ベイビープレイ
久しぶりにリュナン×クライスの変態調教物語。
タイトル通り赤ちゃんプレイというか、おむつ羞恥プレイがメインなのでそういうのがお好きな方向け。幼児退行の度合いも酷い。
軽く剃毛あり。本番なし。
その日の夜、クライスはリュナンの寝室に通されていた。
「やあ、届いたよ。早速付けてみようか」
重い扉を開けるやいなや、楽しそうに告げる主君の姿があった。
サイドテーブルには大きめの袋が封切られ、リュナンはゴソゴソとその中身を出そうとしている。
「はい……」
慎重に扉の鍵を掛け、クライスは節目がちにリュナンの元へと近づいた。そのままベッドへ、と促される。
キングサイズの縁に腰をかけると、袋に入っていた"それ"を手にしたリュナンも横に座った。
「ほら、見て…結構、厚みがあってしっかりしてる。」
「そうですね…」
「じゃあ、脱ごうか」
「はい……」
クライスがベルトを外す音が響く。
リュナンはひとまず手持ちのそれを横に置くと、臣下の姿を眺めた。
採寸した時のように脱がしてやるのもいいが、最初の頃に比べると、随分素直になったな…と。
ファスナーが下げられ、腰を浮かせればするりと布が落下し、下肢が露わになる。
下着の紐も緩められると、続けて脚から抜き取られた。
「寝て、クライス」
そうして下半身だけを空気に晒したクライスは、脱いだズボンを手早く折ると床に置き、靴を揃え、四つん這いに手足をついてベッドへ上がった。
柔らかく沈むその上に、背中を預ける。手の一方はシャツの裾をつかみ、もう一方は軽く局部を覆って、心細げに見上げる紫の瞳がリュナンを映す。
その手をリュナンは軽く取ると、脇へ退けた。抵抗は無い。
そこでリュナンははたと気づいた。
「…そうか……」
「どうか、されましたか?リュナン様…」
動きが止まり、露わになった下腹部をじっと見つめるリュナンに、何か不手際があったかとクライスが訊く。
「これ、せっかくだし剃ろうか。」
「……!?」
ざり、とリュナンが下生えを撫でたので、その意図を理解する。
「綺麗な色だし、ちょっと勿体無い気もするけど、いいか?」
「…ッ………は、………」
確かに、クライスの陰毛は髪の色と同じであるため、元々白い肌と馴染んであまり目立たない。だが、全く無いのとでは訳が違う。クライスは言葉に詰まった。
「不安か?放っとけばまた生えてくるし、清潔にもなって良いだろう?」
「…………。………はい……」
「良い子だ」
と、リュナンに頭を軽く撫でられ、ぞくりと身が震える。まるでさもその選択が正しい事であるように、刷り込まれる。
そんな思考に囚われている内に、リュナンはベッド横の棚から小刀を取り出していた。
「足を開いて、………。そうだ、そのままじっとしていろ」
膝裏を手で抱え、膝を立てた無防備な格好の中心に、その小さな刃が滑らされる。
ジョリ、ジョリという無慈悲な音が響く間、クライスはリュナンの手元を見る事が出来なかった。
「よし、綺麗になったな」
呆気なくその時間は終わりを告げる。
手で払われた短い銀紫はシーツにパラパラと散り、後には覆い隠す物が何も無くなった素肌が露呈した。
ツルツルのそこから成人男性の性器が垂れていることが、確実に違和感を伝えてくる。
「どうした、顔が赤いぞ?恥ずかしいか?」
「…はい……、恥ずかし……です……リュナン様……」
「はは、確かにな…。でも、これを付けたらもっと恥ずかしいんじゃないか?」
リュナンが傍に置いてあったそれを手繰り寄せる。真っ白なそれ――布おむつが、いよいよ広げられる。
腰に手を当てがわれ、クライスはビクリと震えた。
「上げろ」
短く命が下る。
戸惑う理性とは別に、勝手に脚に力が入り、腰が浮く。
――この声に逆らう事は、出来ないのだ。
浮いた腰とベッドの隙間からするりとその白い繊維は入り込み、クライスの肌を滑る。身じろぐ間も無く、前方のパッド部分が性器を覆うと、更に左右からパチリと固定される。自分のサイズに合わせられたそれは、脚の付け根、腰周り共にぴったりと肌に密着した。
まるでふわふわした綿のように柔らかな布で下肢を包まれる感触に、おかしな安堵感を覚えてしまう。
「っぁ………」
