闇の魔獣

ひょんなことから魔獣退治の依頼を受けたホームズたちは、その巣窟であるメーメル洞窟にいた。

メーメル洞窟――。
昼なお薄暗く、オープスやゾンビなどのモンスターが放つ体液や、獣の死骸が放つ異臭が充満する場所。
とても人間の、ましてその場所の地理に詳しい者が好き好んで入るようなところでは無い。

『そこに巣食うモンスターを退治して欲しい』

こんな、普通なら断って当然とも言える依頼を受けたのは理由があった。

『……確かに危険な場所だ…だが、洞窟の奥には珍しい財宝が無限に眠っているらしいぞ。』

つまりホームズは、洞窟の財宝を目当てに魔獣退治を引き受けたのだ。

初めは、魔獣退治などシーライオンに集う面々の力量をもってすればすぐに片付く、などと高を括っていたホームズだったが、予想に反し洞窟の奥からは次々とオープスの群れが分裂して湧き出てきたため、目当ての物への進路はすっかり阻まれてしまっていた。
さらに、最奥にはこの鬱陶しいオープス達を延々と生み出しているアークオープス??いわゆるこれらオープス達の母体が居座っているという事実を知り、ホームズはもとより、さすがのシーライオンのメンバー達までもうんざりしていた。
例えばユニは早く地上に帰りたいと喚き、後方にいるカトリの顔色も、洞窟内の悪臭にあてられたのか酷く悪い。

結局、一刻も早く撤退せねばならない状況に陥ってしまったホームズは、渋々ある決断を下した。

「オイ、そこのお前!左奥の小部屋にある宝箱を取りに行ってこい。鍵やるから」
ホームズは自分のすぐ近くにいた者にそう言い放つと、懐から宝の鍵を一つ取り出し、その者に強引に手渡した。
「私が、ですか?ホームズ様…」
突然の呼びかけに狼狽の色を見せる白銀の髪の若者の言が終わらない内に、ホームズは言い放った。
「ああ。オレはあのウザい奴らの親を殺りに行くからよ。…本当は、オレ様が取りに行く算段だったがな……あ――クソっ!こいつらどれだけ湧いて出りゃ気が済むんだよ!!最悪だぜ、まったく」
と、かなりの悪態を吐きながら、ホームズは奥の方へ走り去って行ってしまった。
後に残された若者、ラゼリアの騎士であるクライスは、あまりに唐突な申し出に、最初は鍵を手に持ったまま、呆然とその場に立ちすくしていた。

が、そのうち彼は指示された小部屋を目指して歩み始めた。
彼の本当の主人であるリュナンによってここに預けられたからには、今の主人であるホームズの命令も絶対だからである。
その選択の先に、後の彼にとっての悲劇が待ち受けていることも知らずに。

小部屋へ向かう道中、クライスの周りに大きな障害物は無かった。
あったとしても、分裂をくり返して虫の息となりつつ、ふわふわ漂っている小さなオープスが二、三匹。
主人から頼り無いとされ、戦訓練の為ホームズに預けられた彼ではあったが、所詮敵では無い。
相変わらず日の差し込まない洞窟は薄暗かったが、岩壁の突き当たりから僅かに漏れ出る光を発見した。

(此処か…)
そう確信した彼は、手探りでその光の漏れている部屋の入り口を見つけ、中を覗き込んだ。
一匹、蜂のように耳障りな音を立てながら漂うオープスがいたが、一匹だけなら障害ではない。
それに、部屋の奥に目的の宝箱らしき物も見える。
彼は急いでその部屋に足を踏み入れ、ふよふよと呑気に浮かぶオープスに槍を突き刺した。
刺した箇所がぱっくりと開き、どろりと黄色い体液が滴る。
突如激しい痛みに襲われたであろうオープスは、唸るような声を上げながら自分を襲った者へ反撃するために触手を伸ばしてきた。
緑の触手が鞭のようにしなり、クライスをかすめる。
「くっ!!」
四方に飛び散るきつい悪臭のする粘液に顔をしかめながらも、クライスは再び槍をオープスに突き刺す。
するとオープスは断末魔の叫びを上げ、ついに動かなくなった。
それを見届けたクライスはほっと息を吐き、自分の槍や鎧に飛んだ液体を払うと、いよいよ宝箱の傍へと足を進めた。
鍵を取り出し宝箱を開けようとした、次の瞬間。

