イツヤシお泊まり本三部作、完結編。
ゲームクリア後、ノーマルエンドの世界線のイツヤシです。
あれから――
ふらりと立ち寄った渋谷オーディンの前、蝶の羽を模したステンドグラスに彩られた独特の外観を仰ぎ見る。
そのすぐ脇で天へと伸びる裂け目のように存在していた光の塔は、跡形もなく消えていた。
暗黒竜メディウスを討ち果たし、フォルトナの面々が幻想世界から現世へ戻って来てから程なく、イドラスフィアへ続く入り口は全て閉ざされたため、その存在は文字通り幻のように姿を消した。
五年もの間刃を共にした相棒も、最後は風のように去っていった。
呆気ないものだと、しかしナバールらしい別れかたであったと感じる。彼はまた、戦いを求めて剣に生きる道に戻ったのだ。
事件によって父を失い、共に同じ舞台に立つという夢が潰えた故に生まれた身を焦がすような怒りは、宿敵への復讐を果たしたことと、父との再会を経たことで既に昇華できていた。
弥代の無意識の中に忍び込んで眠りを妨げていた黒い靄も晴れて、今、頭の上に広がるのはすっきりとした雲ひとつない青空。
それがなぜか無限に広がる空虚のような気配がして、弥代は頼りなげな視線を足下に広がる血のように赤い石床へ落とした。
「あの……剣弥代……さん、ですよね?」
不意に、ライブハウス前の掲示板を背に立っていた弥代の背後から聞こえてきた声に視線をやる。
見知らぬ色褪せた茶髪の男だった。
「――ああ、そうだ! やっぱり!」
……何故、自分の存在を一般人に悟られたのだろうかと弥代は疑問に思った。パフォーマの輝きが、落ちていたせいか。
「俺……あなたのファンなんです! この前のドクトルシュラウベの演技も最高でした! あっ、あの、これさっき店で買って……良かったらサインして貰えませんか!?」
と、目の前に差し出されたのは自分が頭にネジを指したツギハギ顔の医者に扮した姿が大きく載った、ブルーレイディスクのパッケージだった。そういえばもう市場にリリースされていたのかと思い当たる。
ありがとう、と弥代は染み付いた営業スマイルを平然と浮かべると、胸元から取り出した黒いペンを刃の一閃のように走らせる。
それを見た眼前の男は破顔して、これからも応援してます! と一言告げると、ytと刻印されたそれを宝物のように抱えて立ち去った。
男が特段騒ぎ立てることもなかったせいか、他に弥代の存在に気付いて近寄るものは居らず、弥代はまた表情の見えない顔を渋谷の雑踏へ向けた。
(これから………。これからか――)
さっきの者のような人間が、イツキが言っていた自らのファンなのだろう。あの者たちの為に生きる――それもひとつの道だ。
――以前、源まもりとの食レポの仕事を通して得た知見で食の奥深さに巡り会ってからというもの、興味本位で始めた料理の腕前はかなり上がっていると感じる。このまま、それを極めてゆく道もあるのだろうか?
