フォルトナバレンタインデー2

樹愛されSSその2。
フォルトナメンバー+仲間ミラージュ総出演でバレンタインのあれこれ妄想。
2/14の気分でお読みください(天気は雨)
※性懲りもなくまた虫ネタ有り

日曜日の朝。
昨夜から降り続く雨の中、蒼井樹はいつものように事務所へやって来た。
珍しく、入り口横のソファにつばさが座っている。
「おはよう、イツキ君!」
「ツバサ。おはよう」
樹の姿を認めるなり勢い良く立ち上がったつばさが、何かを差し出した。
「イツキ君!はい!」
「これは…?」
赤いリボンの付いた可愛らしいハート型の箱が目に入る。
「バレンタインデーのチョコレートだよ!えへへ、エリーちゃんに教えて貰って、今年は手作りしちゃった…」
「ツバサがチョコを手作り!?」
「か、形はちょっとイビツかもしれないけど、味は心配いらないから!…イツキ君、受け取ってくれる?」
「そうなのか…うん、もちろん。ありがとう」
おっちょこちょいで知られる幼馴染の作に一抹の不安を抱えつつも、つばさが嬉しそうにえへへとはにかんでいる姿を見ると微笑ましく感じた。アイドルになっても、こういうところはいつもと変わらない。
「…おはよう。イツキ、ツバサ」
「キリアさん」
ふと後ろを振り返ると、今度は霧亜がやって来たようだ。
髪に滴った雨粒を払いながら、いつものクールな出で立ちで二人の前に立つ。
「あっ、キリアさんにも、…はい、どうぞ!」
「これは…?」
「チョコレートです!あ、あの、手作りしたので、お口に合うか分かりませんが、良かったら…」
「貰ってもいいけど、私は女よ?」
「あ、いえ、友チョコです…って、キリアさんは友だちじゃない!すみません!あの、でも、えっと…食べて欲しくて、あの…」
「あなたの気持ちは分かってるわ、ツバサ。わざわざありがとう。頂くわね」
「わ、わぁ$301C!ありがとうございます!キリアさんに貰ってもらえたよ$301C!嬉しい$301C!」
「良かったな、ツバサ」
「……チョコレート……ね」
手放しに喜ぶつばさの横で微笑む樹の様子に、ため息のような呟きが霧亜の口から漏れる。
後ろ手に持った包み紙が、カサ、と音を立てた。
「キリアさん?」
呟きが耳に届いたのか、見つめているのに気付いたのか。樹が不思議そうに霧亜の方を向く。
「…何でもないわ。じゃあ、私はこれから新曲のレコーディングの打ち合わせに出るから」
「はい。雨で移動が大変だと思いますけど、頑張って下さい」
「新曲、楽しみにしてますっ!!」
見送る二人に踵を返そうとした霧亜の動きが、躊躇いがちに止まった。
「…イツキ。これ…良かったら食べて。あなたにはいつもお世話になってるから」
ぽん、とカラフルな包みが手に乗せられたかと思うと、霧亜はガラス扉をくぐり、振り返る事なく行ってしまった。
「これは…?」
「あ、あああああ!!いいな!いいなああイツキ君!!!わ、私も、キリアさんのチョコ、欲しい$301C$301C!!!貰いたいよーーーー!!!」
樹の声に被り気味に叫んだつばさの声で、手の中のそれがチョコレートの入った箱だという事に気付いた。
今日はバレンタインデー。さすがに霧亜の気持ちであるそれをつばさに分ける事は出来ないと思い、羨ましがるつばさをなだめる。
「悪いな、何か。俺なんかにキリアさんまで気を遣って貰って」
「…ううん、それはイツキ君の頑張りを、キリアさんもしっかり認めてくれてる証拠だよ!良かったね、イツキ君!……わ、私も、いつもすっごくイツキ君に助けられてるから…!ありがとう!」
「ツバサに改めてそう言われると照れるな…うん。こちらこそありがとう、これからも頑張るよ」
「私も、キリアさんに褒めて貰えるぐらい頑張るから!じゃあ、マイコさんに今日のお仕事の内容聞いてくるね!」
笑顔を取り戻したつばさが事務所の奥へと向かうのを見送りながら、自分より先に来ていながらなぜ今日の仕事のスケジュールを把握していないのかと、樹は頭をひねった。
(まあ、ツバサのことだからな…)
いつものドジっぷりを少し不安に思いつつ、自分もスケジュールを確認する。
これから昼過ぎまで烏頭目レッスン場で演技のレッスンがあるらしい。
貰ったチョコをレッスンウェアの入ったスポーツバッグにしまうと、樹は事務所を後にした。