「うわっ!?」

いきなり何者かに足首を引っ張られ、クライスは剥き出しの岩肌に倒れ込んだ。
その時彼の視界に入ったのは、空中に浮かぶ何匹もの緑の物体……
まさしく、オープスの大軍だった。

さっき殺したオープスの声を聞いて来たのか、どこからか又、湧いて出たのか。
今はそんな事を考えるより、とにかく立ち上がって攻撃しなければならない。
…だがそう思った時にはもう、どうする事も出来無い状態だった。

唐突に部屋に現れたオープス達は、その緑の触手をクライスの槍を持つ手に執拗に絡みつかせ、すでに彼の唯一の攻撃手段を奪ってしまっていた。
「……!! ……くっ…!」
クライスは触手を振り解こうと必死で腕に力を入れたが、細い触手の一本一本の力は、見かけからは想像がつかないほど強力である。
しかも、そうやってもがいている間中、四方からオープス達による体当たりが容赦無く降り注ぐ。
「ぐっ!………っ、ああっ!」
オープスによる体当たりの威力は見かけによらず凄まじく、一匹の力は大の大人以上に及び、さながら斧を振り落ろされるのに似た衝撃となる。
そんな力をもってして、集団で何度も体当たりされれば、騎士の経験も浅く、まして今は身動きの取れないクライスにとって、死に至らしめられる可能性は十分にあった。
やがてクライスが、あまりの衝撃の激しさに手の中の槍を取り落とすと、きつく腕に絡んでいた触手がいきなり離れた。
身体の支えを失ったクライスは再び岩肌に倒れ込む。
倒れたクライス目掛けて、オープスは更に攻撃を続けた。
「っ!ぐうっ……誰かっ、…っ、うぐっ!」
助けを求める間も与えず容赦なく加わるオープスの攻撃により、着ていた鎧が鈍い音を立てながら砕け落ちる。
クライスはその瞬間自らの死を覚悟したが、なぜかオープスたちの動きはその時をもってピタリと止んでいた。
獲物の周りを囲むように、オープス達が浮遊している。
(……ああ、今の内に逃げなければ……)
荒い息を吐きながら、クライスは必死で立ち上がろうとした。
しかし、激しい打撲で痛む身体は言う事を聞かない。
少し動くごとに身体のあちこちが重く悲鳴を上げたため、思わず顔をしかめる。
口腔内も切れているらしく、口には鉄の味が滲んでいた。

そうして彼がひとり足掻いていると、再びオープスの触手が、今度は両腕両足に絡み付いてきた。
「………!…来る…な…っ…」
必死の抵抗も空しく、スルスルと腕に絡み付いた触手により上体を起こされ、クライスは嫌でも自分の周りにいるオープス達と目を合わさなければならなくなった。
自分を取り囲むオープス達の黄金色の瞳がギラリと光ったような気がし、言い様も無い恐怖と焦燥感に襲われる。
(……何のつもりだ?なぜ攻撃しない?)
今の自分に止めをさすことなど雑作も無いはずなのに。
クライスは自分に向けられたオープスのぎょろりとした一つ目を疑問に満ちた瞳で見つめながら、腕から手の平の中へと続く、ぬめりを帯びた触手をぐっと握り締めた。
それに答えるかのように、一匹のオープスが無数の触手の中の一本を彼の眼前に伸ばし、クライスが着ている衣服の襟元へその先端を引っ掛けた。
(首を絞めて、殺すつもりか…?)
そう考え、顎を肩口に付けるようにして触手が巻き付いてくるのを拒んだ。
が、オープスの狙いはまるで違っていた。
瞬間、襟元にかけられた触手は、衣服を下に向かって破り裂いたのだ。
「…っ!、なっ、何をするんだ!?」
思いもよらぬその行動に、クライスは驚き叫んだが、当のオープス達はさらに服を破る触手の数を増やし、まるで紙のように衣服を剥ぎ取っていった。
呆気にとられてそのオープスの行為を見ていたクライスだったが、その気持ち悪い触手が直接肌に触れたのを契機に、慌てて叫んだ。
「止めろ!止めてくれっ!!」
クライスの拒否の言葉を打ち消す様に、麻でできた衣服が破り去られる音が洞穴に響き渡る。
彼の白い肌の露出面積は遠慮なく増えて行き、ついにはほとんど一糸纏わぬ姿にさせられてしまった。
やっと自分の置かれている状況の危うさに気づき、クライスは青ざめる。

