地下七階

 散々な目に遭った……と、先程のスタジオでの出来事を思い返しては深くため息をつきつつ、ついに三人は下層へ下りることを決めた。階段の先にはB7Fの表示と、やはり上階で見たのと同じ形状の扉がそこにあった。
「気を付けろイツキ……先程までよりも邪悪なミラージュの気配を感じる……」
「やっぱりそうなのか、クロム……! みんな、気を引き締めていこう!」
 樹が扉の前に立つ。意を決して、それを開いた。
 ゴゴ…とこれまでのようなステンレスや鉄ではなく、鉛のような重みのある金属製の扉が鈍い音を立てて左右に開く。だが、現れた正方形の部屋の中には、中央のスイッチ台座以外何も見当たらない。これまで通り、樹は台座へまっすぐに進むとガコンとその出っ張りを踏み下ろした。
 ブォン!! と、不気味な音と共に樹達の周りに突如複数のミラージュが出現する。
「囲まれた!?」
 くっ、と身構えた樹達は、襲いかかるミラージュに応戦すべくカルネージフォームを叫んだ。いつものようにクロムは剣、カインは槍、ナバールも長剣へと姿を変える。光を放ちながらカルネージフォームの衣装を纏ったそれぞれが武器の柄をぐっと掴んだ時、三人は思わぬ感覚に襲われた。
「――ンあっ!?」
「――うひっ!?」
「――くあっ!?」
 武器を掴む手の力が抜け、その場に取り落としてしまった。
「ど、どうした!? 三人とも!」
 ステージに転がったカインが声をかける。
「い、いや……何でも……!? えっ??」
 樹が慌ててクロム――ファルシオンを握り直した時、やはりその動きに連動して下腹部に締め付けられるような刺激を感じ、樹は困惑した。
「な、何故だ……ナバール……」
「俺にもお前達がどうなっているのか、判別がつかん……だが、敵に囲まれているのは事実だ」
「くっ……分かっている……だが……」
「お、お前らもか!? こう……武器を握ると……うっ」
 カインを拾って握り直した斗馬が思わず前屈みになる。
「罠、か……」
 弥代が苦虫を潰したように顔をしかめた。そう、三人は罠に掛かっていた。
(まさか……カルネージとチンポの感覚が同じになるなんて……!?)
 自らの武器――カルネージ――と、性器の感覚共有……まさしく、三人は三人ともその状態であった。
 しかし、ミラージュ達は突然の状態異常に困惑する三人を待ってはくれない。
「うわっ!!」
 斗馬の前でミラージュソシアルナイトが槍を振りかざす。すんでで避けたが、その姿を奥に潜んでいたアーチャーが狙い打つ。
「危ない! トウマ!」
 樹がそれを阻止すべく、アーチャーへと斬りかかる。ファルシオンの刃がアーチャーの身体を貫く時、それは樹の包芯を扱き上げるのと同じ感覚を下腹部から脳に伝えてきた。
「あっ、ああっ❤」
 ビクンと樹の身体が跳ね、甘い声が漏れる。
「い、イツキ…! 大丈夫か!?」
「クソッ…!! これじゃまともに攻撃出来ねぇ……」
 股間を抑えて悶絶する樹を気遣う暇もなく、再びソシアルナイトがこちらへ向かってくる。
「そ、そうだ!魔法なら……!」
 物理攻撃で槍を使わなければ変な刺激もない筈と、斗馬がアギを詠唱する。だが……。
「あっ!? 熱ッ!! あっつ!!!!」
 詠唱と同時に魔方陣を槍で描く際、炎の力を纏った槍に宿った熱がペニスにも燻り、これはダメだと慌てて中断する。
「うわあっ!!」
 しかしそのままソシアルの突進を受けた斗馬が、派手に吹き飛ばされる。その先には、斗馬の苦手とするウォーリアが斧を手に待ち構えていた。
「じょ、冗談じゃねぇっ!」
「赤城斗馬! 伏せろ!」
 弥代が叫んだ声のあと、ヒートウェイブの剣技が煌めいた。しかしそれは今、文字通り諸刃の剣となり弥代にも鋭い感覚となって襲いかかる。
「くうぅっ…!! あっ……クッ……!!」
 剣撃がヒットした回数分、さすがの弥代も、抜き身で素早く肉棒を扱かれる感覚にガクガクと腰を揺らす。しかし、これはまだ始まりに過ぎない。
「んなっ!? セッションが、発動する…!?」
 キィンとカインの槍が光を放ち、武器に引っ張られるように強制的にセッションが始まる。ズン、と槍がナイトの身体を貫くが、それは――
「っあアア――ッ!!」
 敵の身体に槍を突き刺す感覚は、さながら熱く蠢くオナホールの中にチンポを突っ込んだ時の感覚と言えるだろうか。つまり、かなり性的な気持ち良さがあった。既に斗馬の黒い毛に覆われたカルネージフォームの下半身からペニスが隆々と勃起し、先端から透明な我慢汁を垂らしてすらいる。理性で制御できないまでに激しい快感が、敵へ攻撃する度に襲ってくるのだ。
「くっ、ああっ、ダメだ……ジオはっ……アアッ!!」
 セッションにより雷光を発現させた樹は、ビリビリとした電気刺激をもろにペニスに受けた。ただそれは痛みの感覚までいかず、あくまで痛気持ち良いと思える刺激として性器に伝わるよう、この罠は仕組まれていた。
 まさに快感のセッションを敵が倒れるまで続けることになった三人は、出現したミラージュたちを辛くも打ち倒した後も、勃起した自身をもてあましながら勝利のポーズをきめることになり、そこでようやくミッションクリアとなった。

「さ、散々な目に……遭ったな……」
「……ああ………このままでは、ミラージュへろくに攻撃が出来ない……」
 カルネージフォームを解いた三人は、前屈みでよろめきつつようやく次の階へ下りてきた。

ここで一旦体制を整えようか…?


休憩する

休憩せずに進む




「そうだな……少し、鎮まるまで休もうか……」

 樹が辺りを見回すと、控え室と書かれた小さな扉が正面の扉とは別の方向にあるのを見つけた。
「いかにもお仕着せがましい気がするが……」
 流石に都合良く現われた小部屋の入り口をいぶかしむ斗馬の言葉に頷きつつも、他に休めそうな場所もない。
「俺が見てこよう……」
 弥代がその小さな扉を少し開け、中を確認する。カウンターに鏡とイスが設置された、スタジオにある至って普通の控え室といった様相だった。
「中からミラージュの気配を感じるか? ナバール……」
「ふむ……今のところは、無い」
 その言葉を信じ、弥代は樹と斗馬を呼び寄せた。
「はぁ……それじゃ休憩しようぜ……ったく……」
 斗馬がそう言うが早いかパイプ椅子に腰掛け、カウンターに突っ伏す。樹と弥代もその隣に腰掛けると、目を閉じた。
 出番を待つ芸能人の為に用意されるような、何の変哲も無い控え室。だが、その部屋の中に据えられた小型のスピーカーからは、三人が気付かない特殊な超音波がひっそりと流れていた。一時の休みについたと思われた三人の脳内に、その催眠音声が響く……。
「んぅ……ぁあ……」
「っ……うぅ……」
「ぐぉ……ぅあ……」
 先程のリラックスゾーンで聞かされた催眠音声よりも強い音波が頭を支配していき、やがて三人は知らず知らずのうちに、催眠によってその場で自慰を始めるよう仕組まれていたのだった。罠にかかった三人はゾンビのように呻きつつ姿見の前に立ち上がり、さらに服を脱ぎ始めた。
「ハァ……熱い……ハァ、ハァ……」
「さっきから全然収まらねえ……チンポ……」
「くっ……脱ぎにくい……服が邪魔だ……」
 あっという間に身に着けていた着衣を全て脱ぎ、生まれたままの姿を鏡に映す三人の下半身は、先程と同じくすっかり勃起していた。
「ハァ……ぁ、アハァ……❤」
「ンッ❤アッ❤気持ち、イイ…❤」
「ハゥッ……❤ンッ❤ふ……」
 そして三人は直立から少し腰を落とした蹲踞の姿勢で、各々のペニスに手をやり徐に扱き始めた。手を動かせば快感が得られると脳が認識したせいか、横に仲間が居るのにも構うことなく段々と激しく手を動かしていく。トロトロ、クチュクチュと、狭い控え室に三人の垂れ流した先走り液がペニスの先端から垂れる音が響き渡る。その量は肉棒のみならずその下でたぷたぷと揺れる玉まで濡らすほどであった。
「アアッ❤き、もち、良い…❤皮で……シコシコ……❤止まら、なッ…❤❤❤」
 樹は、仮性包茎の雁首に余る皮で赤いさくらんぼのような色をしたペニスの先端を包んでは出し、包んでは出し……を猿のように繰り返し、譫言のように気持ちいいと呟き続けている。
「ンッ❤クゥ……❤ち、くび、イイ…❤❤❤ンホォッ……❤❤」
 斗馬は、先程の吸引で目覚めたのか、大きくしこった乳首を指でつまんでしきりに扱き上げたり、ぎゅっと捻り、指の腹で擦り続けたりを器用にローテーションしえt悶えていた。
「ハァッ……❤ンッ……❤くふぅ……っ……指、だけでは……アア……❤」
 弥代は、竿への刺激に加えて左手の中指をヒクヒクと物欲しげに蠢くアナルに挿入して、必死で快楽を得る場所を穿るために長い指を出し入れしていた。

