出会いと今

リュナン×クライス前提のアーキス×クライス小説。ほんのりエロあり。
ショタ時代捏造してます。



彼に初めて会ったのは、もう何年前になるだろう――。

確か、5歳かそこらだったと思う。
鼻水垂らして遊び回っていた俺と違って、きちっとしたブラウスを着せられて髪を撫で付けた、いかにもお坊ちゃんなアイツが俺の家を訪れたのは。
俺の両親とアイツの両親は旧知の仲で、でも俺が2歳の時に俺の親が出先で野盗に襲われて命を落としてからというもの、交流は途絶えていたらしい。
それが何故今ごろ俺ん家に訪れたかというと、騎士として両親共にラゼリア城仕えが決まったから、子どもを爺ちゃんに預けに来たってわけだ。
その時、兄のクライスは7歳、妹リィナはまだ乳飲み子で、母親に抱えられていた。
ラゼリア町長であるアーキスの祖父は、クライスの両親が代々続くラゼリア騎士の家系である事を承知していた。さらに、彼らが亡くなった息子夫婦とも懇意であったこともあり、快くそれを引き受けた。
「町長には、ご迷惑をおかけすることになりますが――」
「何、心配いらんさ。可愛い赤子に、落ち着いた賢そうな子だ。うちの孫とはえらい違いだな、…ん?これ、アーキス!挨拶ぐらいしに出て来んか!」
柱の陰からこっそり覗いていたのがバレて、爺ちゃんにどやされる。
「ちぇっ、やーだよ」
そっぽを向いて家の奥に走り去ろうとして、ちらりと振り返った先に、目を丸くしたクライスがいた。
紫の綺麗な瞳に、俺は一瞬で吸い込まれそうになった。

「アーキス?ではあの子が…」
「そうじゃ、息子の忘れ形見でな…最近はやんちゃに付き合わされて、骨が折れる始末で…」
爺ちゃんがブツブツと小言を漏らし始めたので、本格的に俺はその場から逃げ出した。



――それが、出会いだった。
言葉を交わしたのは、それから数時間後。

「――あ、」

クライスの両親が帰った事を察知し、のこのこと中庭に出てきた俺の前に、アイツがいた。一人、芝生に突っ立っていたのだ。
「さっきの…。お前、名前は?」
「クライスです。初めまして、アーキス君。」
「ん?何で俺の名前知ってんの?!」
「父さんに聞いたから……仲良くしなさいって……。これから、よろしくお願いします。」
「お前、何歳?」
「7歳。アーキス君はもうすぐ6歳だって、さっき…」
どうやら、自分の情報はほぼ祖父によって流れてしまったらしい。クライスの方が年上という事もあって、俺は意地を張るのを止めた。
「ふーん…じゃあさ、そんな風に畏まって話さなくていいよ。クライスの方が年上じゃん。それに、今日から俺ん家で一緒に住むんだろ。」
「そうだけど…。」
「じゃ、やり直し!」
困惑するクライスに、俺はズカズカと近づいて行った。そして問答無用で手を取る。
(うわ、白い…)
クライスの手は、自分の日に焼けて浅黒い手とのコントラストも相まって、透き通るように真っ白だった。
髪も、少し紫がかっているがほとんど白に近い。つるんとしたおでこも。
しばらくその白さに見惚れていると、また真ん丸になって自分を見つめるクライスの瞳に気づいて、はっと我に帰った。
「よ、よろしくな、クライス!」
照れ隠しに、ぶんぶんとクライスの手を握ったまま振る。
「アーキス……。よろしく…」
手と手を通して暖かい感触が伝わると、アイツはぎこちなくではあったが微笑んだ。その表情に、俺はまた知らず知らずのうちに魅入ってしまう。
(きれーな顔、してんなー…)
剥きたてのゆで卵みたいにツルツルの肌と上品な顔立ちは、俺がこれまで出会ったことのない人種のそれだった。
「あの…手……」
「へ?ああ、ごめ、」
気づけばずっと握ったままだったクライスの手を、ようやく解放した。
気恥ずかしくて赤くなった鼻をすすると、クライスは不思議そうに小首を傾げた。その仕草は今思い出しても可愛い。
相手は同じ男なのに。