勿論、これまで通りフォルトナの事務所からオファーを得て、仲間たちと共に芸能の世界で生きる道も。
音楽も――ドームライブに、全国ツアー……まだまだ、一流のアーティスト剣弥代として至るべき境地への道半ばであるというのが正直なところである。
腕組みをしながら取り留めもない思案にくれる中、ふと、胸元のスマホが震えた。
取り出してモニターに通知された蒼井樹の文字に、反射的にトピックの画面を開く。
『今日の夜、空いてる?』
『この前の返事がしたくて』
その文を確認して、弥代はようやく、フ……とひと呼吸ついた。
『ああ』
『家で待っている』
簡潔な返信に自宅のMAPを添えて送信して、バラのスタンプを押す。
時刻は昼を過ぎて夕刻に近づいている。
足は自然と、馴染みの青果店へ向いていた。
◇
夕焼けが沈みきる頃合いに、学生服姿の樹は弥代の住む高層マンションのエントランスに現れた。
「ごめん、突然で……今日でようやくテスト終わったんだ」
「ああ、構わん」
最上階へ向かうエレベーターで肩を並べつつ、学生の本分は勉学だろうと弥代が呟く。そういう弥代は勉学に苦心した経験があるんだろうかと樹は突っ込みたくなったが、やめておいた。
またあのだだ広いリビングルームに通されて、樹はソファーに腰掛ける。と、キッチンの方から食欲をそそる良い匂いがしてくる。
「あれ? 何か作ってるのか?」
「ああ そろそろ夕食の時間だろう、お前も食べていけ」
「本当に……!? ありがとう、ヤシロ」
キッチンカウンターの向こう側に立った弥代を見る。アンチョビのパスタとボルシチ、シーフードサラダ……野菜で何か苦手な物はないか? と尋ねる弥代の腰には黒いカフェエプロンが巻かれ、カッターシャツを腕捲りし、ペティナイフを持つ姿が本当に絵になるなあ……と思いつつ、樹は大丈夫と伝えると制服のネクタイを少し緩めた。
「あ、これって……」
白い革張りのソファーの上に無造作に置いてあったモフモフした塊がふと目に入り、それがこの間原宿のゲーセンで樹が獲得した白いクマの人形であるのに気付く。弥代が以前座っていた位置にころんと倒れているのを起こすと、やはり、首に青いリボンの巻かれたそれであった。
「ヤシロと同じ席に座ってるんだな、お前」
つぶらな瞳をしたかわいいテディベアと、これをビニールのナップサックから取り出して律儀にソファーに置いて並び座る弥代の姿を想像し、樹はそのギャップにくすりと笑みを浮かべた。
「ん、何だこれ……ボタン?」
テディベアの胴体を持って起こした時に手に固い感触がして、よくよく見ればそれは水色のハートマークにPUSHと白文字が書かれたボタンだった。何の気なしに、樹はそれを押してみる。
『……ア、……イツキ、スキダ、――アアッ』
突然リビングに響いた大きな機械音に、樹は息を飲んだ。
背後のキッチンにいる弥代にもその音声は聞こえたはずで、恐る恐るカウンターを見やれば弥代はシンクの方へ顔を向けて固まっていた。
「あっ……ごめ…『アイシテル、イツキ、イツキ、アッ、アッ』
ふにゃふにゃと手足を動かしながら、無垢なテディベアは高音の機械音声を流し続ける。
やってしまった、というか、この人形……こんな仕掛けが――と焦る樹に、ついにガチャンとキッチンから何か落としたような音がして、慌てて樹はそちらへ駆け寄った。
「ヤシロ……! 大丈夫か……!」
アルミのボウルに入っていたらしき小さなミニトマトがコロコロとタイルの床を転がっている。とりあえずそれを拾い集めて、流しの前で下を向き立ち尽くしている弥代の横へ置いてから、様子を伺う。
「ッ………。」