「はい、出来たよ、クライス」
リュナンに真っ直ぐ見つめられ、思い出したかのように鼓動が早まり、頬に血が上っていく。
それを見透かすように、ふっくらとした中心を軽く撫でられた。
「クライスの、大きいから、ここが余計に膨らんで見えるよ」
ゆったりしたズボンを履かないと目立つんじゃないかな、とリュナンが呟く。
「…あ、…あまり…見ないで……下さ……」
何という姿にされてしまったのだろう。
思わず、それを少しでも隠そうと上衣を下へと引っ張っていた。無駄な抵抗だと知りながらも。
そんなクライスの様子を堪能して、リュナンは愛おしげに目を細めた。
「どうだ?今、試してみるか?」
「え………?」
「大丈夫、代えならたくさん用意してある」
と、リュナンはベッドを降りてテーブルの上に置かれたままだった袋から、再び新しいおむつを手にして戻って来る。
試す、それはつまり…。
「ほら、どうした?出るだろ?」
クライスはふるふると頭を振った。
「どうして、これで容量が足りるのか、ちゃんと知っておかないと困るのはクライスだろう?」
「…ッ……」
主君の言うことは最もだったが、グッと唇を噛み締め、泣きそうな顔で見つめ返す事しか出来なかった。
「ほら、して」
リュナンは再び遠慮なく膨らみに手をやると、軽く擦った。ひくりと布の下で反応したその形を確かめるように、撫でさすっていく。
おむつ越しに性器を握り、擽る手は、まるでぐずる子どもをあやすように優しい動きだった。
「…ん………、…ふッ………」
「あんまり硬くしたら出し難いんじゃないか?それとも、先に気持ち良くしてやった方が良いのかな?」
そう言ってリュナンの顔がクライスの額に寄せられる。
強張った眉間の上に軽く口付けされ、クライスの胸が高鳴った。
主君の名を口にする前に、薄く冷たいリュナンの唇で柔らかく口を塞がれる。
「………ふぁ……」
チュッ、と可愛らしい音を立て、唇は幾度か重ねられた。
主君であるリュナンの方からこの様なくちづけを受けるのは稀だった。口が合わさる度に、どくり、どくりと鼓動が早くなるのを感じずにはいられない。
こうやって主君がたまにする優しいキスが、クライスは好きだった。
「もっとして欲しい?」
リュナンの暖かい手が顎に添えられると、湿りを帯びた柔らかな唇を親指が辿る。
返事の代わりに、わずかに開けた隙間から、クライスはその指の腹をちろりと舐めた。指の動きが止まると、少しずつ唇を開きながら舐める範囲を大きくし、軽く食むように口内へ招き入れる。
やがて指先をぱくりと咥えると、まるでそれをペニスのように吸い、愛撫した。
「僕の指、美味しい?」
ちゅぱちゅぱと指を吸う姿が、まるで本当の赤子のするそれのように感じたリュナンは、満足気に笑みを浮かべた。
すり…と反対側の手で布に浮いた乳首を撫でてやる。
「ン……ンッ………」
電流のように甘い痺れが駆け回り、クライスは思わず目を閉じ、睫毛を震わせた。
「良いね…クライスが恥ずかしいおむつ姿で感じてるとこ、もっと見せて」
「……は……ぃ………」
涎の絡んだ指が抜かれると、再びくちづけが降る。
今度は舌が深く差し込まれ、濡れた音を立てて咥内が貪られていく。
「ン、…くぁぁ……ッ、…ハァ、…ハァ、ン……」
先ほどの優しいキスからは一転して激しさを持つそれに、思考が溶かされていく。
クライスの舌の表面にはリュナンの生暖かい唾液がたっぷりと注がれていたが、嫌がる様子もなくこくりとそれを嚥下した。
そうする事がリュナンに対する精一杯の親愛の証であり、またクライスを快楽へ誘う麻薬のようなものでもあった。
幾度も舌を吸って、唾液を交換し、クライスの反応が完全に快楽へ向いた事を確認したリュナンは行動に出る。
「えらいね、僕の唾、ちゃんとごっくん出来たね」
「ふぁ…、ぃ……リュナ、さま………」
「…こっちは?どんな具合だ?」
布に抑えられている前がきつい。
熱を持ったそこを、意地悪くリュナンは握ってくる。
「…ァッ、ン、…ンァ……」
「おむつ、気持ちいい?」
「ッき、きも、ち……ぃ……」
「じゃあ、出してごらん…?」
クライスの好きな亀頭や、括れに触れている部分の布地を擦ってやると、クライスの腰が浮いた。