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「あ!イツキ、おはよう」
「はよーーーっす、イツキ」
烏頭目レッスン場に着くなり、頭の色が派手な二人に迎えられる。エリーと斗馬だ。
「二人とも、早かったんだな」
今日は珍しく、この三人でレッスンを受ける。何故なら、斗馬が主役を務める特撮に樹はエキストラ、エリーはホラーハンターアンジェと凰牙のコラボとしてゲスト出演する事になったので、どうせならトリオで練習を、との事だった。
「同じ事務所仲間だけど、レッスンは本気でビシバシいくわよ!イツキ!トウマ!私のハリウッド魂をしっかり感じなさい!」
「それはこっちのセリフだぜ!特撮は俺の十八番だからな、先輩として技の魅せ方ってモンを披露してやる!覚悟しろよ、イツキ!」
「ちょっとお$301C$301C!私とイツキの方が先に同じシーンで出番があるんだから、トウマは台本合わせが終わるまで引っ込んでなさい!」
レッスン開始前から、エリーも斗馬もやる気は十分らしい。が、十分すぎて少々熱が入りすぎているようだ。
「だから、大事なのはクライマックスに至るまでの技の魅せ方で…!」
「そんなことウダウダ言ってるヤツには、チョコレートあげないから!」
「へ?……あ、そっか、今日はバレンタインだったな…」
話がこじれてフン、とヘソを曲げたエリーと、困惑する斗馬の様子に苦笑する。
「トウマ、残念。」
「イツキには、ちゃーんと用意してあるからねっ!」
「うっ…。す、すいません。でした。」
毎年、貰ったチョコの数は男の沽券に関わるのだろうか。やけに素直に斗馬が頭を下げている。
「もー、仕方ないわねぇ。私のハリウッド的に最高の手作りチョコ、あんたにもあげるわよ」
「エリーは料理上手だもんな。ツバサにも教えてくれたんだろ?」
「…へ!?何でイツキが知ってるの?」
「ここに来る前に事務所で貰ったんだ。ツバサと…あと、キリアさんに」
「…!」
「ツバサちゃんからだけでなく、キリアさんからもチョコを!?」
そうだよ、と肩にかけたままだったバッグの中から、2つの包みをチラリと見せる。
「…さすがイツキ…男としての余裕を感じる……」
「……フ、フン!大事なのは中身なんだから…!」
さっきまで威勢がよかったはずのエリーが、慌てて隅に置いていたバッグから小包を手にすると、樹へ近づく。
「はい、これ!忘れない内に先に渡しておくわ、イツキ……えっと……いつも、ありがと……」
「え、あ。ああ。ありがとう、エリー」
唐突に突き出されたそれを受け取りながらエリーの方を見ると、さっきまでの威勢はどこへやら、頬がポーっと赤くなって目線を逸らしている。
「エリー、顔が赤いけど、風邪?その服、寒いんじゃないか?」
「ハアッ!?…そ、そんなワケないでしょ!このハリウッド的に動きやすいスタイリッシュなレッスンウェアのどこが寒そう…って、もう!この天然ニブチン王子!」
「え、ごめん…」
俺、何か間違ったかな…というイツキの呟きを聞いたエリーは、さらに顔を真っ赤にして、「もう、知らない!」と言ってプイと横を向いてしまった。
そのやりとりを横で見ていた斗馬は、あちゃーと顔を覆い肩を落としていた。
「オイ!オマエラ、真面目にやってンのか!?」
と、バリィが絶妙のタイミングでレッスン場の扉を開き、どたどたと体躯を揺らしながら参上した。
