[ティバーンの好みのタイプの話]


「ということで…だ。頼んだぞ」
「はいはい」

 ――今宵も天幕を開けている間、代わりに白の王子を護衛するよう伝えて飛び去って行った大きな翼を見上げながら、ヤナフは顎に手をおく。
「しっかし、なんでまたあのベオクなんだろうな…よりによって」
 ううむ…と唸りながら、ヤナフはこれまで我が王ティバーンが興味を抱いたベオク達のことを逡巡する。

 アイク…は白鷺姫を救出したことが切っ掛けだから少し違うかもしれないが、三年前は国に招きたいと豪語する位、いたく気に入っていた。
 次はベグニオンの四天馬騎士の隊長…シグルーンだったか。ベグニオン船へ海賊行為をしていた頃からの、ヤナフもよく見知った相手だ。
 ティバーンが偵察に出た先の城上で困った様子のシグルーンに対し、敵対しているにも関わらず「そんなの見て黙っていられるか――」と言って話しかけに行っていたのを思い出す。
 そして、今同じ隊で行動しているクリミア女王エリンシアにも、対峙した最中、鷹王からいきなり距離を詰めていた。
 日中よく話しているようだし、鷹王が次に発破をかけるならそちらかと思っていたのだが。
(どっちも周りのガード固そ…)
 千里眼と評されるヤナフの目から見て、シグルーンとエリンシアはどちらも美人で気品があり、荒々しい戦とは無縁の優しげな目が印象的な顔立ちだ。
 そしていつも庇護しているリュシオンと、リアーネ、ラフィエルの面持ちと…件のベオク、デイン王の姿を頭の中で並べてみる。
「…あ」
 正の使途とされる軍団との先の戦いの後――まともに言葉も発せない程疲弊した彼を、意外にも鷹王は見捨てず介抱してやっていた。
 あの時の彼の顔は…。
「ははあ、成る程な…」
 何となく、何となくではあるがそういう雰囲気……強く物を言わず、儚げな印象――中身の性格はさておき、半歩下がって後ろを着いてきそうな佇まいのヤツが、窮地に陥っているのにそそられるというやつか。
「何を考え込んでいる、ヤナフ」
「いや、ティバーンの男心を何となく察したというか。…放っとけないんだよな、分かるぜ」
「?」

 この推察が正しいのかを確かめるべく、後日ヤナフはティバーンに直接、ペレアスのどこが気に入ったのか訊いてみた。
「…別にあいつを気に入った訳じゃねえ」
「ほー?なら何で気にかけんだ?」
「例えるならな、巣から落ちて必死でもがいている小鳥を見つけたようなもんだ。飛び立とうとバタついて、何度も地面に転がる。放っとけばあと数時間の命だ。そんなのを見逃したら目覚めが悪いだろ」
 だからあいつは放っておけない、と宣うティバーンに、ああ…とヤナフは生返事を返す。
「…本当にそれだけの理由かあ?」
「…何だよ、別にデインとかいう国に恩を売って取り入ろうとは思っちゃいねえぜ」
「いや、見た目とか」
 ああいう雰囲気の若いやつがタイプなんじゃねえの、と続けると、うるせえと岩のような拳がヤナフの頭を打つ。
「いっ…てえっ!てめっ、力加減考えろよ!コブが出来たんじゃねえか」
「野暮な事言ってねえで、偵察でもしてこい!」
「はーいはい、またあの紺色の癖毛坊主の様子でも見てくればいいんだろ、分かりました!」
「ヤナフ…それ以上王に軽口を叩くのは止せ」
「ウルキも迷惑してんじゃねえのか?ここんところ毎晩聞こえるんだろ、アレの声…」
 また鷹王の拳が伸びる前に、ヤナフはぼやきながら飛び去って行った。

「……、……聞こえてる…か?」
「………。」
 後に残されたウルキに、腕組みをしたティバーンが詰め寄る。
 いつも表情が堅いもう一人の側近であるが、やや動揺しているのか、罰が悪そうに視線を逸らすと、「…たまに、よく」とだけ呟く。
「そうか、……悪いがそん時は耳塞いでろ」
「静かに事に及ぶ努力はしないんだな…」
「いちいちうるせえな、側近だからって俺の色恋にまで口を挟むんじゃねえ」
「やっぱりイロなのかよ」
「ヤナフ!」
 木陰でニタニタと笑う旧友に、ティバーンが憤慨し化身しようとするのをウルキはまたか、という心持ちで宥めていた――。


意志が強いけど儚げで守りたくなる子を側に侍らすのが好きなんでしょう、そして頼られて喜ぶタイプね…