「ッゃ、……ァアッ!ゃら、ゃぁ……出る……れちゃ、」
「ん……?何が出る?」
「ふぁ……!せぇ、し……れる、れぅ……!」
「いいよ、出して」
先端を指で挟み、ゴシゴシと擦り付けてやると、一際高い声でクライスが鳴いた。腰が、ガクガクと震えている。
同時にリュナンの手の下で膨らんだペニスがビクビクと痙攣するのが布越しに伝わると、先端を中心にジワリと熱くなった。
「すごい、クライスの熱いの、出てるの分かるよ…」
「――――ンッ、ンッ……!」
再び撫でると、布の奥でグチュリと濡れた感触がするのが指に伝わる。
ぬるぬるになっているであろうそこを、リュナンは執拗に擦り続けた。
「ひンッ……!ッ――!ゃぁ、ア、リュナ、しゃ…!…」
「ほら、おしっこ、したいだろ?出してみろ」
「ヒ、ァアッ、ゃあっ、やらっ…やらぁぁぁ…!!」
ぶんぶんと首を振り、逃げようとするクライスの膀胱の上に、リュナンはグ、と手の平を押し付けた。
グイグイと圧迫され、かつ、指先で射精したばかりの性器を刺激され、ついに先端から雫が漏れた。
「!!!」
布に包まれたそこがジワリと熱くなったかと思うと、あとは一瞬だった。
雫は水流になり、次から次へ放出され、最早自らの意志では止められない。
「……あ、……出てる?」
ある時からびくりと身を震わせて動かなくなったクライスの姿を察したリュナンは、ようやく身を離した。
「……ッひ……!……ァ…………」
おむつの内側で、どんどんと溢れる尿が吸収されていく。
パッドが重く濡れて膨らみを持ち始めると、そこをリュナンは優しく撫でた。わずかに布に当たって迸る尿の音がする。
「ジョロジョロいってる、結構、ガマンしてたか?」
「…………ッ……、ふぇ、…ッく…っ…………」
それが羞恥からきた涙なのか、放出の快感に震えて出た涙なのか、クライスにはもう分からなかった。
ただ、中心が熱い。
「よしよし、今替えてやるから」
「やっ!ア…!!…まら、出て…ッ……」
くすくすと笑みを浮かべながら、そんな劣情に浸るクライスを困らせてやる。
腰のところのゴムを指で引っ掛け、少し浮かせると、そこからチョロ…と尿が漏れ出した。
生暖かいそれは脇腹を伝い、上に着たままだったシャツをじんわりと濡らし、パタパタと垂れた分は背中側とシーツを濡らしていく。
「…アッ!…ァ…………」
「ああ、ごめんねクライス。まだ止まってなかったんだ」
おむつだけでなくシャツやシーツまで濡らしてしまったことで、クライスの瞳が混乱と絶望に染まり、やがて大粒の涙がポロポロと真っ赤な頬を伝った。
「…止まったか?」
再びリュナンがおむつを撫でると、先ほどよりも表面に湿りを帯びたそこがグシュリと音を立てた。ほんの少し、足の付け根の部分も濡れ光っている。
「しっかり濡れてるけど、替えるタイミングが分かりにくいな……」
リュナンはしばらくその濡れた感触を確かめていた。
暖かかった水の感触が、次第に冷えていく。
局部と尻の全部を濡らすそれが冷たくなると、生理的な不快感が強まった。じっとりと肌に張り付いているのに、自分ではどうする事も出来ない。
「…ヒック……ヒック…、ぅあ、あ………、リュナ、さまぁ…、」
それは驚くほど甘えた声だった。
「どうした?」
「かえ、てぇ………おむつ、かえて…下、しゃ……」
グスグスと鼻を鳴らして訴えるクライスの姿は十分にリュナンの加虐心を煽るものだったが、まだ、物足りない。
「『クライスの精子とオシッコおもらししたおむつ替えて下さい』…だ、言え。」
「…えぐっ、く、くぁいすの……ッ……ヒック……えっ、うぇぇっ…グスッ……、ぅ………。かえ、てぇ……」
「何?」
「ぅヴっ…、…かえてっ……かえで、くらさ…っ…!…ねが、」
「僕の言った通りに言えないのか?はっきり言うんだ、精子と、オシッコ、おもらし、おむつ」
「やらぁぁぁ……!!嫌だ、嫌だ…ゃだよぉ……!おむ、つ…も、ゃだあぁぁ!……」
そう言うとクライスは顔を覆って泣き喚いた。
少しやり過ぎて壊れてしまったか、とリュナンは思巡した。恐らくは先ほどの甘えを突き放し、更なる羞恥を課したからだろう。
しかし、ここで宥めて済ませば調教にならない。