「じ、じゃあ、遊ぼうぜ!…あ、まず家に何があるか案内するから!付いて来いよ」
「うん、ありがとう。」

誰かと触れ合って、あんなに自分の胸がドキドキしたのは、生まれて初めてのことだった。
年の近い子どもは近所にあまり居なかったから、単純に遊び相手が出来た嬉しさもあったと思う、けれど――
あれは、今思うと恋の始まりだったんだ。






その後、俺とクライスは兄弟みたいに過ごした。
いつしか爺ちゃんの小言が、「アーキス、少しはクライスを見習って大人しくせんか!」に変わった上、しっかりしていて俺と正反対の性格だったクライスも、落ち着きの無い俺に対して、自然と世話を焼くようになった。

やがて月日が経ち、クライスの両親がミュースのブレスに焼かれ戦死したとの報が入っても、爺ちゃんは快くクライスとリィナを家に住まわせ続けた。元々、そういう取り決めだったらしい。
家では亡骸の無い、形だけの葬儀が行われた。

「いやぁ、孫が増えて儂は嬉しい限りじゃよ。……お主らにとっては辛い事だが」
「いえ…父も母も、騎士として務めを果たしたと、それこそがラゼリア騎士の最高の誇りだと…教えられていました。だから、覚悟は出来ていました。
これからも俺とリィナをよろしくお願いします…。」
「うむ、それは心配いらぬ。お主は来年から士官学校、リィナは未来のアーキスの嫁でもあるしのぉ、大切な我が孫娘じゃ…。」
クライスの妹のリィナにぞっこんの爺ちゃんは、二人を預かる際にまんまと俺との縁談まで取り決めていたらしい。つまり近い将来、俺とクライスは本当に義兄弟の間柄になるのだ。
その事を知った俺は、何ともいえない気分になって、反発したのを覚えている。

俺が本当に欲しいのは――クライスだったから。

その夜。

俺は何となく寝付けなかったこともあり、フラフラと月明かりの差し込む廊下を歩いていた。
そして、気づいたらクライスの部屋の前に来ていた。まるで、何かの力に引き寄せられたかのように。
(どうせ寝てるだろうけどなー…)
と、クライスの部屋の扉に手を掛けてみると、その意に反してガチャリとノブが回った。
(鍵閉め忘れたのか……?)
俺は興味もあって、クライスの部屋にそっと入った。
中は暗かったが、窓から入る月の光を頼りに、そうっとベッドへ近づいた。
だが、クライスが寝ているはずのベッドはもぬけの殻だった。
(クライスも、起きてるのか?)
と、部屋を見回した時、備え付けの小さなクローゼットルームの中から微かに人の気配がした。
ドキッと胸が高鳴ったが、部屋に野盗が入り込んだ形跡もないし、きっとクライスだろうと思った俺は、思い切ってその扉を開けた。
「……………あ、いた」
扉を開いた先には、やはり見知った白い影――クライスがいた。
寝間着姿で、佇んでいる。
「アーキス…………?」
「あ、いや…目ェ覚めちまって。クライスも、起きてたんだな。扉、空いてたから」
何時もと違い、明らかに困惑した表情になっていくクライスを見て、慌てて俺はそこに至る経緯をベラベラと話し、間を持たせようとした。
だが、クライスはその場で顔を伏せてしまった。
「あ……何か…してた?覗いちゃマズかったか?」
「…………………。」
クライスは下を向いたまま、無言だった。
バツが悪くなった俺は、勝手に部屋に入った事を謝ろうとクライスに近づき――そこでようやく、アイツが小刻みに震えていることに気づいた。