「アッ、アアッ、アッ、い、イクッ……❤❤❤」
「ンォッ、オッ、アッ❤出るぅッ……❤❤❤」
「ンアァ、アッ、ファ、ファンタスティック――――❤❤❤」
 やがて三人はそれぞれの好きなところを激しく責め倒し、無様な声を上げながら目の前の鏡に向かってビュクビュクと音が鳴りそうな勢いで射精した。この鏡はマジックミラーとなっており、勿論その絶頂に至るまでの姿もしっかりと隠し撮られていることに、まだ三人は気付かなかった。

 その後も自らの弱点を激しく責め倒し無様な声を上げながら、イき続ける三人……。射精の度に快楽に支配され、まるで廃人のように彼らのパフォーマは弱くなり、それぞれを守護するミラージュは宿主から供給される力を失ったことで存在を保てなくなっていた。

「イツキ……なんということだ……」
「オレにもっと力があれば……くっ、トウマ――!」
「こうまで簡単に快楽へ堕ちるとはな………。ヤシロ――さらばだ」

 三体のミラージュが、黒い靄に包まれて飲み込まれていく。ついにパフォーマの尽きた樹達は、このイドラスフィアに他の仲間が助けに来るまで、永遠に囚われるしかなかった……――

 

BAD END


コンティニュー



地下八階

「いや……とにかく先へ進もう。ワープポータルさえあれば、体勢を整えに戻れるだろうし……」
「こんなイドラスフィア、また潜るとかゴメンだぜ、全くよお……」
 ぼやきながらも、斗馬は下層へ手摺を頼りにしつつ何とか下っていく。やがて、また先程と同じく重厚感ある大きな扉が見えてきた。
「また、か……チッ……みすみすと……」
 弥代が歯噛みするが、しかし奥へ進まねば元凶であるミラージュへ攻撃できない。
 階段を下りながら何とか落ち着いてきた身体を更に落ち着かせるべく、深い深呼吸をする。
「行くぞ……」
『ああ……」
「おう……」
 ゴゴゴ……と扉が開くと、何とその先に用意されていたのは――
「何だこれ! 床がねえ!!」
 てっきり同じような正方形の部屋が広がっていると思われた扉の先は、床の部分がぽっかりと空洞になっており、下は深い谷底のように暗くて見通せなかった。
「これ、どうやって進むんだ…!?」
 扉の前は五十センチほどの床幅しかなく、そこから十メートルぐらい先の向かい側に、一応の出口と思しき下層への道を確認できる。
「お? ここにいつものスイッチ? あるけど……押してみるか?」
 斗馬が石壁に飛び出た不自然なボタンに気づき、二人へ知らせる。
「……罠だ」
「……うん、でも……このままじゃミッションも分からないし……とりあえず押してみよう」
 スイッチを壁に押し込むと同時に、ガラガラ……と何かが駆動する音が天井の方から聞こえ、上を向いた三人の視界に三体の木馬が現れた。
「おおっ! カインみてぇなバイクじゃねーけど浮いてるし……これに乗れってことか?」
 木馬の胴体を宙に固定している天井から下がったチェーンの先をよく見れば、そこに部屋の奥へ向けて伸びるレールと車輪が繋がっていた。
 ていうか、こんな古臭い木馬よりカインのバイクに乗れば良いんじゃねぇ? と斗馬が至極まともな意見を出す。だが、どうやらこの部屋内は樹たち三人のミラージュの力は封印されているようで、頼みの綱であるカインからの返答はなかった。
「どう足掻いてもこの木馬に乗って、レール通りに穴を超えるしか無さそうだな」
「うん……」
「仕方ないな……」
 渋々三人は斗馬を先頭に、樹、弥代の順で固い木製の鞍に跨がると、茶色い革製の手綱を握った。
「どうやって進むんだ? もしかして、人力?」
 予想通り、木馬の下部に足を置くペダルのような出っ張りがあった。斗馬がそこを踏むと、自転車をこぎ出すのに似た感覚で木馬が前進した。その後も、左右のペダルを規則正しく踏めばレールに沿って進むようだった。
「田舎の遊園地にあるメリーゴーランドに乗った気分だな」
「大きさも似てるしな 俺はあんまり乗った記憶ないけど……ヤシロは?」
「撮影で何度か乗ったことがある 問題ない」
「へぇ~仕事でかよ 差し詰め、王子様だな」
 そんな他愛もない会話をしながら、レールの1/3を過ぎた頃だろうか。平坦な道を行く木馬の動きに異変が起こる。
「わっ、な、何だ!?」
 ぐいん、と尻を乗せている鞍が上に盛り上がっていくのを感じる。それどころか、明らかに形状がなだらかな山から険しい山――つまり、尻の割れ目に向かって三角に尖り始めたのだ。
「うわっ! えっ!? 痛っ…!! ってェ……!! タマに食い込むッ!!」
 慌てて斗馬は内腿に力を入れ、尖った先端部分に局部が圧迫されるのを回避しようとする。だが、真っ直ぐ出口の階段へと向かっていた筈のレールがぐねぐねとカーブし出したため、なかなかバランスが取れず、結果――
「あででッ!! アッ!揺すんなって!! アアッ!!」
 ぐにゅぐにゅと股の間で柔らかな睾丸やその後ろの蟻の戸渡り、尻の割れ目に至るまでが三角の木馬の背に突き刺さるように圧迫される。勿論同じことが後続の樹と弥代にも起こっていた。
「痛ッ!! あっ!! な、何でこんな、いきなりっ」
「くっ……! 堪えろ……!! 痛……グッ……!!」
 急所に問答無用で食い込み続ける木馬の背に跨がった三人は、苦悶しながらも何とかペダルを漕ぎ、ついに残すところあと半分を過ぎた頃、今度は木馬の全体がバイブのような鈍いモーター音を立てて振動を始めた。
「んなっ!? そんなの、アリかよぉ――!! ンギャッ!!!!」
その振動は身体と木馬の間で潰れた玉裏を揺すり、会陰の真上にある体内の前立腺までを刺激したせいか、痛みだけではない痺れを腰に広げていく。
「アッ、アッ――!! い、痛いのにっ……ぅううっ!」
 不覚にも男の性で、木馬に乗ったまま性器を勃起させてしまう。そこへバイブの刺激が伝わり、ますます性感が高まっていく。
「はぅ……ッ……!! ン……くぅ……ッ❤」
 強烈な刺激に、弥代は少しでも逃れようと内腿をすり寄せて❤いていた。あと少しだ、頑張れ!と斗馬が青息吐息の合間に後の二人を鼓舞する。メリーゴーランドのつもりで乗った木馬は、最早痛みと快楽のジェットコースターに乗っているかのような激しさで、ガタガタと振動し、その上で三人はなすすべなく跳ねた。
 そうして股間を激しく揺さぶられながらも、ついに終点――下層への階段前に到着した。
 斗馬、樹、弥代はすっかり三角木馬に形状変化した馬からずり落ちるようにして、やっとの思いで地表へ逃れた。
「ふぅ……ふぅ……」
「うぐっ……いって……俺のタマ、潰れてねェ……?」
「下品なことを口にするな……く……」
 そう言いつつ、三人は痛め付けられ股間からしばらく手を離せないでいた。振動による痺れの余韻も、暫く満足に歩けない程度にある。
 それらが何とか収まってきた頃、三人は立ち上がって次の階へ下りていった。



地下九階

 木馬の振動に耐えて何とか部屋を渡りきった三人は、下層に聳え立つ扉の前に立っていた。
「ケツがまだビリビリしやがる……うう……」
「つ、次はなんだ……?」
 また部屋にさっきのような大々的な仕掛けが施されていたらと不安を覚えつつ、樹が扉を開ける。だが今度は上階で見慣れた形の部屋が存在していて、一同はほっと胸を撫で下ろす。
「あれは……机に何か貼ってある」
 中央のスイッチの前には、よくある木製の折り畳み式長机がひとつ。その端に、『フォルトナ男子☆あくしゅ会』と大きく書かれたポスターが下がっている。
「……握手会?ここでか?」
「握手って、誰と?」
 ミッション内容を示す台座スイッチ横の電子パネルには、『ファンと交流を深めよ!』との文字。
「ファン……こんなところにファンなんて」
「十中八九ミラージュが化けた幻影だろう……文字通りな」
「ま、握手するだけなら何とかなるんじゃねえ?」
 そうだな、と斗馬の意見に賛同し、樹はスイッチを押した。
(握手会……確かつばさがデビューして間もない頃に開催してたな……イベント告知のためのティッシュ配りを手伝ったっけ……)
 と、樹は懐かしい記憶を辿っていた。そういえば、このイドラスフィアへ来てからは一度もチキや他の仲間からTOPICが送られてきていない。その理由は簡単、スマホのアンテナマークはずっと圏外を示していたからだ。樹は階段を下りる合間に斗馬と弥代にもスマホの状態を訊いてみたが、やはり同じだった。地下だから仕方ないといえ、いつも連絡を取り合っていた他のメンバーからのサポートを全く受けられないのは精神的にも厳しかった。
 ……が、もし先程までのような試練をツバサやエリー、キリアさんが受けることになっていれば――という可能性に思い当たり、樹ははっとする。胸の奥に邪な妄想を抱いてしまう気配に、ドクンと胸が高鳴る。ここに来たのが俺たちだけで良かったと、樹はそのもやもやを振り払う。このイドラスフィアは、俺たち三人の力で絶対に突破しよう――と、目の前の机の指定された位置に立ちつつ、改めて決意する。