弥代は朱に染まった顔を右手で覆い、息を飲んだまま、それでもキッチンへやってきた樹の方へと指の隙間から視線をくべていた。
「ごめん……まさか、そんな……えっと、音がすると思わなくて………」
「………。お前の……せいではない……俺も知らなかった」
消え入りそうな声で弥代が言う。樹もまた、鼓動の高鳴りが止まらなかった。
あの人形からあんな声がするということは、つまり……弥代はソファーであれを抱きながら……。
「ヤシロっ」
「!」
堪らず、樹は弥代を背後から抱き締めていた。細い腰に手を回し、広い背に頭を押し付ける。
「ごめん、我慢出来なかった」
「……どういう……」
「ヤシロ、……俺のこと想ってしてたんだな?」
「っ………」
「正直、すごく……興奮してる」
ほら、と樹は弥代の裏腿に自身の昂りを躊躇なく押し当てた。
その熱を感じた弥代は、ようやく、顔を覆っていた手を外して胴に回された樹の腕に添えると、瞳を細めた。
「俺も……あれからずっと、待っていたんだぞ」
「ヤシロ……」
「この俺を待たせるとは、良い度胸だな、イツキ」
弥代が樹の方へと向き直ると、そのまま二人は吸い寄せられるように唇を軽く合わせた。
「……お前が嫌なら……強制はしない」
「嫌なわけない、けど、本当に俺で良いのか……?」
「愚問だな、以前も言っただろう……己を過小評価するな、お前は……この剣弥代が、愛するに足る男だ」
「ありがとう……俺も……弥代の想いを受け止められるように、頑張るよ」
「お前の恋人にして欲しいと先に願ったのは俺だぞ?何を頑張ることがある」
「弥代に見合う恋人になれるように、ってことだよ」
「……フッ……なるほど、お前らしい答えだな」
柔和に微笑む弥代の背に樹は再び手を回し、抱き寄せた。弥代の、薔薇のような上質で清廉な香りが心地好い。
「それがお前の答えならば……料理は、中断だ、先に――」
「うん、せっかく用意してくれてたのにごめん」
「何を言っている」
ニッと不敵に微笑んだ弥代は、そのまま樹をベッドルームへと促した。
◇
広いベッドに座る樹の前に、軽くシャワーを浴びると言って去った弥代が姿を表す。
「あ、俺もシャワー……浴びた方が良い……?」
「構わん、気にするな」
「う、うん」
顔を上げればバスローブを羽織っただけの弥代の白い肌が目に飛び込んできて、樹はそれ以上何も言えず、ごくりと唾を飲んだ。
ギシ……と弥代もベッドに上る。その拍子で、陶器のような肌からバスローブが床に滑り落ちた。
一糸纏わぬ弥代の横で、樹も、制服のベストと白いブラウスを脱ぐと、ベルトに手を掛けた。
「……すごいな」
「……う、あはは……」
未だ興奮冷めやらぬ下半身から飛び出してきた樹の陽物へ、弥代はそっと手を添える。
「俺も……触っていい?」
「ああ……」
対する弥代のモノは、まだはっきりとした反応があるとはいえず、しかし手にすればしっとりと手のひらに柔らかい皮膚が馴染む心地がする。
「これを……こうやるのだったか」
また以前のように手を動かそうとする弥代に、このままでは直ぐに果ててしまうと感じた樹は咄嗟に弥代へ提案を持ちかけた。
「あ、あのさ……じゃあ……口で……してみようか、俺も、やるから」
「お前も……?」
「うん、俺ここに寝るから……こっち、ヤシロも俺の顔の方に足伸ばして寝転んでくれ」
こうか、と樹の伸ばされた両足の上へ覆い被さるように上体を移動させた弥代の姿を見計らって、長い脚に手を添えると左右に割り開くようにして顔の上を跨がせた。所謂――シックスナインの体勢である。
弥代はそれを嫌がる素振りもなく、樹にされるがまま素直に従っていた。
「ん……はむ……」