「クライス、どうした?」
「……これ……父さんがお守りにくれた……短剣と、母さんが作ってくれた…服……見てた……」
「!……クライス……」
「………アーキスの家に初めて来た時に、着てた…。もうこんなに小さく、なって、…て……」
クライスの言葉が次第に詰まり始める。両手を握り締め、震えながら、必死で堪えているのだ。
「…ごめ、……アーキス、も……ご両親、居ない……のに……」
「……。俺なんか小さ過ぎて、そんなの何にも覚えてねえよ。」
「…リィナも……多分、分からない……から……っ……今日、も笑って………」
「クライス、もういいから。泣いていいぜ。俺、何も見なかったことにする。」
「……っ!!」
いくら頭の悪い俺でも、クライスの気持ちをようやく察して、部屋から出ようと後ろを向いた時、袖口をグッと引き戻された。
「待っ、て……っ、アーキス…!」
「な、何だよクライ、ス…!」
振り向いた俺は、ギョッとした。あのクライスが、両の瞳から大粒の涙を流して、しゃくり上げながら俺に縋っていたから。
「ぇっ、ぇっく、ヒッ…ひとりに、しなぃ、でぇぇ……うぇっ、ぇ、ええっ」
「クライス……」
「さびし、の…ゃだよぉ……アーキス、アーキス……」
俺の名を呼びながら泣くクライスを、俺は思わず抱き締めていた。
クライスの方が背丈が大きいとか、男だとか、そんなのはもう忘れて、とにかく泣きじゃくるクライスを安心させようと、俺は腕をいっぱいまで伸ばし、クライスの背中をさすり、抱いた。
「うぇぇぇ……っ、えっ…怖い…怖いよ……ひと、り…ぼっち……寂し……の、も…嫌だぁっ………」
思えば、クライスはいつも俺や小さな妹の世話を焼いていて、俺らみたいに子どもらしく泣いたり駄々を捏ねたりする姿なんて見せた事が無かった。
それが実の親を失ったことで、ついに抑えていた感情が堰を切って溢れ出したのだろう。
どうしようもない悲しさと寂しさに、アイツ自身、困惑しているようだった。

クライスの泣き声は止まらない。
俺はその時、何をするにもアイツにばかり頼ってしまっていた事を思い出し、反省した。
知らない家に連れて来られて以来、クライスは誰にもこんな風に甘えられずに、けれど、両親や妹の手前、気丈に振る舞うしか無かったんだと、その時思い知らされた。

「クライス、これからもずっと、俺がお前の側に居るから。そしたら、一人じゃないから平気だろ」
「グスッ……ぅうっ……。…本当……に……?」
まだ震えの止まらないクライスの頭や背中を撫でながらそう言うと、やっとクライスは顔をゆっくりと擡げた。
濡れそぼった睫毛から覗く紫の瞳をじっと見つめ、俺は続けた。
「今までだってそうだっただろ!ずっと、クライスと一緒だったんだから」
「アーキス……は……でも……リィナと………」
「あんなの爺ちゃんが勝手に決めたんだからな!俺は、クライスとずっと一緒だ!」
「ど…して?アーキスはリィナの、事、嫌いなのか…?」
「違う!リィナより、俺はお前の方が……!!」
そこまで言って、俺ははっとした。
ヤバい。これではクライスに本心を言ってしまったも同然だ。
「?? 俺の、方が…………?」
言われた側のクライスは、まだあまりその意味がよく分かっていないようで、今ならさっきの言葉も無かった事に出来そうだった。

――でも。

気づけば俺は、クライスを両手で強く抱き締めていた。

「俺は…クライスの方が、好きだから……」

…ついに言ってしまった。
初めて会った時から思っていた事。
クライスへの好意は、もはや家族へのそれでは収まらなくなってしまっていた。

「ぇ……?」
「好きなんだよ、だからっ……俺はクライスを一人ぼっちになんかしないからな!」
「好きって、俺も、アーキスのこと、好きだけど……」
まだ良く分かっていない様子のクライスに対し、ガキの俺は感情のままに実力行使に出た。
クライスの顎を取り、そっと自分の唇を近づけ――キスをしたのだ。
泣き腫らした紫の瞳が、驚きで見開かれる。

「んぅ………アーキ、ス…」
「…ッ、あ……ごめ……!?」
クライスが身動いだため、慌ててすぐに離れようとしたはずなのに、再び唇に柔らかいものが重なった。
クチュ…と唾液が音を立て、そこから甘く痺れるような快感が頭を駆け巡る。
それは紛れも無い、クライスの方からのキスだった。

「ん……ぷは………」
時間にしたら一瞬の事だったはずだ。でも、俺にしてみれば初めての体験はスローモーションのようで、知らず息が上がった。

「クライス……俺、男だけど……、嫌じゃ、無いのか?」
「…うん……。」
「こういうの、もっとしていい?」
恐る恐るそう聞くと、クライスはコクリと頷いたのだ。
自分の頬が熱く火照っているのが分かった。同じく、クライスも。