『それでは、これよりフォルトナエンタテインメント所属のアイドル、蒼井樹くん、赤城斗馬くん、剣弥代くんとの握手会を始めます! 皆様、順番にお進みください』
 スタッフによるアナウンスが入る。……だが、ファンと思わしき人影は一向に樹達の前に姿を見せない。しばらく笑顔で立って部屋の前方を見回していた三人だったが、待てども机の前には四角いコンクリート壁が広がるだけであった。
「……え、お客さん、どこだ?」
「ファンだ、口に気をつけろ」
「でも……誰も居ない……もしかして一人も来ていない……?」
 そんな筈が、と困惑する三人の右手が、何かにぐっと掴まれた。
「!?」
「えっ」
「何っ!?」
 身体の前にある机に向かって引かれた右手は、確かに何者かの温い手のひらによって握られている感覚を伝えてくるが、実際は何も触れていない。いや、こちらからは触れられないというのが正しかった。左手で右手の辺りを探っても、空を切るばかりで何も触れない。
「これが握手、か……!?」
「うわ、気味悪ぃ……」
「………これが今回の罠のようだな」
 さすがの弥代も困惑しつつ周囲に目を凝らしていたが、不意に、右手だけでなく尻や細い腰を撫でられるような感触を感じた。
「ッ! 誰だ!!」
 咄嗟に叫ぶが、さわさわと身体を這うような感触は肌から離れない。うわっ……、止めろ……!!と隣の樹と斗馬も叫び出し、二人も弥代と同じ状況に陥っているようだ。見えない手は四方八方から伸び、耳元をくすぐったり内腿をさすったり、髪を撫でたりとやりたい放題に触れてくる。
「こ、こんなの握手会じゃねぇ……!! 触りすぎだっ!!」
「くっ……ミラージュめ、姿が見えさえすれば切り刻んでやるものを……!!」
「これがスタッフの求める、交流なのか……!?」
 不満を叫ぶ三人を嘲るように、見えない手の動きはエスカレートしていく。
「あっ、服、が……!?」
「何をする! 止めろ!!」
シュルッと弥代のリボンタイがほどかれて、はらりと地へ落ちる。後方へ身動ぐも細い腰を手でしっかりと押さえつけられているせいで、その後も勝手にベルトやシャツのボタンが外されていった。樹もパーカーを剥がれ、シャツの裾を捲り上げられてしまう。
「こ、コイツら、まさか……ひゃあっ!?」
 斗馬は、自分のズボンの中にも見えない手が突っ込まれ、下着越しに性器の形を確かめるように握られているのに気付き、悲鳴めいた声を上げた。樹と同じく革ジャンを剥がれ、ピンクのシャツも一気にずり上げられた。そして現れた色素の濃い乳首を、何者かに遠慮なく捻り上げられる。
「っ!! いッッ……!!」
 ぷにゅぷにゅと丸い粒のような二つは、段々固さを持ち屹立してくる。その先端を、透明な手はカリカリと爪で引っ掻いたり、弾いたり、乳輪ごとつまみ上げたりと、とかく執拗に弄ってくる。斗馬はその刺激に、下着の中のペニスに血が集まってくるのを感じた。質量を増し、ついにボクサーパンツに収まらなくなったペニスは乳首を嬲る手と違う手によって捕らえられ、上下にシコシコと扱かれ始める。乳首への刺激も続く中、斗馬は見えない手にされるがまま快感の波に包まれていた。
「触るな!! 穢らわしい……!! アッ……!?」
 弥代はというと、斗馬と同じく下着に侵入したゴーストハンドによって、あえなく形の良いペニスをスーツの外に晒されていた。さらに、尻に回っていた別の手が双丘を妖しくまさぐり、奥にすぼまった肉の襞を指先で押し上げられ、ひっ……! と弥代は身体を震わせた。無遠慮な指は、弥代のアナルに挿入されていく。
「アァアッ……! 止め、抜け……っ」
 しかし弥代の啖呵に一向に怯む様子もなく、差し入れられた指は狭い肉壁を穿る。弥代が好きな一点をその指先が執拗に狙い出すと、ア、ア❤と弥代の声が甘く変化する。指が透明なため、ぽっかりと空いたアナルの内部に蠢く赤い肉が快感にヒクヒクと物欲しげに蠢く様を透けさせていた。おまけに、また新たな手が現われ、無防備に立勃ち上がった前を扱かれる。前後からの刺激で、弥代は快感のあまりたちまち前後不覚に陥った。
「ンッ……ア、ァアッ……ぅう……」
 樹もまた、透明なゴーストハンドの虜になっていた。それも意地悪い手は、寸止めを繰り返して樹の射精を中々許さず、今もまた、あと一擦りで――というところでまとわりついていた手の感触が消失し、快楽の行き場を失ったペニスが切なげにピクピクと空に揺れる。少し波が引いたところで、また新たな手にぎゅっと我慢汁の滴る砲身を握られ、扱かれる。こうなれば達せないことでの辛さが増してくるのみだった。
(ぁ……またっ……ぁ、アッ……)
 しかし物欲しげに誰も居ない虚空を見つめた樹は、また達する前に手が離れようとしているのに気付くと思わずその懇願を口にしてしまっていた。
「……お、お願いですっ……俺がイクまで……! ちんぽ握っててくださいッ――!!」
 言って、樹はなんて事を口走ってしまったのかと頬を紅潮させた。だがその意思はゴーストハンドに伝わったのだろうか、手は樹の望み通り脈打つ肉をしっかりと握っていてくれている。
「ぁ……扱いて……ァ、ダメ……だっ、アッ❤……!!」
 握ってはいるものの動きを止めてしまったゴーストハンドの手のひらに、樹は本能的に腰を振ってペニス全体を擦りつけていた。待ち望んだ刺激に樹がのけぞり、ついに訪れた射精の時に頭が真っ白になる。アアッ❤と切ない声を上げる樹の首筋をついとなぞる別の指先が、半開きの唇にかかり、口内の白い犬歯を撫でていく。それに飽き足らず、口の中へ二本、三本と侵入した指が樹の口腔を蹂躙する。んぐぅ……と藻掻くも、力の抜けた樹はされるがまま射精の余韻に浸っていた。

『――それではお時間となります。皆様、ご退場ください。本日はあくしゅ会への参加ありがとうございました!』
 握手会の開始から半刻が過ぎた頃、ようやく頭上のスピーカーからスタッフの終了を告げる音声が部屋に響く。それまで樹達の身体のあらゆる場所に纏わりついていたゴーストハンドは、空気に溶けるようにその感触を失った。
「ハァ……ハァ……お、終わった……か……」
 ようやく樹達を苛んでいた無数の手から解放され、しゃがみこむ樹、長机に突っ伏す斗馬、忌々しく天を仰ぐ弥代は、荒くしていた息を整えるとひとつ大きく息を吐き出した。
「くっ……俺としたことが……」
 足元にわだかまっていたスラックスを引き上げ、乱れた着衣を直す弥代。放ってしまった白濁の痕は、机の上に置いてあったポケットティッシュで残らず拭い去る。
 こんな悪質な握手会、二度とゴメンだぜと斗馬が吐き捨てながら、ミッションクリアによって開いた階段へ体制を整えた三人は急いだ。


地下十階

「なあ……俺、思ったんだけど」
 階段を往く途中、ふと歩みを止めた斗馬を樹と弥代が振り返る。
「どうしたんだ?」
「このイドラスフィア……エロトラップダンジョンじゃないか?」
「エロ?」
「トラップ?」
「し、知らねえのかよ!? エロトラップダンジョン!!」
 斗馬によるとそれは、指定されたダンジョンの階層を進む度に、冒険者たちに性的な罠が待ち受けているという――仮想世界に存在する題材の話だった。
「……仮にここがそうだったとして、どうした」
「えっ」
「俺達がいつも挑んできたイドラスフィアと比べ……確かに毛色が異なる試練を要求されていると、俺も薄々感じていた だが、目的は同じ――世界を闇に陥れようとするミラージュを打ち倒すことに変わりはない」
「うん、俺もそう思う だから……」
「黙って進むしかないってか……ハァ……」
「無論、俺はこれ以上無様な姿を晒さぬよう――再びナバール達の力を満足に使えない事態に陥れば……その時は、お前達を頼させてもらう」
「ヤシロ!」
「おうおう、良いこと言うじゃねえか 俺も勿論、頼りにしてるぜ!」
 バンと弥代の背を叩く斗馬に、過度な馴れ合いは寄せ赤城斗馬、お前はいつも――と小言を紡ぐ光景を、樹は微笑ましく見守った。樹もそんな二人に続き、三人は肩を並べて地下への階段を進む。

 次の部屋には、何が待ち受けているんだろう……

分岐点2

 樹の前に現れたのは――

 ステージ
 
 落とし穴
 
 巨大な壁
 
 長机
 
 カラオケルーム
 
 温泉
 


 