ちゅ、ちゅ……と啄むように眼下で存在を誇示する樹の陰茎に口付けていた弥代はやがて、それを口腔内に招き入れる。独特の風味と熱をもつそれに、歯を当てないよう慎重に舌を這わせて、唾液を絡ませる。啜るような水音に、まるで極上の肉にかぶり付いているような、そんな具合で、弥代はその幹を伝う透明の蜜を愛飲していた。
「っ、ん……」
「んんッ……」
樹も同じく弥代の芯が通り始めたそれを舌で愛撫することに専念していた。ジュル、と少し先端を吸い上げるようにすれば、弥代は腰を震わせ、樹の頭に触れる長い脚が無造作に跳ねる黒髪を挟み、軽く圧を感じる。気持ちいいのだろうと察した樹は、更に口腔の奥まで弥代のペニスを招き入れ、幹に浮く筋に沿うように表面を舌でねぶり、唇をすぼめて先程よりやや強めに吸った。下腹部で樹のものを咥えている弥代の喉奥から、上擦った声が鳴る。その振動が幹に伝わって、また気持ちが良い。
「ッ……は……舐めるの、どう……? まだいける……?」
「……ン、………ン」
もごもごと、奥深いところまで咥えた樹のものを、その様子だとまだ離す気配はなさそうだ。
「弥代の、すごく……大きくなってるよ」
つるりとした表面の、張り出したところに舌を当ててゆっくりと舐めれば、ヒクン、と震えて脈打つそれがまるで意思を持った別の生き物みたいで、小動物を愛でるような心地で樹は軽く手に握ったそれを優しく擦る。弥代のこれをこんな風に触るのは、もう何度目になるだろうか――
「っ、ぷぁ……、ッ……」
流石に苦しくなったのか、それともままならなくなったのか……弥代は樹の肉から口を外した。
薄い唇に涎を垂らしながらも、弥代は端正な顔を崩さない。
綺麗な顔だと感じるその顔の男を――これから、樹は抱くのだ。
「ここに、本当に入るのかな……」
再び体勢を変えて向き合い、今度は弥代を寝かせて長い脚を抱えて、左右に大きく開かせる。
目線を下へやれば、樹の唾液で濡れた弥代のペニスと、そのさらに奥まった場所……が、ルームライトの淡い光に曝されている。
「ここ、さ、触っても……」
「ああ……」
胸が高鳴る。
そっと手を近付ければ、つぷ、と吸い込まれるように人差し指の先が襞の中に滑り込んだ。
「すごい……熱くて、柔らかい……」
「ッ……やっぱり、止めろ」
「え?」
「そこはお前がしなくていい……。俺が……お前のものを受け入れるために――既に慣らしてある」
「あ……そ、うなのか」
道理で、少し押し込めばすんなりと第二関節まで入ってしまう訳だと樹は納得する。
「でも……本当に大丈夫かな……?」
「やっ……め、ろ……もう見るな……」
「え、でも……すごく綺麗だから」
「ッ………」
その言葉に反応するように、きゅう……と孔の中心が窄まる。あ、弥代、恥ずかしいのかと気付きはしたが、樹は逆にその窪みにもう一本中指を添えると、興味津々でそうっと拡げてみた。
慣らしてあるということは、つまり……ここに弥代が自分で指か何かを入れて……。そういえば、指先にオイルのようなぬるつきがある。
普通は排泄孔として機能するそこは、しかし不浄とはまったくかけ離れた風貌で、色素の濃いぷっくりと膨らんだ肉襞の中心に鮮やかな赤い肉が艶々と光っている様まで覗けた。
「すごく綺麗だ……」
「止め、ろ……言うな……もう」
もぞもぞと股の間で動く樹に抗議する弥代そっちのけで、くぱともう一度親指で左右に襞を押し開いてみる。
「ン……! ゃめ、あ……!」
臓腑に樹の吐息がかかったせいか、弥代が少し悲鳴めいた声を上げた。樹はごくり、と唾を飲み込む。
また滑る孔へ指を滑らせ、吸い込まれた先で濡れた内壁をぐにぐにと擽る。柔らかい肉の様子から、もう一本いけるなと察した樹は一旦人差し指を抜くと、中指も添えてまた孔の中に埋めた。
