[ リュシオンVSペレアス――その後 ]
←(前編)
「ここがお前の天幕か。よし、分かった」
そう言うとティバーンはペレアスの待つ中へは進まず、入り口の幕を閉じて元来た方へ身体を向ける。
「水浴びしてくるから、その間にそれ食ったり準備してろ」
「えっ…」
慌てて呼び止めようとしたが、幕から顔を出した時にはティバーンの姿は既に茂みの奥へ消えてしまっていた。
一人残されたペレアスは暫し幕の端を握ったままその風に靡く暗がりの方を所在無げに見ていたが、言われた通り天幕の中央に吊られたランタンに灯を入れると、持たされた食事に口を付ける。
ティバーンの意図は、ペレアスには分かっていた。
(僕も身を清めに行きたいけど…)
そう思った矢先、天幕の入り口が開いて翼の生えた大きな体躯がくぐり抜けて来た。貌に大きな十字傷のある彼はいつも額に巻いている赤いターバンを解いて、水が滴る髪の毛先を拭っている。
「待たせたな」
「いえ…、僕も今食べ終えた所ですから」
つかつかと歩きながら指で寝台の方を指し示すティバーンに、ペレアスは立ち上がりつつも戸惑っていた。
「あ、あの…僕も沐浴に...」
「いい、後にしろ」
「あっ」
机代わりの木箱の前でおろおろと立ち竦むペレアスの肩を鷹王は痺れを切らしたように掴むと、奥の寝台に向かって押し倒した。板の上に乾いた藁を散らしシーツで巻いただけの簡易的な寝台は、その衝撃でバン、と大きな音を立てる。
「いっ…た…」
「おう、俺も手荒にしたくはねえからな…さっさと脱げよ」
既に上着をはだけて厚みのある上半身を露にしたティバーンも寝台に上がると、ギシリと板が軋む音が響く。終わる頃には敷板が割れているかもな、と冗談交じりに呟く鷹王の下で、ペレアスもいそいそと衣服を寛げていく。
丈の長い紺色のローブと首がつまった肌着を脱ぎ、寝台の脇に丸めて置いたところで、ティバーンは再びペレアスに軽く口付けると白い首筋を吸った。
熱く生々しい吐息を項に感じて身動ぐ背中を、後ろから回された大きな手が捕まえる。
「あ…僕…、今日はまだ、身体も拭けてなくて…」
「構わねえぜ?」
「に、臭いとか...その」
「臭い?お前の臭いなんざ…」
ペレアスの露出した薄い胸から腹にかけて、ティバーンは大袈裟に息を吸いながら頬擦りをすると、まだ腰の回りで完全に解けていなかったベルトごと下履きをずり下ろした。
「あっ」と声を上げるペレアスに構わず、そのまま一気に膝まで白いズボンを剥ぎ、膝の下のブーツも一緒くたにして背後に放る。
「そうだな、この辺りでようやく分かる程度か…?」
「っ…!!ぁ」
その間もペレアスの腹部に鼻先を密着させたまま、さらに鼠径部の窪みを下り、申し訳程度に生えている下の毛に息を吹きかける。びくりと強ばらせた腰を両手で捕え、もう一度わざとらしく息を吸い上げてやると、駄目だ、とペレアスは顔を真っ赤にして消えそうな声で訴えてくる。
身体の中心にある雄の象徴、まだ立ち上がっていないそれの先端に被る皮をクイと引き上げてやると、ようやく何ともいえない性臭がティバーンの鼻を擽る。それよりも、綺麗な色の亀頭の端々に白い粕が付いている方が気になったので指先で濾ぎ落とすべく軽く引っ掻くと、刺激が強いのか、ビクンと腰を跳ねさせてペレアスは駄目を繰り返した。
駄目、駄目ぇ…と細い指を手の甲に伸ばしてくるのを、こんなカス付けとく方が駄目だろうがと一蹴すると、眉根を八の字に寄せて黙ってしまった。
見える部分が綺麗になったところで丸く艶やかな先端に指を置き、もう一度息を吹きかけてやると、ンッ...と声を震わせてペレアスが身動ぐ。
少し立ち上がった性器、その下に下がる袋のさらに下の匂いも確認しようと薬指でクイと持ち上げる。滑らかな丘のように膨らんだ白い会陰が目に飛び込むと、確かにペレアスが言うようにそこがいつもより蒸れたような臭いになっているのを認識できた。が、ティバーンにとっては取るに足らない些事である。
「駄目、駄目だっ……、もう、そんな所…、嗅がないで欲しい…」
「何が駄目だ、気にし過ぎじゃねえか?」
「ほ、本当に…っ…、変な臭いじゃない…かな……?」