「バリィさん、遅かったですね…今日は一体何に並んでたんですか?」
「Oh、愚問ダナイツキ。今日は何の日ダ?答エテみヤガレ!」
「えと…バレンタインデー…ですか?」
「Yes!イツキ、ソノ通りダ!コレをとくと見ヤガレ!!」
バリィが高く掲げているのは、いつも彼のシャツに描かれたキャラクターがチョコレートを差し出しているイラストがプリントされた紙袋だった。
「フフフ…昨日の夕方から並んで手に入れてキまシタ…大勝利デース!」
「はあ…。」
よく見ると目の下に色濃い隈を作っているバリィが自慢気に語り始めるのを、呆れた様子で見守る三人の元に、今度は天使のような明るい声が届いた。
「おじちゃん$301C。おはようございます」
「Why!?まもりん$301C$301C$301C!?!?」
小柄な陰がレッスン場の扉を開けて入って来る。いつもの和装姿の源まもりだった。
「イツキさん!エリーさんとトウマさんも、おはようございます」
「Oh…まもりん…今日も天使の出で立ちデースね…徹夜明けの目に沁みマース…」
感慨深く呟くバリィをよそに、やって来たまもりを和かに迎え入れる。
「マモリ、おはよう」
「はい、おはようございますイツキさん。収録まで時間があるので、ちょっと抜けてきちゃいました。今日はこちらでレッスン中とマイコさんに伺ったので」
そう言うと、まもりは腕に下げていた紙袋から、小さな箱を取り出した。
「はい、イツキさん。今日はバレンタインなので、まもりん特製チョコレートです。おじちゃんにも、どうぞ」
「あ、ありがと…「オオオーーー!!!!!Great!!まもりんはやっぱり2次元から3次元に降り立った天使デース!!!天使のチョコをGetデーーーーース!!!!!」
イツキの感謝の声が、歓喜したバリィによってかき消されてしまう。が、慣れた様子のまもりは構わずニコニコしていた。
「お、俺には……?」
「もちろんありますよ!はい、斗馬さん。いつもありがとうございます」
良かった$301Cと胸を撫で下ろす斗馬の横で、「男冥利に尽きるゼ……」とバリィが感涙している。エリーと言えば、男ってホント厳禁ねと言わんばかりの視線を横目で送りつつ、台本をめくっていた。
「レッスン中にお邪魔してすみませんでした。では、戻りますね」
「ああ。外は雨だけど気をつけて。わざわざありがとう、マモリ。撮影、頑張ってね」
「は、はい!頑張ります。イツキさんも、無理せずに頑張って下さい!」
「ありがとう」
えへへ、と照れ笑いを浮かべたまもりが、レッスン場を後にする。
「イ$301Cツ$301Cキ$301C$301C」
「うわっ、バリィさん…!?」
和やかだったムードがバリィの怨念が篭った一声で一転した。背後にドス黒いオーラが透けて見える。
「キサマ、今日のレッスン……生きて帰レルと思うナよ!!!!!トウマ!オマエもナ!!!」
「うえっ、どうして俺まで……!」
巻き添えを食らった斗馬が不満そうに漏らす。
「さーんせい。こうなったらみっちりレッスンしましょうね、イ、ツ、キ」
「あ、ああ…」
こうして、今日も烏頭目レッスン場名物、地獄のスパルタレッスンが開始した。
昼食時には、つばさのtopicに『さっきはありがとう、また今度チョコレートのお返しをさせてもらうわ』と霧亜からのメッセージが届いたことをつばさが歓喜して伝えてきたが、ヘトヘトにバテた樹は一言、良かったねと返すことしか出来なかった。