第一関節、第二関節は簡単にヌルリと入り込み、力を入れれば揃えた指の根本までもが易々と入ってしまった。本当に、よく慣らしていたのだろう。
「凄いな……こんなに……ヤシロ、気持ち悪くないか? 痛くない?」
「いっ……痛い訳が………んん……」
口ではそう言いながらも、弥代はハァッ、ハァッと胸を上下させて大きく息を吐いている。やはり、相当な異物感があるのだろう。
「気持ち良いところって……あるのかな……?」
「ッ……!」
埋めた指の先で、内壁を軽く押してみる。と、樹の手首を弥代が伸ばした手でぐいと掴む。
「もう、指は、いい……早く……」
「あ、ごめん……俺……こういうの初めてで……」
「俺も同じだ、問題ない……」
「いや……痛くしたらごめん」
十分、慣らしたつもりだけどと樹は言いながら、弥代の長い脚の中心にある窪みからそっと指を抜き取った。
「ッ……問題ないと言っている……! これ以上この俺を焦らすな、イツキ」
「そうか、じゃあ」
くぷ、と樹のペニスの先端が弥代の後孔に添えられる。
互いの粘膜がその熱さを伝えてきて、今しがた樹へ啖呵をきった弥代もハッと身を強張らせた。
……が、すぐにその熱を受け入れるために長い両足を樹の背に回し、絡み付かせる。
「ヤシロ……入れる、よ……」
「ッ、く……」
ずる、と肉と肉が擦れる音が聞こえたような気がした。
潤滑油で滑りを帯びた弥代の体内に、樹が埋まっていく。
「ンァ、ァ…………」
質量のあるそれは指以上の圧迫感をもって弥代の奥を暴いていく。
熱い楔が腹に刺さるようなその感触こそ、願ってやまなかったものだと弥代は前のめりになった樹の背に腕を回すと、もっと深く――と、言葉にならない想いを叫んだ。
「ハァ、ハァ……ヤシロ……痛く、ない……?」
樹が心配そうな顔で弥代の瞳を覗き込みながら、指で弥代の目元を拭ってくる。
いつの間にか涙を流していたらしい。
「ッ……もっ、と……欲しい……イツキが、欲しい……」
涙声で訴える弥代に、樹もまた弥代と初めて繋がれたことへの感動と、同時に沸き上がる激情を抑えきれなかった。
分かった、と孔の深くまで砲身を埋めれば、ぱつん、と肌が打ち合わさる音と共に弥代の鋭い悲鳴が響いた。
「これで、俺のぜんぶ……入ったよ、ヤシロに……!」
「ァ……! ………ぅ………」
樹の存在を確かめるように、ぎゅう、と締めるように弥代の内壁が蠢く。
「き、つ……ヤシロの中……すごく……」
「ぃ、イツキ……イツキ……」
必死でしがみついてくる弥代に、大丈夫だよ、と樹が声をかける。
「ちょっと、力抜いて……動かすから」
「――ッ、……うぅ……」
樹に言われる通り、弥代は大きく息を吐いて身を弛緩させようとする。
内壁が少し緩んだところで樹がペニスの丸い先端で柔らかい肉をほじるように小刻みに抜き差しを始め、二人の息が上がっていく。
「全部入れるの難しいかなって思ったけど……ヤシロの中、すごく気持ち良いよ……ヤシロは……? どう、かな……」
先程から圧し殺したような苦し気な喘ぎしか発していない弥代に、樹は不安げに問いかける。だが、明確な返答はない。
「やっぱり、辛かったら抜こうか……?」
「ゃ、抜く、なッ……!」
ぬるんと樹のものが抜かれていく感覚に、弥代は抗議の声を上げた。きゅうきゅうと樹の亀頭を輪状の括約筋が締め付けている。
「良いのか……?」
「い、イイに……決まっていると……ッ」
「じゃあ……突くよ」
「ひぅっ!!」
また最奥まで一気に樹が埋まり、ヒッ……と喉を震わせて弥代は一際大きな悲鳴を上げた。