そんなクライスへと更に追い討ちをかけるかのように、オープス達は彼の両足に巻きつかせてある触手に力を込め、その身体を天井に向かって割り開いた。
「っ、……やめ……!」
露になったその敏感な箇所に、洞窟内のひんやりとした風が吹き込む。
クライスは上壁にひしめく無数のオープス達の黄金色の瞳に晒されているというこの状況に、今まで味わったことの無い恐怖と羞恥を感じ、全身を朱に染めた。
「あ……、見るなっ!……見るなっ…………」
無言のまま集まる視線のせいで、クライスの言葉は次第に掠れ、目の縁には涙さえ滲みはじめた。
まるで視姦とも言えるオープス達の行為。
それは普段冷静で通って来ている彼を、至極混乱させた。
不意に、恐怖と全身に受けた痛みで縮こまり、萎えたものの先端がひくりと震える。
「……っぅ…」
再度びくともしない腕と指先に力を入れつつ、とにかく落ち着こうとしてクライスは目を瞑った。
その途端、再び一本のオープスの触手が、クライスの萎えて震えているものに伸びた。
「ひっ……!?」
驚きと恐怖で弾かれたように目を開け、その場所を見たクライスが目にしたのは、自身をなぞるように動く緑の触手。
ぬるぬるした粘膜が敏感な場所を擦る感触が、例えようもなくおぞましい。
「…うわ…っ!ああぁっ!!嫌だ……あぁっ!!」
首を振り、なんとか逃げ出そうと身をよじるクライスを、オープスが離すことはなかった。
触手が先端を通過すると、クライスのそれからは透明な雫が滲み、次第に触手の粘液と混ざりあって糸を引き始めた。
「嫌……止めろっ…!、…ぁっ…はあぁ……っあ」
伝わる刺激によって恐怖と快感が綯い交ぜになり、拒絶の言葉が喘ぎ声にすり替わっていく。
羞恥心はとうに超えてしまっていて、理性では何も考えられない。
ただ、その触手から受ける甘美な刺激に翻弄され、蹂躙されるのみであった。
「ぁあ…あ…あぁ……っ、……」
彼自身、口の端から透明な唾液を一筋垂らしながら、すっかり勃ち上がっている半身に触れる、その触手の感触に酔い始めていた。
生理的な涙が一滴、熱い頬を伝い落ちた。

クライスが触手に翻弄されているその隙に、もう一本の別の触手が、クライスの奥まった場所にある蕾の粘膜に触れた。
その感触に、彼はようやく我に帰った。
「…っ!?…ぁ、あぁっ!」
蕾に当てがわれた触手の先端からぬめり気のある液体が分別され、しっとりと濡らされていくのを感じ、オープスがこれから自分にするであろうことを嫌が応にも想像させられる。
それは、とても恐ろしいことだった。
(……………まさか……入れる……つもりなのか……!?)
それだけは阻止しなければならない、と、クライスの理性が叫ぶ。
今やほとんど無意味に近い行為だが、それでも腰をよじり、震える腕と指先に力を込めた。
しかしそれらは触手の外皮をぬるぬると滑るだけで、状況は少しも変わらない。
緑の触手が動きを止める気配は見られなかった。
クライスの胸中に焦りがつのり、身体は更に震え、歯の根も合わなくなっている。
先程まで張り詰めていたものも、半ば萎え始めていた。
しかし終に、後孔に粘液を塗り付ける触手の動きが止まり、中心にピタリとその先端を押し付けられる。
「ぃ……嫌だ………っ………アーキス、アーキス…!」
痛々しい程震えて、掠れる声が、オープスの漂う中に向かって吐き出された。
未だかつて味わったことのないその恐怖に、無意識に彼は遠く離れた愛する人の名前を呼び、助けを求めた。
だが、もちろんそれに答える返事は無い。
あるのは、次の瞬間味わうことになる絶望だけだった。

