☆お題 『ひまわり畑で受の姿が消える』+『彼シャツ破れ』+『受けからキス』
アスク王国――この世界に召喚されて、もう二年以上になるだろうか。三度目の夏を迎え、周囲には随分と馴染みの顔も増えたと感じる。あの溌剌とした血を分けた妹の姿はまだ見えないのだが、父と同じように勝手にシレジアを出た身、今さら会えないことを嘆く立場ではない……と、セティはいつもぶ厚い雲がちだったシレジアとは違う、どこまでも広がるアスクの青々とした空を見上げた。
眩しい夏の日差しが照りつける中、畑に咲くたくさんの向日葵がこぞって同じ方向を向いている。それがまるで自分をすがるように見ていたマンスターの人々のようだと錯覚し、ふうと胸に詰まる息を吐いた。我が身は太陽の光ではなく風……迷える民衆の背を風のように導く使命を持つ者だ。しかしこのアスク王国の人々は未だ、他国から現れし異界の戦士達から侵略を受ける日々を送っている。風で払えど払えど、じわりと忍び寄る闇――底知れない恐怖から逃れるためには、その全てを照らす強き光が常に必要とされるのも無理はないかもしれない。セリス様しかり……アスク王国のアルフォンス王子とシャロン王女しかり。
――しかし、暑い。
照り付ける日の下、セティがこの向日葵畑を訪れたのは理由があった。つい先日新たに召喚された解放軍の魔法戦士であったフリージ家の兄妹、その妹ティニーから、兄の姿が朝から見えないと心細げに相談を受けたからだ。
セティたちグランベル出身の者が集う兵舎を一通り尋ねたところ、この向日葵畑へアーサーが向かう姿を見たと妹の従者であったカリンが教えてくれた。そこでここへ赴いたのだが……。
ふと違和感のある風の流れに気付き前を向けば、向日葵畑のある一角だけ、雲行きがおかしなことになっていた。つい先程まで白い入道雲が浮かんでいたはずのそこに、今にも雨を降らしそうな灰色の暗雲が立ち込めている。さらにその雲の表面には、パチパチと雷光が燻っていた。
あれは良くない、直ぐ雨になる――早く彼を探して連れ戻さねば……と感じて畑の中へと歩を進めたとき、突然、地面を伝って痺れるような感覚が皮膚を伝った。
(これは――ただの雷雲ではない……!)
一瞬肌に走った紫電から、荒々しい魔力の流れを感じ取ったセティは、それが自然の力で出来たものではなく魔道によって生み出されたものだとすぐに察した。そして、探しているアーサーは雷の魔法に長けたフリージ家の者。つまり。あの暗雲の中心に彼が居るに違いない――と確信した時には、周囲の向日葵に目掛けて稲光の筋が光っていた。
「――ー!!――――!!――…!!!」
荒々しく叫ぶ声がする。我を忘れたようなその怒りの声を、セティは過去にも耳にしたことがあった。
「アーサー!やめるんだ!」
「ッ――ー!!」
制止の声と共に、空から弾丸のように叩き付けてきた雨粒ごと凪ぎ払うように風の魔法を唱えて、暗雲にぶつけた。散り散りになった雲の端に走る雷の光が花火のように散って、セティの身を掠めた。バチッ、とそれらは水分に触れるとスパークしながら紺の上衣を走り、繊維を焦がす。
「! あっ……すまない……」
向日葵の向こうから現れたセティの姿を見て我に返った様子のアーサーは、慌てて手にしていた魔道書を閉じて駆け寄った。
「ッ!つっ……!」
アーサーが伸ばした指先がセティの濡れた肩口に触れた瞬間、帯電していた静電気によってパチッと火花が散る。
「……私は……平気だ。アーサー……君は」
「大丈夫だ……少し、イライラして」
「分かっているさ、また彼らのことを――君の母君を虐げたブルームとヒルダへの怒りのせいだろう」
「ああ……。さすが、風の勇者様は何でもお見通しだな」
静電気によってまるで威嚇をする動物の体毛のように広がってしまった長い銀の毛先を撫で付けながら、罰の悪そうな顔でアーサーは目線を下へ落とした。
「服……すまない、弁償させてくれ」
セティの青いローブと黒のシャツは所々焦げて穴が空き、素肌が見えていた。幸い、皮膚までは焼かなかった様だ。
「雷の力を抑えられなかったのだろう。修練が必要だ。とりわけ、君はここへ来てまだ日が浅い」
「ああ……昨日は訓練所でも雷を暴発させて、何人か巻き込んだ」
「それでここへ?」
「………。」
図星を肯定するように黙ったアーサーを嗜めるようにセティは彼と向き合った。
「それならば、しばらく私が側で付いているよ。君が冷静でいられるように」
「いや……大丈夫、俺は……」
「ティニーが心配していた」
「……そうか、すまない」
「アーサー」
突然感じた温もりに、アーサーはハッと目を見開いた。ピリピリと、まだ体内の電気が触れられたところを舐めている。だが、セティは構わずアーサーを正面から包み込むようにかき抱いていた。
「……あまり心配させないで欲しい。君と……もちろん君の妹であるティニーも、私の大切な……」
「………宝物、」
「憶えていてくれたかい?」
セティの深い森のような緑の瞳が、アーサーの紫水晶色の瞳を真っ直ぐに視ている。頭半分ほど下にある雨露に濡れたアーサーの白い額に、セティの暖かい唇が触れた。アーサーが上を向くと、そのまま唇を重ねる。
「ここに呼ばれて……貴方が……セティ様がここにいることを知って……俺は嬉しかった」
「私もだよ」
「変わってないですね、風の勇者様は」
「ッ、その呼び方は……やめてくれ」
「俺と妹と、どっちもを巻き込んでおいて今さら何を言ってるんですか」
悪戯な笑みを浮かべて、今度はアーサーがセティの口を奪った。ちゅ、と舌を絡めて、口腔を深く吸う。
「……その……これ以上は」
「ああ、そうですね――。ここじゃお天道様に丸見えだ」
すいと身体を離したアーサーは、じゃあまた夜にでも部屋にお邪魔しますと告げると、踵を返して向日葵畑の間を何事もなかったかのように歩んでいく。ちゃんとティニーに会いに行くように、とセティはその後ろ姿へ声をかけた。
返事をしてくれたのか、腰まである彼の長い銀糸が夏風にはためく。
(本当に……放っておけないな)
そう思いながらもセティは、わき上がった懐かしい感情に笑みを溢した。
(早くフィーも……彼の面倒を見に来てやってくれないかな)
私だけでは、雷のようなあの兄妹ふたりは大変だ……と、去り行く恋人の姿を愛おしげに見つめた。
終
後書きと補足
・セティは聖戦の世界にて、ティニーとアーサーどっちも大好きで告白済みなんだけど、身体の付き合いまでヤってるのはアーサーだけという事実!
・アーサーはアーサーでフィーのことを好いているけど、やっぱり抱かれるのはセティが良いという、訳の分からない爛れたBL展開です。はい
・風の男は人たらしだから振り回される子がいっぱい生まれるが自然の摂理!それにしてもFEH時空のアーサーはキレ散らかし怒りBoyすぎてわろた
・こんな自然現象のように突発的に起こるセティアサが好きなんですよね~~~!!