ガクガクと弥代の腰が震えている。見れば、樹と弥代の腹の間に挟まれていたペニスからはたらりと一筋の白濁液が伝っていた。
「あ……イッた? ヤシロ……? 俺ので……?」
それに嬉しさを感じた樹がそう呼び掛けるが、弥代は上ずった声混じりに荒い呼吸を繋いでいるだけで、明確な返答がない。
「もしかして、気持ち良すぎて声が出ない……とか……?」
「――ッ、ぅ………、ううっ……」
やっと樹の方を向いた弥代の顔をじいと覗けば、熱に浮かされたようにぼうっとした瞳を潤ませて、ハッ、ハッ、と短い呼吸を繋ぎながら、全身を雷に打たれたように戦慄かせて快楽を享受しているようだった。
「ヤシロのその顔を見てるだけでイキそう……」
「……ァ……イツ、キ……」
弥代の低音の甘い声に誘われるように、樹は唇を寄せた。弥代もすぐに口を開けて、ちゅるちゅると唾液に濡れた舌を絡ませる。
うっとりと眼を細めたところに樹がまた腰を突いたので、口付けたまま喉奥から弥代が喘ぎを漏らした。
「はぅ、……んッ❤ ……ン……❤ ン――ッ……❤」
こちゅ、こちゅ、と樹が弥代の中の性感帯をダイレクトに刺激する度、堪らないというような、強い快楽から逃れようとする弥代の後頭部を樹はがっしりと抱え、深いキスをし続けた。口の端から唾液が滴り、甘く舌を吸われ、弥代は観念したのかやがてされるがままになっているのに樹が気付くと、ようやく解放した。
あとは、雪崩のように理性が溶け落ちていくだけだった。
「ァ、ァア……❤ いつ、き……❤ イッ――❤」
パン、パン、と規則的に腰を打つリズムで、弥代が樹の名を呼びながら両腕を伸ばす。抱き締めればさらに奥の気持ちいいところに樹が埋まって、痺れる快楽に震えながら背に爪を立てた。
「中で、出していい……?」
「ッ、とう、ぜ……ッ、だ――アッ❤ ……ッ、お前、の……好きに……ッ❤ しろッ……」
「分かった……じゃあ、弥代の一番奥の深いところで、出すよ」
「ッ――❤ お、く……! ァ、アアッ!!❤❤」
樹が弥代を抱いたまま体重を乗せればペニスがぐいぐいと弥代の奥の奥を抉じ開けるように刺さり、ひぅ、とこれまで自らの指も、樹の指も到達しえなかった場所へ滑り込む肉の感触に、弥代もまた息を飲みながら極まった腰を突き上げ、樹を搾り取るように臓腑が締まる。
「くぅっ……ヤシロ……!!」
「ッア――――❤❤❤」
ドクン、と張り裂けそうな心の臓の音を、互いに感じるまま二人は抱き合って本懐を遂げた。
◆
最初に達したあと、堰を切ったように溢れる感情のまま、そのまま二度、三度と睦み合い――まるで激しい闘いのあとのように全身に汗しながら、樹と弥代は気付けばベッドの海へ沈み、眠っていた。
シルクのシーツが肌に滑る心地好さにぐっすりと寝入っていた樹は、ようやく、まだ夜も明けきらぬ頃に目覚めた。
心地好く身を受け止めている広すぎるベッドと見慣れない天井の風景に、一瞬ここがどこなのか分からなくなりそうだったが、すぐ横で裸のまま横たわっている弥代の存在に眠る前の記憶が引き起こされた。
(ヤシロは……まだ眠ってるのか)
すう、すうと規則正しい寝息を立て、猫のように背を丸めて眠る細い体躯を、樹は愛おしげに見詰める。
正直――最後までちゃんと出来なかったらどうしようかと不安に思っていたが、すんなりと事に及び、欲望を共有し昇華できた事に樹は安堵していた。
しかも弥代、あんなに気持ち良さそうだったし……これって、身体の相性が良いってことかな……。などと樹が枕の上に頬杖をついて自惚れていると、弥代がそわそわと身動ぐ。起きるのかと思ったが、反対方向の横伏せに寝返っただけだった。
(ん……?)