ステージ

 扉を開いた先には、ライブ会場を彷彿とさせる舞台セットが広がっていた。
「また舞台……」
「このステージに立てと言うことか……」
「おう、受けて立つぜ!」
 三人はミラージュの姿をしたスタッフの指示により、先ずは楽屋へ通された。そこで樹は他アーティストのバックダンサー、弥代は単独ライブ、斗馬はオウガの特撮に挑むよう告げられる。それぞれの衣装を身に纏うと、彼らはそれぞれ異なる幻想の舞台へ不思議な力で転移させられた。
 だが、樹達の立った舞台にはこのイドラスフィアの主によって、もう一つの物質が転位されてくる魔法罠が仕掛けられていたのだった。
 そうとも知らず、いつも通り表舞台に登壇した三人の足元に黒い魔方陣が出現し、靄とともにある物質が転位させられてきた。それは――ショッキングピンクの色をした、楕円のローターだった。
「なッ!❤」
 気付いた時には、足下の魔方陣からぬるりと這い上がってくるように出現したローターが、彼ら三人の衣装を魔の力ですり抜けて侵入し、まるで意思を持っているようにある一点――男根の先端部分に密着し、幹に極細の蛇のようにコードを巻き付かせた。
 慌てて外そうとするも、斗馬はアクタースーツを物理的に脱ぐにも脱げないし、弥代もステージ上で観客達の見守る中、ズボンのファスナーを下ろすわけにはいかなかった。樹も既にダンスの開始ポーズを数人のダンサーと共にとっており、そんな中、前奏と……ローターの強力な振動が始まってしまった。
「くぅぅっ……!! そんな……この状態のまま踊るのか……!?」
 突然の性器へのダイレクトな刺激に、苦悶に顔を歪める樹だったが、他二人は気丈にも全く焦る素振りを見せずにパフォーマンスを行っていた。高らかにBlackRainを唄う弥代。ライガを囲むゲノム星人の前に崖上から大きくジャンプで登場する斗馬。だが、そんな二人に取り憑いたローターも、等しく亀頭を激しく揺さぶり続けているのに変わりはないのだ。
「くぁ……!!」
 樹は脚が縺れそうになりつつ、何とかバリィのレッスン場で会得したステップを踏み、振り付けが曲のリズムに遅れないよう努めた。本来なら直ぐにでも前屈みで動けなくなってしまいそうな刺激だったが、歯を食い縛り、懸命に他へ気をやろうとする。だが、ビリビリとペニスの皮の無い一番敏感で弱いところをローターは知っているように蠢き、樹の若い幹はたちまち勃起してテントを張る。その状態を、樹が身に付けていたクロップドパンツタイプのパンツががゆったりしたシルエットだったおかげで何とか隠せていた。
 しかし一方、弥代は――
「砕け、散る――限界を……ッ……超、ぇて――」
 激しく全身を使ってリズムのステップを踏むと同時に歌い上げる、そんな常人には不可能な難しいことを、さらにローターから強力な刺激を受けながらこなすという試練に真っ向から戦っていた。だが弥代も健全な青年男子である以上、ペニスへのダイレクトな刺激が勃起状態を引き起こすことまでは避けられなかった。こんもりと白いタイトなズボンの下でキツそうに膨らみゆくペニスに加え、震える小刻みにローターの楕円の外形までがこんもりと浮き上がっていたが、それらは巧みに長いマントのたなびきを利用して隠していた。
「ッぉ、……ぇ、きッ、れない――」
 だが、絶えず局部に鋭い電流を受けているような刺激は、弥代の脳を徐々に快楽へ誘い、普通ならば一息たりとも上がることがない呼吸の乱れが生じ、唄に影響を及ぼした。ハァ、ハァ、と歌詞の切れ目に僅かに入る吐息と上ずる声。それでも、弥代は必死で演技を続けていく。一度舞台へ上がれば自分の力だけを頼りにする、まさに自分の矜持との戦いだった。

「オウガ、ブ――ストッッ!! ゲ、ゲノム星人ども!! 俺の力でッ!! 蹴散らして、やッッ――!!」
 立ちはだかる敵に向かって決めゼリフを放っていた斗馬は、その途中、ビクンと腰を反らした。
「……アッ、く……!! と、とにかく!! 行くぜェッッ!!!!」
 前方へダッシュする斗馬だったが、厚みのあるアクタースーツの内部は大変なことになっていた。走ったことで股間のローターがスーツの内側の固いインナーカップに推し当てられ、より強く斗馬のペニスに圧着する。
「ヒァッ――!! イッ……!!?」
 思わずだらしない声を上げそうになるのを、斗馬はオウガのの仮面の下で下唇を噛み締めて堪える。
 そんな斗馬の前方から襲いかかる怪人――そいつに、得意のオウガキックを放つ。
「ゥンッ……!! ぉ、ホッ……!! ……❤」
 キックを放つため大きく開脚するとき、スーツの中のローターの刺激がもろに股間に響いてしまう。斗馬はついにマスクの下の顔を快感に歪ませるほか無かった。
(い、イクッ……!! イっちまうぅっ…!!)
 何度目かのオウガキックのとき、斗馬はついに限界を迎えた。大地を踏みしめながら、ぐぐ、と突き出る腰。尿道の奥から汲み上げてくる熱い飛沫を、バイブローターの振動で快楽に痺れきった尿道口は阻止できず、それどころかぱっくりと開けてしまっていた。
 同じく弥代も、歌いきった後の油断だろうか、最後のステップでダン、と大きく足を開いたときにローターの振動をまともに感じてしまい、はち切れんばかりに膨らんでいた砲身はついに制御を失った。
「…ッッ――ー❤❤」
 ブルッと総毛立ち、身震いするのを誤魔化すように蹴り上げたスタンドマイクを手に、背後を向く。無事歌いきったことで気を緩ませてしまったのか、陰茎はクロスした脚の間に押さえ付けられながらも快感を爆発させた。
 樹はというと――ダンスの続く中、目立たない場所へ移動した折にこっそりと左手で股間を抑えていた。
(アッ、もう……イクッ❤――……!!)
 樹が再び股間から手を放したとき、そこにはうっすらと黒光りする濡れた染みが滲んでいた。射精と同時に、ローターは消えたようだったが……ステップを踏む度に、独特のあの青臭い臭いが鼻孔をつき、さらに少しズボンの黒い布地の中心にじわ……と白濁が見て分かる程度に染み出してしまっている。それが他のダンスメンバーに悟られないかと樹は気が気でなく、紅い顔をしながら冷や汗を滴らせていた。

 結局、三人はローターによりステージの上で健闘空しくビクビクと腰を跳ねさせながら絶頂を迎えてしまうことになった。大切な衣装の股間部分にねっとりとした汁をこびりつかせ、舞台裏に戻った三人はそのクリーム色の染みを悔しそうにティッシュで拭った。
 だが、何とか演目をこなしたことにより、ミッションクリアが認められ、目の前に下へ続く階段が出現していた。

地下11階へ

分岐点へ戻って別の部屋を探索する
 


 

落とし穴

 扉を開いた先には、またも床の底が抜けた部屋だった。上から覗けば深淵なる闇が広がっている。
「また穴……今度は……スイッチも何も見当たらない……」
「こっちはハズレ、ってことか? とりあえず進めそうもないな……」
「いや」
 異を唱えた弥代の方を向く二人。
「……考えろ、俺達は何処へ向かおうとしている?」
「そりゃ、下の階……」
「そうだ。ならばこの穴へ下りれば自然と下層へ辿り着く」
「お、下りる……? この穴ん中へ?」
「……俺は一つの見解を示しただけだ ただ、さっきのような木馬に跨がらせられるより余程簡単と思える」
「いやその前に落ちたら死ぬんじゃね!? 底見えねーしこの穴」
 深い穴底を前に、三人は思案に暮れる。せめて、ファルシオンの光で底を照らし確認出来ればと樹はクロムを呼んでみたが、応答はない。封印状態が継続しているため仕方なかった。
「うーん……諦めて戻ろうか?」

戻る

三人で協力して穴を下りる

 


 