「なら、そのままで居ろ。」
「…………ぁ………」
極めて冷ややかに、そう告げるとリュナンはクライスに背を向け、ベッドから降りようとする素振りを見せた。
「ぁ、あ、…!まって、ぇ…ぃ、いかな、で…くだ、……ごめ、なさ、ごめんなさいぃッ!……」
肩越しに振り向くと、上体を起こしたクライスが、泣き腫らして涙や鼻水でグチャグチャになった顔で自分を呼んでいる。
「ぅっ、うっ、……クライスの、せぇしと、おしっこの…お漏らし、おむつ、かえて…くらひゃ…」
「何だ、ちゃんと言えるじゃないか」
やれやれ、とリュナンは向き直り、クライスの濡れたおむつに手をかける。プチプチと固定具を外すと、それはくしゃりと前後左右に広がった。
前を倒せば、ムッとするアンモニア臭と、精液の独特な臭いが混ざって鼻をつく。布で覆われていた所の肌は全てぐっしょりと濡れていて、さぞかし気持ち悪そうだ。
「湯を取ってくる、待っていろ」
そこまでして、リュナンは濡れたおむつの上に呆然と座り込んで啜り泣くクライスを置き、部屋を出た。
「…お待たせ、さあ、キレイにしようか」
湯桶の中から暖かいタオルを絞って取り出し、リュナンはクライスに横になり、足を開くよう促した。
放置され、いくばくか落ち着きを取り戻したクライスはゆっくりと、しかし従順にそれに従う。
濡れていたそこは少し乾いていたが、それに比例して臭いはきつくなっていた。
(やっぱり、剃っておいて正解だったな)
すっかり萎えてしまっている無毛のペニスが可愛らしい。そこを熱いタオルで包むようにすると、クライスは「あぁ…」と小さく声を漏らした。
全体をざっと擦った後は、乾いて広範囲にこびり付いた精液を丁寧に拭っていく。
新しい面でふっくらとした会陰を押すように拭く頃には、またペニスが半立ちになり、開かれた膝は内側に向けられていた。
「もっと尻を上げろ、脚も広げて」
「はい……」
「もっとだ」
「こう、ですか……?」
膝を両胸に引き上げた、ほぼ尻が天井を向くぐらいのポーズをクライスにとらせてから、ここで、ようやく汚れたおむつを取り去ってやる。
続けて尻全体を拭っていく。尻たぶも勿論開いていて、湿ったピンク色のアナルが明かりの元に見えていた。
「ひくひくして、いやらしいな」
「はぅ………ごめ、なさ……」
謝らなくてもいい、とリュナンはその蕾にタオルを当て、優しく拭った。
それからタオルを絞り、尻から足の付け根にかけてもう一度念入りに拭き上げてやり、背中や脇腹に伝っていた分も拭い去ると、ようやく尿の臭いが消えた。
「あとは?どこか、気持ち悪いところはないか?」
「ありま、せん…リュナン様…」
「よし、じゃあ、新しいのをしようか」
「…ッ!」
尻の下に新しい布が広げられる感触がして、クライスの顔がみるみる内に歪んでいく。
「嫌…だ……、も……。…お許しを…、おゆるし、下さッ……」
「ん?だってかえて欲しかったんだろ?」
「そん、なッ………」
リュナンに促されても、クライスは抱えた脚を中々下ろそうとはしなかった。
「…何故だ?この前も、おもらし、気持ち良かっただろ?」
「ぃや……、嫌だ……、おむつ、もう嫌だぁ………」
また幼い子どもの様に駄々を捏ね始めたクライスに、リュナンは先ほどの汚れた布おむつを手にして向き合った。
「こんなにビショビショにしておいて、精液まで漏らしておいて、今さら何を言っているんだ?」
「ヒッ……!!」
目の前でそれを広げられ、クライスは思わず顔を背けた。真っ白だったはずのおむつの内側は薄黄色に染まりきって、挙句ツンとした異臭を放っている。
それでも、クライスは体勢を変えない。リュナンは片手でそれを持ち直すと、あろうことか広げられたままの股間に当てがった。
冷たい感触がペニスに触れて、せっかく清めて貰ったそこがまた汚される。
「っ!?――ぁあッ!嫌だぁぁぁ!止めて、ゃめて…ッ、きたな、」
「うん、汚いなぁ、だから替えてあげてるんだって、分からないのか?」
「っ、ふぇ、止め…ぇっ、えっく……ごめ、なさ……ッ……」
「お前の謝罪も聞き飽きたな…。全部、お前の為に用意したんだ。僕がわざわざ、クライスが気持ち良くなれるように手をかけてやってるのに、何が嫌なんだ」