月のわずかな光を頼りに、俺はクライスの頭を再び抱き寄せると、クライスに口付けながら下へと体重をかけてゆっくり膝を折る。
そして、二人でその場に座り込むと、俺は上半身を覆い被せるようにしてクライスを押し倒した。
手や膝に当たる、毛足の短い絨毯の埃っぽく、ザラついた感触。
対して、クライスのマシュマロみたいに柔らかくて甘い唇。
押し付けた俺とクライスの胸の鼓動がグングン早くなり、心臓の音が重なった。
「ん、ちゅ……ん、ンッ…んむ、ぅ…」
息を荒げ始めたクライスに気づき、俺はやっと口を離した。
ちゅぱ、と唾液の雫が唇から溢れて、クライスの口の周りはベトベトになっていた。
「…ぷぁ……ッ……、ぁ…アーキス…、アーキス……」
その垂れた涎をペロペロと舐めるようにして、俺はまたクライスの口元に何度も何度も自分の唇を這わせた。
クライスもそれに応えようと、俺の名前を呼びながら薄く唇を開ける。赤い舌がちらりと覗いて、俺はもう堪らなかった。
(あ……ヤバい………勃った…)
もちろんキス以上の事をする気は無かったし、それ以前に、その時の俺に女はおろか男の抱き方の知識なんて全く無かった。
ただ、自らの身体に起こった反応から、明らかに自分はクライスを性的な対象として見ているのだという認識は出来た。
…じゃあ、クライスは?

「っ、あ!アーキスっ…どこ触って…!?」
思うが早いか、もぞもぞと俺はクライスの股座に手を突っ込んでいた。
「うわ、熱っち……」
「………!!」
果たして、クライスの薄手の綿のズボンの中心は張り裂けそうなぐらいに膨らんでいて、わざわざ触る必要がないくらい、その感情を伝えていた。
――クライスも欲情している。
「ッ、ゃだぁっ……これは……」
「隠さなくて良いって。俺もおんなじだから。」
「ヒッ……!ゃ、ア…ッ…!」
クライスを安心させる意味で、グイッと俺は自分の硬くなったイチモツを服越しにクライスのモノに擦り付けたのだが、どうやらそれはクライスにとって違う効果を与えてしまったらしい。
「アッ、アッ……!そんな、…擦った、らァ……!!」
「クライス? どうし…」
「ぅんッ…、…!ゃ、アッ!…ァアアァッ――!!!」
突然クライスが甲高い叫び声を上げたかと思うと、触れ合っていたクライスの性器がビクビクと大きく震えた。
そして、じわりと熱く濡れたものが布地に滲み出してくる……
(――射精、したのか?クライス……)
まだ経験のない俺は、目の前で起きた事に呆然とするしか無かった。
「…あ、え? クライス、出ちまった?」
「…ッ!……ゥ……、…ぅう……っ」
俺の間の抜けた声を聞いて、グスグスと、またクライスがしゃくり上げ始めたのを見た俺は、慌てた。
「あっ、悪い、……そんなつもりじゃ…」
「…ぅ……。がま、出来な…かっ……、ヒック、ズボン…濡れ…っ…」
「お、俺も寝て起きた時とか、良くあるから気にすんなよ。…それより、気持ち良かったんだ、クライス?」
必死でフォローする俺が頭を撫でながらそう聞くと、震えながらも、クライスは小さく頷いた。
ほとんどキスだけでクライスが達してしまったということに、俺は気を良くする。

「もう、寂しくないか?」
「うん……」
「じゃ、…またしようぜ…ここで…。俺たちだけの、秘密、な」
そう言って俺は、汗ばんだクライスのおでこにチュッと軽く口付けた。

「クライス、好きだぜ。」
「俺も……アーキス、好き……」

すっかり恋人同士のように目を閉じて抱き合っていると、いつの間にか俺たちはそのまま朝まで眠りこけてしまっていた。

それから、狭くて埃っぽいクローゼットの中は、俺とアイツが隠れてエロいことをする場所になったのは言うまでもない。
帝国の手によりラゼリアを追われるまで、ずっとだった。






「アーキス!またお前は…!」
「いいじゃねえか、酒場くらい」
「そう言ってまた女を口説いて回るつもりなんだろう?手当たり次第に」

敗戦したラゼリアからウエルトに渡った俺は、ひたすら酒場や市場に通って女を漁っていた。と言っても、そこで知り合った女と深い関係になる予定はほとほと無い。
理由はただ、当てつけみたいなものだった。