そうだ、と樹が閃く。

「俺達の上着を結んで、ロープみたいに垂らしたら下りられないかな?」
「おっ、さすが樹、やってみるか?」
「うむ……」
 メンズサイズの上着の腕部分を出来るだけ長くとって縛れば、二メートルくらいにはなる。早速上着を脱いだ三名は即席ロープを作成し、上で斗馬と弥代がロープの端を持つ役、発案した樹が下りる役をすることにした。
 両手でロープをしっかりと握りながら、穴に背を向けた姿勢で壁づたいに足を踏ん張り、ゆっくり闇の中へ下りる樹。
「どうだ、行けそうか?」
「う、うん……暗いけど……特に何もないし……」
「油断するなよ、蒼井樹」
 こんな風にアスレチックな壁下りをした経験は樹になかったが、しっかりと張ったロープのおかげでじりじりと進めていた。そして、ついに下層と思しき地へ革靴の先が当たった。
「やった、下りられたぞ……!!」
 これまで下りてきた階段の数から予想していた通りそこは思っていたより深い穴ではなく、上から床までせいぜい一般的な住宅の二階から一階へ下りるくらいの距離であった。
「おーい二人とも、大丈夫だぞ」
「下りられたのか!よし、じゃあ次、弥代行くか?」
「お前はどうする、斗馬」
「ジャンプするから下で樹と受け止めてくれよ、なっ」
 見た目よりそんなに深くないと樹から受けた報告に基づき残りの二人が下り方を相談している際、薄暗い下層に目が慣れてきた樹が部屋を見回していると奥にある物を発見する。
「あ、あれは……宝箱!」
 黄金に光るダイヤ形のモニュメントが部屋の隅に浮かんでいるのに気付き、樹はそれを開けるべく手を翳す――
 その時、ブォン、と耳障りな羽虫のような音が響いた。
「ミラージュ……!!」
 身構える樹。そこにいたのは、見慣れない形状のミラージュ――俗に言うレアエネミーだった。クラゲのような半透明の頭部から長い触手がゆらゆらと揺れて、カルネージフォームを持たない樹へと伸びてくる。しまった、と踵を返しロープのある方へ駆け出した樹を逃がすまいと、足首に狙いを定めた触手が樹を捕らえる。
「うわあっ!」
 ドッ、とリノリウムの地面に倒れた樹の右足首に絡まった触手が、すごい力で後方へ樹を引きずっていく。
「イツキ! どうした!?」
「蒼井樹!!」
「来るな、トウマ! ヤシロ! ミラージュだ!!」
「何だと……!!」
 既に半分程度の距離を下りてきていた弥代、そして斗馬も、樹の窮地を助くべく一気に穴の底へ飛び下りると、足に伝わる落下の衝撃を諸共せず樹の元へ急いだ。
「! 二人ともダメだ、触手が……!!」
「!!」
 透明な表面に薄い青の光を放つ触手に足首を絡め取られ、逆さ吊り状態の樹を発見した斗馬と弥代は、自分たちが最悪の罠にかかってしまったことを悟った。
「んなこと言っても……このまま親友を黙って見捨てられねえよ! うおおおっ!!」
 身一つでレアエネミーへ向かって突進する斗馬。だが、打ち込んだ拳はぶよぶよとしたミラージュの表面に食い込むものの、ろくなダメージになっていないのが見てとれた。
「うわぁっ!!」
 現れたもう一人の獲物に対し、左右から伸びてきた触手が素早く斗馬の胴体に巻き付かせ、締め上げる。
「!! ぐぅぅっ………!!」
「闇雲に行くな!! くっ……ここは……!!」
 弥代はこのままでは三人ともに逃れられないと悟り、一先ずの撤退を試みた。が、時既に遅く、振り返った弥代の眼前に、もう一体のレアエネミーが姿を表した。
「何ッ――援軍……!! ……最早、万事休すか……」
 ミラージュの力を持たない弥代もあっけなくその触手に捕まり、三人は二体のクラゲ形ミラージュに四肢を拘束され、まるで見せしめのように宙に掲げられていた。
「俺としたことが――」
「くそ……こんなところで……」
「畜生……!!!!」
 レアエネミーは捕らえた獲物が新鮮なうちに捕食しようと考えたのであろう。ビリビリと紙のように三人の衣服が触手によって破り去られ、あっという間に全裸となった樹たちに、今度は触手に宿る青白い光を発光させ、電流による攻撃を測る。
「ぐあああぁっ!!!」
 素肌にまともに電流を流され、三人は何本もの針で皮膚を刺されるような痛みに悶絶する。
「ぐ……ぁ………!!」
「うぐぅッッ!!!!!」
 電気攻撃は一度で終わらず、二度、三度と繰り返され、樹たちから体力を削り取っていく。痛みによる生理的な涙や苦悶によって垂れた涎が口の端から流れ、触手に落ちる。ミラージュにとって人間の体液――汗も、涙も、血も――液体はパフォーマに次ぐ最高の栄養分であった。久しぶりのご馳走が三体も手に入ったと、クラゲの頭部で浮かぶミラージュのコアが瞳をぎらつかせるように光らせる。
 樹たちの体液を触手から摂取したことでさらに力を増した触手は、バチバチと閃光を浴びせる。
「ヒッ……ヒィッ………もう嫌だ……ァ、……ガッ!!」
「頼む……もう、やめてくれッ………うぎゃあぁっ!!」
「一思い、に……止めを……グッ! ぐあああぁっ!!!!」
 生命の危機に瀕したからだろうか、三人の性器はゆるゆると勃ち上がっていた。それを見つけた新たな触手がまた横から伸びてきて、戯れに巻き付いていく。そのおぞましい感触にひっ、と驚いた樹は、恐怖により失禁してしまった。黄金の小水を浴びた触手は、なんとここからも人間の体液が大量に摂取出来るのだと察知し、その液体の出どころである尿道口――に狙いを定め、触手をその小さな穴の中へつぷりと突き立てた。
「ヒァッ! だ、ダメだっ!! ソコは……!?」
 ずりずりと軟性の触手は細い尿道の中をものともせず深く突き進み、ついに根元のさらに奥、膀胱にまで潜り込んだ。そこにまだ残っていた樹の尿を、ストローで吸い上げるようにジュルジュルと直接吸い上げ初め、樹はワアアっと悲鳴を上げるしかなかった。
 ……そうしてついに空になった膀胱から触手が後退する……途中で、もう一つ繋がっている穴の存在に気付く。精液の通り道――精管に繋がる道だ。勿論それを見逃すべくもなく、触手は今度はそこへ進路を変え、やがて人間のDNAの源そのものである精子が詰まった精液のプールを見つけ出した。ミラージュにとってそれは、パフォーマの宝の山であった。
「ひ、ヒギィッ!! ち、チンポ……!! 吸われてるぅぅっ!!!!」
 同じく横にぶら下がった斗馬へも、多くの触手が我先にと肉棒へ群がり、天辺の尿道をこじ開け、体液を根刮ぎ摂取されていた。……弥代も同じく。

 こうして触手に補食された樹たちの意識が、次第に薄れていく――

 

BAD END

コンティニュー


 


 

巨大な壁

「これは……!?」
 部屋に入った樹たちの前にあったのは、正方形の部屋の半分を仕切るように行く手を阻む、天井から床まで隙間無く聳えた壁であった。
「ん…? なんか、穴が空いてるぜ」
 よく見ると壁の中央には三つ、丸くくりぬかれた穴が空いている。直径は三十センチあるかないかの大きさだったが、そこから見える部屋の先には下層への階段があった。
「この穴を潜れば行けそうだ」
「えつ、こんな小さい穴、入れるのかよ……」
「他に通れそうな道も見当たらない……肩の関節を外してでも入るしかないな 良ければ手を貸すぞ」
「かっ……! いや、頑張ります!!」
 弥代なら本気でやりかねないと思った斗馬が、自力で穴を潜ろうと穴の縁に両手をかける。
「両肩が入るなら何とか……いけるか?」
 樹もぐぐっと身体を縮めながら、胸の高さにある穴に頭を通し、左右の肩をすくめながら片方ずつ入れていく。なんとか成功し、あとは胴回りを入れようとしたところで羽織っているパーカーを先に脱げば良いことに気付き、もう一度後退して穴から肩口を抜こうとするも全くうまくいく気配がない。
「先に上着脱いどけば良かった! あ――っ、しくじったぜ」
 隣で同じ穴の狢に陥る斗馬に、左の弥代も――やはり、スーツの上着を穴と胴の周りに挟んで身動きが取れなくなっていた。間抜けだな、俺達……と反省しつつ、こうなったら前へ進んで穴を通り抜けるしかないと奮闘する。
「くっ……もう少しなんだけどな……」
 何とか腰まで進むも、腰回りの骨が邪魔をして穴の端につっかえてしまっている。
 少し休憩しよう――と樹が動きを止めた、その時……ブォン、ブォン、ブォン、とミラージュの出現音が背後に鳴り響いた。
「――敵襲か!」
「ハァ!❤ こんな時に……くっそ……」
 三体出現したと思われるミラージュの姿を確認するにも、壁に挟まったままの状態では不可能だった。壁向こうの様子を背後の感覚で伺う。と、不意にズボンの上から尻をぎゅっと握られる感触がした。
「うわっ!?」
 さわさわ……と樹の尻を撫でるミラージュと思わしき者の手。
「う、止めろ!!」
「俺の臀部をまさぐるとは……良い度胸だ」
 横に並ぶの二人も同じ状況のようだった。
 ど……どうしよう……と樹は壁の後ろに感じるミラージュの次なる出方を窺っていた。相変わらず挟まった胴体は抜けそうにない。そうしてされるがままじっと身構えていると、背後のミラージュがおもむろに三人のズボンに手を掛け、ずるりと引き下ろした。
「なっ!!」
「おいッ、嘘だろ」
「何をする…ッ」
 壁の向こうに三人の形の良い尻と、長い脚が等間隔に三つ並んでさらけ出された。想像するだに間抜けな姿を取らされていることを察し、三人は慌てて壁の穴から抜け出ようとコンクリートの壁を必死で押す。が、そんなことはまるで意に介さず背後のミラージュがそれぞれの尻をガシッと掴み上げた。
「う、うわッ! 触るなッ! 離せ!!」
 樹が叫ぶも、やや固くて弾力がありながらも滑らかな尻肉を、ムニュムニュと手のひら全体で揉まれてしまう。斗馬の樹よりも筋ばった褐色の尻と、弥代の白くて桃のような手触りの小さな尻も、同じくされるがままであった。
「クッ……不躾な……」
「男のケツなんか揉みやがって……この変態ミラージュ野郎がっ!!」
 しかし背後のミラージュの目的は、当然尻を揉むだけではない。ややあって、その尻の割れ目に潜む秘裂……三人のアナルに向かってミラージュは頭部を寄せていく……。
「ひぃっ!?」
「んひゃあっ!?」
「あっんッ…!!」
 アナルに濡れたものが押し当てられる感触に、三人は引きつった声を上げた。中心から放射状に伸びる襞の一本一本を広げて味わうようにジュルジュルと舌が這わされ、やがて舌はその先の粘膜の中にまで突き入り、侵入してくる。なめくじが尻の穴を這いずり回っているような気持ち悪さに加え、温い唾液にまみれた舌によって自らの排泄器官というお世辞にも清潔でない、そんな場所を蹂躙されることへの困惑、そして排泄口を舌で弄られる単純な刺激に、樹たちはどうしようもなく身悶えていた。
 やがてミラージュたちは満足したのか、アナルから舌が引き抜いた。その頃には、壁の向こうの三人は額に汗を滲ませ、ハァハァと息を荒げていた。
「終わった……?」
 ミラージュが背後から離れる気配を感じた三人の淡い期待は、すぐに消え去ることになる。
 再び臀部を両手でガシッと掴まれたかと思うと、再びミラージュが身体に接近する気配に加え、ひくひくと蠢いていた後孔に硬くて熱いものが押し当てられたからだ。
「こ、今度は……まさか……」
「まっ……待て!!」
「え、ええっ、そんな……」
 ズズッとその熱い棒――ミラージュの猛るペニスに、三人は同時に貫かれた。
「ひぎッ――!! うわ、ぁ、ああ――ーッ!!」
 必死で侵入を阻むべく尻の穴を締める力を強めたが、それは逆効果で、あえなく十分に濡らされていた腸壁を擦りながら凶器が埋められていく。あっという間に根本まで咥え込まされていた。
「な、何でッ……俺達がこんな……!!」
「辱しめを受ける羽目に……」
「なるんだよぉッッ――!! ァあッ!! 動かすなぁ――ーッ!!」
 部屋の中に斗馬の絶叫が響き渡る。壁の向こうでは興奮したミラージュ達が思い思いに肉棒を抜き差し、彼らの尻の具合を楽しみ始めた。パンッ、パンッと尻肉に腰を打ち付ける音が規則的に鳴り響く中に、樹たちの苦悶の叫び声が混ざる。
「ヒッ……ぅぐっ……ぁううッ――助けて……誰か……クロムッ……」
 早くこんな苦しみから解放されたい――と、樹は涙を流しながら相棒であるミラージュを呼ぶが、願いも虚しく、眼前には薄暗い何もない部屋が広がるばかりで、ただ後孔に熱い滾りを受け入れ、臓腑を穿たれる苦しみに苛まれていた。
 隣の斗馬も同じく、畜生、畜生……!!という呟きを何度も繰り返し、力の及ばぬ悔しさと怒りを滲ませていた。弥代は――がくりと頭を項垂れ、表情は見えなかったが、汗と唾液が混じった水滴をポタポタを床に落とし、時々獣のような唸りを上げたかと思うと、切なげな高い声と共に、激しく首を左右に降った。
 もう、このまま自分たちはここから逃げられないのか――と樹の意識は段々と絶望に支配されていく。蹂躙を続ける背後のミラージュ達。それらが達した後も、援軍が控えているのだろうか、肉棒がずるりと抜かれたと思えばまた質量をもったモノに貫かれる。その繰り返し――