「ぅうっ…、ッ……。……、つめた、お、おむつ…きもち、わるい…っ……」
「…嘘だ」
「ひぅぅ……ほん、と…で…リュナ、さま……」
リュナンはクライスの股間に当てがったままの濡れたおむつを、ゴシゴシと擦り付けた。
「嘘を吐け!ほら、こうされたら、良いんだろ!?」
「ぅああっ………!えぐっ、やぁぁぁっ、あっ」
悲痛な声で叫ぶだけのクライスの性器は、リュナンに対する恐怖と生理的な嫌悪の方が勝ったのか、いくらリュナンが擦っても萎えたままだった。
「クソッ………」
舌打ちし、やっとクライスを解放すると、クライスはズルズルと身体を引きずるようにしてベッドの端へと逃げた。背中を丸め、くしゃくしゃにしたシーツで顔を覆って、震えている。
興奮したリュナンの荒い息遣いだけが、寝室に響いていた。
「…………僕から、逃げたな…………。」
あの従順なクライスが。掌から滑り落ちていく。
数日前に捕らえた、自分を襲ったあの少女に吐き捨てられた言葉が頭をよぎる。
(……やはり、僕は、ただのけだものなのかもしれない)
「分かった………、もう、これは必要無いんだな」
ぱしゃりと、汚れたおむつをすっかり冷めてしまった桶に投げ入れる。
しかし、クライスは顔を上げようとしない。
「クライス、戻れ、…キレイにしてやるから」
「…………………。いい、ですッ……自分で……やりますから………」
「戻れ、――命令だ」
リュナンは何かに焦ったように、クライスを言葉で縛った。
――焦る?僕が、何を…?
クライスから返事は無かったが、ようやく背を向けていた身体を持ち上げ、恐る恐るリュナンの方へ瞳が向けられた。主君の顔から先ほどの冷酷さが抜けているのを確かめると、そろりと近づいていく。
「…クライス……」
リュナンの手の届くところまで来た時、リュナンはクライスを抱きしめていた。温かい体温が、震える肩に伝わる。
こんなにも強い力で主君に抱かれたのは、初めてだった。
「……すまない…。家臣に逃げられるなんて、僕は主君失格だな………。」
「…!…ッ………そんな、事は…」
「クライスは、僕の言うことは何でも従ってくれるから…。扱いが過ぎたかもしれない」
リュナンからの贖罪の言葉。そして、乱れた髪を撫で付ける優しい手の動きに、クライスは気付いた。恐怖で冷えていた心が、少しずつ溶かされていく。
「お前を、失いたくはないんだ…」
いつもの主君からは考えられないほど弱々しい呟きに、込み上げてくるものがある。そうさせたのは、紛れもなく自分のせいだ。
「リュナン、様…。すみません……すみません……っ…。もう、逃げたり、しませんから……お許し、下さい…」
涙交じりに、クライスはリュナンに訴えていた。
「……でも、嫌なんだろう?」
「…………。」
それは、リュナンからの理不尽な支配から逃れるチャンスだったかもしれない。これまでも信じられないような辱めを受け、幾度とない屈辱を味わわされながら、奉仕を強制されてきたのは事実だ。
だが、決して正常とは言えない仕打ちに対しての自らの反応も、やはり異常だった。リュナンだけが満たしてくれる、性的な被虐心。抗えない事を身体に教え込まされながら、もっとして欲しい、見て欲しい、触って欲しいと叫ぶ何か。
それが快楽となり精神に溶け込んでいくことで、抑圧された稚拙な自分を解放する事が出来た。愛情に飢えた自分が――。
例えどんなに歪んだ関係であっても、リュナンと同じくそれを失うことは拠り所を失くすのと同じで、酷く恐怖をもたらす事だった。
そう悟ったクライスは、意を決して、ベッドに置かれたままだった新しい布おむつを手に取ると、自ら下腹部にあてがった。
「クライス?お前……」
その行動にリュナンは少なからず驚いた様だった。
「リュナン様の、前、だけなら……」
どれだけ異常だとしても、主君が満足し、喜んでくれるのなら。
まだ少し羞恥で震えている手の甲にリュナンの手が伸び、重ねられる。
「ああ、分かっている…。…少しずつ、慣らしていってあげるよ、クライス……。」
その言葉に、心の奥底から衝き動かされるものを感じずにはいられなかった。
2015.3.13