「残念ながら俺はそういうのに鈍いんだとよ…。おまえこそどうなんだ?」
「どう、って…」
「俺の臭いで気が萎えるか?」
「そんなことは……」
「本当か?そうら、こっち向け、交代だ」
ティバーンはペレアスの仰向けの身体の横にギシリと腰を下ろすと、下履きを完全に脱ぎ去り、胡座をかくように片膝を立てる。その中心で屹立している性器を片手で軽く扱きながら、もう片方の手でペレアスの頭を掴み引き寄せた。
「あ………」
眼前に現れた太い肉の塊にペレアスは驚きつつ、血管の浮いたそれから目が離せないていた。
嗅いでみろ、という声が降ってくる。ティバーンが興奮していることを具に伝えてくるその独特で刺激的な香り――すん、すん、と鼻先をヒクつかせていると、それによって頭がぼうっと熱くなるのを感じる。
決して良い香りだとは形容し難いそのティバーンの性臭を、嫌だと感じたことはない。寧ろ……。
「お?」
ペレアスの手はいつの間にか幹を扱く鷹王の指に添えられていた。赤く脈打つ肉の至近距離にあった薄い唇が軽く開くと、脈打つ皮膚にまるで磁石のように吸い寄せられていく。
チュ…と先端にキスをすると、雁首の周辺から裏筋を通り、根本の浮いた血管にもそれを丁寧に繰り返す。
「嫌いじゃねえ…、むしろ好きだって顔だな?」
「は……い……」
熱り勃つペニスに頬を寄せて返事をするペレアスに気を良くした鷹王は、くく、と笑みを溢しながら青い巻髪を撫でた。
「なら問題ねえ、さっさと入れさせろ」
「あ……でも、それは…」
「何だよ、まだ何かあるのか」
「後ろ…何も準備できてないから…」
ティバーンを受け入れるために後ろを慣らす行為が全く出来ていない事を懸念するペレアスを、再び股座の位置から引き上げるとベッドの中央に俯せに転がす。
されるがままに投げ出された薄い尻が大きな手に掴まれ、左右に肉を割られて奥にある孔が露出した。やや濃い桃色に色付いた襞の中心に、撫でるように親指があてがわれる。
「どんな具合だ…?…ふむ……、割と柔らかいぜ? ここ最近、三晩に一度はぶちこんでる成果じゃねえか?」
「で、も……僕のソコは、女の人のようには…濡れないから...」
そうか、と言うが早いか、鷹王は粘り気のある唾をそこにドロリと滴らした。生ぬるい感触と同時に、粘膜の中に指が入ってくる。
「ぁっ…!」
「なら今日は小指からいくか……さっそく全部すんなり入ってるが、な?」
「ぁう………はぁん………」
鷹王の右の小指は確かに根本まで入ってはいたが、襞が窄まる力はやはりいつもより強く、硬い感じがする。
「力抜いてろ、馴染むまでこのままだ」
「ん…ぅ、はい………。」
とかく繊細な臓器を傷付けるつもりはないため、逸る気を抑えて暫し中に入れた指を動かさずにじっとしておく。
その間、ティバーンの指の異物感を受け入れようとするペレアスは、ハァ、ハァ、と大きく息を吐いていた。それに合わせて入り口の襞もきゅうきゅうと締め付けたり緩まったりを繰り返すことで、段々と馴染んでくる。
小指ではもう細いと言わんばかりに穴の中の内圧が減ってきたら、横に添えていた薬指を追加で押し込んでやる。
「んん…っ、ふぅっ……、あぁ、あ……」
少し腰を浮かせながら二本目の指を受け入れたペレアスを、良くやっていると褒めるように尻に添えている方の手で表面を優しく撫で、愛撫する。
シーツに顔を突っ伏しているペレアスにティバーンも後ろから覆い被さるように身体を密着させると、腰や背中、肩口、頭と順に撫でていった。二本の指を咥えた内壁が嬉しそうにきゅうきゅうと締め付けてくるので、頃合いかと、中指も差し入れる。
「ああっ……ハァッ、ハァッ…あっ…ん、……まだ、動かさない、で……」
「ああ、暫くこうしといてやるよ」
「ありが、と……ござ…、っ……ハァッ、ぁ、ぁ…っ、ハァ…」
ペレアスを俯せから横抱きにして、相変わらず硬い寝台に寝そべる。ティバーンの身体に半身を乗り上げるように委ねたペレアスは大きく脚を割り、三本の指の圧迫感を懸命に逃そうとしていた。
ほんのりと赤らんだ首筋に光る汗を背後のティバーンがべろりと舐め取ると、驚いて内壁がぎゅうと絞まる。その圧と同じぐらいの強さで再びそこを唇で吸い上げれば、白い皮膚に紅い痕が浮かんだ。