 この部屋に入るんじゃ無かった、と後悔の念に苛まれながら、樹たちはやがて意識を暗い闇の中に溶かしていった……。

 

BAD END

コンティニュー


 


 

長机

 進んだ先には、見慣れた四角形の部屋の中央に置かれた長机。
「あれ、また握手会か……? 俺は遠慮するぜ、全く」
「いや、何か上に乗ってる……段ボール?」
 段ボール箱に入っていたのは、健全な男ならば一度は目にしたことのある代物だった。
「オ、オナホ? 何つうモン置いてんだよ、スタッフ……」
 やっぱり何も見なかったことにして仕舞っておこうと蓋を閉じかけるが、待て、何か紙が入っていると弥代が手を伸ばした。
『フォルトナ男子の皆様――弊社の新作をお届けに上がりました。ぜひ使い心地を体験してPRのほど、よろしくお願いします――』
「はあ、やっぱりそういう事かよ……」
 弥代が読み上げた内容は、悪い予感の通りだった。
「何をぼやいている赤城斗馬、仕事だ」
「や、ヤシロ……仕事っていっても……内容は選んだ方が」
「ま、これが次のミッションなんだろ、いいよ、ミラージュのご厚意に甘えてやろうぜ」
 斗馬はそう言うと段ボールの蓋を開け、中から取り出した三つの商品パッケージをでん、でん、でんと机上に並べた。
「……どれ使う、お前ら」
「俺は違いが分からん 説明しろ蒼井樹」
「ええっ お、俺も買ったことないから分からないんだけど……」
 現れた商品はそれぞれ、こけしみたいな形のもの、それよりは小さい紙箱入りのもの、やたら大きい桐箱に入ったものだった。樹がこれまで目にしたことがあるのは、コンビニで立ち読んだ雑誌広告に載っていた縞模様入りの赤いパッケージが印象的なこけし形のものだけだった。
「俺はこの……デカいやつ試してみたいんだが……」
 斗馬は一男子としての興味を抑えられないようで、いかにも高級そうな桐箱へ手を伸ばしている。俺は構わないと言う弥代に、樹も良いよと承諾した。よっしゃ、と小さくガッツポーズする斗馬。
「じゃあ俺は……こっちの赤いのを使っていいかな」
「ならば俺はこの小さな箱の物だな ……ん? 卵……?」
弥代が箱を開けるとそこには手のひらに収まるサイズの白くて丸い卵……勿論本物ではなく、シリコンでできたものである。
「これをどうすれば良い……割るのか……?」
「あーもう、俺が教えてやるよ、これはだな……」
 と見かねて斗馬が弥代にレクチャーを始める。樹も興味本位で手にした手の中の赤いパッケージ包装を開封しつつ、何ッ……とこれらが性感を得るための道具であるのを理解した弥代の様子を横目で見つつ、今後起こる展開の全てを察した。
「んじゃ、俺集中するから……気にすんなよ、俺もお前らは今から空気だと思ってヤるから」
「空気か……いかなる状況でも他への無心を貫く修行か……」
「っ……健闘を祈るよ……」
 そう言葉を交わした三人は、それが暗黙の了解であるようにくるりと背を向けた。

(……この穴に入れるのかな……直接……)
 オナホールを覆う包装を取り去った樹は、その円柱のくびれたところを右手で持つと、先端にある窪んだ穴へ息子をあてがった。
 少しの期待で硬くなりつつあった砲身が、柔らかいシリコンの表面と高反発のウレタンに誘われ、内部のトロリとしたローションに薄い皮膚が浸かる。
(アッ、これ……中……ヌルヌルだ……)
 まるで本物の女性器のような商品の仕様を悟り、まだ女性経験がない樹の意識が興奮に包まれていく。血が巡り、ホールの中で樹の性器はたちまち元気良く反り返った。
「ハァッ……アッ、……アッ、……❤」
 右手で抜き差しを始めれば、その気持ち良さは言うまでもなく――あっという間に、樹はオナホールの中へ欲を放っていた。
 一方、卵型オナホールの使い方を教わった弥代も、そのシリコンを自らの亀頭に覆い被せ、小刻みに動かしながら先端への刺激に腰を震わせていた。シリコンを下方へ伸ばせば竿全体を覆って摩擦するのも可能だったが、それより雁首の括れたところや剥き出しの先端だけをシリコンの溝と突起を強く当てて虐めるように擦ってやるのが、好みの愉悦を堪能出来た。
「ン……くぅぅ……❤❤」
 俺としたことが、こんな玩具に夢中になるとは――と内省しつつも、卵は弥代の放った精液をいっぱいに受け止め、中身をリノリウムの床に溢れさせていた。
 二人が床の上に座し、事を終えた一方で――。
「お、おお……すげ……」
 桐箱を開けると現れた肉色の塊を目に、斗馬は思わず感嘆の声を漏らした。
「これ、高いやつだよな……凄、ホンモノみてぇだ……」
 その女性の下半身を模したようにシリコンで巧みに製作されたオナホールの、なだらかなカーブを両手で持ち上げる。しっかりとした重さともっちりとした柔らかな表面に指が沈む感触に、思わず斗馬はゴクリと音を立てて唾を飲み込んだ。視線の先には――作り物ながらも精巧なペールオレンジの女性器があった。花びらのようなヒダヒダ、その上にご丁寧に作られた丸い突起、クリトリスから目が離せない。斗馬はそこへ、透明なローションを垂らすと指先でそっとなぞる。やがてびしょ濡れになった襞を掻き分け、そこに空いていた丸い小さな穴に指を挿入し、内部へローションを塗り込めていく。
(う、キツ……それに、すげぇ、中思ったよりざらざらしてる……!)
 視覚による性的興奮によってすでに斗馬のペニスは痛いくらいに勃起していたが、きっと穴の中まで精巧に作られている筈だと期待が最高潮に達し、我慢できないと逸る斗馬は先程のローションのチューブをブチュ、と押し潰して自らの息子を粘液まみれにする。
(ゴムなしで、よし、いざ……!!)
 無抵抗に雄を誘うように開く花弁に、斗馬は自らの雄を押し付ける。小さなシリコンの穴が丸い切っ先によって押し広がりながら、しかし高性能シリコンは優しい圧力を持って斗馬の猛々しい性を受け入れた。ずちゅ、とローションの音と共に、斗馬のペニスの根元まで一気に咥えたその据え置き女性器形オナホールのリアルな挿入感は、まだ性経験の浅い斗馬が味わったことのない極上の快楽そのものだった。
「うおっ……❤❤!! おっ❤……す、げッ……!! ホンモノじゃんこれ……アッ、やべぇっ……!!❤」
 どちゅ、どちゅ、と長机に置いたオナホールの腰部をがっちりと掴み、腰を前後に打ち付ける斗馬はまるで獣のように激しく疑似セックスを行っていた。一突きする度に、人工的に作られた膣内の螺旋状の隆起が斗馬の陰茎を搾り上げるように絡み付き、堪らずまた一突きしようと腰を引けば、ヒダ表面のざらざらの感触は絶妙に裏スジを擦り、うあっ❤と斗馬がまた自動的に奥へ突けば、オナホールの最奥は精液を吸い出すように亀頭を吸引するように蠢く――道具が意思を持ってそうしているのではなく、これは斗馬の感じた一使用感に過ぎなかったが、使用者の腰を止まらなくさせる快楽のループトラップに、斗馬は夢中になっていく。
「う、ウオォッ……!! オッ❤オッ❤❤❤ はふっ❤ アッ――❤ イクッ、イクぅッ――!!!❤❤❤」
 両踵をぴんと伸ばし、それでも止まらない腰を大きく前のめりにグラインドしながら、斗馬は疑似女性器の膣内に精の滾りをぶちまける。
「はっ……ァ……❤ 生で……こんな……❤ 気持ち良すぎッ……」
 ずるりとシリコンの穴からまろび出るペニスは白濁に濡れ、先程まで快楽を貪り少し広がってしまった穴からもトロッと一筋の精液が流れ落ちていた。それを見て得た視覚的な興奮で、またピクピクと反応してしまう己の性器の素直さといったら……。
「……終わったか?」
「へっ!!」
 斗馬が声の主――弥代の方を向けば、先に事を終え床に座る二人を視界に認め、はっと我に返る。
「あ、ああっ……わり、待たせたな……と、とりあえず血の気の引いて項垂れた息子を慌ててティッシュで拭う。
「どっから見てたんだよ……」
「いや、見ようと思って見てた訳じゃ……」
「机が壊れそうな音を立てていたぞ 快楽を享受しているのは十分伝わったが……」
「う、わ、分かった!! 分かったからそれ以上言わないでくれ!! 記憶から消してくれ――ー!!!!!」
 斗馬の叫び声が部屋に木霊する。
 それぞれの使用感を身をもって体感したことでミッションをクリアしたと見なされたのか、地下への階段が姿を見せていた。