「お前も少しは楽しみを覚えろよ、酒もタバコもちょっとしかやらねえし、ラゼリア騎士の肩書きが泣くぜ」
「そんなもの騎士と関係ないどころか、不適切だ。お前はそんなにリィナを悲しませたいのか?」
「っ!バカ野郎!そんな訳無いだろうがっ」
声を荒立てた事で、道行く人々が驚いた顔で俺たちを見る。
その視線から逃れるように、俺は酒場へと歩を進めた。
「アーキス!話を…」
背後のクライスの言葉に応える事なく、戸をくぐる。
慌てて追ってきたクライスが再び声をかける前に、店の女の甲高い声が響いた。
「あーら!いらっしゃーい!アーキス様」
ああ、と俺はその女の方へ向かい、肩を抱き寄せて壁際のソファへと進んだ。
チラ、と肩越しに入り口のクライスを窺う。クライスは無言で、頭を抱えると、いつものようにカウンターへ向かった。そうして、俺の言動をただ遠目で見張るのだ。
他の者から見るとまるで保護者のようなクライスの振る舞いは、俺にとって全く苦ではなく、寧ろクライスに見せつけるように女とハグをしたり、酒を飲み交わし、キスを繰り返した。

後で兵舎に戻った時の、クライスとの逢瀬を楽しむために。

「クライス、なあ、…嫉妬した?」
部屋に帰るやいなや、俺はクライスに抱きつきながら質問する。
「うるさい…触るな、酒臭い、酔っ払いが」
「女の子の匂いもするだろ?それも嫌か?」
「く……この………人の気も、知らないで……」
段々と弱まっていく抵抗に気を良くした俺は、クライスを半ば押し倒すようにしてベッドに沈める。
「あ、止め……」
スルスルとクライスの上着を上げ、胸元を露出させると、そこに唇を落とした。腰に手を回すと、面白いくらいにびくりと引きつる。
「俺が女にこんな風にするの見て、嫉妬してたんだろ?」
「ん………」
「瞳がウルウルして、寂しそうに背中丸めて、バレバレだって。」
「だったら…っ、何で、…ッ」
眉根を顰めたクライスは、今にも泣きそうになって俺を見つめていた。
この余裕の無い顔が、堪らなく好きだ。

「俺、もっとお前に求めて欲しいからさ。」
「…アーキス………」
「俺だって、同じ思いをしてるんだぜ?」
「……リュナン様は…主君だ。恋人じゃない……」

――本当に?
俺はそういう気持ちを込め、クライスの剥き出しになっている乳首をつまみ上げた。
「んぁ…!ぁ、アーキス……!」
「じゃ、俺にどうして欲しい?言えよ、クライス」
「ッン……ぁあ……欲し……アーキス……」
「だから、何がだよ?」
既に頬を赤く染めたクライスが、切な気に俺を見つめ上げる。相当恥ずかしいらしい。
だが、おずおずと自らの腰を俺の方に擦り付けてきた。
「これ………」
「…ッ………」
布越しに、クライスの熱く硬くなったものの感触が伝わり、俺はゴクリと唾を飲んだ。

「アーキス…、…欲しい………」
「俺も……クライス…。」

お互いに顔を寄せて、口づけをする。
サラサラのクライスの髪を手繰り寄せて、何度も角度を変えて、ピチャピチャと舌を絡ませ合った。息が上がり、足の間で擦られているソレが更に質量を増していく。
「はふっ、ン、…んむ……ちゅ………」
貪るように、俺はクライスの口腔を味わいながら、腰のベルトに手を掛けた。何度も外した事があるそれを手早く抜き取り、熱く脈打つ陰茎を解放してやる。
同時に、自分のモノも取り出し、剥き出しの肉と肉を擦り合わせた。
「ンッ、ン…!ぷぁ、……ハァッ、ア、ァッ、アッ、…」
クチュ、と亀頭同士が触れ合ったのに気づいたクライスの腰が、ゆすゆすとリズム良く振れ始める。
普段と違い、一度こんな風に激しいキスを交わし触れ合った後の彼は、貪欲だった。
甘い刺激に我慢汁が砲身にタラタラと流れ、それが一層滑りを良くして動きを早めさせた。
「は、淫乱……酒場女もビックリする腰の動きだぜ、クライス……!」
「アッ、ア、ハァッ…ハッ、…言ぅ、な…ァ!…ァ…ハァンッ、アンッ」
少し言葉で詰ってやると、それに比例して喘ぎが高くなる。
マゾなのだ、クライスは。
それを知ってからは、その方が喜ぶからとあえて辛く当たることもある。
「やっ…ァア……!も、イく……イきゅ……イッ…!」
「じゃあもう後ろに挿れなくていいんだな?」
「ッ…!ンンッ、嫌、…ゃ、ら……」
「イきそうなんだろ?出してスッキリして、もう寝ようぜ」
「ゃら……アーキス、の、欲し…ッ…よぉ……まだぁ……ガマン、すりゅ、からぁ……」
まるで小さい駄々っ子みたいにおねだりを始めるクライスが、とても年相応に見えない。小さな頃から十分に甘えてこれなかった反動なんだろうと、俺は思う。
「分かったよ、ほら、力抜いてろよ」
「んァ、ぁ…………!」