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夕方になり、やっとレッスン場を後にした樹は他の予定のあるエリーたちと別れ、事務所へ戻っていた。
が、何やら事務所のビル前の道路に宅配便のトラックがひしめき合っていてクラクションが騒がしい。人の波を抜けてどうにか中へ入ると、フォルトナの事務所へ続く通路には、ずらりとその宅配業者が列を成していた。
「あ、ちょっと!イツキくん!!ヘルプ!!」
宅配業者に囲まれて受け取りのサインに追われているマイコが、樹を呼ぶ。
「マイコさん?アヤハさんも…!どうしたんですか?」
「いい所に帰って来てくれたわ…!ちょっと、これ、事務所の中のブルームパレスに運んでいってくれないかしら。」
そう言って指し示されたのは、いくつものコンテナに入った大量の荷物。しかも現在進行形で増え続けている。
「こ、この量…!?一体、何が届いたんですか?」
「チョコレートよ!!ヤシロくん宛の!!」
「えっ……」
樹が絶句している間も、ガラガラと台車で荷物が追加され、積み上がっていく。マイコとアヤハに群がっていた業者がやっと居なくなった頃には、荷物の山が事務所の入り口を塞いで見えなくなるほど高く積み上がっていた。
ブルームパレスに運ぶにしろ、台車で何往復すればいいのか検討もつかない。
「…当のヤシロにも、運ぶの手伝って貰いましょうよ」
「ダメよ。今ドラマの収録中。ハァ…でも、それだけ売れっ子なんだから、仕方ないわね$301C」
「凄いわね、ヤシロくん…」
これが嬉しい悲鳴と言うのだろうか。世の女性たちからの弥代の人気をチョコという形で目の当たりにして、まさかここまで凄いとはと、樹は改めて芸能界の凄さを感じた。
「とりあえず連絡はしておきますね……」
樹はtopicでこの現状を弥代に知らせるメッセージを送り、他のメンバーにも手が空いたら手伝いに来てもらうよう働きかけた。
「俺も手伝うぞ、イツキ」
「クロム!ありがとう」
ガラガラと台車でチョコレートの箱をブルームパレスの扉の中に運び込むと、クロムが出迎えてくれた。カインや、シーダもそれに続く。
「それにしてもすごい量…。これみんな、女の子たちからなのかしら」
「全く、羨ましい限りだねぇ…。この貴族的な私も、元の世界ではこのように数多の女性たちから贈り物を受けていたのだろうね」
「あり得ないわね…」
「ちょ、ちょっとサーリャ君!?聞き捨てならないセリフを言うのはよしてくれ!」
「……下らん」
「ナバール、そう言いつつ、ヤシロ宛の贈り物が嬉しいんじゃないのか?クソッ…トウマ宛のものも紛れていないだろうか…」
「皆さん、喋ってないでどんどん運んでいきましょう!それにしても、どの箱も甘い香りがしています。これをヤシロさんは1人で食べるのでしょうか…?少し分けて欲しいものですね」
「えーん、わたしもチョコレート、食べてみたいよ$301C!」
無心で荷物を運び込む樹たちを余所に、何処となく楽しげなミラージュたちであった。