「うああぁっ!…ッ、アァ???!!」

ついに、オープスの触手はクライスの体内を割り裂くようにして進入を開始した。
腸内の粘膜を探るような動きで擦り上げながら、それは強引に奥へと進んでいく。
加減を知らない魔獣は、けれど、しっかりとクライスの反応を窺っていた。
この獲物の弱点を求め、じわじわと獲物の抵抗力を奪い、支配するために。
クライスの肢体を見つめる幾数もの濁った金の瞳が、ぎらりと光る。
「っ…あぁあ…、あ、あぁ………っ!」
最初はオープスに与えられる気色悪さに耐え、悲鳴を上げる一方であったクライスの反応に、変化が起こった。
それは中のオープスが直腸内のある一点??前立腺を探った時のことだ。
性感体を擦られ思わず声を上げたクライスを、オープス達は見逃さなかった。
「ひ…っ!?な、何…」
途端、腸内のオープスの触手から、どろりとした液体が染み出して来るのをクライスは感じた。
しかもその気持ち悪い粘液は、確実に先ほど擦られ、身体中に電気が走るような快感を生み出す箇所に集中的に分泌されていた。
(この液体は…何なんだ……!?)
クライスの脳裏に悪い予感が走ると同時に、粘液と接している部分が信じ難い感覚を脳に伝えた。
(っ!?…痒…い…?嘘だ、そんな、まさか…!)
たが、その箇所は紛れもない痛痒感を伝えてくる。
混乱するクライスを後目に、その痒みは強くなっていく一方だった。
「っ!うぅぅぅっ!」
平静でいられないほどに膨れ上がった痒みに、思わずクライスは身を捩る。
だがオープスの触手によって雁字がらめにされている身体は、ぴくりとも動かない。
つまり差し迫って来る痒みを、クライス自身ではどうにもすることが出来ないのだ。
「うぁ、あ、離してくれ!頼む…っ、頼むから…!」
だが、魔獣であるオープスに人間の言葉が通じる筈もなく、押さえる力は一向に変わらない。
その間も粘液の分泌は続き、遂にそれは後孔からダラダラと溢れ出した。
粘液が触れた場所すべてから痒さが沸き上がって来たため、クライスの思考はじわじわとその感覚に蝕まれていく。
「ひっ、ぁっ、願…だから…ぁあぅ…っ」
発狂しそうなほどの仕打ちに、ただただ耐えるクライスだったが、それも既に限界だった。
さっきまで腸内を分け進んでいた触手も、今は最悪の粘液を分泌するばかりで、全く動き出す兆しはない。
掻き毟りたい場所の上に触れているだけの触手。
だがこれは彼らの戦略だったのだ。
人間の獲物に、人間として羞恥の極みのような懇願をさせるための。
「うぁあっ!もう、もう…!痒…い…っ…!」
最後の抵抗として解放を試みたクライスだったが、不意に上がった激しい熱で、その行動も中断した。
「くあぁぁぁっ!ひうっ…っ、ぁ、あ…」
眉根を寄せ、口の端からはみっともなく涎を垂らしながら、クライスは遂にその恥ずかしいお願いを口にしていた。
「あぁあ………願い…だ……!……動ぃ……て、掻いて、掻いてくれェっ…!!」
次の瞬間、腸内の触手が最も掻き毟って欲しかった場所を、抉るように動いた。
「うああああぁっ!あっ、あ!あはぁ…っ」
信じられないような快感がクライスの身体を駆け巡る。
そのままジュポジュポと音を立てながら触手が上下に動き始めると、今までヒクヒクと震えながら涎を垂らし、半立ち状態だった陰茎は怒張し、一気に精液が迸った。
「はぁ、ひっ、ひぃいっ、いぃっ!あぅぁあああっ!」
押し寄せる余りの快感に、クライスは我を忘れてその波に身体を委ねていく。
大きく弧を描いて飛んだ白濁液が、オープス達の興味を引いたのは明白だった。
今度はその白い液を吹き出した砲身に、別の小さなオープス二、三匹が飛びつく。
「ひっ!?ひぁっ、そこ…っ!駄っ、ぁあっ!」
触れただけでその部分を攻めるべきだということは、クライスの過剰な反応を見れば一目瞭然である。
早速陰茎に触手を回そうと取り付くオープスだったが、触手が短いためにままならない。
仕方なく陰茎に絡んだオープスの触手が、無防備なそれをやわやわと撫でた。
「ああ…っ!止め…!ぅああっ!」
後ろの触手の動きも弱まってはおらず、クライスは思わず声を上げ、仰け反った。
そんな風に快楽に押し流されつつも、何とかして呼吸を取り次ごうとする中、ふとクライスが下腹部の方に目をやると、局部に張り付いたオープス達の触手から黄色くネバネバとした、いかにも気色悪い粘液が分泌されているのが見えた。
「っ、…!!」
クライスは直感的に、それがさっきから自分を責め立てる痒みの元凶だと悟った。
と同時に、またあの痒さが今度は局部から沸き上がって来たのだ。
「っあっ!あぁああっ!」
今までその様な箇所が痒くなったことなどもちろんないクライスは、ジクジクと疼き始めたそれを思わず前に付き出した。
「っっ!んくっ!ぅん……!」
腰を付き出したため、腸内の触手が激しく内壁を擦り上げるように動き、再び快感が突き上げる。
だが未だ性器周辺の部分にいる触手は動く気配がなく、痒さは募るばかりであった。
「くぅっ…ぅうっ…」
何とかしてそこを静めようとする一心で、クライスは腰を揺すっていたが、そこへ思うような刺激は与えられず、かえって自らを追い詰める結果となった。
「あぁああ!もう、動け!動いてくれぇぇぇ!」
半乱狂になりつつクライスがそう叫ぶと、待ってましたとばかりに局部の触手が一斉にそこを擦り上げ始めた。
「ぅああぁああ!あっ…ああっ!もっと…もっ!あっ!!」
クライスの長く大きなそれを、触手たちはあますところなく擦り上げて行く。
腸内の触手が突き上げられ、クライスは二度目の絶頂に達した。

