フォルトナバースデーパーティー(for樹)

フォルトナ事務所メンバーみんなで樹くんの誕生日をお祝いする、はずが…!?
樹愛されほんわか(?)SSです。
※セミネタ注意

20××年7月30日。

「お誕生日おめでとう!イツキ君!」
「イツキ!おめっとさーん!!」
「イツキさん、おめでとうございます!」
樹が事務所の自動ドアを潜るなり、パン、パンと小気味好い音と共に弾けたクラッカーから紙吹雪が舞った。
驚いて前を向き直ると、そこには見知ったフォルトナのメンバーが一同に会していた。
「ツバサ、トウマ、マモリ…それにキリアさんまで…わざわざ集まってくれたのか?」
「もちろんです!」
「おう。まあこれでも被って座れよ、主役らしくなっ」
斗馬に手渡されたキラキラの青いホイルが巻かれた三角の帽子を樹は照れくさそうに被ると、促されるまま入り口横の応接ソファへ腰掛ける。
「私からも…おめでとう。イツキ」
先に座っていたキリアが樹にそっと声をかけた。
「ありがとうございます。スケジュール忙しいのに、俺の為に時間作ってくれたんですね」
「気にしないで、前々から調整していたから。マイコにも融通してもらって」
「そうよぉん!みんなでイツキくんのお誕生日のお祝いするために、マイコさん頑張っちゃったんだから!」
と、奥から舞子がいつもの調子で姿を見せる。
「私も、頑張って今日のお仕事終わらせちゃったわ、ウフフ」
ふんわりと悪戯っぽい笑顔を浮かべる彩羽がそれに続く。
「マイコさん、アヤハさんもありがとうございます。あれ、でも、エリーとヤシロは…」
「待たせたわねっ!」
自動ドアの方から聞き覚えのある高らかな声が聞こえ、一同がそちらへ目をやると、銀のトレイに乗った大きなホールケーキを携えたエリーが仁王立ちしていた。
「見なさい、これがイツキの誕生日のお祝いのために作ったケーキよ!」
どん、とソファ前のローテーブルに置かれたケーキは、色とりどりのフルーツと白いホイップ、金銀のアラザンでデコレートされ、土台にはピンクと黄緑のリボンが巻かれている。
「すごいな…これ、本当に手づくりなのか…?」
「ほんとだ、スゲー!!」
「すごいです!!」
「ハリウッド的に手づくりよ。ねぇ、ツバサ」
「うん!エリーちゃんと二人で頑張って作ったんだ!…えへへ、土台はほとんどエリーちゃんだけど…」
「すごいわねぇ、さすが、若さ…情熱のなせる業だわっ…!」
舞子が感極まったように眼鏡の奥を押さえている中、つばさがポケットから何かを取り出した。
「あとこれも、エリーちゃんと一緒に選んで作ったんだ!はい、イツキ君」
手渡されたそれは、細い革紐にA・Iという銀のアルファベットキューブと、輝く青いビーズや星型のパーツがつけられたものだった。
「これは、ストラップ?」
「そうよ!」「そうだよ!」
返事が被ったつばさとエレオノーラが顔を見合わせるのを、他のメンバーは微笑ましく見守っている。
「ハ、ハリウッド的にオシャレに仕上げたんだから、ちゃんとつけてよね、イツキ!」
「うん、早速つけるよ。ありがとう、ツバサ、エリー」
にっこりと笑顔で応える樹に、目線をそらして照れた表情をするエレオノーラと嬉しそうに手を胸の前で合わせるつばさに、あらあら、と背後の舞子と彩羽は顔を緩ませていた。
「イツキ、俺もこれ、プレゼントな!」
ガシャガシャとわざとらしく音を立てて、斗馬が紙袋からビニールの袋に入った物を差し出してくる。樹が手に取り中身を取り出すと、黒に蛍光グリーンのラインが入ったメッシュ帽が出てきた。
「スポーツ用のキャップか?ありがとう」
「ただのキャップじゃないぜ…何と!ライガモデルの新作、劇場限定版だ!ちなみに俺はこの、オウガモデルを愛用してるからな!」
ちゃっかり腰のベルト紐に付けたカラビナに下げていた黒に赤のラインが入ったオウガモデルキャップを被ると、ビシッとヒーローポーズを決める斗馬。
「はは、トウマらしいな。ありがとう。ジョギングする時にでも被るよ。」
「私からも、イツキさん。はい、どうぞ」
まもりが差し出したのは可愛らしいうさぎ柄の小さな袋。開けると、3種類の銀に光るくねくねした棒が出てきた。
「これ、知恵の輪…?懐かしいな」
「イツキさん、パズルを解くのがお好きだって聞いたので…。私もむかしおばあちゃんに貰ったんですけど解けなかったので、ぜひチャレンジしてみてください!」
「ありがとう、やってみるよ」
「私からはこれ…。イツキの好みに合うかはわからないけど」
まもりの隣に座る霧亜が取り出した箱を開けると、流線状の細工が施されたシルバーのブレスレットが出てきた。
「おお、カッコいいじゃん!」
「ほんとだ、俺、似合うかな…」
「ねえねえ、着けてみて、イツキ君!」
つばさに促され、洗練されたデザインのそれを手首にはめる。樹の手首にぴったりのサイズだった。
「すごい、オトナって感じね…」
「イツキさん、かっこいいです!」
「ありがとう。キリアさんも、わざわざ選んでくれてありがとうございます。」
「どういたしまして。」
フフ、と可愛らしく微笑む霧亜の背後で、可愛いわ…と呟くサーリャが一瞬浮かんで消えた。
さらに彩羽からはハンカチ、舞子からはノンアルコールのシャンパンを出され、さあ乾杯しようというところで樹がはたと気づいた。
「……ヤシロは?」
そういえば、とメンバーが事務所を見回しても弥代の姿がない。
「ヤシロさん、朝から事務所に居るのを見ましたけど、どこへ行っちゃったんでしょう?」
「あ、あたしも食堂の冷蔵庫にケーキ取りに行く時見たわよ。給湯室のコンロで何か作ってるみたいだったけど…」
「作る?……料理とか?」
一同がまさか、と目を見合わせると、計ったかのように入り口の自動ドアが開く音がした。