「イツキ君!私も手伝うよ!…ってあれ?荷物は?」
「ツバサ…。今、やっと全部運んだところだよ…」
「そっか、一足遅かったね…お疲れ様、イツキ君」
ソファに沈んでいる樹に、つばさは自販機で買ったアムリタソーダを持ってきてくれる。
「そんなに凄い量だったんだ!?」
「凄いってものじゃないよ、うん…あの量、ヤシロは一体どうするんだ…?」
弥代から未だtopicの返信はない。ふう、と一口爽やかなジュースを味わった時、不意に事務所の入り口が開いた。
「ヤシロさん!」
カツ、と靴音を響かせ、長身の男が平然と入って来る。噂をすれば弥代だ。
「えっと…おかえり、ヤシロ。荷物来てるぞ……」
パレスの中にあるから、と指し示すが、ヤシロは腕組みをして樹に向き直った。
「蒼井樹。お前がわざわざ運んだのか」
「もちろんだよ。他に手が無いし…」
「……下らん。誰とも知れない者からの贈り物など、なぜ受け取る必要がある」
顔色一つ変えずに、弥代がそう言い放つ。
「ヤシロさん!あんまりですよ!女の子の気持ちが詰まってるんですから…!」
「世の風習にかこつけて、自分勝手な想いを対象に押し付けているだけではないのか?」
「で、でも…!」
弥代の言葉に言い返せなくなったつばさがオロオロとしているのを見かねて、樹が助け船を出す。
「ヤシロ。一流芸能人なら…チョコレートを貰って欲しいっていうファンの女の子たちからの純粋な想いを受け止めるのも、立派な仕事じゃないのか?」
「………。」
今度は弥代が考え込んでしまい、3人の間に沈黙が流れる。
「ハイハイ、とにかく今日はバレンタインなんだから、こうなるのは分かってたわ。ちょ~っと想像以上に量が多かったけどねん」
なだめるように奥からマイコが現れた。
「ヤシロ、届いたチョコレート、どうするんだ?」
「……。分からん。これまでそういった雑事は全て付き人に任せてきた。だが、お前の言うことにも一理ある。…ならば……」
思い立ったように弥代がイドラスフィアへ進んでいく。樹たちもその転末を見守るため後を追った。
青い扉をくぐった先の一角には、チョコレートの箱で出来た山が形成されていた。
その前に立つ弥代が、手前にある箱を一つ手に取ると、開け始める。
「ヤシロ、まさか全部、食べるつもりか…?」
「そのつもりだ。」
「っ!!……何日かかるか分からないし…!そんなことしたらまた20キロ、いやもっと体重増えるぞ…?というか、病気に……」
「想いを受け止めるのも仕事だと言ったのはお前だろう。全て食してこそ、一流だ」
「いや、そうかもしれないけど…!限度が…!」
言い合う樹と弥代の耳に、ガサゴソ、と積まれた中の箱の一つから不穏な物音が響いた。
「え?何だ…?何か、生き物、入ってる…?」
「……これか」
弥代がその箱を取る。と、やはり物音がするどころか、少し動いている。
「キャアアッ!何!?何!?不審物!?嫌がらせ!!?」
「ヤシロ君、気をつけて!」
騒ぐつばさと舞子の様子に、辺りのミラージュたちも身構える。
「……開けるぞ」
「ああ。」
箱にかけられたリボンを解き、蓋を開けると、そこに現れたのは、黒光りする、角が立派な…。
「ギラファノコギリクワガタ…?」
「ク、クワガタ……?虫?」
「キャアアアアーー!!虫!!マイコさん!!キン◯ョール!!」
「落ち着きなさい、クワガタは害虫じゃないわ、ツバサ。でも、どうして…」
舞子がうーん、と考え込むと、あっ、と手を叩いた。
「この前のインタビュー記事……」
「えっ?」
混乱する周りを余所に、箱から出てきた立派な角を持つクワガタを手に乗せた弥代の纏う空気が、さっきより柔らかい。よく見ると周りに花も飛んでいるような…。
「クワガタ、好きなのか、弥代…?」
「…好きという程ではない。この黒い光沢、雄々しい角を延々と眺めていても見飽きない程度だ」
「それ、かなり好きってことだよ…」
何時ぞやの温泉レポートのようなやり取りをしながら、樹が珍しく突っ込みを入れる。
「チョコレートに拘らず、相手の好みに合わせた贈り物を考え、誠意を込める…なるほど…。良いものだな、バレンタインという機会も。」
「ヤシロ……」
弥代から出てきたその言葉に、何故か樹がホッとする。
「あ、チョコレートは無理して全部食べなくても大丈夫よ、ヤシロ君。こういうのはちゃんと事務所が管理するから。でも、チョコレート以外のお手紙とかにはちゃんと目を通してあげてね。忙しいと思うけど」
「ああ、分かった」
返事をしつつも、ヤシロは革手袋の上に乗せたクワガタから目を離さない。よほど気に入っている様だ。
「名前付けて飼ったら?事務所で」
「飼う…?」
「飼育ケースに入れて、餌をやって世話をしたら良いんじゃないかな」
「賛成!見た目が恐いから、チョコちゃんって名前はどうかな?」
さっきは悲鳴を上げていたつばさも、雰囲気が丸くなった弥代の手に乗るクワガタに興味津々の様子だった。

一方その頃…。

「えっと、来月のお返しも忘れないようにしないとね…」
大量の伝票に記された送り主の名前を整理しながら、一人事務所で綾羽は作業に追われていた。
私の用意したチョコレートはいつ渡せそうかな…と、ちらりと机の下にある青いリボンのかかった箱を見やる。
いつも妹がお世話になっている、青い髪の少年に思いを馳せながら。

END

2016.02.28