地下11階へ

 


 

カラオケルーム

「ここは?」
 樹達が足を踏み入れたのは、意外にも身狭な個室だった。派手な幾何学模様の壁紙と合皮張りのソファに囲まれた四畳半程度の部屋に見合わない正面の大きなモニター。その横の一段上がったミニステージの上で回る小さなミラーボール。棚の隅に置かれたタンバリンとマラカス……から想起される既視感――ここは……。
『イドラスフィアカラオケバトルへようこそ!』
 突然、黒いカフェエプロンをつけたスタッフが現れ、樹達にそう告げる。
「カラオケ~?」
 ぽかんと拍子抜けした声を上げる斗馬。はい、ここでアーティストの皆さんには持ち曲をカラオケで歌って貰い、九十五点台を出せたら次の間へ進んでいだきます。
「げっ……九十五点以上……俺はパス、パス」
「……俺もまだ持ち歌はないし……ここは弥代に任せるしかないな」
 満場一致で三人の意見は合致した。
「フッ……ようやく俺の力を示す時が来たようだな……」
 自信満々でハンドマイクを手にする弥代。その時、封印されていたはずのナバールの力だろうか、弥代のスーツがドミナントプリンスの姿に変化した。だが、いくら弥代でもそう簡単にはいかない気がする……樹が感じた嫌な予感はやはり的中した。
 司会のミラージュスタッフは、次の瞬間とんでもないことを言い出した。
『それでは、手コキを開始してください!』
「は?」
「手ッ……!! ヤシロ、罠だ!! やめとけ!ステージから下りるんだ!!』
 これから何が始まるのか察した斗馬は、慌てて弥代にそう叫ぶ。だが、集中を高めた弥代にとってその言葉は雑音でしかなかった。
「一流のパフォーマンスを魅せてやろう――」
 ドミナントプリンスの衣装を纏ったからには、これからどんな罠が迫ろうと完璧に歌いきる。弥代はその確固たる意思でステージに立っていた。
『手コキ役は同じ事務所の……蒼井樹さん、お願いしますね』
「えっ」
「な、何言ってやがるこの下衆スタッフが!!」
「共にステージを作り上げる者を侮辱するな、赤城斗馬! 蒼井樹、指示通りに動け」
「ッ……構わない……のか? ヤシロ……」
 一流アーティストの放つ剣幕に、制止を求める斗馬もぐっと言葉を飲み込んだ。指名された樹も、覚悟を決める。
「じゃあ……俺がやるよ」
「手コキとやら、任せたぞ」
 樹は弥代のいるステージに上がると、弥代の身に付けているドミナントプリンスの白いパンツにじっと目を落とす。それに、手を伸ばした。
「ヤシロ……じゃあ、始めるよ」
「? 蒼井樹ッ……!?」
 タイトな白パンツの端に手を掛け、一気に下げる。長い着丈の上着でまだ下着は見えなかったが、樹はその上着の中心下から手を差し込んで、弥代の中心についているモノを探し出す。
「???」
 突然の樹の行為に戸惑う弥代を他所に、弥代の持ち歌であるBlackRainのカラオケバージョンが電子画面に表示され、スピーカーから三、二、とドラムスティックのような電子音が曲の入りを合図する音が鳴る。
 それが、手コキdeカラオケチャレンジの始まりであった。
「……ッ砕け、散る――」
 出だし一瞬の遅れ。樹が弥代のペニスを握ったせいだ。血迷ったのかと樹に問いただすより、今は曲を歌い上げるのが我が使命――と、気にせず歌を紡ぐ弥代の顔をすまなそうに見上げつつ、樹は緩やかに弥代のペニスを握った手を自分でする時のように刺激し始めた。
「鏡の中の――ッ、冷たい、記憶とッ――」
 樹の動く手によって弥代の気がどうしてもそちらの刺激に気を取られ、リリックの語尾が変に切れてしまう。
「ッ、くだ、け、散る――ッ!げんッ…か、ぃをぉッ!……こ、ぇ、て――」
 いよいよサビにさしかかるも、弥代の下腹部もまるで限界と言えんばかりにはち切れそうな勢いで勃起していた。くぅッ――と眉間に皺を寄せながら、それでも弥代は歌い続ける。
「ハッ、……おさ、きれ……なィッ❤……ま、し……ァッ❤燃やせッ……!!」
 絶え間ない刺激に声を震わせながらも、ようやく弥代は一番を歌いきった。カラオケのモニター画面に、点数が表示される。
『九十……五点、一! 素晴らしい――!! この調子で最後まで歌いきってください』
「や、ヤシロ……もう止めよう……ギブアップして一旦上に戻ろう」
「くっ……」
 しかし弥代はマイクを手放さなかった。そうこうしているうちに二番の歌詞が始まる。
『ほらほら樹さん、ちゃんと手コキしてあげて!』
 スタッフのダメ出しに、樹も奥歯を噛み締めつつ、また弥代の砲身をあくまで自分が機械になったつもりで規則的に上下に扱いていく。それを不服に思ったのか、司会が歌う弥代をよそに口を挟む。そのかいあってか弥代も刺激慣れしてきた調子で、二番を順調に歌い紡ぐ。
『うーむ……少し刺激が足りないようですね……? 樹さん、ちょっと弥代さんの亀頭を手のひらで覆ってくれます?』
「えっ……は、はぁ」
『そう、そのまま、ぐりぐりっと先っぽを圧迫してください』
 えっ……それって……と樹は困惑を隠せなかった。つまりここからは竿の刺激に加え、亀頭責めのオーダーが追加されるということだった。
『それでは、開始してください!』
「ンぐぅッ……❤」
「や、ヤシロ……ごめん……!」
 謝りつつ、樹の手のひらは弥代のつるつるの亀頭を手のひらで包み、あくまで優しく、ソフトな圧を心掛けながら――くるくると円を描くように刺激を続けた。
 弥代の下半身がガクガクと痙攣し出し、あからさまに快感に震えていることを伝えていた。
「ま、……ッグ………ッ………❤❤し、ンッ❤❤❤れ、ぉ、……な……!らァッ――❤❤❤」
 一際高い裏声を上げると同時に、ビュルルッ、と樹の手のひらに熱い液体が放出された。堪えきれず、ついに弥代は樹の手の中に射精してしまったのだ。
「うわっ」
 他人の精液に触れるのは初めてだった樹が、思わず弥代の陰茎から手を離す。まるで意思を持っているかのように、ビュルッ、ビュルッ……と弥代のチンポは上下に揺れながら残りをステージの上にまき散らしていく。
 一瞬、惚けたような顔でマイクを手にしたまま立ち竦んでいた弥代だったが――耳に流れ続ける持ち歌のメロディに気を取り戻し、息を吸い、歌い始める。
「……終わりを、見たくなければ――強くあれ――」
 まさにその節は、今の弥代にとって自らを鼓舞する魂の叫びであった。
「ヤシロ……」
「すげぇ、すげぇよ……!!」
 恥辱を乗り越えて歌いきった弥代に、樹と斗馬は拍手を送った。
 樹が手渡したティッシュで汚れた下肢を拭い、ステージを下りる弥代。もはや結果が何点だろうと――弥代を責めるつもりは毛頭なかった。
 そしてモニター画面に表示されたのは――
「ひゃ、百点!?」
「!?」
『素晴らしい――感動しました!! 剣弥代の、他では聴けない魂のボイスをありがとうございました! それでは、先へお進みください――』
「……何だよ、このカラオケ……そういう……」
「俺は正直……全く納得のいくパフォーマンスでなかったが」
 言うならば企画者の八百長極まりない結果ではあったが、まあまあ、と樹がそんな二人を宥めつつ、無事下層への階段が現れたことを喜んだ。

地下11階へ

 


 

温泉……?