「はぁン……、ぁあ……ァ……」
背後のティバーンをゆっくりと振り返ったペレアスの深い青色の瞳は、更なる刺激をねだるような、そんな色を見せている。
「あっ、アッ……ぅ……! はぁ、ハァ、ァ、アッ……」
中に挿れてからずっと静止していた指の、とりわけ中指の腹で膨らんだしこりを撫でるように動かせばペレアスの甘い声が天幕に響いた。下腹部に血が集まるのを感じる。
ペレアスもそれは同じのようで、開いた脚の先にある足裏がピンと伸ばされ、指が左右に開いたり閉じたりと、忙しない。
「もう慣らしはいいな?」
鷹王の問いにこくこくと首を縦に降るペレアスの耳にふっと息を吹きかけてやる。「アアッ、」と声を上げて身を捩る痩身を背後から捕まえながら、熱り勃つペニスを指と入れ替わりに差し挿れていく。
「あっ、あっ、太、いっ! ……あぅぅっ…! はぁあ、はっ、あぁっ…!」
窄まりにあてがわれた熱いティバーンの肉棒を呑み込もうと、ペレアスは自ら尻の肉を掻き分け、切っ先を奥へ誘った。グチュ、グプ……と音がしそうなぐらいの勢いで、硬く張った雁首が肉の襞にのめり込む。
ティバーンもペレアスの脚の付け根を押さえ、腰を付き出すようにすれば、ついに亀頭冠に続いて質量のある砲身が肉の中に埋まっていった。
「アアアッ! あっ、入っ、た………、ぁ…」
「ああ…やっとだな」
「…ハァッ…ハァッ……。あ……、よ、か、………、っ…」
全く準備が出来ていないところから鷹王を受け入れられた事に安堵したせいか、不意に涙が汲み上げてきた。
「おい、泣いてんじゃねえか、痛いのか?」
「ぐす……っ、ちが……ティバ……の、入って、良かったって……」
「泣くほど嬉しいのか? 俺に尻の穴にブチ込まれて、か? ハハハッ」
「わ、笑わないでくだ、さっ…、! ンァ…! ァンッ…!」
「本当におまえは可愛い奴だぜ……なぁ? 今日は褒美に、こっちの可愛いチンポも可愛がってやるか」
「ッア…!、やぁ……! ハァンッ!ァアッ!アッ、アッ」
不意にティバーンの大きな手に包まれ、ペレアスのペニスの先端から溢れたとろみのあるカウパーの濡れた音がクチュクチュと天幕に響き始める。皮を剥かれた敏感な先端をティバーンのゴツゴツした関節と硬い皮膚が撫でればどうなるか、答えは明白で、ペレアスはすぐに切羽詰まった喘ぎ声を上げ始めた。
その電流が走るような鋭い刺激に連動して、後ろがギュッと締まるのがティバーンにとっても心地良い。
「ハァッ…! おお、締まる、……ハッ…良いぜ…! オラッ、ここか? おまえの気持ちイイ所、押し潰してやる、から、なっ」
「はひゅっ!? ……、アアッ!そこぉっ!! 擦らないでぇっ!! ―――ッ…!! ンアンッ!!アンンッ、」
性感の詰まった前立腺の痼を亀頭に押され、幹に浮いた血管がそこを擦るだけで目の前にパチパチと火花が散るような衝撃が弾け、頭に急激に熱が上がってくる。ゾクゾクと背筋が震えるほどの快感に、それを逃そうと突き出した腰の中心がまた大きな手の中で甘く、激しく上下に扱かれ…。
「アアアッ!!ァア―――!! だめ、ァアンッ!アンッ、アンッ、イっちゃ、ンアァ……――!!でるッ、れちゃ、――アアッアアァッ」
やや白く濁った先走り液でグチュグチュとわざと大きな音を立てるようにされていた前の方から、突然生温い水飛沫が弾けた。
声にならない声を上げるペレアスの後ろが大きくうねり、尻たぶに腰を打ち付けていたティバーンもその瞬間は思わず静止する。
プシャッ、と一瞬であったが噴き出した液体が、ぱたぱたとシーツに散る。
「潮吹きか……!」
どうにもならない過ぎた快楽――。ヒィ、ヒィと嗚咽を上げるようにペレアスは続けざまに押し寄せるそれに身をのけ反らし、ただただ嬌声を漏らす。
「アア―――ア゛ッ、ひぅっ、ひっ、ア゛アッ、――ア゛――――!!」
ガクガクと再び腰が激しく痙攣すると、また珊瑚色の亀頭からピュウと一筋の水飛沫が吹き上がる。すると後ろが締まり、ティバーンのモノを激しく締め上げることで薄い腸壁が内から圧され……。