果たして、スーツに例のレンチンエプロンを巻いた弥代が満面の笑みを浮かべて仁王立ちしている。
その手に持つ皿の上には…。
「きゃああああああーーーーーー!!!!!む、虫!!虫ーーーーー!!!!!」
白い皿の上にこんもりと盛られたそれを見てしまったつばさが悲鳴を上げる。
「お、お、落ち着きなさいよツバサ!む、むむ虫くらいで…!!」
「イヤーーーー!!!!!来ないで!!早く!キン○ョールしないと…!!!!!」
前にもこんな事態になったのを思い出しながらも、樹はつばさとエレオノーラをなだめる。その横の霧亜はというと、引き攣って固まっていた。
「ヤシロ、そ、それ…生きてるのか…?」
「いや。調理済だ」
「調理って、それ……」
「セミ、ですか…?」
斗馬とまもりの質問に、そうだ。と弥代が深く頷く。
「蒼井樹のために用意した、蝉の素揚げだ。」
「セミ……素揚げ……って、食えるのかそれ…?」
「俺がこの世界で最も好む食事だ」
弥代の衝撃の発言に、ザザッと周りの面々が引いていくのを感じる。
しかし至って真剣な眼差しでその皿の上のものを一つ摘んで顔の前に差し出してくる弥代に、樹はそのブツを苦笑しながら受け取るしかなかった。
「食べてみろ。見た目はこうだが…味はそんなに悪くないはずだ」
「う、うん…」
「イ、イツキ君、止めておいた方が…」
「いや、男を見せる時だぞ、ここは…!」
「ううぅ、イツキ君がセミを食べるところなんて見たくないよぉ…」
弥代から受け取ったそのゲテモノ…とどのつまりセミは、素揚げ故に生きている時の形ほぼそっくりそのままの姿だった。
今朝まで外で元気に鳴いていて、まさか素揚げにされるとは思っていなかっただろうそのセミの、つぶらな丸い二つの目が樹を向いている。
「うっ……。」
堪らず視線を上げれば、こちらを見据える弥代の色の違う二つの瞳と目が合う。正に前門の虎、後門の狼。さらに周りは四面楚歌。
さっきまでの和気藹々としたムードからは一転、事務所の中はただならぬ緊張感に満たされていた…。
「い、いただきます」
「頑張って、イツキ君…!」
「食レポしてください…!!」
樹がそれを口に入れようとしたまさにその瞬間、ドサッと何かが倒れる音がした。
「キ、キリアさん!!」
「ちょっとキリア!!大丈夫!??」
慌てて舞子がソファから床に滑り落ちた霧亜を助け起こす。
「ぜんぜん大丈夫じゃ…ないわ……」
「わ、私も倒れそう……」
「ツバサ!」
「ああもう、ちょっとヤシロお前それ下げろ!視覚の暴力すぎる!!」
「そうね、今すぐ中身が見えない箱か何かに厳重に封印した方がいいわね…」
「何故だ?」
「ヤシロさん、そうしましょう!私も手伝います!」
顎に手を当てて首を傾げている弥代を、半ば強引に引っ張りながらまもりが事務所の外へ連れて行った。
嵐が去った空気の中、すまなさそうに舞子が口を開いた。
「ごめんなさいねイツキ君。ヤシロ君たら、イツキ君のために一流のオードブルを用意するって言ってたから期待して任せたんだけど…」
「いえ、ヤシロも悪気があったわけじゃないですし…。それにこれ、本当に美味いのかもしれないと思うと俺の中の食レポ魂が疼いて…」
「もー、止めときなさいよ!それよりあたしのケーキを!!食べて!!!」

その後、まもりによってきれいに箱詰めされた例のものを弥代から改めて受け取ると、ようやく元の和やかな雰囲気の中、樹の誕生日パーティが始まった。
「みんな、ありがとう。」
「イツキ君!スマイルスマイル、歌って~!!」
「はいは~い、そのままみんな笑顔で写真撮るわよ~ん!」
「うおっ、このケーキ美味っ!」
「ちょっとぉ!アンタが1番に食べてどうすんのよトウマ!」
「これは…うむ。まあまあだな」
「…そこはあの、光線吐くところじゃないんですか、ヤシロさん」
「もう、ふざけてないで撮るわよ…(後でトウマを殺すしかないわね…)」
「ウフフ、キリアも笑って。ほら、タイマー、3、2、1…」

モニターから流れるsmile,smileをBGMにして楽しむフォルトナメンバーの様子を、青い扉の向こうからミラージュたちは暖かく見守っていた。

END