「あああぁぁっ!ぅああっ!!」
ビュクビュクと白濁を吹くその場所をギョロリと見た触手は、今度はその場所を攻めることを決めたようだった。
「ひっ…!?ひぐっ!」
あろうことか、オープスは先端の小さな穴に細い触手を突き立てていたのだ。
そして、触手からはあの黄色い粘液が分泌され…
「ぅああぁああっ!駄目だ!そこはっ…あぅぅっ」
恐怖におののくクライスをあざ笑うかの様に、今度は尿道に焼けるような痒さが襲ってきた。
「んっ!ぁあっ!止めっ、止めてえぇっ!!」
流石に触手はその部分のほんの入り口で歩みを止めていたが、尿道への粘液注入は続いている。
陰茎に纏わり付いたままの触手はそんなことはお構いなしに、ペニスの表面のみを擦り上げていた。
「あぁっ…あぁ!そこじゃ、な……!!ナカ、がぁっ!!」
すると、また後ろの触手が内壁をグイグイと刺激し始める。
「あぁっ、は………!違、ちがうぅっ!前のっ!……あぅぅんっ!!」
迫り来る痒さにクライスは我を忘れ、普段の彼からは想像も出来ない様な声を上げ叫んでいた。
「……ァアア……っ…も……ゅるしっ……!」
不意に入り口に触れていた触手が狭い肉を押し広げつつ尿道内に進入を始めた。
激しい激痛と、狭い尿道を直に擦られることの快感がクライスに突き抜ける。
「んあぁ???っ!!ひぃっ!ひぁ、あっ!!」
ズブズブと濡れた音を立てて入りこんだ触手が、尿道の中で遠慮なく動き回る。
えも言われぬような刺激にクライスは白い顎を仰け反らせて痙攣していた。
最早叫び声も声になっていない。
「~~~~っ!!」
ガクガクと全身を震わせて、耐え切れなくなったクライスの意識が遠のき、頭も目の前も真っ白に染まる。