不意に弥代の薄い尻の中心からトロリと白いものが垂れ、紺のシーツに染みを作った。
あっ、と樹が慌てて部屋を見回し、ティッシュの箱を手にする。
また一筋、流れ出したそれを受け止めるように紙をあてがってやれば、じわりと熱い粘液が滲んだ。
「うわ……ごめん、俺のせいだ」
白濁した液体でどろどろに濡れている赤らんだ襞を丁寧に拭っていく。その感触で弥代も目覚めたようだった。
「………?……どうした……?」
「いや、えっと……」
大量のティッシュを手にした樹と、下腹部を晒している自分の状況に気付いた弥代が、少し恥ずかしそうに顔を背ける。
『……風呂へ行ってくる」
「あ、俺も一緒に行っていいかな……」
洗うの手伝うよと告げ軽くキスを頬に落とせば、先程までの恥じらいは何処へやら、当然だろう、と返ってきた。
「……ん、ぁ……」
シャワーヘッドを手にした樹が、黒っぽいアクリル製のバスチェアに座らせた弥代の下腹部に湯をかけ流す。
「いい、そこは自分で……」
「見えにくいだろ? 俺に任せて、ヤシロ」
「ッ………。」
白く引き締まった双丘の、奥の窪みへと指を伸ばす。 柔らかい粘膜を指の腹で撫でてから、くぷ、と押し入れ、滑る自身の放った体液を掻き出していく。弥代は、自らの肩越しにその様子を伺っていた。
シャワーの音に紛れて、粘着質な音が浴室内に響く。
「やっ、め……、ァ……!」
「でも……残してたら悪いから」
いつの間にか二本に増えた手でアナルの入り口を開かされ、奥深いところから流れ落ちてきた樹の精液が泡を立てながら垂れて内腿を濡らす。
それを惜しむように、弥代の内壁がぎゅうと樹の指を締め付けた。
「ぅ………」
「全部出たかな……?」
「俺は、構わないと……」
まだ不満を伝える弥代に、ゴメンと軽く頭を撫でてから、足元や手に濡れた残滓を洗い流す。
それで後始末は終わりのはずだったが、まだ、だと弥代に手を引かれる。
「えっ……? ヤシロ? どこへ……」
「こっちだ」
裸のままシャワーブースの入り口と反対側にある引き戸をカラカラと開けて、弥代が導いた先にはテラスの真ん中にでんと埋め込まれた陶器のジャグジーが現れて、樹は面食らった。
「ここに、こんな……!? すごいな、ヤシロ……」
「ああ、入れ、イツキ」
白くて円形のバスタブに二人して入る。
まだ辺りは薄暗かったが、仄かに朝日が雲間から滲み出していた。
深い紫色に暁の光が透けて、橙に近い黄金色のところからゆっくりと空の青に変わっていく。
「……きれいだ」
「ああ、俺もそう思う」
「……また……二人で一緒にどこかへ行こう」
「フッ……スケジュールの調整が必要だな」
「俺から舞子さんにお願いするよ。あ、あと……指輪も、欲しい」
「揃いのものか? ……良い案だ」
「また原宿行く? あ、渋谷のカラビナの方が良いかな」
「俺の馴染みのシルバーアクセサリー屋……お前も知っているだろう、あそこが良い」
「うん、分かった」
すぐにでも、と樹は弥代の長い指に自らの指を絡ませる。
……フ、とまた弥代がそれに応え、湯の中で手を繋ぐ。
「イツキ……」
「ん……」
唇を重ね、肩を抱き寄せる。
友達ではなく恋人として、二人はいま対峙していた。
朝焼けの光が雲間から眩しく二人を照らし出す。
――ステージのスポットライトのようなそれを浴びながら、恋人達は今しばらく二人だけの時間を味わっていた。
end.
後書き
樹が社長にならないルートのイツヤシを構想して早六年。頭の中にあったこのイツヤシラブストーリーを実際に形にするまですんごい時間かかってしまいましたが、何とか完成させることができて良かったです。ようやく本懐を遂げたイツヤシの未来に光あらんことを……。
初夜が終わったら次はハネムーン!と思いつつそれはもう前に描いた気がするので、次はド鬼畜社長イツヤシ時空で何か描きたいなぁ~。
弥代、FEH時空にもそろそろ来て欲しいな!(切望)