
「そんな顔しないで下さい……すごく、そそられますから………。」
外しますよ、とナロンが言うと、ようやくシーツが取り払われた。
ハァハァとラフィンの荒い呼吸が響く。
それを見て、ナロンは柔らかく微笑んだ。
「……ッ……貴様………、俺にこんな………とをして、一体、何になるって言うんだ………!」
ラフィンの声は半ば、譫言のように力が寵もっていなかった。
「何になる?………そんなの、決まってますよ」
ナロンはラフィンの両胸を示すように指でなぞる。
「これは、あなたが僕のものだという証ですから」
「ふざ、け……!」
「それじゃあ薬塗りますよ」
「っ!あああっ!!」
先ほどの軟膏を乳首に塗られ、傷に染みる酷い痛みが思考をかき乱す。
「っ、ハア………、う……」
怒りがその痛みのせいで霧散していってしまった。悔しさにラフィンは目を閉じ、顔を背ける。
瞳にはうっすらと涙が滲んでいた。
「ああ、泣かないで下さい」
「……れが……泣いて、など…………」
「怖かったですか?それとも痛い?ねえ……」
まるで小さな子どもをあやすような口ぶりのナロンに、ついにラフィンが耐えかね、大声を上げた。
「黙れっ!!もう俺に触るな!それ以上近寄るなっ!」
「大丈夫、ほら、ここ触ってあげますから………」
「っ……嫌だ、触るなと言っ………!」
不意に萎えたままの性器を扱かれ、ラフィンの声が上ずる。ゆるゆるとわき上がる甘い感覚に強張った身体の力が抜けていった。
「わ、もう濡れてる」
「嫌だ……っ!あ……っ……、嫌……」
クチュクチュと水音を立てて擦られ、みるみるラフィンの顔に朱が走る。
「ラフィンさんは痛いのと気持ちいいの、どっちが好きなんですか?」
「!」
ナロンが空いた手で片方のピアスに軽く触れた。
それだけで鮮烈な痛みがラフィンの感覚を支配する。
「うあ!ああっ……!!っあ」
「へぇ……結構痛いの好きみたいじゃないですか。いっぱい、溢れてますよ」
「あ!あ……!ああっ………!!」
胸のピアスをいじる間もペニスを扱く手は止まらず、連続する快楽の中に混じる痛みで頭が真っ白になってゆく。
やがてその痛みすら快楽の一部であるかのように、混乱した神経は認識し始めた。
「はあっ……あ………、っ、ああ……うんっ………!」
少し力を込めて、軟膏と血でぬめった乳首をピアスごとつまみ上げても、ラフィンのそれは萎える兆しすらない。
寧ろビクビクと波打ち、新たな雫をナロンの指に垂らした。
「あは、すごい……。もっと痛いのがいいのかな?」
先端にその雫を濡り広げるように素早く指で擦られたため、自然と腰が揺れる。
「っ……、ちが、………そんな…………ッ!」
ラフィンの言葉は途中で喘ぎに変わった。
「違う?違わないでしょう。こんなにして…………」
「ぁ、あっ………ハァ……んっ………」
ぴんと先端を弾かれ、ラフィンの口からは熱い息が漏れた。散らばった先走りを指の先で戯れになぞられる絶妙さにたまらず、その指を追うようにラフィンは腰をくねらせた。
「僕を誘ってるんですか?それじゃあ……僕のこれ、ここに挿れてもいいですか?」
ナロンはそう言って自らの猛るものを取り出すと、ラフィンの後孔にそれをあてがった。
「!!」
咄嵯に何をされるのか感づいたラフィンが驚きで目を見開く。
「さっき塗ってあげた薬でベトベトだから、このまま行きますよ……」
「っ???!!?」
傷ついたままのそこが易々と肉棒を受け入れられるはずもなかったが、べっとりと塗られていた軟膏のぬめりがそれを内部へと推し進める手助けをした。
もちろん傷口からは新たな血が滴り、前以上に激しい痛みがラフィンに襲いかかる。
「うああぁぁっ!!あっ!ぁああっ」
あまりの衝撃に、自らの爪が刺さるほど拳を握りこみながら、ラフィンは上体を大きく仰け反らせた。しかしナロンは上に逃げる腰をしっかりと抱えると、強引に自身を埋め込んでいく。
「ラフィンさんが悪いんですよ……。痛いのが、善い、みたいな素振りをするから……」
「っあ!!抜いっ、……!ぃ、……ぁあ……!!」
息も絶え絶えにラフィンは懇願したが、ナロンのそれはズブズブと嫌な音と共にすべて体内に納まってしまった。
結合部は血みどろで、まるで処女が破瓜したような赤い染みがベッドに広がっていた。
「すご……熱いし……それに…………」
「………っ………ぅ……………!」
「やっぱり、善いんですね……」
ナロンはいまだ天を仰いでいるラフィンのペニスを確認すると、満足そうに腰を揺らし始めた。
「ひっ……う、動っ……な、……ぁ、あ………!」
「すごい、僕の、食いちぎられそう…!ああ、もう……」
「ぅああ……あっ……」
「ラフィン、さん……もっ……一緒に……!」
ナロンは両の手でラフィンの乳首をピアスごと捻りあげる。瞬間、頭の中を眩い閃光が貫いた。
「ああああぁああっ??!!」
悲鳴にも似た声が上がるのと同時に、ラフィンは意識を手放した。体内のものがいっそう膨張しながら、熱く滾った粘液が放出されるのを感じながら。

ナロンの放った精でどろどろになった下半身をベッドに投げ出したまま、ラフィンは眠っている。
目を覚ましても、もうラフィンはナロンに対してあからさまな抵抗を見せることはなかった。
「更に傷がひどくなってしまいましたね」と言いながら、薬を塗るナロン。それをラフィンはぼんやりと、他人事のように眺めていた。
傷が完治するまでナロンが再びラフィンを襲うことはなかったが、長引く痛みにただ耐え続ける日々が約三日続いた。
自室に戻ることは許されず、その間を延々ナロンの部屋で過ごした。戦において、目立った動きがないということだけが唯一の救いだった。

そしてようやくラフィンが自らの部下に顔を合わせた際、「暫く体調を崩していた」と軽く告げると、部下もそれ以上を追求することはなかった。
もっとも、ナロンの工作で面会を謝絶されていた妹や王女からの非難と心配はその限りではなかったが、以前と変わらぬラフィンの姿を見るとみな納得を見せた。

……けれどその服の下では、金色のピアスが妖しく光を放っていた。


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