彼が、理性を手放した瞬間だった。

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一方。

一つの黒い影が音もなくオープスの影に忍び寄っていた。
剣閃が光る。
瞬間、オープスの体液が飛び散るとともに、蜂の鳴くような不快音が洞窟にこだまする。
剣閃は更に幾度も閃き続けた。
そして、胴体を切り裂かれたオープス達はそれきり目の光を無くし、空中からぼとぼとと落下していく。
四肢を触手に捕らえられていたままだったクライスも、ようやく地面に開放された。
「…大丈夫か……?」
黒い影の正体は、魔剣シュラムを携えた死神ヴェガであった。
尤も、今はヴェガもホームズ率いるシーライオンに所属する傭兵であり、つまるところクライスと主君を同じくする仲間である。
そのヴェガが、長らく洞窟から出てこないラゼリア騎士の身を案じ、こっそりと探りにきたのだ。
案の定、クライスはオープス達の餌食となりかけていたのだが。
咄嗟にその場のオープスを切り刻んだ彼であったが、改めて見たクライスはとんでもない様子であった。
「なっ……」
衣服のほぼ全てを剥ぎ取られ、体中に鬱血した痕が見られる。
さらに下腹部にかけてはいかにも気持ち悪そうな黄色い粘液にまみれて、手足はひくひくと痙攣していた。
顔は上気して朱に染まっているし、口元には幾筋も涎を垂らした形跡がある。
「おい、クライス……!?」
只ならぬ状態に、ヴェガは面食らってクライスの傍へ近づいた。
「……ぁ、ぁあ………っ………………」
クライスは光を無くした目を薄く開けて、呻いている。
慌ててヴェガが手を差し伸べようとした時、途端クライスの肢体が跳ねた。
「うぁあああっ!!痒い???!!」
直ぐ横にヴェガがいることなど気づいていない様子で、クライスは両手を勃起し放しだったペニスへと伸ばした。
それをグチュグチュと音を立て、先走り液を垂らしながら擦り上げる。
突然のクライスの狂態に、ヴェガは言葉を失った。
「ひっ……いぃ…っ!!…っ!ぁあ、ああっ……!!」
先程の粘液の効果がまだ切れていなかったのだ。凄まじい熱さを持って駆け上がってくる痒み。
右手指を砲身に沿わせ、左手を惜しげもなく後孔に突き入れることでやり過ごそうとするが、尿道内の痒みまでは対処することが出来ない。
自らの身体を持て余し、恥も外聞も無く悲鳴じみた喘ぎを漏らすクライスだったが、そのうち一向に収まらないそれに耐えられなくなった。
どうにか右手の人差し指を尿道口に押し付けて刺激するが、それは中の痒みを膨張させるだけだった。
「ぁっ、かはっ……あ…!…届かな……っ!」
涙を流して腰を揺らし続けるクライスの視界に、ちらりと自分が持ってきた金の鍵が映る。
「―!!」
思わずそれを手にすると、その細い鍵をおもむろに尿道へとあてがった。
「なっ、何をするつもりだ!クライス!!」
「んっ、あぁああっ???!!」
ヴェガの静止も聞かず、クライスはその鍵を尿道へと押し込んでいた。
痛みより痒みからの開放感のほうが強く全身を駆け巡り、嬉々として鍵を上下に動かし始める。
グジュッ、グジュッ、と湿った音が響き、その音に合わせてクライスの嬌声が上がる。
「あっ、アッ!!……イイっ、ぁ、あぁっ!あぁあっ」
両足を左右に大きく割り開き、局部を曝け出して行われるその痴態の一部始終は、見ているヴェガの方が色々と痛くなってしまいそうな程の激しさを伴っていた。