「おお、こ、ここは……!!」
 現れたのは、和風家屋風のスタジオセットだった。
 きっとまた温泉に違いない、と喜ぶ斗馬。良かった、少しここでまた休息をとろうと樹はそのセットの敷居をくぐった。やはり以前訪れたリフレッシュゾーンと全く同じ設備が施されているのを確認し、衣服を脱衣所の籐籠に置いた三人は浴場に続く硝子戸を開けた。
『お待ちしていました!』
「!?」
 そこに居たのは、樹たちと同じく三名の男――ここのスタッフらしい、同じデザインの甚平を身に付けた――が仁王立ちで待ち構えていた。
「えっ、あ……!?」
「間違えましたッ!! スンマセン!!」
『いえいえ、ご遠慮なく~リフレッシュコース三名様、ご案内します』
「リフレッシュ……」
 その言葉に慌てて立ち去ろうとしていた樹たちは振り返る。
『まあまあ、直ぐ終わりますから こちらへどうぞ』
 奥の男が三人を手招きする。そちらをよく見れば、整体の施術に使われるような簡易ベッドが三台並んでいた。
『十五分ぐらい疲労回復のマッサージと、ツボ圧しをさせていただきますので』
「そ、そういう事なら……と納得して樹たちはその施術を受けることにした。
『芸能人は身体が資本ですからね~疲れも溜まってますでしょ』
「あ、はい……色々あって……助かります」
 ベッドに身体を仰向けに横たえた樹たちの素肌に、大判のさらしのような白いバスタオルがかけられる。
『はい、こちらは蒸しタオルです。熱くないですか?」
「いえ……調度いいです」
「ふーっ……気持ち良い――」
「気が利いているな……」
 目元を覆うようにハンドタオルサイズの蒸しタオルを乗せてもらい、その熱の気持ちよさに自然と目を閉じる。
『はい、それではこれからマッサージしていきます……機械入れますね』
 ヴィィ――と身体の近くで振動音がする。それは先端に丸い円を棒の先に付けたバイブ――いわゆる樹たちの世界で電気アンマと呼ばれているものであったが、視界をタオルで塞がれている三人はまだそれに気付いていなかった。
『はい、身体に当てていきますので、痛かったら仰ってください』
 咄嗟に寝台から飛び起きようとする三人の手首と足首に、罠である魔道によって出現した黒い金属の枷が巻き付く。ガシャン、ガシャンと素早く端を閉じたそれは、三人の四肢を磔のようにベッドの上に拘束した。
「手が……!? 足も……」
「しまっ……アッ!! ぐっ、汚ねえぞ!!」
 ガチャガチャと拘束器具を外そうともがきつつ声を荒げる斗馬に、まあまあ、落ち着いてください――とすぐ横のスタッフは特段慌てた様子もなく声をかける。そうこうしている間も、スタッフの三人はそれぞれ黒い電マを手に、樹たちの皮膚の薄いところを責め立てていた。
「あぐッ……! アッ、止めろッ――――!!」
「ひぁっ、く、くすぐったい……!! ッ!!」
 振動から逃れようにも、四肢を拘束された三人は寝台で身をよじるのが精一杯だった。初めは脇の下や胸部から脇腹をなぞり擽っていた電マは、やがて、左右に開かれた脚の間に狙いを定める……。
『特にこちら、凝ってますね?』
「――――!!!!!!」
 薄いボディタオルがかけられてはいたが、そんな布切れ一枚などものともしないような激しい振動を続ける電マの先端が彼らのペニスに押し当てられる。
「うわ、ぁ、アアアッ!!」
「やっ、め、――――止めろぉッ!!」
『そうは仰いますが……とても硬くなってますよ?』
 物理的な刺激のせいで、スタッフの言う通り三人のチンポは電マの下でムクムクと質量を増していく。
『硬い凝りを解してこそのマッサージですから』
 その質感を楽しむように、竿の表面や亀頭を何回も往復した電マは、ペニスがすっかり勃起した後は薄いタオルに透ける裏スジを撫で、雁首をクイクイと押し上げるように小刻みな動きを加えていく。ペニス全体に広がるむず痒いような刺激に、堪らず甘い声が上がり始めた。
「ハッ……ン……!! そ、そんな、ところばっかり、されたらッ……❤」
「ァアッ❤アッ……ゃ、くぅぅッ……❤❤」
「き、キッツ……!! それキツい、それッ❤ンァ❤アッ――!!❤❤」
 三人は凶悪な動きを続ける電マから逃げるように腰を引くも、硬いマットレスの反発を受けるのみで、それでも強い刺激を避けるように必死で左右に腰を捩っていた。
『そんなに腰を揺らして、効いてるみたいですね』
『固くなってるのが何よりの証拠ですね、ではもっと念入りに解しましょう』
「あ、違……ソコは、そんなッ……!! 凝ってんじゃなくってェ……」
 情けなく弁解の声を上げるその姿を、スタッフは笑みを浮かべて見守った。アア、アア……❤と喘ぎ続ける三人のペニスはついに腹に付くぐらい反り返り、先端から染み出たカウパーがガーゼタオルを濡らし、ピンク色の亀頭を透けさせている。
『そうそう、こちらも意外と気持ち良いですよ……』
 ふとその言葉を合図に、肉棒から離れた電マがそのさらに奥まった場所へ向かい――持ち上がったタマの下、ふっくらとした会陰に押し当てられた。
「あはッ……!? う、❤ぅア……――❤❤」
 竿へのダイレクトな刺激が終わってほっとするのも束の間、今度は会陰に当てられた電マによって身体の中心に電流が流れるような、そんな感覚が沸き上がった。内腿に力が入り、じぃんと下半身が熱くなっていく。不意に射精欲が高まって、しかしあと一歩物足りない刺激に切なさを感じ、樹は足指をぎゅっと丸めて会陰を揺さぶられる感覚を追った。左右の二人も同じく初めて感じた沸き上がる感覚に困惑しつつ、悶えていた。
「フゥッ……、ゥゥッ……ウッ、ン……!!」
『静かになりましたね、リラックス出来てきた証拠ですねえ』
『では、十分に性感も高まったようですし……次の施術に移ります』
「も……もういい……いいって……」
「枷を外せ……! 下衆共が……」
 はぁはぁと息をきらせながらもスタッフを威圧する斗馬と弥代だったが、電マを片付け続く施術の為の準備を淡々とこなすスタッフ達には暖簾に腕押しであった。
『さ、それでは――淫ツボ押しを行っていきます』
 三人の拘束された足首の下、足裏に手を添えたスタッフ達が、窪みに沿って目当てのツボを探し出すと、ぎゅっと指先に力を込め、圧をかける。
「ひッ、やっ、止め……!!」
「ゥア!! ァア――――!!!!」
「アッ、いッ!! いってェ!! 痛ェよッ!!!!」
『このツボは、全身の感度を高める効果がありまして……つまり、いつもよりすごくイきやすくなるということです』
 ぎゅうぎゅうと寝台をきしませながら痛みを訴える三人に、淡々と施術を施すスタッフ達。
『さあ、最後はココ……生殖器――チンポの反射区です』
「い、痛ッ……のに、えッ!? ンンッ❤何でッ……❤」
「あぅッ❤ゃ、ン……!!ン……❤ふぅッ❤フーッ……❤」
「あ、あヒィィィ――!!!!!! ぁギャッ!! ァア――――!!!!!!」
 止めて、止めてくれと樹が叫びの合間に弱々しく懇願する。効能には個人差があるようで、斗馬はぶるぶると身を震わせ、弥代は既に苦滲ではなく鼻にかかった甘美な吐息を漏らしてさえいた。
『精力が増強して金玉の中身の容量も増えるとか……ぜひ身をもって体感後、レビューの書き込みお願いします』
 くく、と万感を得て笑みを浮かべるスタッフ達が、施術を終わらせ部屋奥へ引き上げていく。 スタッフが離れたことで寝台の拘束具が自然に外れた後も、強すぎる刺激を受けた三人はしばらく倒れ伏していた。

「……ッ……」
 ひやりとした冷たい空気を感じ、樹が目を覚ます。リノリウムの床の固くて冷たい感触……薄暗い部屋、そこはこれまで何度も通ってきた四角い小部屋の中に違いなかった。
「……あれ……?」
 眠りにつく直前までの記憶を辿る。確かリフレッシュゾーンと見せかけて、電マであったり全身のツボ押しの施術に悶絶していたんだったと気付いた時、樹は自分が素っ裸のままなのに気付いた。
 隣で寝ていた斗馬、弥代もまた同じく全裸であった。二人も目を覚ましたようで、大丈夫かと声をかけるとお、おうと居心地悪そうにしながら斗馬が立ち上がる。
「ひっでぇ罠だったぜ……ところで、この部屋……」
 ただの四角い空間には、三人以外何もなく、ただ奥に続く階段が見えるだけだった。
 まるで狸に化かされたかのようだと、弥代が乱れた髪を掻き揚げながら吐き捨てた。
「やっぱり何もねぇ……このまま進めってことかよ、畜生ッ……」
 部屋の四隅をくまなく探るように歩いていた斗馬が、悔しげにコンクリート壁を拳で打つ。
 カルネージフォームに加え、身に付ける衣服すら奪われてしまったという事実に、樹もなかなか立ち上がれずにいたが、この何もない部屋にいても仕方がないことは明白だった。それでも……進むしかない……。
「まあ、もういい加減慣れてきたぜ、お前らにチンポ見られるの」
「俺は全然慣れないよ、……正直恥ずかしい」
「弱音を吐いている場合ではないぞ、蒼井樹 たとえ肉体を曝そうと、ここからが俺達自身の真価を発揮するときだ」
「すっげえ前向きな発言だな……いや、ご立派なことで」
 斗馬が改めて認めた弥代の鍛え上げた肉体――と、平常時でも十分長さがあるズル剥けの陰茎を両手を合わせて拝む。その間の抜けた滑稽さに、フフッと樹は思わず吹き出した。
「うん 分かった 俺も頑張るよ」
 素肌に直接空気が当たり、足を踏み出せば股の間に風が通り抜け、まだ薄めの陰毛をそよそよと靡かせる。なんとも頼りない心地ではあったが、こんな酷い状況にあっても前向きに進もうとする二人の背中を追うように、樹も二人と共に進むことを決意した。
 ひたひたと素足で床を踏みしめながら、樹たちは下層へ向かった――

地下11階へ