クライスの望み通り、俺はクライスの両脚を広げて抱え上げると、いきり立った砲身をズブズブと後孔に沈めていった。自らの形に慣れたそこは、入り口こそゴムのような弾力で硬く締め付けたものの、内部は熱く、蕩けそうなほど柔らかくなってそれを受け入れていく。
(ハァ…すげー……クライスの中……)
ぶるりと身震いするほどの気持ち良さに浸るも、クライスの嬌声にすぐ引き戻される。
「アァァァッ…!!おっ、き、よぉ…!イイ…ッ…!ハァァァッ!!」
「お前の方がデカいだろっ、こんなビンビンにしやがって…!」
「ヒァッ、ァ!ァンッ!ヒィンッ!!ぃ、いじめ、な、でぇぇ…!アーキスぅ……!アッ、アアァァ……」
すっかり腰を打ちつけながら、アーキスは目の前で揺れるクライスの巨芯を戯れにピンと弾く。その度に先端から透明なガマン汁が飛び、四散した。
止めどなく垂れるそれを潤滑油代わりにして、アーキスの動きも一層早まっていく。
「虐めてなんかねえよ…!こうされると気持ちイイ癖に、もうバレてるんだよ、クライスの良いところはッ…!」
「ンァッ!アアアッ!!アーキス、アーキスぅ…!気持ち、イイよぉッ!!」
善がるクライスの前立腺を突いてやると、それに合わせて、背筋がピンと弓なりに反った。
「ヒッ、ァアッ!ッア!アッ――も、イク、イっちゃうぅぅぅ!!!」
「いいぜっ、イけよっ!俺もイきそ…ァ、くっ…ァ、…イく…!」
「――ァアアアアアアッ!!ァ――――――……!!!」

ドロリとクライスのペニスから白濁が垂れ落ちたのと、俺が中で果てるのはほぼ同時だった。
柔らかい肉壁がキュッ、キュッと収縮し、まるで絞り取られるような射精をして、力の抜けた俺はクライスの腹に自らの腹を密着させた。
腹の下では、まだ硬くしこったままのクライスのペニスの先端から、コプコプと白濁が吐き出されている。
やがて萎えたペニスをズルリと抜き出すと、クライスの身体はそれだけでビクリと震えた。放たれた二人分の精液で、下半身がドロドロになっているのが良く分かる。

これから風呂に行くか、朝に水浴びで済ますかとぼんやり考えながら、荒く息を吐くクライスの汗ばんだ額を撫でてやる。
「ッ……はぁ、はぁ…はぁ……」
「大丈夫か?風呂行く?」
「…ん…………」
クライスの手が伸び、俺の頭に回される。まだ余韻に浸っていたいということか。

「アーキス……愛してる……アーキス……」
「ん、俺も」

自然と啄むようなキスを交わして、譫言のようなそれに応える。
いつもこうやって行為の後のクライスは甘えてくるのに対し、俺は適当にそれに乗っかった返事をしてやる。
でも、決しておざなりな扱いじゃないことは、クライスは分かっている。
やがてすやすやと寝息が聞こえたので、朝の水浴びで決定らしい。



――こんな関係が、ずっと続けばいい。
けれどそれは、世間体とか、今の戦況や将来を考えると難しいことだ。
でも、あの日クライスと出会ってから、俺は決めたんだ。
ずっとクライスと共にいると……。

2015.2.12