「もう……よせ。中に傷でも付けば取り返しがつかなくなるぞ」
あくまで冷静に、ヴェガはクライスの手の動きを止めようと手を伸ばす。
少し我慢させて上まで行けば、癒しの杖で僧侶達が何とかしてくれる、そう思ったからだ。
だがクライスは、自身の手を掴もうとする手から逃げるように身を引く。
「…ぁっ、あ、嫌っ……あっ、あ、ぁぅ……っ!」
「それを離せ」
「嫌、ぁっ……嫌だ、や……!」
逃げようと引いた腰を後ろから抑え付け、精液などでヌルヌルになっているクライスの手をペニスから引き離し、ヴェガは尿道に刺さっている鍵の先を摘まんだ。
それをゆっくり引き抜いていく。
「ぁあっ、ヒ……っ、あ、アァ―――!!!」
長さにして15センチはあるだろうか。鍵はクライスの粘液でしどどに濡れていたせいか、意外とすんなり尿道から抜き取ることが出来た。
引き抜くときの刺激が強すぎたのか、ふと気付けば先端からは熱い飛沫が迸っていた。
「…っは………ひぃっ、ひぃン……っ……ふぁ……」
ジョロジョロと薄く黄色がかった液体が、自身の足とヴェガの手を濡らしながら水溜りを作っていく。
その間クライスは放心しきり、心底緩んだ表情であった。
酸素を求めてぱくぱくと口が動き、嗚咽を繰り返す様は、まるで白痴のようだとヴェガは思った。

放尿を終えるとクライスはついにその場にへたり込んでしまったので、ヴェガは身に纏っていた黒い上着を着せ掛けると、クライスを担ぎ上げて外に出た。
洞窟の入口を出て直ぐの所で立ちはだかっていたのは、金髪を夕日に光らせたホームズだ。
「遅かったじゃねぇか。」
口調から、明らかに不機嫌なのが感じられる。
「ああ。少し中で色々とあった。」
言いながら、ヴェガは抱えているクライスを指し示す。
上着を着せ掛けられているとは言え、所々不自然に肌が露出している上、得体の知れない粘液も滴っていた為、どう見ても無事ではいないことが分かる。
「あー…っ?…ったく、リュナンの奴ロクな人材送ってこねぇからな……。まぁ死んでねぇなら大丈夫だろ。」
「酷い言い様だな」
自分もそのリュナンからシーライオンに送り込まれたうちの一人なのだが、とヴェガは言ってやりたい気持ちになった。
「で?」
ホームズがすっと手をヴェガの前に伸ばす。
「……何だ、その手は」
「分かんねぇ?お宝だよ」
「ああ、それならこいつを運ぶので手一杯だった故、取って来なかった」
「なッ……!何だって!!!」
みるみるホームズが怒り出した。まるでお菓子を貰えなかった子供のように。
「バカ野郎!こっちはそれが目的でここまで足伸ばしたって言うのに……クソっ!!!」
「一応ここに鍵ならある。取りに行くなら行けばいいだろう」
「あ?」
呆れた様子でヴェガはホームズに懐から鍵を取り出し、強引に手渡して踵を返した。
「って、オイ!これ何かベトベトして…!うえぇっ、気持ち悪っ!!」
ホームズの言葉に返答する気など更々無いといった感じで、ヴェガは立ち去っていった。

「畜生……今度あいつに合ったら只じゃすまさねぇからな…。リュナンにも言っといてやろう」
悪態をついてホームズはその宝の鍵を地面に捨て、憤慨したまま街へ戻っていった。
当のクライスは、未だヴェガの腕の中で力なく気絶したままだ。

クライスが目覚めたとき、この日に起こった記憶はすっぽりと抜け落ちていたらしい。
いや、本能的に消し去ったという方が正しいかもしれない。
あの、悪夢のような出来事を……。

だが、今でもクライスはオープスを見ると、何故か強い嫌悪感を抱くのだ。

2015.2.16 加筆修正済