この繰り返しが、どうやら断続的に潮吹きを促すスイッチだったらしい。
「クッ、――アアッ…! すげえ……っ、オオッ!……」
「ヒッ、ヒッ、ひぅッ…ぃ゛、アアッ! や゛ア゛アッ!! …イクッ、イクの、イクのっ…とま、な゛…! ッ―――!!! まっ゛……、イ゛ッちゃう…、イッちゃぅう゛ゥウウッ!!!」
「俺もイ、クぜ…っ!! ウオオッ、オッ!!」
「ァ―――……!! あつ、い…あつい、熱いよっ…ティバぁ……! ティバーンっ…、ティバぁっ……」
絶頂しながら無我夢中でティバーンの名を呼ぶペレアスを、吐精を終えたティバーンが抱き留める。
汗や涙に濡れてぐちゃぐちゃの頬を手の甲でぬぐってやり、荒い呼吸が落ち着くまで胸の中に抱いて、頭を撫でる。
焦点が合わずぼうっとしたままのペレアスは、呂律の回らない舌でずっとティバーンの名を呼んでいた。その普段の取り澄ました姿からは想像できない乱れぶりに堪らず、赤く濡れた舌に己の舌を絡ませ、吸い上げる。
「てぃ、……ば……、チュッ、はぷ………、…んぅ、…ん……」
「ハッ……少々刺激が強かったか……戻って来い、ほら」
「ん……ぅ………、――? ……てぃば……ぁ…、…すき、…すきぃ……」
幼い子どものように手を伸ばして縋ってくるこの青髪の青年が、愛おしくて堪らない。
「フ…、それくらい素直に求めて来い、さもないとまたあいつに追い返されるぜ?」
「ぃ…、嫌、だ、…ぼくは…ティバーンと……もっと、いっしょに居たいっ……」
「おう、その調子だ」
はらはらと涙を流しながらも、今度はペレアスの方からティバーンの頬や唇に口付けを求め、繰り返す。くっきりと浮き出た鎖骨の窪み、胸部に斜めに走る大きな傷痕にもそれを続ける様子であるため、暫く好きなようにさせてやることにした。
「さて、と…」
敷き板が割れはしなかったが、シーツの半分から下の方がずぶ濡れになっている寝台で半身を横たえて、この後の始末をどうするかを考える。
ここで寝るのは諦めて、自分の天幕にこいつを連れていくのが一番早いかと結論づけた。ただし其処には大いなる障壁が待ち構えているのだが……。
(あいつとまた引き合わすのはな…、さすがに色々と磨り減るだろうが…、……と)
ふと下腹部を見るとペレアスは先程まで自身の肉に埋まっていたティバーンのペニスにまで舌を伸ばしていた。まだ所々にベッタリと粘ついた体液の絡んだそれを厭うべくもなく、両手を添えて口に含んでいる。
「……美味いか? あとでさっきの川に運んでやるから、程々でいいぜ」
鷹王が気遣う言葉が聞こえているのかいないのか、ペレアスはぴちゃぴちゃと亀頭や雁首に付着した白濁を舐め取ると、尿道口に唇を添えまるでストローを吸うように尿道の中に残っていた精液を残さず吸い出していく。
頼みもしないその行いは被虐的である一方、献身的とも云われる姿だろうとティバーンの目にペレアスは映る。
…こんな姿を晒す奴を、リュシオンはどう思うだろうか? ある意味、強烈な存在であることは確かだ。あいつにはあと百年…いや三百年は早い。
ふう、と口をついて出た溜息に気付いたペレアスが、上目で鷹王の顔を覗き込む。良く知る、不快に思われていないかどうかを心配する顔だ。
「…それ以上やるなら頭押さえて喉に突っ込むぜ?」
「あなたが望むなら……、」
「止せよ」
また性懲りもなく勃起してしまいそうになるのを堪えて、ペレアスの両肩を引き寄せる。
「落ち着いたか?」
頷くペレアスを伴って、今夜はひとまず臣下二人の天幕に駆け込むか……と、独りごちたティバーンであった。
END
リュシオンVSであまりにもペレアスが可哀想な扱いだったので、鷹王による甘やかしオマケSEXをさせておきました。
あと匂いフェチ描写。これ。
鷹王はハッキリ言って野性的な(鳥小屋的な)臭い+獣臭+雄♂の臭いでヤバい部類だと思うんですけど、DNAの相性が良いと好きな相手の匂いなんて気にならない理論で、全然OK~なペレアスを書きたかった。
言うてペレアスも孤児時代(ネヴァサのスラム暮らし時)はヤバかっただろうし、二人とも嗅覚バグってそう。すいません
それはさておきペレに潮吹きスイッチはあると思います(布教)